美少女おにぎり

星島新吾

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1章後半 デビルサイド編

57.バレてる

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「そういや大将、おにぎり小僧をこっちから呼ばなきゃならねえ一件がありませんでしたっけ」
 扉前の近衛がそう言って笑みを浮かべていた。よく見るとセシリーと対峙たいじした、例の下卑たげびた笑みを浮かべる人狼族の男だった。受けた傷は塞がっているようだが、きっと傷以上に恨みが積もっているに違いない。
 …というよりもなぜ彼がここに?
「そうだったな。…おにぎり小僧、貴殿は我々に隠し事をしているだろう」
「な…なんのことでしょう」
 そう返すと、アラーニは八つの眼を閉じて深いため息をついた。そして近衛は「よっし」と一言、喜んで中に入ってきた。
「コイツが女に変化していたことを白状したら、閣下が。何も言わなければ俺の勝ち。でしたよね」
 近衛がそう言うと、閣下は黙って机の上にあった酒瓶を投げた。それを受け取ると、近衛はその酒瓶に頬釣りをして頭を下げた。
「あざース! 」
 彼らは僕で賭けをしていたのか? 
「てっきり変身込みで、自分の手柄を報告しに来るかと思っていたんだがな…まさか家畜一人のために署名活動をしていたとは……」
 よく分からん奴だなと呟きながら、閣下は受け取った署名に目を通し始めた。
「でもオレぁ、コイツ結構好きですよ。つえぇし」
 近衛は僕に斬られたあごを撫でながらケラケラ笑っている。変態か。
「ベシャメル……お前は強い相手なら誰でもそうだろ」
「そんなことはねぇですよ。どれだけ力があるヤツでも信念もなく動いてるヤツが俺は大嫌いなんでね。その点、コイツはわかりやすくて良いじゃないっすか」
「わかりやすい? 昇進を求めずに、丸々俺に手柄を譲渡じょうとしたようなコイツの行動がか? 」
 閣下にはそのように映ったらしい。僕は魔王様と、後次いでにコボルト達のために、最速で町を責め落とせるプランを立てたまでのこと。というか、入隊してまだ数週間の新兵が昇進のことなんて考えているわけがないのである。
「教えてやったらどうです。全部バレてるって」
 近衛のベシャメルの言葉にアラーニは手元にある資料に視線を移した。一体何が書かれているのか、だいたい想像はついた。どうせ僕とセシリーが同一人物という情報と、セシリーが民家で魔族を一体殺したという報告が上がっているのだろう。
 戦いの最中に味方を殺すというのは立派な反逆行為だ。そしてその隠蔽いんぺいをしているというのも、立派な戦犯だ。この場で殺されても文句は言えない。
 その上で娘にまで関係を築いていたというのだから、彼の怒りはあの時頂点に達したといっても過言ではなかった。
「徴兵でやってきたゴロツキを殺した話か? 」
「そうそう! 閣下の指揮下に入っている自覚のなかったあのカスです。魔王様が寄越してくれたんで使いましたけどね? 正直アレは俺の手には余ってたんで助かりましたよ。なんべん言っても、つまみ食い癖の治らないやつでしたから」
 ベシャメルは腕を組んで、この町に来る前のことを思い出しているようだった。
「だが、仮にも俺の指揮下で動く兵を一体潰したんだ。詫びもないのは、舐めてるだろ」
 今日だけで一体何かい謝れば良いのか分からないが、また土下座の準備をしなければならないかも知れない。
「どうします? ケジメつけさせますか」
 ベシャメルの言葉にビクッと体から震えた。
 痛い目に合わされる。
 そんな予感がした。
 …が、その予感は幸運にも外れることになった。
「…いや、俺はこの町で高い買い物をしたと思っている」
「買い物?」
 ベシャメル先輩は僕の聞きたいことをそうやって代わりに答えてくれた。コチラはあなたを斬ったのに、なんて素晴らしい先輩なんだ。
「コイツは今回の件で俺に大きな貸しができた。そうだな、おにぎり元帥のせがれ
 僕はとにかく何でも頷く兵士になっていた。命が助かるなら何でもいい。なんでも頷いて見せる。僕に余裕はなかった。
「コイツを俺の派閥に引き込めれば、魔王様も俺を無視できなくなるはずだ。必ず俺にも声がかかるようになる。…いいか? お前は俺の派閥にとって必要な駒だ。そうだろ。おにぎり小僧」
「……」
 緊張し過ぎて声が出ないし、彼から目が離せなかった。これでは相手を威嚇いかくしているみたいだ。
「ハハッ! 大将! コイツこんなに言われてんのに顔色一つ変わりませんね」
「睨みつけてくるか…ふっ。肝っ玉だけは親父譲りのようだな」
 バンバンとベシャメルに叩かれる背中。きっと背汗で軍服はとんでもないことになっていたと思うが、気づかなかったようだ。よかったー…顔面が白米で。
 そしてそのアラーニ閣下から一年間給料の半分をカットする旨の通達と、今回受け取るはずだった功労賞のようなもので貰えるはずだった金の没収が言い渡された。
 理由としては味方を殺したことと、そのことを隠蔽していたことの二点が悪質だったという理由からだ。
 なんでここまで露呈してこれで済んだのか不思議だけれど、不可侵条約でコボルト村を救ったことや、人間の町をこちらの被害を限りなくゼロで従属できた功績がとても高く評価されたらしい。
「それと今回はウチの大将が上手くやってくれたんだ。感謝しろよ。元帥の倅」
 僕を連れてきた狼男がそう言って強く頭を撫でてくる。あなたに関して言えば僕は半殺しにまでしたのに、今はこうして笑って許してくれている。
 ありがとう、ベシャメル先輩。
 そう思うとなんだか無性に猛省したくなってきた。
 ……そうだ! お詫びにハンバーグをご馳走しよう。狼男なら肉は好物だろう。
 そんなことを考えながら結局その後にも、色々と父上のことなんかの話をしたりして、気づいた頃には夕日が沈みかけていた。
 明日本当ならば死刑執行予定だったのが、こうなるとは。どう転がるか分からないものだ。
 ―――そう言えば例のハンバーグを発明した領主なら一番美味しいハンバーグを作れるかも知れない。ちょっと提案してみるか。
「そういや死刑になる予定だった領主がいるじゃないですか」
「俺は今からでも死刑で構わんぞ」
 アラーニ閣下はそう言って笑っている。魔王様とは違って表情が表にとても出やすい方だ。
「いえ…彼にハンバーグを作って貰うのはどうでしょう」
「ハンバーグか、名産品らしいな」
 流石アラーニ閣下、耳が早い。
「はい。彼の作るものを食べることで、僕達に対する敵対心も僅かわずかに減らせると思うんです。それに生産者と消費者という立場を分からせることにも、十分役立ってくれると思います」
 人間牧場のシステムは正しくレストランと言い換えてもいい。このデビルサイドは大きな食卓であり、領主はシェフだ。
「ちょうど何かいい案はないかと考えていたところだ。その案を採用しよう。例え失敗しても俺達は料理が食える」
「では明日に備えて、領主を外に出してもよろしいでしょうか」
「好きにしろ」
 という閣下の一声で、領主を檻の外に出すことにした。

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