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六夜(薫side)
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恐らくこの職場の中で、俺は1番浮かれていると思う。
「このクソ忙しい時期によくそんなだらしない顔出来ますなあ。」
「うっさい坂本。」
そのせいか大学の頃からずっと一緒の坂本にそのだらしのない顔を突っ込まれてしまう。あの時の告白は賭けだった。実際梓が好きな人が出来るまでの残酷な期限付きなのだが、それでも一瞬でも夢が叶ったのだ。
でも、出会って20年目にしてようやく形だけだが、俺の彼女になってくれた。高一の頃、1度夢見たが絶望に落とされたことを思い出し、凹むが、今回はちゃんと形として残すことが出来たのだ。
少しかっこ悪いところを見せすぎたと思うが、そんな所を今の彼女は受け入れてくれた。そのため、少しずつ梓に自分をさらけだして、甘えてみてもいいのかなとも思い始めている。
……どうせ別れても、この一瞬のお付き合いを胸に刻み、俺は前に進んでいける……筈だ。
「おーい、予算会議始まってるぞー。」
「はっ…、ヤバい。」
あの日からずっと、地に足が着いていない状況なのだ。毎日ずっと夢見心地である。それでも、この世界は厳しい。少しでも気を抜くとすぐ蹴落とされる。
俺は、すぐさま弛んだ気を引き締め、会議に取り組んだ。
「結局今日もこの時間か。」
時間を見ると、もうすぐ終電。スマホを見ると、梓から『この部屋とか今度見に行かない?』とLINE。一緒に住もうと言ったのはこっちだが、あまりの忙しさからか、結局梓に任せっぱなしだ。
引越しの予定は一応4月にしてある。27だし、俺は特に何も伝えていないが、梓は何故か勝手にお互いの両親に俺と住むということを伝えてしまった。梓には申し訳ないが、それは自ら俺とのことを外堀から埋めてるから、梓的には別れづらくなるんじゃないかとも心配になる。……まぁ、俺的にはすごくありがたいのだが。
くぅと鳴ったお腹を抑え、そのまま終電に駆け込む。タクシーで帰ることがないだけまだマシだ。
「ただいま。」
真っ暗になった部屋に帰る。今日は梓はこっちの家にはいないのか、少し寂しい気もする。
でも、来月からは、梓が一緒に住んでくれるんだし、この寂しさも懐かしく感じる日が来るのかもしれない。梓に好きな人が出来て、別れてしまったら元も子もないのだが。
それから、具沢山の味噌汁を作り、胃にかきこみ、眠りに落ちた。
今週末は、やっと楽しみにしていた京都旅行だ。忙しいとはわかっているが、休日は自由にさせて欲しい。そのためにこんな遅くまで仕事をしているのだから。
「薫、薫~。そろそろ着くよ?」
「ん、あぁ了解。」
梓がゆらゆらと俺の肩を揺らす。ぱちくりと目を開くと、新幹線がもうすぐ京都に着くと電光掲示板が流れてるのが見えた。
「それにしてもおつかれだねえ。ちなみに昨日は何時に帰ってきたの?」
「んー、昨日は早めに終わらせようと思ったんだけど結局1時かなぁ。」
目を擦りながら開くと、普段よりカジュアルめの格好をした梓。俺の普段着に合わせたとのこと。それから、初めに荷物を置くために三条にある旅館に向かった。
「綺麗なところだねえ。ここやっぱり高いでしょ。私も負担するよ。」
「いや、大丈夫。普段あんまりお金使う機会ないんだからこういう時に使わないと。」
「…せっかくだし、ここで一眠りする?観光なら明日たっぷりしよっか?」
梓は俺の気を使ってるのか、旅館滞在を提案する。だが、それは梓に申し訳ない。
「変に気を使ったらキレるから。それにここの旅館高いんだから1日堪能するのも立派な観光だよ。」
「ありがとう梓。せっかく化粧してくれたのに無駄にしちゃってごめんね。」
すると梓はベッドの上に腰を下ろす。それから自分の膝をポンポンと叩く。
