ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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雷鳴は思わぬ方角へ

第三章 15話『『元』究極メイド、適応する』

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 目が覚めると、そこは静かで暗い場所だった。
 床は冷たい石で覆われており、湿気の多さが肌で良く感じられる。
 そして、目の前には鉄で作られた格子があり、ひと目でここが牢屋なのだと理解出来る。

「……確かリューネさんの攻撃で気絶したんでしたっけ……。今まで攻撃は避けてばかりだったから、耐久面も考えなきゃですね……」

 恐らく今考えるべき事ではない事を呟く。
 だがアミナはその身のこなしや素の戦闘センスの高さから、あまり攻撃を受けたり防御したりする場面が無かった。
 その為攻撃や回避は強くても、メイのような耐久力は持ち合わせていないのだ。
 背中を軽々と刺されてしまったのも、きっとそのせいもあるだろう。

「ここは牢屋……。リューネさんの口振りからして、リューネさんの家の地下とかでしょうか……?」

 薄暗い中周囲を見回して呟く。
 リューネはエルダーに自身の家に住む事を提案した。
 という事は、アミナを担いだリューネが、エルダーを連れて自宅へ向かった場合、そのままリューネの自宅に監禁されている可能性が高い。
 村長が人を担いで村の中をウロウロしたらそれこそ目立ってしまう。

「リューネさんの自宅にこんな場所があるのは知りませんでしたね」

 アミナはメイとエルダーと共に、リューネの家に拠点を移した。
 その為寝室やら手洗い場やら風呂場やらを案内されたが、この牢屋の存在は知らなかった。
 もっとも、この牢屋がリューネの自宅の地下であるならばの話だが。

「それよりも今は……」

 アミナは小さく呟いて先程頭の中に浮かび上がってきた可能性について考えた。

 時間が巻き戻っている。

 それは死者の蘇生と同様、いくら口に出しても現実味の無い事。
 だが実際にメイやゾフト等の知り合っていた人々の記憶が少し前に戻っている。
 しかも記憶だけではない。村の状況や直したハズの木の床板まで、全てのものがアミナがゼゴット村に到着した時の状態となっていた。

「誰が何をしたくてこんな事を……」

 やはり最初に思いついたのはアルダナ教の教祖、グラッツの仕業だという事だ。
 アミナとメイはアルダナ教の死者の蘇生について知る為に来た。
 だが教団の人間は聖魔法という精神や思考に関与する魔法を使えるとメイが言っていた。
 それを利用すればアミナとメイが純粋な信仰心では無いもので教団に接触したというのが簡単にバレてしまうだろう。
 それを防ぐ為にグラッツと接触した時は頭の中を関係の無い言葉で埋めつくしたのだが、きっとそれが上手くいかなかったのだ。
 だからなんらかの方法で、この時間を巻き戻すというアルダナ教の罠にハマってしまったのだろう。

 アミナはそう考えていたが、実はもう1つの可能性も浮かび上がっていた。
 それは信じたくない反面、アルダナ教の仕業というのと同じ程の信憑性がアミナの中にはあった。

 これからどうすべきか。
 そう考えていると、何かが開く音と共に、薄暗い牢屋の中に淡い光が入ってきた。
 コツコツと足裏を鳴らしながら階段を下り、アミナのいる牢屋の前に、リューネは立った。

「起きたか、賊め」

 開口一番罵倒され、流石に精神的に参る。
 時間が戻る前はあれ程優しく、自身の料理を食べてはしゃいでいて可愛らしかったのに、今は軽蔑の目を向けてくる。

出会い方が違うとこれ程までに対応が違うとは、夕食を食べていた時の私に言っても信じないでしょうね。

「私は人攫いでも盗賊でもありません。私はこの村の噂を聞いて友人とやって来ただけです」

 噂とは死者の蘇生。友人とはメイの事。
 今の関係値ならば詳しく言っても信じてもらえる可能性は低い。
 ならば詳しく言うだけ無駄な為、アミナは簡潔に言う。

「フン、賊の言う事を信用すると思うか?友人というのは賊の仲間か?という事はまだ村に人攫いがいる可能性があるという事か」

「……はぁ」

初めて会った時から思ってたけど、喋り方のまんま頑固な人だ……。人の話を聞き入れなかったり、エルミナさんとは違った頑固さがありますね……。まぁ私も人の事言えませんけど。

