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雷鳴は思わぬ方角へ
第三章 107話『『元』究極メイド、魔人を見る』
しおりを挟む何が起きた。
体が軽くなったのを感じた瞬間、地面が消えた。
耳の中でキーンと音が鳴っている。
先程の感覚とは違う事から鼓膜は無事だろうが、それでも爆音が私を襲ったのには違いない。
体に力が入らない上に目が開けられない。
心に体が追いついていないのか、意識を起こそうとしても全く反応しない。
一体何が起きたのか、頭の中で考えていても、先程の事を整理しようとしても、何も情報がない。
本当に唐突に地面が爆ぜ、私は吹き飛んだ。
他の皆がどうなったかは分からない。
カルムさん、カイネさん、ルナさん、ミーさん、そして城の入り口へと駆けつけてくれたフィーちゃんとエルミナさん。
あの人たちは無事だろうか。
どうにかして、現状を確認しなければ―――。
―――
「!!」
アミナは突如目を開いた。
視覚情報として入ったきたのは、城への通路の崩れた石レンガ。
そして次の瞬間には体中の痛みが彼女を襲う。
崩れた瓦礫が体に激突した事によって生じた痛みだとすぐに理解出来た。
「目が覚めたか、アミナさん」
聞こえた声に目線を上げると、エルミナの顔がすぐそこにあった。
その事でアミナは、自身が今エルミナに小脇に抱えられているのを察した。
首を動かして周囲を見回すと、カルムは自身で着地しており、カイネの事はフィーが背中に乗せて着地し、ルナは変わらず自身の武器であるミーに背負われていた。
見たところ、誰1人欠けてはいないようだ。
「何だ!?今の!!」
「地面が突如爆ぜ、我々は吹き飛ばされたようです。幸い、そこで重症を負った方はいないようですが」
ミーの言葉にカルムが返した。
2人共目新しい傷はなく、ルナに関してはミーが盾になった事で砂埃すら被っていなかった。
「意識を失ったのは私だけでしたか……。皆さん、無事だったんですね……良かった」
「良かった、か……。実はそうとも言ってられん状況かもしれないぞ」
「え?」
エルミナはアミナを下ろして腰に携えてある黒い剣を引き抜いた。
そして今までにない程の緊張感を真横にいたアミナはひしひしと感じていた。
一体何がエルミナをそうさせるのか。それに気がついたのは、その数瞬後だった。
アミナはエルミナの視線の先へと目線を移すと、そこにあった姿に驚愕した。
「まさか……あれは……!!」
エルミナの目線の先には、アミナにとっては見覚えしかない人物が映っていた。
エルミナより薄い黄色い髪に、片方にしか生えていない白と黒の不気味な翼。
女性のシルエットながら、そこに見えるのはただの恐怖と畏怖、そして憤りだけだった。
そしてその横には見覚えのない黒髪の少女も共に浮いているが、アミナはそちらよりも黄色髪の女の方へと意識がそれていた。
「知っているのかアミナさん。……いや、今それは重要ではないか。それにしてもとてつもない魔力量だ。恐らく常人ならば立っていられないだろう」
エルミナは心配になって視線を一瞬だけカイネに移す。
幸い倒れそうになっている様子はない。彼女自身王族で、魔力総量がかなり多い。魔力の圧倒的な物量には慣れているという訳だ。
しかし顔色はそれとは別で、一瞬にして驚きと恐怖に染まっていた。
視線を戻したエルミナは2つの影を睨みつける。
「……これが2人から放出されているものならば納得がいくが、あの黒い髪の少女、魔力を全く感じない。……どうなっているのだ……」
黒い刃を立てて構えながらそう呟く。
彼女のその行動に続いて、まだ戦闘が可能そうなカルムが鞘と柄に手を当て、フィーもカイネを下ろして体のサイズを大きくして臨戦態勢を取る。
今目の前にいるのは確実に敵であり、討つべき対象だ。
その場にいた全員の本能がそう語りかけている。
「なんなの、あれ……」
「体の内側が震えるみたいな……分からないけれど、とても嫌な感覚……」
ルナとカイネがそう呟いた。
カルムもフィーも平静を装っているが、その内心は分かったものではない。
するとアミナは2人の姿を見つめながら口を開いた。
「アルダナ……。私とメイさんがゼゴット村という場所で出会った、謎の女性です。女神と呼ばれ、彼女を信仰する宗教団体もありました。彼女自身は村外れに封印されていたようなのですが……」
「封印?……そうか、だったらもう1人の正体も同時にハッキリとしたな」
エルミナはそう言うが、冷静に振る舞っているつもりのアミナは、内心では焦りで溢れかえっており頭がまともに働いていなかった。
