ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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雷鳴は思わぬ方角へ

第三章 12話『『元』究極メイド、夜道を歩く』

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 アルダナ教の教会からリューネの家まで帰ってきた、アミナとメイとエルダー。
 教祖であるグラッツからそれなりの収穫は得られたが、どれも死者の蘇生に繋がるものではなく、あくまでグラッツが黒に寄ったというだけだった。 

 そんな中すっかり日は暮れ、アミナ達はリューネの家で食事をしていた。

「むもっ!凄いなアミナ殿!どれも最高に美味い!」

 大きなテーブルに大量に並んだ料理を頬張りながら、リューネは唸る。
 リューネと同様、エルダーも目を輝かせて目の前の料理にがっつく。

「流石女神様なのです~~~!!!」

 肉の突き刺さったフォークを持ち上げ、エルダーが大きな声で叫ぶ。
 丁度その所に追加の料理を持ってきたアミナが、唸り声を上げている2人に微笑みかけた。

「喜んで頂けて良かったです」

 次にアミナが持ってきたのは巨大なイノシシの丸焼き。
 丁度村で売りに出されているのをメイが見かけ、それを物欲しそうに見ていたエルダーの為にメイが買って帰ってきたのだ。
 村に魔物や動物が入れないようになっているとは言え、食用としては普通に売られているのだな、とアミナは調理をしながら思っていた。

「むっ!!これも美味い!!」

「美味しいのです!!」

 ワイワイキャッキャする2人を横目に、メイは静かに食事を摂っていた。
 彼女からすれば、アミナの作る食事は3食全てな為、別段唸りを上げる事は無かった。

「いや実に羨ましい。メイ殿は毎食アミナ殿の食事を食べられるのだろう?」

「ん?まぁな。存分に羨ましがってくれ」

「なんでメイさんが自信満々なんですかね」

 アミナも椅子に座って自身の作った料理を口に運び始める。
 自分で言うのもあれだが、我ながら良い料理を作ってしまった、と噛みしめる度にそう思えた。

「村で食べると少し値が張ってしまってな。こういった自炊のような事をして貰えるととても助かる」

 ナイフとフォークを置き、口をナプキンで拭きながらリューネは言った。
 未だ食事を続けているメイとエルダーとアミナ。
 リューネの言葉を聞いて疑問に思ったアミナが問いかけた。

「村長さんなのでしたらお手伝いの方を雇ってはどうですか?見た所家事は全てリューネさん1人でやっていらっしゃるみたいですし、大変ではありませんか?」

 若く、そして村長になってから日が浅いとは言え、仮にも村長であり、いち村長の家にしてはかなり広いリューネの自宅。
 この村で地主の話は聞かないし、恐らく地主もリューネ自身であろう。
 ならば財産や資金にはさほど困らないハズ。
 
 アミナはそう考えた上で提案した。
 しかしリューネの反応は想像と少し違っていた。

「それも一度は考えたのだがな……如何せん、私はお飾りの村長だ。アルダナ教の老人連中からすれば、敬虔な信徒であった父から突然、村の事を何も知らない小娘が村長となったのだ。それを良く思わない輩ももちろんいてな。表面上はそれを出さないが、村ではいつでも、どこかしらで私の悪口を誰かが呟いている。そんな状況でこの家に村の者を入れては、今度こそ何をされるか分かったものじゃない。だから村の人間を使用人として雇ったりはしないのだ」

 それはなりたくてなった訳では無いのに、その地位のせいで邪険に扱われてしまっている青年の姿だった。
 無理やり押し付けられた役割を重く受け止め、なんとか熟そうとしているにも関わらず酷い扱いを受ければ、このように村の人間を疑っても無理はない。
 そんな所に教祖を疑っているアミナとメイが現れたのだ。彼女にとって、2人は救世主に見えたに違いない。

「村の外から来る人間は大抵が数日でこの村を去る。だから外部の人間を雇うに雇えんのだ」

「そういう事だったんですか……」

 自身の軽率な発言を少し悔やんだアミナ。
 己には無い悩みをもっと考慮すべきだったと、リューネに対して申し訳ないという思いが顔を覗かせる。
 しかしリューネは微笑みながらアミナに言う。

