彼女と彼女の想いとぶれない僕の想い

金子真子

文字の大きさ
27 / 29

流星

しおりを挟む
 夜の街並みはいつもと変わらない。会社帰りのサラリーマンもひっそりと光る街灯も彼女が死んだというのに変わらない。それは当たり前のことなのだがとても悲しく、憎い。だがいつまでも悲壮感に浸っているわけにはいかない。そんなのは彼女が最後まで好きでいてくれた先輩らしくないから。涙は後でいくらでも流せる。今はそれよりもやらなくてはならないことがある。

「悪いな。佳華」

 何があっても彼女を助けるのだ。

 佳華と神ノ原の所に戻ると当然質問攻めにあった。それには得意の噓八百で対抗した、が神ノ原もう全部知っている様子だったし佳華も何かを察した様子だったので無意味だった。だがそれ以上追求されることはなく僕らは予定通り隣町に向かった。

「悠斗君。目をつぶりなさい」

 隣町に着くといきなりそう言われた。

「殺す気か?」

「それもいいわね。あなたの断末魔聞いてみたい」

「怖いこと言うな」

「だったらくだらない冗談はやめて」

 これは僕が悪いのかもしれない。あきらめて目を閉じよう。

「大丈夫。怖くないわ。私がいるわよ」

 そう言って僕の手を握り彼女は歩みだした。どうやら僕を先導してくれるらしい。一番怖いのはお前だ、と言おうとしたがやめておいた。本当に殺されてしまうからな。

「悠斗君。ちゃんと目をつぶっているわよね?」

「残念だったな。開いているぞ」

 噓だ。つまらない冗談だ。

「はー。あなたって本当に噓が好きよね。何でなの?」

 佳華はあっさりと噓を見抜いた。まあ当然か彼女の方は目が開いているのだし後ろを向いたらそれぐらい分かるな。

「僕が噓を好きなんじゃない噓が僕を愛しているのさ」

「何それ?」

 自分でもよく分からないことを言ってしまった。いや分からなくもないか。要するに自分で噓をつこうとしなくても勝手にこの口が噓を吐いてしまっている、ということを言いたかったんだ。多分。

 そんなくだない話をペラペラ続けていると佳華の足がピタリと止まる。それに合わせて僕も止まった。

「ついたわよ。悠斗君。もう目を開けていいわ」

 ようやくか。結構歩かされたな。さて目を開けるとそこは地獄だったとかそういう落ちだけは勘弁だ。

 ゆっくりと目を開けた。そして感動した。素直に。なぜなら広がっていたのだ。満天の星空が。

「ここにどうしても連れてきたかったの」

 成程。そういうことか。確かにあの時はちゃんと言えなかったな。

「佳華。お前が好きだ。僕と付き合ってくれ」

「いきなり?」

「こういう苦手なんだよ。で、返事は?イエス?ノー?それとも半分か?」

「半分ってどういう意味よ。……まあいいわ。特別に付き合ってあげる」

「そいつは随分と幸せな話だ」

 満天の夜空をバックにしつつ僕と彼女はたわいもない会話をした。そう。とてもくだらなく、他人に聞かれると少し恥ずかしいような会話だ。

「見て。あれ」

 佳華が急に夜空の方を指さす。その方向には僕が嫌いなものがあった。それが落ちる前に願い事をするとそれが叶うと言われているあれだ。

「ああ。流れ星か。あれよりドラゴンボールに願う方が確実だ」

「夢も希望もないあなたらしい回答ね」

 彼女はこめかみを押さえ呆れた口調でそう言った。

「じゃああれを流星ってことにしない?」

「流星ってことにできるのか?」

「流星も流れ星も言い方が違うだけでどちらも同じなのよ」

「へー」

「そう。あれは流星。メテオ」

 と特に何を願うわけでもなく。流れ星、ではなく流星は落ちていった。

 そしてどうやらこのくだらなくも幸せな時間はもう終わりのようだ。なぜかって?それは――。

「そろそろ時間だ。佳華真音」

 こいつが現れたからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...