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1章後半 デビルサイド編
31.デビルサイドの領主
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「どうしてこうなった……」
Y字ポーズで鎖に繋がれ、町の地下牢に閉じ込められること二時間。
薄暗い石壁からは冷たい湿気が漂い、足元には水たまりが広がっている。時折、遠くから聞こえる水滴が、静寂を打ち破る唯一の音になってしまっていた。
「鎖ちゅめたい……誰かー! 俺っちの鎖解いてくれー! というか、出してくれー! 証拠もないのに捕まえるなんてこの、あんぽんたんのすっとこどっこい~! だせやこらあああああああ」
当然返事はない。仕方なく鼻をすすり、涙を呑む。
そうして僕は、二時間前の出来事を思い出していた。
♢♢♢
衛兵の尾行に成功し兵舎の門前に到着すると、僕はそこの門番に止められていた。
「迎えの者か? 」
門番はそう言ったが、それの意味するところが僕には理解できなかった。
「……いえ、木炭を売りに」
「売り物を持ってないようだが? 」
「後で持ってきます」
「なら後でまた来てくれ」
「見学できないっすか。その……騎士に少し憧れていて」
「木こりの君が? 筋肉だけじゃあどうしようもないんだぞ。文字は読めるのか? 」
「いえ……」
「それじゃあ、どの道無理だな」
「お願いします。ならせめて中を見るだけでも」
「無理なモノは無理だ。残念だが、お引き取り願おう」
「うーん、そうですか 」
仕方ないので、周りを確認して助走をつけてから衛兵に向かって飛び蹴りをお見舞いした。
「ぐぁ!? 」
槍を持っていた衛兵は、突然民間人に襲われて驚いたのか、ビックリした様子で地面に倒れた。
けれども彼は頑丈で、一発で気絶とまではいかなかったようで、馬乗りになって複数回、顔面を殴り意識を昏倒させる必要があった。
「なぜこんな! やめろ…! この…キチガ…!」
何かを言う前に、顔中痣まみれになって男は昏倒した。
「はー…はー…こちとら血糖値爆上りで眠いんだぞ。あんま怒らせんな」
力なくだらりと槍を手放した衛兵。
最後の最後まで槍を手放さなかったのは賞賛に値する。
たとえ外見は人でも、中身は魔族だ。数発とはいえ、耐えられるなんて思いもしなかった。
不意を付かなければ危ない相手だったかも知れない。
周りに他の衛兵がいないことがせめてもの救いだが、このままいけば別の兵士が通りかかるのも時間の問題だ。
「とりあえず、帽子被せて寝かせとくか」
衛兵が着用していた鉄でできた麦わら帽子を顔に被せて、人目のつかない場所に転がす。
「よっし、新しい門番が立つ前に中に入るとすっか」
中に入ると木こりの自分を怪しむ目が多数あり、声を掛けられることもあったのでなるべく人目を避けて中を散策することにした。
「武器庫…武器庫……」
武器を収める場所だから、流石に兵舎の奥にあるだろうという目星をつけて奥まで潜入していくと、騒がしい豪勢な扉の前についた。
見たところ会議室のようだ。何か有益な情報を入手できるかも知れないし、聞き耳を立ててみるか…。
♢♢♢
「騎士の到着はまだか! 」
「申し訳ございません。最低でもあと一ヵ月は到着にかかるかと」
オッサン二人の会話が聞こえてくる。
一人は高圧的で、渋い声。
もう一人は声からもう自信の無さが分かる、か細い声をしていた。
「このまま冒険者の流出が続けばこの町は魔族に滅ぼされてしまうぞ。何とか対策を打つのだ! 」
清貧という言葉の似あう恰好をした、小奇麗で筋肉質な男はこの町の領主だろう。彼の言葉からは責任感から生じる焦りを感じる。
「説得は続けているのですが、神の加護がなくなった土地は縁起が悪い、という理由で次々と……」
「なぁにぃ!? それを止めるのがお前の仕事だ! このお馬鹿! 」
「しかし武力行使をしようにも、冒険者との力関係を考えるとやはり難しいというのが現状でして…」
「貴様それでもこの町の警備隊長か? 力で言うことを聞かぬというなら、口で説得しろ。それが無理なら金、女、名声! 色々あるだろ」
もっと必死になって説得して周れ、そう言って領主は握り拳を机に叩きつけた。しかし警備隊長の声は冷静に、
