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お店経営編
第二章 70話『『現』プロの殺し屋、北上する』
しおりを挟むベルリオとイーリル、そしてフィーと別れた後、メイは街の北へと向かって走っていた。
風を切るような速度と、刃を丸出しにしたような威圧感と緊張感を周囲に撒き散らしながら、足の回転を上げる。
道中、周囲を警戒しながら進んでいたが、特に魔人会の構成員の気配は感じ取れなかった為、本当に東西に退いているのだな、と心の中で呟いた。
「……つっても、鼻もこんだけ建物が焼け焦げてちゃ使いモンになんねぇし、まだ北にゃ着いてねぇから耳の使い所もねぇな」
走りながらボヤいた。
彼女は自身へ向けられている感情や意識の数や質によって身体能力を強化出来る。それを利用して五感を強化し、目や耳や鼻を使って昼間は情報収集をしていたのだが、あまり成果はなかった。
因みに、酒場で情報屋と飲み勝負で勝ったのは、スキルに頼っておらず、あくまで自身の酒の強さだけで勝ったそうだ。
彼女がその気になれば、度数90以上の酒をストレートで飲んでも全く酔わずに、内蔵への負担も無くせるらしい。酒飲みからすれば嬉しいような嬉しくないような、そんな使い方も出来る。
「西から北に走らなきゃならねぇってのは……我ながら忙しいな」
ザストルクの本庁舎があるのは街の西側だ。いくら走るのが苦ではないメイとはいえ、面倒臭がりなのは変わってはいない。
それを考えると、彼女が移動しているこの数キロは、敵もいないし景色も様変わりしない。実に退屈な道となっているだろう。「ま、イーリル達のが遠いか」と呟きながらその考えを頭の片隅へと追いやる。
「あ?あれって……」
するとメイは何かを発見して走る速度を緩め始める。そして数十メートル程足を緩めながら走った後に停止し、先程視界の中に入ってきたものの前へと歩く。
立ち止まった彼女の目の前にいたのは、座り込んでいる1人の人物だった。
「お前確か……」
座り込んでいるその人物を思い出そうと顎に手を当てて思考を巡らせる。記憶にはあるが誰だか分からない。好きではない人間には全く興味のない彼女には、よくある事だった。
そしてしばらく考え込むと、「あ」とだけ声を漏らして掌に拳を打ち付けた。
「お前あれだろ。私達をこの街まで連れてきてくれた騎士」
しゃがみ込んでその騎士に目線を合わせようとするが、彼は全く動く気配がない。だがメイの耳には彼の心臓の鼓動が聞こえていた為、死んでいるとは考えなかった。
メイは人差し指と中指で騎士の額をゲシゲシと突いた。しばらくそうしても起きない為、更に速度を上げてゲシゲシゲシと突いた。
しかし騎士団員はピクリと動いただけで、意識を取り戻した様子が無い。どうしようかと考えていると、またしても「あ」と声を漏らしてメイは腰にくくり付けてあった瓶を手に取った。
「そういやこんなん貰ってたな」
それは青緑色に淡く輝く液体が入った瓶。回復薬だった。
メイが本庁舎を出る時、町長であるタットから話を聞いていた受付の女性が「戦いに行くのでしたらこちらを」と言って渡してくれた物だった。その時は「私は怪我なんてしねぇからここのヤツ等に使ってやりゃいいだろ」と突き返そうとしたのだが、女性の熱心な視線に折れてやる事にして、一応受け取った。
「えっと……ぶっかけりゃいいんだよな」
メイは蓋を開ける為に瓶の口部分をデコピンで跳ね飛ばした。メキッという音もせず、瓶の口は綺麗に開き、そこから回復薬を垂らした。
服の上からでも効果があるのかは知らなかったが、それでも脱がせてかけるよりかは幾らか手順が減って楽だった為そうした。
ジィーーーと液体が垂れる音が鳴り続き、遂に瓶の中身全てをかけ終わった。その後、またしても額を小突き始めたメイは、騎士が目を覚ますまで待った。
回復薬をかけてから数十秒、ようやく騎士は目を覚ました。
「ハッ!魔人会!!ベルリオ様に知らせなければ……!!」
「よっ、寝坊助。私と一緒だな。寝てる間も上司に報告たぁ、仕事熱心な野郎だ」
メイは冗談交じりに腰に手を当てながら言う。回復薬の入っていた瓶はその辺に捨てた。
「メイ殿!!実は魔人会が進行してきまして……!!と言っても街の外からでは無く街の内部に潜んでいたようで……!!私は街の門で警備をしておりましたので気づくのと報告とが遅れてしまい申し訳ありませんでした!!そして――」
「黙れ、お前テンパり過ぎてうるせぇぞ」
今まで起きた事を伝えてくれようとした騎士の言葉をメイは遮って止める。騎士はよろめく体で立ち上がって「す、すみませんでした」と謝った。
「全部知ってら。だから今、私はその魔人会のリーダーの野郎がいるって場所に行こうとしてんだ」
「そ、そうだったのですか。なら自分も同行を!!」
「そんなフラフラな体でか?私は足手まといに構ってやる程優しかねぇぞ」
騎士のフラフラな立ち姿を指摘してメイは言った。彼女の一言に騎士団員はぐうの音も出ない様子だった。
「お前はさっさと本庁舎に行って治療してこい。そこでアミナが回復薬を使って治療してくれるハズだ。そんで、怪我が治ったら本庁舎の警備してろ」
