ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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雷鳴は思わぬ方角へ

第三章 8話『『元』究極メイド、食事を奢る』

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あーー……どうしてこうなったんでしょうか……。

 頭を抱えるアミナ目の前では、赤い髪の見窄らしい少女がガツガツと嬉しそうに食事をかきこんでいる。
 ここはゼゴット村の中にある食堂で、アミナは少女に食事をご馳走していた。無論、彼女の身銭で。

「おかわり!!」

「まだ食べるんですか~」

 アミナのその嘆きに「にへっ」と少女は笑った。
 その笑顔を見せられてしまっては、アミナも抵抗のしようがなく、財布の紐が緩くなってしまう。

 どうしてこうなったのか。
 それは今からほんの少し前、そう、ほんの十数分前に遡る事になる。


―――


「お待ちしてました!!女神様ァ!!」

「えっ……えええええぇぇぇっ!!!????」

 ゼゴット村の入り口から少し離れた場所にある泉。
 その付近にあった小屋程度のサイズの祠。
 アミナと謎の少女の叫び声だけが、その空間に永遠と響いていた。

「ちょっと待ってください!何か勘違いをなされているんじゃないですか!?」

「いいえ!このエルダー!間違える訳ないのです!」

 どうやらこの少女の名はエルダーというらしい。
 少し呼びづらいが、可愛らしくもかっこいい良い名前だ。
 しかしそんな事くらいを考える余裕しかなく、エルルダの熱意のある言葉にアミナは焦っていた。

「そんな自信満々に……何が根拠なのですか?」

「コンキョ?それが何かは存じませんが!先程女神様は床を破壊し、その後光で包み込み、新品同様に直してしまわれたのです!!これがアルダナ様のみ成し得る神業以外のなんだと言うのです!!」

 エルダーに言われてアミナは思い返す。
 確かに先程、腐っている床を踏み抜いてしまい、それを修復する為に木片を使用して新しく作り直した。
 まさかそれが、破壊と創造の女神であるアルダナの御技だと思われるとは……というか、そもそも誰かに見られているとすら思っていなかった。

「あれはですね……地面の木が腐っていまして、それを壊してしまったので、スキルを使って直しただけな………あれ、それじゃあこの子が言ってる事と全く同じでは……?」

 アミナは説明しようと試みるが、やった事に関して言えば事実な為、エルダーも言っている事のまんまとなってしまい、更に頭を抱える事となった。
 ふとエルダーの顔を見ると、遂に認めてくれた、と言いたげな明るい希望に満ちた笑顔を向けてきた為、負けじと反論をする。

「と、とにかく!地面は直しましたが、貴女の言う女神様では断じてないです!そもそも、私はこの村にきて初めて女神という存在を知ったんですから……」

 アミナがはっきりそう言うとエルダーはムスッと頬を膨らませ、あからさまに不機嫌そうになった。
 彼女のその表情を見て、少し強く言いすぎてしまっただろうか……、と内心エルダーを心配するが、変な勘違いをされたままよりはマシだと考え、改めてエルダーを観察する。

 痩せ細った小さな体に、細い手足。
 橙色の大きな瞳に鮮やかな赤色の髪の毛。
 洋服は所々解れていたり破けていたりしたが、どこか民族衣装っぽいところがあった。
 だがゼゴット村では見ない柄だった為、少し違和感を覚えた。

「貴女……どうしてこんな場所にいるんですか?」

「どうしてと言われましても……。思い出せる範囲ではずっとここにいるです!」

 エルダーははにかんだ笑顔でそう答える。
 その時、アミナの中に幾つかの可能性が浮かび上がった。

 どこかの紛争から逃れてきた夫婦が子供だけでもと逃したのか、それとも罪悪感を減らす為に魔物や動物が来ず、死ぬ可能性の低いこの村付近に子供を捨てたのか。
 どちらにせよ、大人や力を持った輩の勝手な事情で人生を狂わされた事に間違いは無い。
 
 彼女はそんな自分勝手な事をする権力者が許せなかった。
 彼女自身も、雇い主の勝手な事情で解雇され、この魔物の蔓延る第二大陸に飛ばされてしまったからだ。

「可哀想に……」

 アミナはエルダーの頭を一つ撫でてやる。
 するとアミナの言葉を聞いていたのか、エルダーは満面の笑みでアミナに向かって言葉を発する。

「エルダーは可哀想では無いのです!こうして今、女神様に出会えたのですから!」

 服も祠もボロボロ。
 そんな環境に置かれながらも少女は健気に女神とやらを待っている。
 エルダーの為に、今だけは嘘をついてもいいのかもしれない。アミナがそう思った矢先だった。
 