「ねえ薫。寝るのはここね。ほら、窓が大きいし、日本庭園見れるでしょ?薫がここで寝てる間私、この窓で京都堪能しとくから。それに、薫が起きて初めて視野に入れるのがこの庭園と化粧した私だったら、全然無駄じゃないよ。一番綺麗な私を最初に見せられるんだもん。」
でしょ?という梓には叶わない。せっかく地に着いた足がまた、浮き上がってしまいそうだ。
「梓のそういう所好きだなあ。」
「こら、簡単に好きだなんて言わない。」
「いいじゃん。一応彼氏と彼女なんだもん。好きって言うのはカップルとして当然でしょ。」
それから照れる梓を満足気に見て、俺は彼女の柔らかな太ももに頭を乗せた。ちょうどいい柔らかさと、梓の匂いでクラクラしそうだったが、日々の疲れが溜まっていたのか簡単に寝ることが出来た。梓が、まるで猫を可愛がるように俺の頭を撫でているのを感じながら。
眠りについたのは11時だったのに、目を覚ましたら夕方の5時。ガッツリいつも以上の睡眠を梓の膝の上でしてしまった。顔をあげると、梓も寝ていたのか一瞬はっとして、俺の方を見た。
「薫おはよう。」
「おはよう、って時間でもないけどな。」
「あははっ。でも少し疲れは取れた?」
「ここ一週間で1番熟睡した。」
ぽや~っとした頭で答えると、梓はまるで聖母のような慈愛に満ちた微笑みを見せ、「良かったね。」と言った。
「もうこんな時間だし、寺は閉門しちゃったなあ。」
「私ね、薫が寝てる間に色々調べてたの。確か夕飯は7時に予約してあるんだよね?だったらそれまでこの辺回らない?」
梓が提示してきたのは新京極通だった。確かここに錦天満宮もあったはず。
「賛成。回ろっか。」
それから身だしなみを整え、梓と共に旅館を後にする。外に出た途端、梓が当たり前のように俺の手を握って、照れたように笑う。俺は童貞じゃないのに、女慣れしてない中学生のような動揺をしてしまった。
「薫の手、やっぱり大っきいね。小さい頃私の方がおっきかったのに。」
それから俺の手をにぎにぎと強く握る梓。梓の元カレは5人いる。その人たちはみんなこんな可愛いことされてるのに浮気なんかしてたんだ。ムカつくと同時にこの可愛い生き物を手放してくれてありがとうとも思う。俺は、自分からこの子を手放すことなんて考えられない。
「梓、痛い。」
別に痛くないが、俺は梓の手を強く握り返す。梓は笑いながら痛いよバカと言った。
「すごーいからくり人形が沢山いる!ねえおみくじもからくり人形がやってるよ!!」
「本当だ。引かなくていいの?」
「いいの!おみくじは明日か明後日、清水寺の中にある地主神社でしか引かないって決めてるから!」
錦天満宮に着いた梓とお参りを済ませ、少しだけ観光する。それより地主神社って確か縁結びの神社じゃなかったっけ。
「梓、誰か気になる人できたの?」
「えっ?違う違う。薫との縁を確かめたいなって。」
「何?怖いこと言わないで。凶とか出たら立ち直れないから。」
「そしたら薫は一緒に住む家になかなか帰れないってことだね。」
梓がケラケラと笑う。凶が出たら別れるとかじゃなくて、凶が出ても俺と住んでることを考えてくれる事がとても嬉しい。
「じゃあ大吉だったら?」
「薫とずっと一緒ってことじゃない?ま!まだなに引いたか明日の私に聞かないと分からないんだけどね!」
本当に小悪魔。梓は俺の気持ちを持ち上げて落とす天才だ。
「ほら、そろそろ予約したお店に行こう!」
梓に背中を押され、俺は先斗町に向かった。
「すーっごい美味しい!昆布締め最高!京都の日本酒最高!!」
先斗町にあるとある日本酒が美味しいお店。梓は随分と気に入ったのか、お酒を沢山飲み、ふわふわした呂律で俺に感動を伝える。
お店を選んだ側としても、こんなに喜んでくれるととても嬉しい。
「薫~また一緒に行こうね?」
当たり前のように一緒と言ってくれる梓。
「梓が他の男と結婚してなければな~。」