「この町にいる冒険者はそういったものに別段困っているような方はおらず……」と、返すのだった。
「グヌァーーーー!言い訳など聞きとうない! 動かす脳が無いなら、とっとと問題解決に迎え! 」
「ハッ! 」
警備隊長なる男が、ドタドタと走ってコチラにやってくると、扉を引いて廊下に出てきた。
「君は? 」
警備隊長には疲労の色が見て取れた。ここしばらく寝ていないという顔で、目にはクマがクッキリと浮かんでいる。
「あ、騎士見習いです」
適当にそんな身分を名乗ってみる。普段なら調べられるかも知れないが、非常事態にそんなことをする余裕もないだろう。
そしてその読み通り、男は数回頷いて、肩にポンと手を置いた。
「そうか。今は少し忙しいからまたいずれ話をしよう。君もあの方にお話しがあってきたんだろう。さぁ、空いたから行ってきなさい」
「はい、ありがとうございます」
そうして警備隊長は忙しそうに廊下を走って何処かへ行ってしまった。白髪も目立つ前頭ハゲのオッサンだ。同じハゲ仲間として、彼にはぜひとも活躍して頂きたいと思いつつ、僕は偉いさんのいる会議室に入った。
「何者だ、貴様」
「えーと俺っちは騎士見習いで名前は……」
「名前などどうでもいい。何をしに来たのかと聞いているのだ。私は忙しいのだぞ。手短に要件を言え」
領主は書類の山に埋もれながら、先ほどのこともあってか肩で息をしていた。怒りで頭の血管が切れるのも秒読みに思える。
「は、はいっす。実は隊の服を探してました! すんません! まだ兵舎の中もあまり記憶出来ていなくて」
「服だぁ? ッチ……購買部は一階だろうが。そんなことを私に聞くな! 出て行け! 」
「すいません! 」
口は悪いが、しっかり教えてくれるところを見るに、普段はいい人なのだろう。状況が状況だけに、追い詰められているようにも見える。
会議室の周りを見てみると、このおじさんの肖像画が壁に掛けられていて、額縁も金が使われている豪勢な作りをしていた。そしてそのおじさんの顔は穏やかで、目の前にいる青筋を浮かべている男とは別人のように見えた。
「失礼します! 」
服が手に入れば、いよいよ僕を部外者として見破ることは難しくなるだろうし、倉庫の中に侵入して兵士の装備を破壊することも容易になるはず。
僕は一階の購買へと足を運んだ。
Y字ポーズで鎖に繋がれ、町の地下牢に閉じ込められること二時間。
薄暗い石壁からは冷たい湿気が漂い、足元には水たまりが広がっている。時折、遠くから聞こえる水滴が、静寂を打ち破る唯一の音になってしまっていた。
「鎖ちゅめたい……誰かー! 俺っちの鎖解いてくれー! というか、出してくれー! 証拠もないのに捕まえるなんてこの、あんぽんたんのすっとこどっこい~! だせやこらあああああああ」
当然返事はない。仕方なく鼻をすすり、涙を呑む。
そうして僕は、二時間前の出来事を思い出していた。
♢♢♢
衛兵の尾行に成功し兵舎の門前に到着すると、僕はそこの門番に止められていた。
「迎えの者か? 」
門番はそう言ったが、それの意味するところが僕には理解できなかった。
「……いえ、木炭を売りに」
「売り物を持ってないようだが? 」
「後で持ってきます」
「なら後でまた来てくれ」
「見学できないっすか。その……騎士に少し憧れていて」
「木こりの君が? 筋肉だけじゃあどうしようもないんだぞ。文字は読めるのか? 」
「いえ……」
「それじゃあ、どの道無理だな」
「お願いします。ならせめて中を見るだけでも」
「無理なモノは無理だ。残念だが、お引き取り願おう」
「うーん、そうですか 」
仕方ないので、周りを確認して助走をつけてから衛兵に向かって飛び蹴りをお見舞いした。
「ぐぁ!? 」
槍を持っていた衛兵は、突然民間人に襲われて驚いたのか、ビックリした様子で地面に倒れた。
けれども彼は頑丈で、一発で気絶とまではいかなかったようで、馬乗りになって複数回、顔面を殴り意識を昏倒させる必要があった。
「なぜこんな! やめろ…! この…キチガ…!」
何かを言う前に、顔中痣まみれになって男は昏倒した。
「はー…はー…こちとら血糖値爆上りで眠いんだぞ。あんま怒らせんな」
力なくだらりと槍を手放した衛兵。
最後の最後まで槍を手放さなかったのは賞賛に値する。
たとえ外見は人でも、中身は魔族だ。数発とはいえ、耐えられるなんて思いもしなかった。
