ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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お店経営編

第二章 62話『『元』究極メイド、情報を整理する』

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 情報収集兼、魔人会の捜索が一段落し、アミナとベルリオは宿屋のある方向へと歩いていた。
 2人の手にはそれぞれ町長であるタットから貰った、この街の搬入と搬出の記録と、それに繰り出した行商人や御者のリストが持たれていた。
 流石にそのまま持ち出す訳にはいかず、アミナの持っていたメモ帳をちぎってそこに写してから持ち出した。いくら国の危機かもしれない状況だとしても、ここで情報が漏れればそれこそ大損害となる。その為原本の持ち出しが出来ない、という事だった。

「これで何か掴めればいいのですが……」

「あぁ、折角町長が探してきてくれた訳だしな。無理にでも掴んでやろうぜ」

 タットの話だと、どの馬車がどんな荷物を運んでいたかを調べる事は出来るそうだが、少し……というかかなり時間がかかるらしい。何せ、誤差含め1~2週間前から今日この日までの全ての荷物を改めなければならないからだ。
 だが、どちらにせよ調べるのは直近の日付からになるだろうから、想像よりもずっと早いだろう、とも言っていた。記録系の調査は彼に任せ、アミナ達は体や頭を動かして魔人会の同行を探る。

 数十分してようやく宿屋まで帰ってこれた。
 この街は広いからかどうも迷路のようで困る。道がまっすぐに続いているだけならいいのだが、わざわざ道を曲がらせるような建物の配置をしており、よくこれで流通や交通に不便しないな……とアミナは不思議と呆れと疲れを同時に感じながら思った。

「今戻った」

 イーリルのいる部屋の扉を開けると、既に全員揃っており、街の地図を見たり武器の手入れをしたりと、各々自由に時間を過ごしていた。どうやら彼等も一通りの情報収集は終えたようだった。だが表情から察するに、いい情報が手に入っているとはあまり思えない。

「あぁ、アミナさん達。おかえり」

「そちらで何か情報は掴めましたか?」

 アミナは立ち上がったカイドウ向かって訊いた。
 するとカイドウはバツが悪そうに「んん……まぁ少しは」と言った。

「君は町長には会えたのかい?」

「あぁ。庁舎に言ったらばったりアミナ殿と会ってよ。だから一緒に帰ってきた」

 そう言えば、といった表情でイーリルはアミナの方を見た。庁舎は確かに西部にあるから彼女と出会っていたのか、そう思考していた。

「それじゃあ全員揃った所で早速だが、各々が収集した情報を共有しよう。まずは私からいこう」

 イーリルが話を仕切りだしたので、全員がザストルクの地図が乗せてあるテーブル付近に集まる。

「まず結論から言わせてもらうと、大した情報は手に入らなかった」

 アミナの予測が当たった。
 きっと、カイドウや部屋にいた他の全員も顔の表情から察した通りだろう。

「私が手に入れた情報だが、こことは別の『レト』という宿屋の主人からのものだ。どうやらここ数週間でこの街の宿屋を点々としていた者がいたそうだ」

「宿屋を点々?同じ街の中でですか?」

「あぁ、そこが私も不自然だと考えた。だがこの街は広い。宿屋も10じゃきかないだろう。一軒一軒回ってその客の名前を探すのは骨が折れる。それに個人情報だからと、渡してもくれないだろう」

 それもそうか。宿屋に泊まった人の名前を、街中の全員に片っ端から訊いていくのは現実的ではない。
 そもそもそんな事をすれば魔人会に動きを悟られかねない。もどかしいばかりだ。

「話を戻そう。何人もの人物が宿屋を点々としていた。気になった主人は、その男の1人を尾行したそうだ。しかし街の南側の人気のない道でふと角を曲がった時には、その姿はなかったらしい」