当の本人たちは王都の上空まで上がっていった。まるでアミナたちなど眼中にないかのように飛び上がっていき、王都全体を見渡していた。
そんな2人を見上げているアミナたちへ、聞き馴染みのない声が届く。
「遂に目覚めてしまったのですね……」
優しさの中にアミナと同様、焦りを感じるその声に振り返ると、そこには森の管理者であり木の大精霊、ドライアドの姿があった。
緑色の長い髪の毛をなびかせ、周囲にはほのかに木の実や花の匂いが漂っていた。
「ドライアド様、来ていたのですか」
エルミナがそう声をかける。
するとその名を聞いて何か引っかかったのか、カイネが「ドライアド……それにこの匂い……」と呟いた。
そして思い出したかのように大きな声で「あーーっ!!」と叫ぶと、ドライアドを指差した。
「貴女、昔森に行った私とリオナを助けてくれた人!?」
その言葉に一同は呆然とした。
ドライアドも険しい表情で飛び上がっているアルダナたちを見つめていたが、カイネの言葉に微笑み返した。
「フフ、随分大きくなられましたね、カイネ様。あれだけ小さかったのに、今ではすっかり立派になられて。リオナ様の事は……私の残念に思っています」
「……そう、知ってたのね」
ドライアドというのはその地に根を下ろす精霊。
その為自身の行動範囲内ならばどこでも見る事が出来ると、アミナはエルミナから聞いた。
つまり当時のリオナの事も、ドライアドは知っていたという事だ。
「……でも、私は寂しくないわよ。だってリオナはいつも心の中で一緒にいてくれたって、さっき分かったから」
カイネの笑顔にドライアドは少し驚いた顔をしてから目を細めて微笑んだ。
そして小さく「本当に、お強くなられて……」と呟いてから、再び空にいる2つの影を見上げた。
「それでドライアド様、あの2人について何か知っているのですか」
カルムが問いかけた。
ドライアドは頷いて、今この場にいる全員が焦燥感を抱いている2人について説明を始めた。
「簡単に言ってしまえばあの2体は、かつてこの大陸を恐怖と力で支配していた、魔人そのものです」
その言葉に全員が固まる。
特にアミナは、アルダナとは面識がある事で、更にその実感が湧き始める。
それと同時にどこかへ行っていた冷静さも取り戻し始めていた。
「今よりはるか昔、魔人が『開拓者』によって封印された事は知っていますか?」
「はい、それはエルミナさんやカイドウさんから聞きました」
アミナが返事をし、それに小さく頷いてドライアドは話を続けた。
「当時の魔人の数は15体。開拓者が現れるより前に、力が小さかった魔人5体の討伐に成功し、開拓者が来てから更に強力だった2体の魔人の討伐に成功しました。しかし残った8体は力が強過ぎるが為に封印する事にしたのです。そして、封印された8体の内の2体が、あの2人なのです」
王都を見渡している2体。まるで何かを物色するかのような赤い目で、それを見るだけで何故だか寒気がしてくる。
これから何をする気なのか、皆目見当もつかなかった。
「黄色い髪の方の魔人は、アミナさんが口にした通り、女神として祀られていた、破壊と創造の魔人、アルダナ」
黒い翼と白い翼が交互に羽ばたき、不規則的な動きがより一層不気味さを感じさせる。
アミナはそんな彼女と対峙した時の記憶が鮮明に蘇った。
圧倒的な物量、質量、速度に力。それ等全てにおいてアミナの遥か上を行っていた。
赤い瞳には何人も逃がさないという強い眼力を持っているように感じたが、逆にこちらを全く見ていないという不思議な感覚を味わった。
「そして黒髪の魔人。彼女はかつての第二大陸の中でも屈指の実力者で、アルダナを配下としています。恐らく先に復活を遂げてしまったアルダナは、彼女を復活させる為に動いていたのでしょう」
アルダナを復活させたのはハスカートという力に取りつかれた女性だ。
自身の夫が作り出したアルダナ教という教団と夫の側近だった男の能力を奪い、アルダナ復活の為に動いていた。
そこにアミナとメイが現れ、アミナは何度も死にながら真実に辿り着いた。
だが結果的にアルダナの復活は阻止する事が出来ず、現在もう1人の魔人が復活してしまった。
「魔人の名を『レリック』。この国の名前の由来となった虚影と虚実を司る魔人です。この城の地下深くに封印されていました。封印を強める為にその上に城が築かれ、この国が―――古代技術国家レリックが誕生したのです」
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