不意を付かなければ危ない相手だったかも知れない。
周りに他の衛兵がいないことがせめてもの救いだが、このままいけば別の兵士が通りかかるのも時間の問題だ。
「とりあえず、帽子被せて寝かせとくか」
衛兵が着用していた鉄でできた麦わら帽子を顔に被せて、人目のつかない場所に転がす。
「よっし、新しい門番が立つ前に中に入るとすっか」
中に入ると木こりの自分を怪しむ目が多数あり、声を掛けられることもあったのでなるべく人目を避けて中を散策することにした。
「武器庫…武器庫……」
武器を収める場所だから、流石に兵舎の奥にあるだろうという目星をつけて奥まで潜入していくと、騒がしい豪勢な扉の前についた。
見たところ会議室のようだ。何か有益な情報を入手できるかも知れないし、聞き耳を立ててみるか…。
♢♢♢
「騎士の到着はまだか! 」
「申し訳ございません。最低でもあと一ヵ月は到着にかかるかと」
オッサン二人の会話が聞こえてくる。
一人は高圧的で、渋い声。
もう一人は声からもう自信の無さが分かる、か細い声をしていた。
「このまま冒険者の流出が続けばこの町は魔族に滅ぼされてしまうぞ。何とか対策を打つのだ! 」
清貧という言葉の似あう恰好をした、小奇麗で筋肉質な男はこの町の領主だろう。彼の言葉からは責任感から生じる焦りを感じる。
「説得は続けているのですが、神の加護がなくなった土地は縁起が悪い、という理由で次々と……」
「なぁにぃ!? それを止めるのがお前の仕事だ! このお馬鹿! 」
「しかし武力行使をしようにも、冒険者との力関係を考えるとやはり難しいというのが現状でして…」
「貴様それでもこの町の警備隊長か? 力で言うことを聞かぬというなら、口で説得しろ。それが無理なら金、女、名声! 色々あるだろ」
もっと必死になって説得して周れ、そう言って領主は握り拳を机に叩きつけた。しかし警備隊長の声は冷静に、
「この町にいる冒険者はそういったものに別段困っているような方はおらず……」と、返すのだった。
「グヌァーーーー!言い訳など聞きとうない! 動かす脳が無いなら、とっとと問題解決に迎え! 」
「ハッ! 」
警備隊長なる男が、ドタドタと走ってコチラにやってくると、扉を引いて廊下に出てきた。
「君は? 」
警備隊長には疲労の色が見て取れた。ここしばらく寝ていないという顔で、目にはクマがクッキリと浮かんでいる。
「あ、騎士見習いです」
適当にそんな身分を名乗ってみる。普段なら調べられるかも知れないが、非常事態にそんなことをする余裕もないだろう。
そしてその読み通り、男は数回頷いて、肩にポンと手を置いた。
「そうか。今は少し忙しいからまたいずれ話をしよう。君もあの方にお話しがあってきたんだろう。さぁ、空いたから行ってきなさい」
「はい、ありがとうございます」
そうして警備隊長は忙しそうに廊下を走って何処かへ行ってしまった。白髪も目立つ前頭ハゲのオッサンだ。同じハゲ仲間として、彼にはぜひとも活躍して頂きたいと思いつつ、僕は偉いさんのいる会議室に入った。
「何者だ、貴様」
「えーと俺っちは騎士見習いで名前は……」
「名前などどうでもいい。何をしに来たのかと聞いているのだ。私は忙しいのだぞ。手短に要件を言え」
領主は書類の山に埋もれながら、先ほどのこともあってか肩で息をしていた。怒りで頭の血管が切れるのも秒読みに思える。
「は、はいっす。実は隊の服を探してました! すんません! まだ兵舎の中もあまり記憶出来ていなくて」
「服だぁ? ッチ……購買部は一階だろうが。そんなことを私に聞くな! 出て行け! 」
「すいません! 」
口は悪いが、しっかり教えてくれるところを見るに、普段はいい人なのだろう。状況が状況だけに、追い詰められているようにも見える。
会議室の周りを見てみると、このおじさんの肖像画が壁に掛けられていて、額縁も金が使われている豪勢な作りをしていた。そしてそのおじさんの顔は穏やかで、目の前にいる青筋を浮かべている男とは別人のように見えた。
「失礼します! 」
服が手に入れば、いよいよ僕を部外者として見破ることは難しくなるだろうし、倉庫の中に侵入して兵士の装備を破壊することも容易になるはず。
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