皮肉の中に少しだけ混ぜた本音。梓が好きだから、ずっとこのまま結婚までいけたらなんて、夢物語だ。「今のところ予定は無いから大丈夫だよ?」なんて言うけど、どうせ梓のことだ。また中学一年生の時や、高校一年生の悪夢のように、すぐさま俺の腕の中から抜けて、ほかの男の元に行ってしまうんだ。
「なんか薫がモテる理由が分かった。なのになんで長続きしてこなかったんだろう。こんなに素敵な旅行提案してくれる人なのに。へへ、でも今は私の薫だもんね~。」
旅館に戻ると梓は俺の腕に自分の腕を絡め、へへっと笑う。長続きしないのは、今までの彼女とは旅行に行ったことすらないからってのもあるけど、そうすると俺のくそ重たい恋心に気付かれてしまいそうだから言わないでおく。
「今の俺は梓のだからもっと恋人らしく大切にして欲しいな。」
にっこり笑った梓の唇にキスを落とす。アルコールの匂いにクラクラしそうだ。
「大切にする。だって私、ちゃんと薫ママと約束してきたんだもん。薫くんの生活を管理しますって!」
「どっちかって言うと俺が梓の生活を管理してる部分もあるけど。」
梓は気にしなーいと言って布団にダイブ。クイーンサイズの大きなベッドに小柄な梓は沈んでいった。
「ほら梓、お風呂入ろ?檜風呂なんだから。」
梓ははーいと可愛らしく返事をし、お風呂に向かった。梓の頬はもうすっかりアルコールでほんわりと赤く色付き、酔いが回っているのか目も潤んでいる。ヤバい。この調子だと一日目に抱いてしまいそうだ。でも旅行のメインは明日。明日のことも考えて今日は抱かないって決めてる。
それから俺も梓の後に風呂に入った。正直檜風呂から梓の残り香をお風呂で感じるだけでも理性の限界を迎えそうだ。それでも、この旅行はあくまでも梓に楽しんでもらうことが目的。俺の理性が崩壊してどうする!俺は頭の中で坂本や梓のお父さんを思い浮かべながら、なんとか本能に打ち勝った。
上がると梓はすっかり布団にくるまれて寝ていた。振り回されてばっかりだが、梓に振り回されるのは心地がいいと思ってる俺は、だいぶ梓びいきが激しい。
「このクソ忙しい時期によくそんなだらしない顔出来ますなあ。」
「うっさい坂本。」
そのせいか大学の頃からずっと一緒の坂本にそのだらしのない顔を突っ込まれてしまう。あの時の告白は賭けだった。実際梓が好きな人が出来るまでの残酷な期限付きなのだが、それでも一瞬でも夢が叶ったのだ。
でも、出会って20年目にしてようやく形だけだが、俺の彼女になってくれた。高一の頃、1度夢見たが絶望に落とされたことを思い出し、凹むが、今回はちゃんと形として残すことが出来たのだ。
少しかっこ悪いところを見せすぎたと思うが、そんな所を今の彼女は受け入れてくれた。そのため、少しずつ梓に自分をさらけだして、甘えてみてもいいのかなとも思い始めている。
……どうせ別れても、この一瞬のお付き合いを胸に刻み、俺は前に進んでいける……筈だ。
「おーい、予算会議始まってるぞー。」
「はっ…、ヤバい。」
あの日からずっと、地に足が着いていない状況なのだ。毎日ずっと夢見心地である。それでも、この世界は厳しい。少しでも気を抜くとすぐ蹴落とされる。
俺は、すぐさま弛んだ気を引き締め、会議に取り組んだ。
「結局今日もこの時間か。」
時間を見ると、もうすぐ終電。スマホを見ると、梓から『この部屋とか今度見に行かない?』とLINE。一緒に住もうと言ったのはこっちだが、あまりの忙しさからか、結局梓に任せっぱなしだ。
引越しの予定は一応4月にしてある。27だし、俺は特に何も伝えていないが、梓は何故か勝手にお互いの両親に俺と住むということを伝えてしまった。梓には申し訳ないが、それは自ら俺とのことを外堀から埋めてるから、梓的には別れづらくなるんじゃないかとも心配になる。……まぁ、俺的にはすごくありがたいのだが。
くぅと鳴ったお腹を抑え、そのまま終電に駆け込む。タクシーで帰ることがないだけまだマシだ。