「気を使わせてしまったのなら申し訳ない。だが貴女が負い目を感じる必要はない。私にだって、心の支えはある」

 そう言って椅子から立ち上がり、口の周りに調味料や食べカスをつけているエルダーの元へと歩き、彼女の口を拭いてやる。

「むも」

 丁寧に優しく口の周りの汚れを拭き取り、リューネはナプキンを机の上に置く。
 それを見るエルダーの瞳はとても純粋かつ、嬉しそうだった。
 恐らく、あの祠にいた頃から、口の周りを汚して食べていたのだろう。
 その都度リューネが口を拭き、吹かれているエルダーはそれが嬉しくてたまらなかったに違いない。

「立場に強制され、父の後を継ぐ形で村長になった私が唯一、誰の許可も得ず、自らの意思でやったのが、エルダーへの食事の提供や、遊び相手だ。私にはそれがどれだけ心の救いとなり、支えになっていたか。私自身すら、その全てを知る事は出来ないだろう」

 自身の知らない所でも恐らく、心の支えとなっていたであろうという思いが込められた言葉にアミナは深く頷く。
 フィーやカイドウ、カルムにエルミナに、一応メイも。
 アミナもきっと、自覚のない所で彼等に救われていたに違いなかった。
 
 誰一人、この中で欠けていい者などいなかった。
 アミナの身の回りの全ての出来事に誰かしらが関わり、彼等のお陰で解決に導かれた出来事がほとんどだ。
 人数に差はあれど、リューネの言っている事にアミナは共感を禁じ得なかった。

―――

 全員が食べ終わった頃には、テーブルの上に並んでいた料理の皿は、ほとんど空になっていた。
 口を拭かれたエルダーは再び口を汚していたが、それもまたリューネによって拭き取られた。

「ふぅ……しばらくは動けんな」

 椅子にもたれかかり、リューネが腹をさする。
 その隣でエルダーも「く、くるしいのです……」と呻きながら、椅子に沈み込んでいる。

「これだけ食べればそうもなりますよね」

 アミナは微笑を浮かべながら、テーブルの上を見回した。
 誰もが満ち足りた顔をしているのを確認し、自然と胸の奥にあたたかなものが灯る。
 自分の作った料理が、ほんの少しでも人を幸せにしている、それが何よりの報酬だった。
 
 他者の為の苦労は疲労にはならない。
 メイドだった頃の感覚がまだ完全には抜けきっていなかった。

「ほんじゃ、ぼちぼち片すか」

 楊枝を口に咥えていたメイが椅子から立ち上がり、食器を重ね始めた。
 器用に動く指や手は見てて飽きないだろう……が。 

「え、メイさんが片付けるんですか?家では食器を全て割っていたあのメイさんが?」

 アミナは少し笑みをこぼしながらそう言って自宅での事を思い出す。
 メイが居候を初めてから初めて食器を片付けてやると言った事に感動し、食器を洗うのを任せた事があった。
 だがそれが間違いだった。

 食事で使った5枚の皿と2つのコップ。
 2つはパンを置く為の中くらいの皿、もう2つはスープを注いだ少し窪んだ皿、そして最後の一つは大皿料理をよそった大きめの皿。
 調理器具はアミナが調理を終えた後にパッと片付けてしまった為、コップを含めれば合計7つしか洗う物が無い。

 メイが初めて手伝うと言った事がたまらなく嬉しくてそれ等を洗わせたが、見事7つ中7つ全てが爆散した。
 今になってはいい思い出であるそんな出来事を聞いて、リューネとエルダーはポカンとしていた。

