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雷鳴は思わぬ方角へ
第三章 44話『『元』究極メイド、待機中の馬車にて』
しおりを挟む王都直通の停留所。アミナ達はそれぞれ荷物を別の馬車に預け、自身が乗る馬車のチケットを手にしていた。
「私達が乗んのはどれだ?」
「えっと、3番って書いてありますから………あっ、あれじゃないですかね」
アミナはそう言って横一列に並んでいる馬車の、右から3番目を指差した。
「こういった馬車で大勢移動する時は、馬車は縦に並んで一定の距離を保ちながら進むと聞きました。そして街の城門は右側の方が近いので、あちらから出ると思います。だから右から3番目のあの馬車だと思われます」
アミナの洞察力に、「へぇ、流石」とメイは言い、カルムとカイドウとフィーは、右から3番目の馬車に向かうアミナとメイに続いて歩いた。
「よくよく考えれば、大勢で馬車で移動なんて僕初めてだよ。ちょっとワクワクするね」
横に並んだ大量の馬を見て、カイドウが少し子供染みた笑顔を浮かべた。その言葉に嘘や誇張は無く、本当に子供のようだった。
すると、そんなカイドウを見ていたカルムが呟く。
「カイドウ様も、貶される以外で気分が高揚する場合があるんですね」
「ちょっ……!心外だよカルムちゃん~……」
カルムにそう言われ、カイドウは肩を落とした。
こう見るとこの2人もだいぶ打ち解けているように思えた。その理由は明々白々。アミナとメイがゼゴット村に行っていた間、カイドウが作るべき物のレシピを伝え、それを手先が器用なカルムが作って店を回してくれていた。
その中でそれなりに仲良くなったのだろう。アミナのようにいちいちカイドウの言動にツッコまない分、カルムの方が相性がいいのかもしれない。
「馬車ん中は……まぁ見た目通りそれなりだな」
カイドウとカルムのやり取りを横目に見ながら、メイは馬車の中に入ってそう言った。御者のおじさんもいるのに失礼なものだ。
「席は……おっ、ベンチタイプだから詰めりゃ何人でも座れんぞ」
「いや、流石に何人もって事は無いでしょうけど……メイさんが言うより全然マシじゃないですか。御者の方に失礼なのでそれなりとか言うのやめてください」
アミナも続いて入っていく。彼女の後にカイドウ、ガルム、フィーと続いた。
すると、フィーの後に、コツッというブーツの音が鳴って1人の女性が乗ってきた。
そしてアミナの隣へとやってきて声をかけた。
「すみません。ここ座っちゃっても大丈夫かな?」
声が聞こえた方に顔を上げてアミナは言葉を返そうとする。可愛らしい声だった為、きっと本人も可愛らしい見た目なのだろう。
「はい。大丈夫で――― い゙っ!?」
アミナは顔を上げて答えようとした。しかし、その女性の姿に思わず驚きの声を上げてしまった。
顔は確かに可愛らしい。目が大きくまつ毛も長い。パッツンの前髪に黒いロングヘアが良く似合う女性だった。
しかし、驚くべきはその肉体。メイを遥かに超える筋肉量。アミナの足程あるのではと錯覚するレベルに発達した腕の筋肉。大きく発達した胸は、筋肉なのか脂肪なのか分からないが、鍛え抜かれており大きい。引き締まった腰は露出しており、腹筋がバキバキに割れている。
パツパツのタンクトップにダボッとしたズボンは、メイと似た何かを感じざるを得なかった。
「ん?どうかした?」
「あっ、いえいえ!失礼しました、どうぞ大丈夫です」
「そう、ありがとう」
アミナは筋肉からなんとか目を逸らし、危ない危ない、と正気に戻った。
そしてアミナは、バレないように目だけでその女性を見ながら、思考を巡らせた。
こんな人、スターターにいましたっけ?いたらすぐ気づくような気がするんですけど……。旅行か何かでスターターに?でもそんな名物無いですし……。うーむ………
そうこう考えていると、女性がアミナの方を見てきた為、目が合ってしまった。
すると優しい笑顔を浮かべて声をかけてきた。
「貴女達は王都に旅行?」
「あっ、えっと……一応そんな感じですかね」
何と濁せばいいものか、そもそも濁す必要があるのかすらよく分からなかったアミナは曖昧に答えた。
「ふぅ~ん。……あっ、自己紹介してなかったね。私は『ルナ・スルーズ』。各地を回ってる冒険者だよ。よろしくね!」
ルナが先に名乗った為、アミナも名乗る事にした。そしてついでに、他の面々の紹介も済ませてしまおうと考えた。
「ご丁寧にどうも。私はアミナと申します。こちらの粗暴な美人はメイさん」
「一言余計だ」
「あちらに座っている男性がカイドウさん」
「よろしくね」
「その隣で寝ているのが私の家族のフィーちゃんで、更にその隣に座っているのがメイさんの付き人のカルムさんです」
「にゃう」
「よろしくお願い致します」
一応それぞれが挨拶をし、ルナもそれに「よろしくね~」と柔らかく言った。
彼女の言葉は気にならない程度におっとりしており、何やらメイとは違う大人の余裕的なものを感じる。それは果たして余裕なのか、それともマイペースなだけなのか。アミナに判断は出来なかった。
「ルナさんは王都へ何をしに?」
「私?うーんと、さっき各地を回ってるって言ったよね。つい3日前くらいにスターターに来て依頼を何個かこなしたから、次の場所に向かおうかと思ってたの。で、丁度王都行きの馬車が出るって聞いたし、王都にはまだ行った事無かったから、これを機に行こうって思ったの。だから私はお仕事の方が近いかなぁ」
「そうだったんですか。じゃあ王都にいる間会うかもしれないんですね」
「そうだね。あっ……そうだ!向こうに着いたら一緒にご飯行こうよ。お姉さんが奢っちゃるぞぉ~」
急にニンマリとした笑顔になり、ルナは言った。アミナはその言葉に裏は無いと思いつつ、何かを察した。
彼女の喋り方や今の言動。恐らく彼女は、姉気質があるのだろう。いや、どちらかと言えばお姉さんっぽい事がしたいタイプの人だ。
そういう人が空回りしてちょっと恥ずかしい、みたいなシチュエーションを見てみたいアミナは「それでは……お言葉に甘えて!」と答えた。
「王都行きの馬車、そろそろ出発します。まだお席に着いていない方はお早めにー」
ルナと会話しているともう出発の時間が来たようだ。
そもそも余裕を持って移動した訳では無い為、そう感じるのも不思議では無いだろう。
そして、御者が乗り遅れた人がいないのを確認すると、大きく声が上げられた。
「それでは王都行きの馬車、発車致します。王都までの旅路を、しばらくお楽しみ下さい」
その言葉を受けて、アミナ達の乗っている馬車の御者も馬を動かした。
これから王都へと向かうという初めての経験に、アミナもカイドウも、胸を躍らせていた。
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