 ぐぅぅ、と立派な腹の音が社の中に響いた。

「もしかして、お腹減ってるんですか?」

「うぅ……女神様の前ではしたないのです……」

 恥ずかしそうに頬を赤らめ、お腹を押さえたエルダーは俯き気味にそう呟いた。
 その様子があまりにも可愛らしく、アミナの口元からは笑みがこぼれた。

「そんな事はありませんよ。子供は食べて大きくなるのがお仕事です。村に行って何か食べましょうか。丁度私もお腹が減ってきましたし」

 アミナもエルダー同様にお腹を押さえて空腹を表現する。
 自身と同じ仕草をしたアミナにエルダーも思わず笑みがこぼれ、2人は互いに微笑みあった。

「それじゃあ行きましょうか。エルダー」

「はい!女神様!」

 アミナはエルダーの手を取り、2人は手を繋いで社を後にした。
 彼女の手は細かったが、どこか力を感じる、そんな手だった。


―――


 そして、ゼゴット村の食堂で食事を摂っている今に至るという訳だ。
 か細い見た目に反してエルダーはとてつもない量を食べ、料理を持ってくる店員も行ったり来たりで大変そうだった。
 それに料理が小分けになっているようなものならまだいいのだが、麺類ともなると、一口で全ての麺をすすってしまい、一瞬にして無くなるのだ。
 アミナはその度に「よく噛んで下さいね……」と言うが、そんなのを聞いている様子は全く無く、食事を摂るペースは全く変わらなかった。

 エルダーの食べっぷりに見てるだけで食欲が失せたアミナは、紅茶を一杯淹れてもらい、それを飲みながらエルダーの食事が終わるのを待っていた。
 その間、アミナは考え事をしていた。

結局、この子があんな所にいた理由は分からなかったな……。覚えてる限りではずっとあそこにいるって言ってたけど、やっぱりそれって生まれた時からあそこにいるって意味なのでしょうか……。

 幸せそうに食べるエルダーを見てアミナは思考する。
 なぜ彼女が、村から外れた今にも崩壊しそうな祠の社の中にいたのか。
 しかもアミナが入ってきてすぐに声を上げなかった事。
 アミナのスキルを見て女神と叫んで抱きついてきた事。

 分からない事が多過ぎた。
 今のところ分かっているのは、エルダーはあのボロボロの社で破壊と創造の女神・アルダナを待っているという事だけ。
 その理由や経緯までは全く持って分からない。
 アミナの頭は悩まされるばかりだった。

 そんな時、店員が横を通ったので聞いてみた。

「あの、すみません。この子を見た事ってありますか?」

 アミナはエルダーの事を聞いてみた。
 店員はまじまじとエルダーの顔を見つめた後

「すみません。長くこの村に住んでますけど、こんな少女は見た事がありません」

 との事だった。
 その後も、数人の別の店員に聞いてみたが、エルダーの事を知っている人は誰一人としていなかった。
 
村人から認知されていない。つまりエルダーはあの社から一歩も出ていないという事になる。少なくとも村の中には入っていない。今までどうやって食いつないでいたんでしょうか……。この村はアルダナ教が動物や魔物を近づけさせない結界を張っていると、ゾフトさんが言っていました……。野草だけで食いつなぐにしても限度があるし、こんな年端もいかない少女がその知識を持っているようにも思えない。

 アミナはふとエルダーの方を見る。
 すると、アミナがエルダーの事を聞いている内に、エルダーはお腹が一杯になったのか、膨れた腹をさすりながら幸せそうな笑顔を浮かべていた。

「エルダー、貴女今までどうやって生きてきたんですか?食事なんかはどうやって……?」

 食事が落ち着いた為、ようやく聞きたかった事を訊けた。
 アミナの言葉を受けエルダーは姿勢を正して答えた。

「エルダーのごはんはですね、お姉ちゃんが持ってきてくれてるのです!」

 エルダーは元気そうに言った。
 彼女の言葉が気になり、アミナは「お姉ちゃん……?」と疑問符を浮かべる。
 しかしそれ以上の情報はエルダーの口からは出ず、アミナは最後の紅茶を飲みきって椅子から立ち上がった。

「とりあえず、私の泊まっている宿に行きましょう。そこに私の友人もいます。紹介しますね」

「わぁ!女神様のお友達ですか!楽しみなのです!!」

 エルダーは既に身軽になっており、先程まで膨れていた腹が嘘のようにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
 そんな様子に不思議と笑みがこぼれるアミナ。
 会計を済ます為に店員の元へと向かい、財布を開いた。

 こんな時くらい悠々自適に財布を取り出し、大人の余裕を醸し出そう。
 エルダーに少しでも格好をつけようとするアミナの浅はかな考えが前面に出ている。
 女神では無いと否定しつつも、その言葉を言われて嬉しくない乙女がいるだろうかいやいない!
 余裕あり気に財布を出して開き、店員に言われるがままの額の少し上を出してやろう。そう考えていた。

 そして店員は、エルダーが食べた大量の料理と、アミナの紅茶の分の金額を計算し、アミナに告げる。




「お会計、金貨5枚となります」

「たっけ!!!!」



 大人の余裕はどこへやら。
 アミナはその金額の高さに驚きつつ、言われたままの金額をピッタリきっちり、支払った。



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