「この街自体迷路みてぇなモンだからな。おっさんが見失っただけだろ」

 メイが有り得そうな可能性を示す。現にアミナもこの宿屋に帰ってくるまでに結構苦労した。ベルリオがいなければ少し危なかっただろう。

「それでは話の流れで私とメイ様のをお話します」

 床に正座しているカルムが口を開いた。
 いくら礼儀正しいと言っても、ここまで来るともはや何かしらの誇りのようなものを感じざるを得ない。

「私とメイ様は街の南へと行ってまいりました。酒場にいた情報通の方からお話を伺いました」

「ん?酒場?」

 アミナは引っかかってポツリと呟く。彼女のそれに何かを感じたのか、メイはアミナから顔を反らした。
 しかしそんなメイを気にせずにアミナは彼女の顔を見つめる。

「……メイさん?まさかお酒飲んでないですよね?」

「お、おう勿論だ」

 少しカタコト気味にメイは言う。顔は背けているが、大体の表情の察しはつく。

「そうですよね。私との約束ですもんね。以前、スキルを使って依頼品を作っている時に、手を突っ込んだり私に話しかけたりして妨害してきて納期に間に合わなかった時にお約束しましたよね」

 アミナは不気味な笑顔でメイに語りかける。
 顔を見せないメイは彼女の言葉に小さく頷き、他のテーブルにおいてある水の入った瓶を手に取った。

「……因みにカルムさん?その情報通の方からどうやって情報を?」
「飲み比べです」

 アミナに訊かれた瞬間即答したカルムの言葉にメイが飲もうとしていた水を吹き出した。
 メイは速攻でアミナの方を振り向いたが、時既に遅く、アミナはメイの胸ぐらをつかんでブンブンと振った。

「また約束破りましたね!!あの時もそうですよ!!煙草が無いからってお店のリヴァルハーブ全部燃やしてその煙を吸って挙句の果てには「あんまし美味くねぇな」とか言って!!そんなんだから吸わせたくも無いし飲ませたくもないんですよぉ!!集め直すのどれだけ大変だったと思ってるんですかねぇ!!?」

 メイは「悪かったって!!」と何度も繰り返して謝罪をした。
 そんな2人を横目にカルムがその情報について話し始めた。

「メイ様が度数30のお酒をロックで飲む勝負を挑まれ、40杯飲んで2倍以上の差で勝ちました。そんな彼は言いました。最近街で見かけなくなった顔馴染がいると」

 サラッと勝負の内容までバラされ、カルムはついでのように手に入れた情報を口にした。
 またしても人がいなくなる系の話だ。しかも今回は顔馴染という、恐らくこの街に定住しているような人が消えた事になる。
 人はドンドン消えていくが、ここ数日の馬車の出入りは多くなっている。一体どういう事なのだろうか。

「しかし彼は他にも、「まぁ、あいつ等は借金も抱えてたし恨みを買ってるだろうから、どこかで殺られちまったのかもな。気の良いヤツばっかだったのによ」そう仰っていました」

「つまり魔人会がそれを行ったかは分からない、という事になる訳だね……」

 カルムはカイドウの言葉に頷いてみせる。
 確かにザストルクの崩壊は魔人会の目的だが、人の誘拐までやるのだろうか。

「それじゃあ次は僕とフィアレーヌ君の番。僕等は街の構造がなにかヒントにならないかと思って、北にあった案内所や建築士の人とかに話を聞いてきたんだ」

 カイドウがザストルクの地図の北側を指差した。複数指差したのを見た一同は、彼の記憶力の良さに驚かされた。恐らくそこ全てに行ってきたのだろう。

「何も無いって言ってたけど何とか振り絞ってくれてね、下水道の管理人さんの家に行って話を聞いたんだ。そしたら、「近所の悪ガキが下水道の壁に破裂球で穴を開けやがってよぉ。それを修理しに行ったぜ。そいつ等はシラ切りやがったが、下水道にいたのがいい証拠だ」って言ってた。大した情報じゃなくてごめんね」

「あの……破裂球とはなんですか?」

 メイを離したアミナが会話に参加してカイドウに訊いた。
 
「破裂球っていうのはね、この大陸で流行ってる玩具の名前だよ。中に小さな破裂する魔力が込められた魔鉱石が入っててね、空に投げると破裂して綺麗なんだよ。……本来は空に投げるんだけど、こういう危ない遊び方をする子供も時々いるんだよね」