「うるせぇ。加減くらい出来るようになってるっての」

「はいはいそうですね、お手伝いを始めた子供は皆そう言うと母が言ってました。実際私もそうだったみたいですし……」

「チクショウ、ガキ扱いしやがって。言っとくがお前よかずっと歳上なんだからな。家事は今までやる機会が無かっただけだ」

 アミナに小馬鹿にされたのをメイは言及するが、アミナはやはりメイの言葉を子供の言い訳として受け止め、ただ微笑んで頷いていた。

「ったく、過去の話をいつまでも引きずり回しやがって。人ってのは常に成長してんだ。な、エルダー」

 エルダーに助け舟を求めるが如く視線を送るが、当のエルダーは満腹過ぎてそれどころでは無く、お腹を擦って今にも寝そうだった。

「寝ちゃいそうですね、可愛らしい」

「そうだな。私はエルダーを寝室へ連れて行くとしよう」

 ウトウトとし、首を上下に動かし続けているエルダーをリューネは抱き上げ、テーブルから少し離れた所にある階段を上がっていった。

「食器は私がやっとくから、お前は休んでろ。ずっと動きっぱなしだろ」

 メイにそう言われ、アミナは思い返す。
 確かにアミナは、今日一日、教会でもずっと気を張っていたし、帰ってきてからも台所に立ちっぱなしだった。
 だがいきなり自由にしろと言われても困った。
 何か体を動かしていないと、どこか落ち着かなかった。

 そんな時にふと窓から入ってきた優しい風を肌に感じ、開いた窓から外を覗く。
 そこには淡く輝く月やきらめく星々が静かに佇んでいた。

「……それじゃあお言葉に甘えて、少し外を歩いてきますね」

 腹ごなしと夜風に当たる為、アミナは玄関に向かって歩みを進めた。
 そんな彼女をメイは食器を片付けながら「おう」と気の抜けた返事をして反応した。
 それを受けたアミナも、静かに扉を開き、リューネの家を後にした。


―――


 月明かりが地面に、淡く揺れる木々の影を落としていた。
 アミナは静かに夜の小道を歩いていた。薄い羽織を肩にかけ、スカートが風になびく。
 涼やかな風が草の匂いを運び、虫の声がどこか遠くでかすかに響いていた。

 アミナはゆっくりとした足取りで、舗装もされていない砂利道を踏みしめる。
 左右には背の高い草が生い茂り、時折足元の草が風によって鳴き、その音は闇の中へと消えていった。
 
「1人の時間も、なんだか久しぶりな気がしますね……」

 そう呟いてみたはいいが、昼間はメイと別行動をしていた為、そこまで久しぶりな気がしなかった。
 だがその後のエルダーとの出会いから今回の事は大きく動き始めた。

 村の村長であるリューネと知り合う事が出来、村長の客人という調査に便利な立場に立つ事が出来た。
 そして昼間のアルダナ教教祖、グラッツとの接触。
 村に到着してから僅か1日でかなりの収穫を得る事が出来た。

「そういえば、ゾフトさんは大丈夫なんでしょうか。食料は何日分か渡してありますが、ずっと小屋の中にいるのも退屈でしょうし……」

 アミナは一緒に村に来た村の青年であるゾフトを思い出す。
 本来ならば安全確認や情報共有の為に1日の中で一度くらいは顔を出したいのだが、頻繁に行き来している事がアルダナ教にバレてはアミナ達もどうなるか分からない為、小屋には来ないで欲しいとゾフトに言われた。
 アミナもメイもそれには納得しており、立場を悪くしてまで表には出ないゾフトと情報共有をする必要は無いと、最終的にはそうなった。

「まぁあの人もこの村からスターターまでの道を、逃げる為に無我夢中だったとは言え、完走した人です。多少の事では問題ないでしょう」

 馬のペースやアミナをメイが担いでいた事を考えても最低でも3日かかる道のりを、ゾフトは追われながら走ったのだ。
 それを考えたらあまり心配する必要が無いかな、と自身の心配性を少しだけ考え直した。

 夜の道は緩やかに曲がりながら、村の外れに続いている。
 アミナはふと立ち止まり、背後を振り返った。
 村の灯りが小さく瞬いていて、まるで遠く離れた星のようだった。

 木々の葉が風にそよぎ、さらさらと小さな音を立てている。
 耳をすませば遠くからカエルの鳴き声や、小さなフクロウの声も聞こえる。
 夜の村は静かで穏やかで、そして少しだけ、何かが潜んでいるような緊張感があった。

 昼間、グラッツと対面した時の空気が思い返される。
 彼はにこやかで、言葉遣いも丁寧だった。
 だが、その目の奥にあった決して揺らがない狂信的な何か、それがどうしても忘れられない。

