ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~

星島新吾

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おバカ貴族と龍と飛行船

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 午後の陽光が金色の大地に降り注ぐ中、カサルの眼前に広がる光景は、控えめに言っても「最悪の機能不全」と言わざるを得ない状況だった。

 上空では、物理法則を暴力で塗りつぶすような颶風《ぐふう》が吹き荒れている。
 遥か頭上、雲海を裂いて泳ぐ巨大な古龍。その巨体が動くたびに、数億トンの大気が押し潰され、逃げ場を失った空気が「不都合な質量」となって地上の街、ペントを叩きつけている。

 赤レンガはひび割れ、街灯のガラスが破裂する。
 理不尽な自然災害の前に人々は…………慣れた顔で避難を始めていた。

「……コレで余波だというのだから御笑い種だな」

 そんな暴風の只中に、ふわふわと舞う黒い羽毛のような影があった。
 蝙蝠傘《こうもりがさ》を差し、スカートを優雅に翻すカサルだ。

 彼は古龍が生み出した殺人的な乱気流の「隙間」を完璧に読み取り、タンポポの綿毛のように上下に揺れながら、最短の揚力で街へと降下していた。

「な、何だあれは!? 誰か空を飛んで……バカサル様だ!」

「無茶苦茶だ! 早く降りてください、死にますぞ!」

 警備兵たちの悲鳴に近い制止を無視し、カサルは音もなく石畳に着地した。

 傘を閉じると同時に、周囲の風がスッと凪ぐ。

「我《オレ》のことは気にするな。お前たちは上の蛇でも注視していろ」

 カサルは悪びれもせず、制服を着た魔女たちが基本魔法で結界展開に奔走する広場へと歩き出した。

(……龍災か。最近やけに多いな)

 ペントには年一でやってくる自然災害の龍災だが、今回の龍は一際大きい古龍がお見えになっている。
 小さな龍であれば町の屋根が軽くニ三枚飛ぶ程度で済むが、古龍ともなればボロ屋は綺麗さっぱり飛んでしまうことを覚悟した方がいいだろう。

 ペントの人々もそれを慣れているといっても、危険なことには変わりない。
 着々と町を守護する魔女たちによってペントの人々が避難を続ける中、カサルの瞳だけは鋭く状況を分析し続けていた。

「あ! バカサルだ!」

 風の音と共に緊張感の張り詰めた広場に、間の抜けた子供の声が響いた。

「 声がデカい。 警備の邪魔になろうだろう、静かにしてろ」

 カサルが人差し指を立てるが、時すでに遅し。子供たちは「可愛いドレス着てるー」と彼のスカートへ潜り込み、完全な玩具として扱い始めた。

 風がこんなに吹きすさんでいるというのに、避難誘導に従わない子供たちに、いっそ暴風に乗って逃げようか──カサルがそう画策したその時だ。

「ねぇ、あれ航空船じゃない?」

「かなりの数飛んでるぞ……大丈夫か?」

 ざわざわと避難民は空を飛ぶ航空船団を視界に捉え、子供達はその空に浮かぶ船を指で追っている。
 先頭を逃げるように飛ぶ航空船を相手に、残りの航空船が追うように連なっていた。

「龍災の日に飛ばすなんて何考えてんだ?あの航空船?」

 避難指示を受けながら町の防空壕に向かう市民が立ち止まり、口々に上空を指さして話している声が聞こえてくる。
 
 そしてすぐ後、カサルの耳に上空で何かが爆ぜる音が届いた。

 その瞬間、カサルの肌がビリリと粟立つ。

 見上げるよりも早く、彼の本能が警鐘を鳴らした。

 追っていた内の航空船の甲板から、小さな影が投げ出される。

 瓦礫ではない。風に舞う長い銀髪。少女だ。

「あ──」

 誰かの絶望的な悲鳴。
 子供たちの笑顔が凍りつくよりも、警備兵が事態を理解するよりも速く。

「──チッ!」

 カサルの足元で、爆発的に風が巻いた。
 まとわりつく子供たちが尻餅をつくほどの突風。
「なに?」と問い返す時間すら惜しい。考えるよりも早く、カサルは蝙蝠傘を槍のように構え、大地を蹴っていた。

 ドォンッ!!

 石畳が悲鳴を上げ、蜘蛛の巣状に亀裂が走る。
 圧縮された風が砲弾のように弾け、その反動でカサルの体は音速の領域へと加速していた。

(クソッ……優雅さの欠片もない!)

 舌打ちを置き去りにして、黒いドレスを翼に変えたカサルは、落下する死の運命へと一直線に飛翔した。
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