「ただいま。」
真っ暗になった部屋に帰る。今日は梓はこっちの家にはいないのか、少し寂しい気もする。
でも、来月からは、梓が一緒に住んでくれるんだし、この寂しさも懐かしく感じる日が来るのかもしれない。梓に好きな人が出来て、別れてしまったら元も子もないのだが。
それから、具沢山の味噌汁を作り、胃にかきこみ、眠りに落ちた。
今週末は、やっと楽しみにしていた京都旅行だ。忙しいとはわかっているが、休日は自由にさせて欲しい。そのためにこんな遅くまで仕事をしているのだから。
「薫、薫~。そろそろ着くよ?」
「ん、あぁ了解。」
梓がゆらゆらと俺の肩を揺らす。ぱちくりと目を開くと、新幹線がもうすぐ京都に着くと電光掲示板が流れてるのが見えた。
「それにしてもおつかれだねえ。ちなみに昨日は何時に帰ってきたの?」
「んー、昨日は早めに終わらせようと思ったんだけど結局1時かなぁ。」
目を擦りながら開くと、普段よりカジュアルめの格好をした梓。俺の普段着に合わせたとのこと。それから、初めに荷物を置くために三条にある旅館に向かった。
「綺麗なところだねえ。ここやっぱり高いでしょ。私も負担するよ。」
「いや、大丈夫。普段あんまりお金使う機会ないんだからこういう時に使わないと。」
「…せっかくだし、ここで一眠りする?観光なら明日たっぷりしよっか?」
梓は俺の気を使ってるのか、旅館滞在を提案する。だが、それは梓に申し訳ない。
「変に気を使ったらキレるから。それにここの旅館高いんだから1日堪能するのも立派な観光だよ。」
「ありがとう梓。せっかく化粧してくれたのに無駄にしちゃってごめんね。」
すると梓はベッドの上に腰を下ろす。それから自分の膝をポンポンと叩く。
「ねえ薫。寝るのはここね。ほら、窓が大きいし、日本庭園見れるでしょ?薫がここで寝てる間私、この窓で京都堪能しとくから。それに、薫が起きて初めて視野に入れるのがこの庭園と化粧した私だったら、全然無駄じゃないよ。一番綺麗な私を最初に見せられるんだもん。」
でしょ?という梓には叶わない。せっかく地に着いた足がまた、浮き上がってしまいそうだ。
「梓のそういう所好きだなあ。」
「こら、簡単に好きだなんて言わない。」
「いいじゃん。一応彼氏と彼女なんだもん。好きって言うのはカップルとして当然でしょ。」
それから照れる梓を満足気に見て、俺は彼女の柔らかな太ももに頭を乗せた。ちょうどいい柔らかさと、梓の匂いでクラクラしそうだったが、日々の疲れが溜まっていたのか簡単に寝ることが出来た。梓が、まるで猫を可愛がるように俺の頭を撫でているのを感じながら。
眠りについたのは11時だったのに、目を覚ましたら夕方の5時。ガッツリいつも以上の睡眠を梓の膝の上でしてしまった。顔をあげると、梓も寝ていたのか一瞬はっとして、俺の方を見た。
「薫おはよう。」
「おはよう、って時間でもないけどな。」
「あははっ。でも少し疲れは取れた?」
「ここ一週間で1番熟睡した。」
ぽや~っとした頭で答えると、梓はまるで聖母のような慈愛に満ちた微笑みを見せ、「良かったね。」と言った。
「もうこんな時間だし、寺は閉門しちゃったなあ。」
「私ね、薫が寝てる間に色々調べてたの。確か夕飯は7時に予約してあるんだよね?だったらそれまでこの辺回らない?」
梓が提示してきたのは新京極通だった。確かここに錦天満宮もあったはず。
「賛成。回ろっか。」
それから身だしなみを整え、梓と共に旅館を後にする。外に出た途端、梓が当たり前のように俺の手を握って、照れたように笑う。俺は童貞じゃないのに、女慣れしてない中学生のような動揺をしてしまった。
「薫の手、やっぱり大っきいね。小さい頃私の方がおっきかったのに。」
それから俺の手をにぎにぎと強く握る梓。梓の元カレは5人いる。その人たちはみんなこんな可愛いことされてるのに浮気なんかしてたんだ。ムカつくと同時にこの可愛い生き物を手放してくれてありがとうとも思う。俺は、自分からこの子を手放すことなんて考えられない。