「し、しかし!!メイ殿1人では危険過ぎます……!!」
全く引き下がろうとしない騎士の一言にメイはプツンとなった。
「雑魚1人加わって私に有益が1個でもあんのか?お前みたいなヘナチョコがいねぇと戦えねぇとでも言うのかゴラァ!調子乗んなよ一般騎士風情が。お前はさっさと怪我治してさっさと本庁舎の警備に回ってりゃいいんだよ!それとも何か?そんなに私の実力が信用できねぇなら、コンマ2秒でお前をあの世に送ってやろうか!」
メイの凄んだ言い方に騎士団員は「はっ、はい!!!」と大袈裟……でもないような返事をしてヨロヨロと走りながら本庁舎の方へと向かっていった。少なくとも、メイには大袈裟に見えたのはここだけの秘密である。
「はぁ、ガキの世話ってのもつくづく疲れんな」
アミナやカイドウ、ベルリオにイーリル、そしてカルムの顔を思い出しながらメイは呟く。彼等彼女等はメイよりも年下だ。だからこそほっとけ無いし、世話も焼けるのだ。
……最も、日常生活で一番世話を焼かれているのがメイである事も、ここだけの秘密である。
「時間食っちまった。ちょっとペース上げるか」
そう呟いてメイは再び走り始めた。
最初に本庁舎を出た時よりも数倍は速く、この調子なら3分後には街の北部に到着できそうだった。
―――
予定より早くて2分後。メイは街の北部に到着していた。
そして一番最初に目についた建物へと歩みを進める。何か確信があった訳では無い。だがしかし、そこ以外にこんな馬鹿で派手な真似をするヤツが入りそうな建物は特にはなかった。
『ザストルク案内所』
そこには街全体の地図や、様々な資料が保管されており、何より建物が大きい。
「地味に地下に籠もってた野郎ってのは、高い所に登りたがるモンなのかねぇ」
メイは台詞を吐き捨てながらそう呟いた。
そして建物全体を外から見回した。すると何か目星をつけたのか「あの辺か」と低く呟いた。
「開け五門」
彼女の手には巨大な武器が握られていた。『帝鎚矛』メイが愛用している武器の1つで、様々なギミックが施されている事もあってか、色々な種類の武器としての仕様が可能になる。しかしそれはメイの腕力と俊敏性があってこそ成り立つのである。
メイは帝鎚矛に内蔵されている鎖を露にし、フレイルの要領で先端付近をブンブンと回した。
そして先程目星をつけた所へ向かった思い先端部を投げつけた。
直撃した案内所の壁は打ち砕け、ガラスや建物の瓦礫がパラパラと降ってきた。少し引っ張ってみて落ちてこないので、メイはそれを伝って案内所の中へと入った。
「ビンゴだ」
帝鎚矛を回収した後、メイは部屋を見回しながら呟いた。
その部屋は本が大量にあり、様々なトロフィーや表彰状などがあった。間違いなく、案内所の中で一番偉い人間のいる部屋なのだろう。
そして、その確信の理由はもう一つあった。壁を破壊して入ってきたメイに対して全く動じず、全く意に介していない様子で高価そうなデスクに座っているローブの人物がいた。
「あれ?もう来ちゃった」
その声の主は椅子から降りてメイの方へと向き直る。
「もう少し時間がかかると思ってたけど……意外と足速いんだね」
無邪気だがどこか冷徹。そんな風な喋り方をするローブの人物は、自らの着ているローブを脱いで正体を明かした。
「こんばんはっ。巨乳で美人なお姉さん♡」
「けっ。こんだけ街を好き放題しといてその第一声はねぇだろうが。気持ち悪いったらありゃしねぇ」
「もう、女の子が気持ち悪いとか使っちゃいけないって親から言われなかったの?」
「生憎女の子って歳でもそんな教育を受けた人間でもねぇんでな」
殺気を隠してるとは言え、メイに対して軽口を叩けるその少女は、只者では無いとメイは感じ取っていた。
髪型はピンク気味のツインテールをしており、まつ毛が長くて少し垂れ目。靴は履いておらず、黒い靴下の様な物だけを身に着けている。
どこから見たって普通の可愛い少女。だがしかし、流石のメイもそんな平和ボケはしてはいない。
「お前が今回の件の首謀者か?」
「うーん……まぁそんな所かなぁ~」
少し考えた後に少女は答えた。そんな彼女の態度をメイは気に入らなかった。ヘラヘラとしているその態度は、相手をイライラさせる事に特化しているように思えた。
「それだけ分かりゃいい。……お前、名前は?」
「あれれぇ?名前を聞く時はまずは自分から名乗るのが礼儀じゃなかったっけ~?」
いちいち人をイラつかせる少女の喋り方にメイは遂にニヒルな笑顔を浮かべるのを止め、真剣な表情で少女を睨みつける事にした。すると少女は「ま、別にいいんだけどね」と言って自己紹介を始めた。
「私は魔人会最高幹部、『天魔六柱』の1人」
手を折り曲げて体の前に持ってくる。仕草だけは一丁前なその少女はそう言ってメイを見つめ、
「『結晶』の、オセ・グラウデ・メルナス」
と名乗った。
「――以後、お見知りおきを……ね」
最後に首を傾げて笑顔を作った。
可愛い少女であるハズの彼女の笑顔は、どこか不気味で、どこか惨たらしい。そんな笑顔だった。
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