美少女おにぎり

星島新吾

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1章後半 デビルサイド編

56.閣下へお手紙届けなきゃ

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 公開処刑前日。
 兵舎二階の客間で、アラーニ閣下は占領後の後始末に追われていた。武官の書類仕事をする姿というのはヒーローの隠れた活躍を見ているようで特別な気持ちになった。閣下はその視線に気づかず忙しそうに沢山の腕を動かしながら紙にサインしている。
「おにぎり小僧、入ります」
 扉前の護衛に通され、アラーニ閣下の前に立つ。
 アラーニ閣下は複数ある目の一つで僕を視界に捉えると、抑揚のない声で「准尉か」と言った。
「ハッ。公開処刑の件で参りました」
「なんだ? 」
「かの者を処刑するのではなく、魔物を植え付けることでコチラの要望通りに動かすようにしてはいかがでしょうか」
「…ほう? 」
 その言葉をはじめに、メリットとデメリットを天秤にかけやすいように話を誘導した。閣下は損得勘定で物事を判断することをあまり好む魔族でないが、今回は秘策もある。…何とかなれ。
「まずはこれを…」
 机の上に紙の束が散らばらないようにそっと置いた。
「……ふむ、署名も多く集まっているようだな」
 マーコが二日走り周って集めた署名だ。いくつか糞尿のかかった後があるが、たぶん署名活動中にマーコが受けた洗礼だろう。そんな目に合っても人を助けたいというのだから、この署名用紙には紙一枚以上の重みがあった。
 所々筆跡がマーコのものだが…識字率の問題だろう。人間が魔族のようにほとんどの者が読み書きを出来る知的レベルに到達しているとは思っていない。
「はい。この町全員の名前が入っているようです。このやり方をすれば、閣下の処理なされている仕事の山の一つが全て解決することになります」
 全体の利益と個人の利益、両方で攻めていき少しずつ関心を向ける。
「ああ」
「馴染みの者が統治することによって、この町に住む者たちとの摩擦も少なるかと…」
「それは准尉の感想に聞こえるが? 」
「全くもっておっしゃる通りです。……やはり難しいでしょうか」
「そうだな。前例のないやり方はやはり好ましくない。前例が残っていないということは、誰かが失敗した道と考えられる。ココは人間を生産する重要拠点になる予定の場所だ。小さなミスも今の俺には大火に見えてしまうのだよ」
 閣下は領主を生かしたことによっておこる最悪のケースを考えておられた。確かに僕達のしている行動は、悪く言えば別にしなくてもいい選択だ。この選択を取って利益を得るかも知れないが、その反面不利益を被る可能性もある。それは誰にもわからない。
 閣下はわざわざ安定した選択肢があるのに、そんなよりよい選択のために未知の方へ舵を切る必要はないという考えなのだろう。
 大きな作戦の責任者である以上閣下のお気持ちも十分に理解できる。コレでもし人間がまた反乱を起こしたら僕ではなく、閣下の責任になってしまう。
 僕達がいくら違うと言っても、上層部はそう判断するだろう。
 僕達にしてみれば利益ばかりの話だが、閣下はそうではない。彼だけがこの話に乗って不利益を被るかも知れないのだ。
 だからコチラがただ正論を述べて、協力を迫るようなことはしたくなかった。新しいことをするならそれなりのリターンが全員にあるべきなのである。閣下がこの話に乗るにはまだリターンが割に合わないというだけのこと。
 そう考えた。だからココでクロックドムッシュによって渡された例のアレを見せる時だろう。
クロックドムッシュは「コレを見せたらいちころだーがんばれー」と言っていたから、相当強力な内容が書かれているに違いない。
「閣下。コチラをご覧ください」
 そういって渡した手紙の封を切られた。
 視線を走らせるにつれて閣下の視線が鋭くなっている。心臓が早鐘のように鳴り始め、思わず息を飲んだ。すると、閣下がゆっくりと口を開いた。
「お前、俺の娘と同級生らしいな」
 アラーニ閣下は席を立ち、僕の胸倉をいきなり掴み持ち上げられた。 な、なぜ?
「な、なにを!? ご乱心か!? 」
 なんで僕は今にも殴られそうなんだ? 手紙を見せれば一発だって、おじさんが言っていたから僕は見せただけなのに。口から怒気が漏れ出るような吐息に、一体あの手紙に何が書かれてあったのかと気になった。
「……一体何が」
 胸倉をつかむ力が強くなる。チラリと見えた封蝋は、閣下のご息女が愛用していたもので間違いなさそうだった。なんでクロックドムッシュは閣下の娘にコンタクトを取ったんだ…!?
「娘とはまだ会っているのか」
 こ、殺される…!
「会ってません…! 」
「手出したのか! 」
 そんなこと、命がいくつあったってやりたくはない!
「魔王様に誓って出してません…! 」
「じゃあこの手紙はなんだ! 」
 知らない! そんな呪物! 
「おじ……クロックドムッシュが僕に渡せと! 」
 速攻でおじさんを売り飛ばすと、ドサッと地面に落とされ、何度か咳き込む。あのまま怒りのままに喉を絞められていたら死んでいた。
「アイツかぁ……! 」
 八つある目が全て赤く変わっている。おじさんはなんてことをしてくれたんだ。僕はすぐに土下座をした。
 頭を地面から少し浮かせて、手はおにぎりの形…! 
 二つのおにぎりが重なるように美しい土下座を披露する。そうでもしなければ、この御方の怒りは収まらないような気がした。
「閣下お許しください。僕がどうしても閣下を説得したく、おじさんに力を借りました」
「それがこの手紙かぁ? 」
 そう言って突き出された手紙を、高速回転する頭で読みこむ。手紙には僕の案を後押しするような内容が書かれていた。
「え、ええ。そうです」
 閣下の娘とは別にそんなに仲良くしていたワケでもないのに、どうして手助けしてくれたのかは謎だが、今はそんなことはどうでもいい。
 目の前の閣下に殺されなければそれでいい。
「………良いだろう。処刑は取りやめだ。好きにするがいい。だがお前、次にこのような手段を取ってみろ。頭の先から食ってやるからな」
 そう言ってアラーニ閣下の血眼が顔に近づき、そして離れる。
 僕はというと、怖すぎておにぎり頭から塩が噴き出ていた。
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