「梓、痛い。」
別に痛くないが、俺は梓の手を強く握り返す。梓は笑いながら痛いよバカと言った。
「すごーいからくり人形が沢山いる!ねえおみくじもからくり人形がやってるよ!!」
「本当だ。引かなくていいの?」
「いいの!おみくじは明日か明後日、清水寺の中にある地主神社でしか引かないって決めてるから!」
錦天満宮に着いた梓とお参りを済ませ、少しだけ観光する。それより地主神社って確か縁結びの神社じゃなかったっけ。
「梓、誰か気になる人できたの?」
「えっ?違う違う。薫との縁を確かめたいなって。」
「何?怖いこと言わないで。凶とか出たら立ち直れないから。」
「そしたら薫は一緒に住む家になかなか帰れないってことだね。」
梓がケラケラと笑う。凶が出たら別れるとかじゃなくて、凶が出ても俺と住んでることを考えてくれる事がとても嬉しい。
「じゃあ大吉だったら?」
「薫とずっと一緒ってことじゃない?ま!まだなに引いたか明日の私に聞かないと分からないんだけどね!」
本当に小悪魔。梓は俺の気持ちを持ち上げて落とす天才だ。
「ほら、そろそろ予約したお店に行こう!」
梓に背中を押され、俺は先斗町に向かった。
「すーっごい美味しい!昆布締め最高!京都の日本酒最高!!」
先斗町にあるとある日本酒が美味しいお店。梓は随分と気に入ったのか、お酒を沢山飲み、ふわふわした呂律で俺に感動を伝える。
お店を選んだ側としても、こんなに喜んでくれるととても嬉しい。
「薫~また一緒に行こうね?」
当たり前のように一緒と言ってくれる梓。
「梓が他の男と結婚してなければな~。」
皮肉の中に少しだけ混ぜた本音。梓が好きだから、ずっとこのまま結婚までいけたらなんて、夢物語だ。「今のところ予定は無いから大丈夫だよ?」なんて言うけど、どうせ梓のことだ。また中学一年生の時や、高校一年生の悪夢のように、すぐさま俺の腕の中から抜けて、ほかの男の元に行ってしまうんだ。
「なんか薫がモテる理由が分かった。なのになんで長続きしてこなかったんだろう。こんなに素敵な旅行提案してくれる人なのに。へへ、でも今は私の薫だもんね~。」
旅館に戻ると梓は俺の腕に自分の腕を絡め、へへっと笑う。長続きしないのは、今までの彼女とは旅行に行ったことすらないからってのもあるけど、そうすると俺のくそ重たい恋心に気付かれてしまいそうだから言わないでおく。
「今の俺は梓のだからもっと恋人らしく大切にして欲しいな。」
にっこり笑った梓の唇にキスを落とす。アルコールの匂いにクラクラしそうだ。
「大切にする。だって私、ちゃんと薫ママと約束してきたんだもん。薫くんの生活を管理しますって!」
「どっちかって言うと俺が梓の生活を管理してる部分もあるけど。」
梓は気にしなーいと言って布団にダイブ。クイーンサイズの大きなベッドに小柄な梓は沈んでいった。
「ほら梓、お風呂入ろ?檜風呂なんだから。」
梓ははーいと可愛らしく返事をし、お風呂に向かった。梓の頬はもうすっかりアルコールでほんわりと赤く色付き、酔いが回っているのか目も潤んでいる。ヤバい。この調子だと一日目に抱いてしまいそうだ。でも旅行のメインは明日。明日のことも考えて今日は抱かないって決めてる。
それから俺も梓の後に風呂に入った。正直檜風呂から梓の残り香をお風呂で感じるだけでも理性の限界を迎えそうだ。それでも、この旅行はあくまでも梓に楽しんでもらうことが目的。俺の理性が崩壊してどうする!俺は頭の中で坂本や梓のお父さんを思い浮かべながら、なんとか本能に打ち勝った。
上がると梓はすっかり布団にくるまれて寝ていた。振り回されてばっかりだが、梓に振り回されるのは心地がいいと思ってる俺は、だいぶ梓びいきが激しい。
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