「死者の蘇生……何度言っても現実味がありませんね……」

 死んだ人間が蘇る。
 それはこの世の理を破壊し、無法の地へと変わる事。
 死んだ人間は蘇らない。
 そんな事、魔物によって多くの人間が死んでしまっている第二大陸では、誰もが知っている当たり前の事だった。

でも、本当に死んだ人が生き返るのなら、私のおばあちゃんやお母さんだって―――

 そんな事を心の中でつい呟いてしまった。
 ふと自分の心の弱さが露呈し、アミナはハッとする。

「何を考えてるんですか……!死んだ人は蘇りませんし、それは死者への冒涜です……!!」

 分かっていながらも考えずにはいられない事。
 サルバンの元で働いていた頃、特に幼少期の頃は母と祖母だけが心の拠り所だった。
 母は、父と祖父はアミナの為に外に稼ぎに行ってると答えたが、顔も覚えていない父や祖父なんかよりも、近くにいてくれた2人の方がよっぽど心の支えとなった。

 そんな2人が死に、気丈に振る舞ってはいたが、寂しくないと言えば嘘になる。
 だが、そんな寂しさも最近は薄れ始めていた。

「いつまでもクヨクヨはしていられませんよね。最近は騒がしくて、物思いにふける暇もありません」

そうだ。私には新しい友人がいる。くだらない事をして笑い合ったり怒ったり、足りない部分を補い合ったりしている。そして―――家族のように、温かい。

 アミナはこの村にいないフィーやカイドウ達の事を思い出して少し微笑む。
 帰ったら何かカイドウを家に呼んで、新しい料理でも開発して食べてもらおう等と考えていた。

 
―――


 アミナがリューネの自宅へと戻ると、時間帯もあってかとても静かだった。
  もう全員寝静まってしまったのだろうか。
 アミナはそう考えながら家の扉に手をかけた。
 するとその時、何故だか違和感を感じた。

「え……開いてる……?」
 
 鍵を使わずともドアノブが動いた。
 リューネは村長という事もあってか、家が他の村人の住居よりもしっかりしており、玄関も施錠できるようになっていた。
 アミナはこの家に拠点を置くと決まってから、リューネに合鍵を渡されていた。

「私ちゃんと閉めましたよね……」

 記憶を辿って施錠したかの有無を思い出す。
 つい数十分程前の出来事だが少しだけ記憶が曖昧だったが、閉めなかった記憶は無い。
 疑問に思いながらもアミナは扉を開けて家の中に入った。

「ただいま帰りました。皆さん起きてますか?」

 声を掛けるが誰も応えない。
 というよりも1階には誰もおらず、魔鉱石による光源も消されており、1階は真っ暗な状態だった。

「2階にいるんでしょうか。やっぱり寝てしまったんですかね」

 メイは普段夜中まで起きていて昼過ぎまで寝ているような生活をしている人だ。
 早寝をするなんて珍しい。
 そんな事を考えながらアミナは階段を一歩ずつ踏みしめながら2階へと上がっていく。

「確か寝室は……」

 アミナがそう呟いて部屋の扉に手をかけ、開く。
 その部屋はアミナとメイ、そしてエルダーが寝る用の寝室だった。
 個室は与えられていたが、就寝時は同じ部屋なのだろう。この家が元々家族で住んでいて、子供のリューネだけ別部屋なのを考えると納得がいく。

 平和な事を考えながら部屋に入ったアミナだったが、目の前に広がっていた光景に疑問を抱かずにはいられなかった。

「ん……?あの足はメイさん……?もう、寝相が悪いんですから」

 そう呟いてベッドの上に運び直してやろうと考え近づく。
 相変わらずの寝相の悪さに呆れつつも、それがメイらしいとつくづく思う。

 だが―――それが間違いだった。

 アミナが地面に転がっている足へと近づくと、何か変な臭いがアミナの鼻を突き刺した。
 鉄臭い異臭が窓から流れ出ている。

「この臭いって……」

 アミナは袖で鼻を押さえながら近づいていく。
 嗅ぎ慣れてしまったこの臭い。
 転がっている足に近づくにつれてその臭いは強くなっていき、アミナが次の一歩を踏み出した瞬間、ヌトッとした液体の感触が足の裏全体に広がる。

