ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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お店経営編

第二章 58話『『元』究極メイド、ザストルクへ向かう』

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 夜が明け、日が登り始めた頃。ベルリオとイーリルは、多くの騎士達の前で馬車の準備をしていた。
 馬の準備が終わった2人は、騎士達へと作戦を伝える。

「これより我々は、魔人会が壊滅を試みているザストルクへと向かう。先遣隊として、総団長である俺、ベルリオ・ナーダと、兵器開発部門代表の、イーリル・ノート。それに加え、ネブロ大臣の依頼を引き受けてくれたアミナ殿達に同行してもらう事にした」

 そう言ってアミナの方へと手を向ける。
 横にまとまって立っていたアミナ一行は、コクリと頷いてそれを承諾したように合図する。

「何があるか分からない以上、少数精鋭の最大戦力を結集して挑む必要がある。大勢で動けば、こちらの動きが悟られるというのは言うまでもないだろう。あちらで何かあった時や、あまりにも戦況が悪くなった場合には、城へと連絡をする。だから連絡水晶は欠かさず確認してくれ」

「はいっ!」

 全員が了解の声を上げる。朝早くの帝都中にその大きな声が響き渡り、ベルリオ、イーリルは馬車へと乗り込む。彼等に続いてアミナ達も、帝都に来た時よりも大きい馬車へと乗る。
 そして一刻も早く到着する為に、最後に乗り込んだカイドウが扉を閉めると、馬車はすぐに帝都を出発した。

―――

 魔人会の構成員が吐いた、ザストルク壊滅という彼等の目的を防ぐ為の遠征だったが、旅路そのものは難なく進んでいく。
 不気味なほどに順調で、昼頃には到着するそうだ。

「すまなかった」

 突然ベルリオが謝罪の言葉を口にして、目の前に座っているアミナ達へと軽く頭を下げた。
 何の事か理解が追いついていなかったアミナ達は疑問の色を浮かべながら彼に問いかける。

「突然どうしたのですか?」

「大臣からの依頼とは言え、帝都に到着して1日もせずにあなた達を連れ出してしまった。もう少しゆっくりしてほしかったのだが……」

 彼はそんな事を悔しそうな顔をして言う。しかしアミナ達の中にそれを気にしている者は1人もいない。
 むしろこちらとしては、早く依頼が片付きそうで、情報を掴めた事は大きな一歩だと考えている。

「顔を上げて下さい。私達はそんな事気にしていませんし、ベルリオさんも気にする必要はありませんよ」

「……感謝するアミナ殿」

 膝に手をついて座った状態で、ベルリオはまた深々と頭を下げた。彼のその態度に、彼には皇帝への多大な恩があったのだと、アミナは自然と感じた。
 その様子を横から見ていたイーリルは、相変わらずだな、と言いた気な表情をし、手に持った資料へと再び目を戻した。
 何を読んでいるのか気になったカイドウが声を掛ける。

「イーリルさん、これは何?」

「あぁ、この馬車に積んでいる魔道具の一覧表だ。だが、正直言って、今考えるとかなり余計な物を積んでしまったなと後悔している所だ」

「後悔?どうして?」

「この馬車に積まれている魔道具は、魔道銃器は勿論、先日使用した精神攻撃系の魔道具、通信用の水晶、それ以外はほぼ武器なんだが……アミナさんやメイ隊長、カルムさんには必要無いでしょうし、私も武器を使用して戦うには期間が空きすぎた。その武器を使用して戦うのは、せいぜい今馬車を運転してくれている騎士と、カイドウさんくらいだろう。だが荷物の武器は人数分積んでしまったからな……私とした事がどうしたかな……」

 イーリルは顔に手を当てて苦く笑った。
 犯人が魔人会であるとなった時、彼としても思うところがあったのだろう。
 何せ彼は、一度武装騎士団を辞めており、兵器開発部門へと入る為の試験をリプスによって免除されていた。
 彼にとってリプスへはそういった恩があり、犯人が確定した事で激しい怒りと憎悪、そして動揺と悲しみ、それらが同時に押し寄せ、彼の判断力を鈍らせてしまったのかもしれない。

「って、今メイ隊長って……」

 アミナは引っかかって話を遮ってしまった。
 イーリルはまたしても微笑み、メイへと顔を向けた。

「お久しぶりですね、メイ隊長」

「チッ、やっぱ覚えてやがったか」

「忘れもしませんよ。貴女のお陰で、私は頑張るという事を知れました。今は騎士ではありませんが、その心の在り方は忘れていませんよ」

 真っ直ぐな瞳で言われ、メイは顔を反らした。
 分かりやすい照れ隠しなのか、はたまたただ面倒くさいだけなのか。流石のアミナも良く分かってきた。

「……とりあえず、これから街に到着したら私達は何をすればいい?」

 そう言ってメイは話を本題に戻す。彼女の言葉に頷いたイーリルは、前傾姿勢となって、膝の上に肘を置いた。
 そして口元に手を当ててこれからの作戦を話す。

「先日の話に出た通り、ザストルクは交通と流通の2つを担っている、この国で2番目に大切で重要な街だ。それらを壊滅するという魔人会の目的を阻止するのが、今回の我々の任務となる。どこに魔人会が潜んでいるのか、いつそれが決行されるのかは、昨日の深夜の尋問では構成員は吐かなかった。だがザストルクにいる事だけは間違いないらしく、見つけ次第それを駆逐。壊滅の方法が分からない以上、見つけ次第抹殺以外の作戦が組み立てられなかった。……アミナさんやカイドウさんには、すまないと思っている」

 イーリルは2人の方を見てそう言う。アミナがあまり納得していないような顔をしているのに気がついたのと、カイドウが殺しに慣れていないというのを察したから出た言葉であった。

「僕はやるよ。殺らなきゃ殺られるくらいなら、大切な人を失うかもしれないなら、それ以外の選択肢は無いしね」

「……私は、やはり即戦闘、即殺害、というのにはあまり肯定的ではありません。でも、自分勝手な横暴を許すくらいなら……私も戦います」

 決意の決まった真っ直ぐな瞳をイーリルに向ける。それを見た彼は、「分かった」とだけ小さくつぶやき、彼女の意思を尊重し、有り難く受け止めた。


 そんなやり取りをしながら、コルネロ帝国帝都・パラディンからおよそ5時間半。
 ベルリオ率いる一同は、交通と流通の都市・ザストルクへと到着した。


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