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1章後半 デビルサイド編
49.公開処刑が決定。処刑人はセシリー。
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「なに!? では氷の魔法使いは今どうなったか分からんのか」
アラーニ閣下は怒りを隠しきれない様子で、三つの単眼が深紅に染まっている。
閣下の八つの眼は怒りのボルテージを現していると噂に聞くが、それを三つも点灯するとは…。
「いえ、偵察班の情報によると多少の手傷は負ったようで、味方の二人に担がれて森を南下していったようです」
「そっちは確か山岳地帯のはずだ。なぜこの町に戻ってこないのだ」
「…分かりません」
「えぇい……分かった。下がれ」
抑えられないアラーニのビリビリとした殺気が部屋に充満し、そこにいる者全員が無意識に足を震わせていた。ただ一人、女性を除いて。
「ぷふっ……」
マーコが真剣な眼差しを書類に向けつつ、口元がにやけ、息が漏れていた。なんでこんな状況で貴女が笑っているのか僕には理解出来ないが、気は確かだろうか。
「どうか……されましたかな」
アラーニ閣下は冷静を装いつつも、声は低く感情が高ぶっているのが分かる。変に刺激すれば大変なことになる。
「すいません、なんかみんなが緊張していてピリピリしてると、笑っちゃいけないって分かってるのに、変に笑えてきて。ふふっ、ふっ、ククククク……」
彼女が小さく笑いを堪える中で、アラーニ閣下の眼は三つから五つに目の色が変わる。
コイツは今からアラーニ閣下に殺される。そう部屋の兵士全員の意見が一致したまさにその瞬間。
「でも、コレはアタシも含めた人間にとっては残念な知らせですね。町の人たちは、あなた達魔族から氷の魔法使いが負けたことを聞かされるんですから。もう戦意なんて湧いてきませんよ。アタシ達にとって彼女はそういう存在だったから」
マーコが何でもないような表情でそう言うと、アラーニ閣下の眼はスゥーと赤色から全ての色が青色に変わり、その怒気を吐き出すかのように深いため息をついた。
「…………ほう。町の人間から見ても氷の魔法使いという存在は大きかったというわけですな。確かにそれが本当なら我々魔族の勝利を人間達に知らしめるよい宣伝になりそうです」
そう言ってアラーニ閣下は何とか自分を納得させる言葉を見つけたようだった。だとしても、冒険者三人組を町から追放するために支払った対価が、魔王軍のエリート部隊の壊滅じゃあ、コラテラルダメージもクソも無い気がするが。
この場で話を続ける以上、閣下もどこかで溜飲を下げる何かを欲していたのだろう。それをあの緊張した空気の中で言えてしまうのだから、頭を改造しているとはいえ、マーコは大したものだ。
部屋にいる僕含め魔族の兵士全員は、おそらく君の能天気な発言に救われたに違いない。
「そうと決まったなら、さっそく明日の午後に噴水広場で公開処刑を行うとしよう。この町に処刑人がいないようなら、セシリーさん。貴女に処刑をして貰う」
「えっ、あっ、アタシ? 」
処刑人といえば、同じ町に住むのすら嫌がられるような役職だ。閣下はご存知ないとは思うが、僕でなければ拒否されていてもおかしくない。
それが偶然魔族である僕に回って来るんだから、この方も持っていらっしゃる。いや、まさか僕の正体を知っていて…なわけないか。まさか閣下も仲間同士で殺し合いをしていたなんて思わないだろうし。
「貴女の膂力なら、問題なく罪人の首をはねることが出来るだろう」
ふーん…それが理由か。それなら他の人間でも良さそうだが……最後の冒険者という立場があるセシリーにやらせることに意味があると考えたのか?