 ため息を吐いてから心の中で呟く。
 リューネが頑固そうなのは初めて見た時から思っていたが、喋り方通りの頑固さだとは思わなかった。
 だがそれも、いきなり与えられた村長という肩書きのせいでそうなってしまっているのだと考えると、彼女もやはり苦労が絶えないのだと思い知らされる。

「まぁいい。貴様にはこれからしばらくここにいてもらう。今日は客人が来ている為拷問は明日にしよう。せいぜい死なない内に目的を吐くんだな」

 リューネは冷淡にもそう呟く。
 それを聞いたアミナは頭をフル回転させる。

拷問だなんて冗談じゃない……!何もしていないのに小言言われたり説教されたりするのが1番嫌なんですよ私は……!でもリューネさんのさっきの手加減のなさから考えて、本当に死ぬまで拷問をされる事になる。……この際は、仕方ない……!!

 アミナは意を決して2本の鉄の格子に触れる。

「『破壊創造テラーメイド』!」

 すると鉄格子は突然崩れ始め、粉塵のように粉々になった。
 それを見ていたリューネは「何……!」とアミナのスキルについて驚いていた。

こんなの、いつでも破れるんですよ……!

 驚くリューネの顔を横目にアミナは駆け抜ける。
 ここで死ぬまで拷問を受ければ、今度は本当に死んでしまうかもしれない。
 その前にメイと合流し、早急に教団を叩く必要がある。

 それにはまずメイを探す必要がある。
 彼女は今どこにいるだろうか。
 アミナが村へと走っていった後どうしたのだろうか。
 同じ宿屋に泊まってアミナの帰りを待っているだろうか。
 そもそも今はどれくらいの時間帯なのか。
 それによってはメイのいる場所が変わる可能性がある。その事も念頭に入れながら彼女を探さなければならない。

待ってて下さいメイさん。早くグラッツさんを止めて、この村を―――

 出口を目指して走っていたアミナの顔面に何やら柔らかいものが当たる。
 それに弾き返されて数歩下がると、アミナはリューネの仲間を警戒した。
 村ではいつもどこかでリューネの悪口が呟かれているとは言っていたが、それでも表面上は村長に従う村人がいたのかもしれない。
 暗くて顔はあまり見えないが、かなりの長身で、細身ながらも鍛え抜かれた肉体がよく分かる。

「んだよ……。賊がいるって話聞いたから来たってのに」

 アミナはその声に固まる。
 聞いた覚えしかない声に構えを解いて立ち尽くす。

「今度は何やらかしたんだよ、アミナ」


―――


「……では、この賊……アミナ殿の言っていた友人というのはメイ殿の事だったのか?」

 リューネはリビングのテーブルでアミナとメイに向かって座りながらそう呟いた。
 リビングの窓から見える空は暗く、リューネに気絶させられてからかなりの時間が経過している事が分かった。

「まぁそういう事だ。……っと、紹介しとくぜアミナ。こいつはリューネ・レミネム。この村の村長だ。こいつまだ若いのにいい話し合いが出来てな。私達の村での扱いを確立する為に宿屋から拠点をここに移したんだ」