 そして遂に、ベッドの向こう側に転がっている足の前へと立った。
 アミナはその時の光景を生涯忘れる事は無いだろう。

「………!!!」

 目の前に広がった光景に目を見開き驚愕する。
 アミナの目の前に転がっていた足は間違いなくメイのものだった。
 だが、地面に寝転んでいるメイの体には、数十か所の刺し傷があったのだ。

「メイさん!!!」

 反射的にメイの体を抱き起こし、アミナは脈を確認する。
 手首、そして首、心臓に至るまで確認をしたが、彼女の体には微かな熱があるだけで、脈は完全に停止していた。

「嘘………」

 アミナは立ち上がって後退りする。
 あのメイが死んでいる。
 暗闇に目が慣れ、死んでしまっているメイの表情がよく見えてしまった。
 口から血を吐き、腕は何かを抱いていたような跡が見受けられる。

 震える足で数歩引き下がると、今度は踵に何かが当たり、アミナは尻餅をついて転ぶ。
 何がアミナの足を引っ掛けたのか、ゆっくりと顔をそちらに向ける。

「………!!!」

 アミナの足を引っ掛けたもの。
 それは血塗れになったエルダーの惨殺死体だった。

「エ、エル……ダー……?」

 震え声で無惨にも斬り刻まれたエルダーの顔に手を触れる。
 頬には涙の流れた跡が残り、顔と体が完全に分離しており、浅い傷が体中に数十か所あり、腸を露出させていた。

「な、なんで……どうして………」

 恐怖と疑問、そしてその場にいなかった自身への罪悪感からその言葉は発せられた。
 また守る事が出来なかったのか。
 また友人を助ける事が出来なかったのか。
 そう考えている時だった。

 
 突如、アミナの背中を何かの衝撃が襲った。

「ゔっ……」

 ズドンと重たい感触に何が起こったのか分からない。
 軽く後ろを振り返ると、そこには昼間寄った加工品を売っていた雑貨屋の店員の女性がアミナと体をピッタリとくっつけていた。

「店員……さん……?」

 そう呟いた瞬間、店員はアミナから体を離した。
 だがそれだけでは無かった。
 
 店員がアミナの体を離れた時、アミナは背中に信じられない程の熱を感じて地面に倒れ込んだ。
 倒れた地面の先では、何やらヌトっとした生暖かい液体が地面を覆っていた。
 それが何なのか、アミナは倒れてからようやく理解した。



血だ。



 それを自覚すると、灼熱の炎に晒されているかのような熱が急激に痛みへと変わってアミナの体を蝕んだ。

「あっ、が……」

 背中から絶えず流れ続ける血液。
 どうやら刃が引き抜かれ、突き刺された心臓から絶えず血が流れ続けているようだった。
 激しい痛みは全身へと広がり、吹き出す血のせいで背中の皮膚が閉じる予感は全く無かった。

「ぐぶっ」

 心臓を突き刺した刃が気管も傷つけたのか、口や鼻から血が流れ出す。
 逆流した血の鉄の味が嫌悪感を増し、全身を巡る熱のせいで体中をかきむしりたくなる。

 叫び声を上げようにも何かを発そうとした瞬間に咳き込む。
 血が肺へと入ったらしい。
 先程とは打って変わって吐き気と寒気が襲ってくる。

 そんな中アミナは顔を上げて雑貨屋の店員の顔を見る。

 「……どぅ……じで……」

 口や鼻から溢れ始める血液のせいで言葉に濁点がつく。
 心の底からの疑問の言葉。
 昼間はあれだけ親切だった村人が、今自身の背中を殺意で突き刺した。

「教団ヲ探ル者ニハ……天誅……」

 アミナの問いかけに機械的にそう呟いた。
 まるで何かに取り憑かれているかのような虚ろな目と、昼間とはかけ離れた全身から出ている雰囲気に恐怖を覚える。


 アミナの意識は次第に遠のいていき、重い瞼が視界を塞いでくる。
 その瞬間にアミナはエルダーの眠たそうな様子が思い出され、痛みと熱、そして寒気に襲われながら、アミナの意識は深い闇の中へと消えていった。




 まるで、永遠の眠りにつくかのように―――









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