…閣下の表情は読めても、心の内までは読むことは出来ないか。
「分かりました」
そう返事をした後は、仕事の段取りについての話が始まった。
まず今から外に出て、町の人に戦いが終わったことを告げる発表と、自殺の禁止や状況説明が大衆にされるらしい。
そしてその後に、この町を取りまとめていた貴族の処刑日時や、今後についての話がされるとのこと。
僕のやることと言えばセシリーとして壇上に登り、アラーニ閣下の用意した原稿を元にこれらの発表を行うというものだった。
要するに恨まれ役だ。たぶん発表中にも石とかトマトとかを投げられる覚悟をしなければならないだろう。とても嫌な仕事だが拒否権もないため、今は役になり切る必要がある。せめて悲壮感が漂わないよう、元気にやるつもりだ。
「では早速、噴水前広場に行くとしましょう」
アラーニ閣下は先に部屋を出てお色直しをする間、マーコと二人で部屋の窓から噴水前広場に集まる人々の顔を見ることが出来た。
日は沈んでおり、兵士達の持つランタンに照らされている人間達の顔は死人のようで、これから逃れられない死を待つ者の顔をしていた。
実はこれ以上誰も死にませーんって言ったら……彼らは凄くビックリするだろうか。それとも、そんなことにリアクションが取れるほどの元気もないだろうか。
まぁ、おそらく後者だろうな。
「準備完了。各自、兵舎から撤退後、噴水前広場に向かって下さい」
アラーニ閣下は怒りを隠しきれない様子で、三つの単眼が深紅に染まっている。
閣下の八つの眼は怒りのボルテージを現していると噂に聞くが、それを三つも点灯するとは…。
「いえ、偵察班の情報によると多少の手傷は負ったようで、味方の二人に担がれて森を南下していったようです」
「そっちは確か山岳地帯のはずだ。なぜこの町に戻ってこないのだ」
「…分かりません」
「えぇい……分かった。下がれ」
抑えられないアラーニのビリビリとした殺気が部屋に充満し、そこにいる者全員が無意識に足を震わせていた。ただ一人、女性を除いて。
「ぷふっ……」
マーコが真剣な眼差しを書類に向けつつ、口元がにやけ、息が漏れていた。なんでこんな状況で貴女が笑っているのか僕には理解出来ないが、気は確かだろうか。
「どうか……されましたかな」
アラーニ閣下は冷静を装いつつも、声は低く感情が高ぶっているのが分かる。変に刺激すれば大変なことになる。
「すいません、なんかみんなが緊張していてピリピリしてると、笑っちゃいけないって分かってるのに、変に笑えてきて。ふふっ、ふっ、ククククク……」
彼女が小さく笑いを堪える中で、アラーニ閣下の眼は三つから五つに目の色が変わる。
コイツは今からアラーニ閣下に殺される。そう部屋の兵士全員の意見が一致したまさにその瞬間。
「でも、コレはアタシも含めた人間にとっては残念な知らせですね。町の人たちは、あなた達魔族から氷の魔法使いが負けたことを聞かされるんですから。もう戦意なんて湧いてきませんよ。アタシ達にとって彼女はそういう存在だったから」
マーコが何でもないような表情でそう言うと、アラーニ閣下の眼はスゥーと赤色から全ての色が青色に変わり、その怒気を吐き出すかのように深いため息をついた。
「…………ほう。町の人間から見ても氷の魔法使いという存在は大きかったというわけですな。確かにそれが本当なら我々魔族の勝利を人間達に知らしめるよい宣伝になりそうです」
そう言ってアラーニ閣下は何とか自分を納得させる言葉を見つけたようだった。だとしても、冒険者三人組を町から追放するために支払った対価が、魔王軍のエリート部隊の壊滅じゃあ、コラテラルダメージもクソも無い気がするが。
この場で話を続ける以上、閣下もどこかで溜飲を下げる何かを欲していたのだろう。それをあの緊張した空気の中で言えてしまうのだから、頭を改造しているとはいえ、マーコは大したものだ。
部屋にいる僕含め魔族の兵士全員は、おそらく君の能天気な発言に救われたに違いない。
「そうと決まったなら、さっそく明日の午後に噴水広場で公開処刑を行うとしよう。この町に処刑人がいないようなら、セシリーさん。貴女に処刑をして貰う」
「えっ、あっ、アタシ? 」
処刑人といえば、同じ町に住むのすら嫌がられるような役職だ。閣下はご存知ないとは思うが、僕でなければ拒否されていてもおかしくない。
それが偶然魔族である僕に回って来るんだから、この方も持っていらっしゃる。いや、まさか僕の正体を知っていて…なわけないか。まさか閣下も仲間同士で殺し合いをしていたなんて思わないだろうし。
「貴女の膂力なら、問題なく罪人の首をはねることが出来るだろう」
ふーん…それが理由か。それなら他の人間でも良さそうだが……最後の冒険者という立場があるセシリーにやらせることに意味があると考えたのか?
…閣下の表情は読めても、心の内までは読むことは出来ないか。
「分かりました」
そう返事をした後は、仕事の段取りについての話が始まった。
まず今から外に出て、町の人に戦いが終わったことを告げる発表と、自殺の禁止や状況説明が大衆にされるらしい。
そしてその後に、この町を取りまとめていた貴族の処刑日時や、今後についての話がされるとのこと。
僕のやることと言えばセシリーとして壇上に登り、アラーニ閣下の用意した原稿を元にこれらの発表を行うというものだった。
要するに恨まれ役だ。たぶん発表中にも石とかトマトとかを投げられる覚悟をしなければならないだろう。とても嫌な仕事だが拒否権もないため、今は役になり切る必要がある。せめて悲壮感が漂わないよう、元気にやるつもりだ。
「では早速、噴水前広場に行くとしましょう」
アラーニ閣下は先に部屋を出てお色直しをする間、マーコと二人で部屋の窓から噴水前広場に集まる人々の顔を見ることが出来た。
日は沈んでおり、兵士達の持つランタンに照らされている人間達の顔は死人のようで、これから逃れられない死を待つ者の顔をしていた。
実はこれ以上誰も死にませーんって言ったら……彼らは凄くビックリするだろうか。それとも、そんなことにリアクションが取れるほどの元気もないだろうか。
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「準備完了。各自、兵舎から撤退後、噴水前広場に向かって下さい」
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