ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜

西館亮太

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雷鳴は思わぬ方角へ

第三章 57話『『現』魔道具マニア、調べもの2日目』

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 2度目の道。つい先日も見た景色にも関わらず、歩んでいる人の数や時間帯が違うだけで、また違った街にいるような気分になる。
 王立図書館への道のりは、馬車の停留所よりも宿屋からの方が近かった。
 どうやら王都の造りとして、王城に近づく程に建造物の格式や重要度が高くなるらしく、国の機密事項がある図書館はその中でも王城のすぐ隣。そしてカイドウ達が今宿泊している『友待ちの宿』、これも王都一という名は伊達でなく、停留所よりもずっと図書館に近い。

 だがそれとは裏腹に、冒険者ギルドと魔導騎士団の詰め所等は、王城から少し離れた場所にあるようだ。
 万が一に備えて近くに置いておくのが普通だとカイドウは考えていたが、周囲を見回してあるのは商売をしている店ばかり。
 こんな商店街のような場所であり、観光もできるような場所に、冒険者ギルドや騎士団の詰め所等の、物騒な施設を配置する訳にはいかないのかもしれない。観光客が怖がって二度と来ないとなってしまってはもってのほかだ。
 とは言え、王都に二度と来ないという判断をするには、冒険者ギルドや騎士団詰め所を見るだけでは釣り合わないようにも思えた。

 売っている商品の数の多さ、待ちゆく人々の多種多様な見目形。ただの人間ではなく、エルフにドワーフに獣人。スターターでは見かけない珍しい種族で言えば、リザードマンや基本的に水中で暮らしているマーマン等、様々だ。
 他の街には無い施設も山のようにあり、王都を堪能するならば、数年は滞在する必要がありそうだ。

「……ふぅ。今日は何もなく着いて良かった……」

 王都の観察をしながら歩いていると、思っていたよりも早く到着した。
 王立図書館が開くのは朝の7時頃。管理自体は年中無休で、一時間も一分も人がいない時間は無いそうだ。それだけ聞くと再び身の毛がよだち、興奮と緊張が走る。

「大丈夫……僕は何もしてない。……でもっ!何かの間違いで疑われて、厳戒態勢の中鎧を身に纏い、剣を握った騎士に囲まれる。……んぁ、実になんとも言えないシチュエーションだっ」

 自らの体を抱きしめ、くねくねと揺れる。
 まだ朝方で人の数も先日より少ないから助かったが、それでも待ちゆく人々は0ではない。そんな中でも自らの世界に入り込んでしまうカイドウへ、急に声がかけられた。

「独り言喋ってどうしたよ」

 カイドウは動作をやめて振り返ると、そこには片手をズボンのポケットにしまい込んだ白髪の男が立っていた。
 その姿には見覚えがあり、カイドウは「ガヴェルド!」と思わず大きな声を出してしまった。

「どうしたのこんな所で。もしかして遠征終わりだから非番だったり?」

「まぁその通りだ。ついでにお前の顔を見ようと思ってよ。……どうだ?調べもんは上手くいってるか?」

「うーん……。それがあんまりかな……。本棚の場所は教えて貰ったから分かったんだけど、1つの魔道具を見つけるっていうのが大変でね。運が良ければ良いんだけど、僕運はあんまり無い方なんだ……」

 カイドウは少し肩を落として言った。
 というのも、彼は何かあると毎回巻き込まれている。アミナに魔道具を調べて欲しいと言われたその日にスターターの街へとフィーと共に赴いてガーベラという犯罪者とその仲間を打ち倒し、コルネロ帝国に行った時も頭を撃ち抜かれて生死の境を彷徨った。
 これだけ聞くとアミナと関わったせいでひどい目に合っているような気もするが、カイドウの中ではそれよりも前から、不運と言わざるを得ないような出来事が多くあったのを覚えている。