 なんだか聞いたような説明をもう一度受ける。
 時間が戻っている分、起こる事も大して変わらないのか、と思考する。

「その……すまない、アミナ殿。いきなり賊扱いし、牢屋にまで閉じ込めてしまった事、どうか許して欲しい」

 リューネはそう言って頭を下げた。
 彼女の元の性格を知っていた為、アミナは特に咎めたりせず、「いいえ、私も勘違いされるような事をしてしまった訳ですし」と返した。

「それにしてもあの鉄格子はどうやって破壊したんだ?まるで粉塵になるような破壊の仕方だったが」

 アミナはリューネの言葉を受けて思い返してみた。
 そういえば彼女には、時間が戻る前も後も、まだ一度もスキルを見せた事が無かったな、と。

「あれは私のスキルです。例えば、そうですね……食器か何か1つ貸していただけますか?出来れば同じ物が複数ある物の方が安心です」

 アミナが何を言っているのか分からなかったリューネは、とりあえずキッチンへと向い、同じ見た目の皿を2つ持ってきた。

「ありがとうございます。……それでは、失礼しますね」

 アミナは受け取った皿の1枚に手を伸ばし、掌を触れさせる。
 すると次の瞬間、皿は粉々に砕け、皿の素材であろう木の粉が机の上に並ぶ。

「なんと……!さっきの鉄格子と同じだ……!」

「これが『破壊創造テラーメイド』。触れた物質の素材を理解し、破壊するものです。そして次に」

 アミナはリューネが持ってきたもう1つの皿に右手で触れ、もう片方の手は粉々になった木へと触れた。
 アミナがそうすると、木の粉はアミナの掌の下で動き回り結合し、右手で触れていた皿と全く同じ形状の物が出来上がっていた。

「これが『複製創造レディメイド』。片手で触れた物を素材さえあれば複製できる技です」

「これは驚いた……。壊しても作り直せるというのか……」

「はい、これが総じて私のスキル『究極創造ウルティメイド』です。物質を理解し、再構築するものです」

 一通りの説明が終わり、アミナは思った。
 恐らく自身が体験した時間の巻き戻りは言っても信じて貰えないだろう。
 それにいつまでもあの事を引きずっているよりも、あの虐殺を引き起こさない為にこれから動いていく方がよっぽどマシだ。
 その為時間が戻ったという事は心の中に仕舞い込み、その場の状況に適応する事に決めた。

 すると、それを影から見ていたエルダーが目を輝かせているのに気がついた。
 そういえば彼女はアミナが最初に床板を直した事で女神様と呼ぶようになった。
 どうやらこのスキルの事がよっぽど気になったらしい。

「凄いのです……!まるで女神様と同じなのです!」

 小さな足で走り、アミナの前に立ってぴょんぴょん飛び跳ねて興奮する。
 その様子はとても可愛らしく、思わず左手で頭を撫でてしまった。

 その様子を見ていたメイがアミナの左手について言及した。

「そういやお前、左手の傷治さなかったのか?」

 アミナはエルダーの頭に置いていた左手を見る。
 そこには中指と薬指の間から手首まで切り裂かれた痕が残っていた。
 それはエルミナの最大の技である、七大合成魔剣『虹呪・禍津葬送』を受けた時の傷跡だった。
 エルミナとの戦闘で、破壊創造で魔力を分解し、致命傷を避ける為に使用した無茶にも等しい戦法。
 その名残りだった。

「はい。これは……私の戒めなので」

「……そうかよ。……で、それよりもだ」

 メイはそう言って椅子から立ち上がってアミナの顔を見る。
 隣に座っているのにわざわざ立ち上がった理由が分からず、アミナは困惑していた。

「リューネには教団の話はしておいた。本当は今日から調査始めようかと思ってたんだが、明日から本格的に始める事にした。どっかの誰かさんが狂乱して走っていっちまったからよ」

「うっ……その件はすみませんでした……」

「本当だぜ。私の言葉を冗談って言った時ゃ、流石に傷ついたぜ」

 その件を言及されると、アミナは何も言えない。
 実際メイ達の時間も戻っており、彼女から見ればおかしかったのはアミナなのだ。
 それを知らなかったとは言え、考えずに発言してしまった。
 わざわざメイがそう言うという事は、本当に傷ついてしまったのかもしれない。

「……なんてまぁ言ってみたが、別に気にしちゃいねぇよ。さっさと事実確かめて、さっさと帰ろうぜ」

 メイは階段の方へと向かいながら言った。
 どうやら既に食事は済ませていたようで、メイはもう寝る気だった。

「ほんじゃ、明日からだ。寝室は私が寝てっからすぐ分かると思うぜ」

 そう言い残してメイは2階に消えていった。
 彼女の言葉を噛み締め、アミナは心の中で決意する。

もう絶対にあんな事は起こさせない。襲撃は今日の夜。必ず防いでみせる……!!

 心の中で固くそう誓い、アミナはこれから訪れる長い夜を目の前に、深い深呼吸をした。



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