 カイドウは困ったように笑って言った。
 自分の好きな魔道具が本来の用途で使用されないのは怒ってもいいような気もするが、彼は優しいからそんな事はしないだろう。
 それにしても一般人でも壁を破壊できる程度の物が玩具として手に入るだなんで、やはり第二大陸と第四大陸での認識や常識は全然違う。

「それじゃあ最後に私……というかほとんどベルリオさんなんですが……」

 アミナは、自身が全く情報を手に入れられていないのを自覚していた。街中を散歩して、手品を見て、案内されて、ようやく情報にありつけた、その程度の認識だ。
 その為情報を伝えるのはベルリオに任せた。

「俺達は本庁舎で町長の話を聞いてきた。彼は俺達にこれを渡してくれた」

 ベルリオは手に持っていた紙を全員に見せる。
 搬入と搬出の回数が書かれた紙と、それに繰り出した御者や行商人の数と名前が記された、アミナのメモ帳の一端だ。

「本庁舎から出る途中、名簿にあった名前が呼ばれたのを聞いてそいつにも話を聞いた。何を運んでいたのか、と。そしたら本人は「あぁ、悪いな兄ちゃん。ウチは高い金を払ってもらうと中身関係なく運んでやれんのさ。ほら……そのぉ……男には知られたくない物とかあるだろ?」と言ってきた」

 その場にいた全員――メイ以外の全員が「うわぁ……」と思ったに違いない。実際アミナもそれを聞いた当初は心の中で呟いていた。

「一応聞いていた話によると、食料や衣服、工具なんかが運ばれていたらしいが、それが正しいかは分からない。回数も回数だが、運ばれていた物も気になるな」

「それはこの街の南西にある総合倉庫に保管されているらしいです。しかし動かされた形跡が無いと、その御者の方は言っていました」

 アミナがその言葉を付け加えた事で、全員の手に入れた情報は出終わった。
 改めて一同は、出た情報達に頭を悩ませる。
 何が怪しくて何が怪しくないのか、何が真実に繋がり何が失敗へとつながっているのか、それらを思考して引っかかるところがないかと探る。

「……想像以上に噛み合わないですね……」

「あぁ、どれか情報がいらないのか、それとも足りてないのか」

「うーん……僕の訊いた事がマズかったかな……」

「いえ、もしかしたら情報通の方が酔っ払った事で誤情報を私とメイ様に伝えたのかもしれません」

「なんだよ、私が悪いってか?」

「まぁメイ隊長といえば隊長らしいような気もしますけどね……」

「にゃあぅ……」

 全員が頭を悩ませる。
 アミナも地図を見ながら何か手がかりがないかとマジマジと見つめた。

 えっと……管理しやすいように、街の入口付近に総合倉庫を設置して……その近くに本庁舎。南付近に定住しているであろう人が忽然と姿を消した。そして宿屋を点々としていた人物達も南に向かって歩いて忽然と姿を消した……あれ?これって――

 アミナは何かに気がついたようにして地図を見つめた。
 地図には細々と様々な情報が刻まれており、どこにどんな店があるのかまで書いてあった。
 先程イーリルが口にした宿屋の名前――レト。それは勿論街の東側に位置しており、そこから繋がっている道は無数にあったが、人のみが通れる道で南につながっているのは1つしか無かった。
 人気がない、つまり通れる道が狭いか通る者の少ない道、という事になる。
 つまりこの道には何かがある。

「カイドウさん、その下水道の管理人さんが修理をした場所ってどこの辺りですか?」

「え?えっと……確かその時は南下したって言ってたし、その人の家にあったマンホールの位置的に……この辺りかな?」

 カイドウは書かれてもいない下水道の入口をピタリと指差した。
 そこはアミナが先程、人が消えたと可能性が高いと考えた、人気のない道だった。
 すると何かに気がついたカルムが口をつく。

「全て南……ですね」

「……倉庫も南、下水道も南、人が消えたのも南。偶然にしては出来過ぎているように思えます……」

 2人のその言葉にようやく気がついた男陣は、まさか、と言いた気な表情で地図を見下ろす。
 そしてアミナが、全員の頭にあった考えを口にした。

「……魔人会と思しき人物達は恐らく、下水道を通路にして移動しています」

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