「そうか。でもきっとよ、めげずにやるんだろお前は。頑張れよ、カイドウ」

「うん。ありがとう。あと2日、頑張ってみる」

 カイドウがそう言って王立図書館の階段を上がった後、ガヴェルドはしゃがんでカイドウの後ろをついて行こうとする毛玉を抱き上げた。

「悪ぃな猫よ。ここはあいつしか入れねぇんだわ」

「にゃ~ぁう」

 不満そうにフィーが鳴くと、ガヴェルドは鼻を鳴らして笑い、フィーと改めて目を合わせた。
 
「……よし。お前あれだろ。カイドウのダチなんだろ?カイドウのダチ同士、仲良く茶でもしばこうぜ」

 不満そうな顔をしたままのフィーを地面に置くと、ガヴェルドは両の手をポケットに突っ込み、フィーの前を歩き始めた。
 フィーは変わらずカイドウの後ろをつけようと、持ち前の静けさでガヴェルドから離れようとした。

 すると次の瞬間、何故かフィーの足が動かずに止まってしまった。まるでガヴェルドから離れてしまう事が大罪かのように。離れた瞬間、どこかフィーの中に小さいながらも恐怖が芽生えた。
 こんな感覚、アミナと初めて出会った時以来だった。
 
「ん?どうした?」

 ガヴェルドは平然とした顔で振り返ってきた。
 何を考えているか分からない。だが敵意を剥き出しにしている訳でもない。にも関わらず、何故か離れる事が憚られる感覚。
 フィーはガヴェルドの謎のプレッシャーの正体を探る為、渋々彼の後ろを歩いた。
 それでもガヴェルドの態度は変わらず、「美味いサンドウィッチを出す店があんだぜ」と好調気味に言っている。
 人間ごときが、そこまでの底の知れなさどこにを秘めているのか。フィーはそんな疑問を抱きながら、ガヴェルドと共に王立図書館を離れた。


―――


 入館2日目。
 カイドウは改めて魔道具に関する本棚の前に立った。その背丈は相変わらず大きく、カイドウが縦に十人近く並んでようやく同じ程度の大きさだ。
 それ程までに巨大な本棚の、およそ5000冊を1日目で読み終わったカイドウ。だが足りない。目的が達成できていないのならば、読んだ資料の数など何の意味もなさない。
 魔道具に目がない彼が、他の魔道具に目を奪われないよう必死に堪えながら資料のページをめくっている。これがどれほど大変な事なのか、理解出来る者はそうそういないだろう。

「……さて、やりますか」

 カイドウは小さく呟いてから、先日中に読み切れなかった本を手に取った。
 そしてページをめくりながらアミナがくれた紙にメモを取る。
 あのカチューシャ以外の魔道具は手元にない為深く読む必要は無いが、目に映った文字を意味も理解せずにただただ書き写していく。
 彼の意識は常に古代魔道具と思しきあのカチューシャへと向いている。

「……古代魔道具。本当にそうなのかな……」

 カイドウは小さく呟いた。
 というのも、彼はアミナがカチューシャを持ってきた時、その異質さから古代魔道具だと断定した。
 しかし古代魔道具自体その実体がまだ明らかになっていない部分が多い。その為今は普通の魔道具の本から読んでいっている。
 もしかしたらその本の中に同じ物があるかもしれない。
 逆に古代魔道具の本にはカチューシャの事は載っていないかもしれない。

 考えるよりも手と目を動かさなければ。
 カイドウは魔道具の名称とその説明、製造元や製造方法など、様々な情報を得ていく。

星辰灯せいしんとう』手のひらサイズのガラス球に封じられた微小な星光の魔力。暗闇でも光を放ち、持ち主の精神状態によって明るさや色が変化する。

穿風の靴せんぷうのくつ』特製の革で編まれた軽量の靴。履くと足元に微弱な浮遊魔法が働き、地面との摩擦が軽減されて移動速度が上昇する。

炎封輪えんふうりん』火属性の攻撃魔法を一度だけ封じ込められる指輪。発動の瞬間に魔力を消費して即座に火球や火柱を放つ事ができる。

夢刻の砂時計むこくのすなどけい』一度だけ直前の数秒間を夢のように再体験できる魔道具。戦闘中に使えば敵の行動を見る為の再生ができるが、肉体は止まらない為使い所が難しい。

 数十行にも及ぶ長い文章を要約しながら書き出していく。
 だがその中に未だに探しているカチューシャの情報は無い。

 数千冊を読んでもなお見つからないの考えると、自身の考えが急に馬鹿らしく思えて来た。
 「まだまだ、魔道具への造詣が浅いな……」とボヤくと、カイドウは引き続き資料のページをめくりながら、目に入った情報をただ機械的に紙へと書き写していった。

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