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本章
舞い降りた乙女の名は
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「ん、きゃあああっ?!」
それは、突如として彼の目の前に舞い降りた。
ーーバキバキバキッ!
激しく生木を折りながら落下してきたのは栗色の髪をした乙女だった。
「おっ?!」
驚きはしたが、身体が素早く反応をする。
優しく彼女を抱きとめて、ズシリとくる落下の衝撃を膝を使って緩和した。
王宮の、庭園の、庭木から何故落ちてきたのかとレニングラードはその原因を見上げて探した、がーー。
「ミィッ、ミャーン」
原因は彼女の腕の中に居た。
なるほど、仔猫である。
庭木に登った仔猫が下に降りられず、鳴いているのをこの乙女が助けた、そんなところだろうか。
スルリと彼女の腕から抜け出して、生垣の奥へと仔猫が消えるのを見送った。
ところで、この乙女は何者だろう?
見た目からすると、貴族令嬢だろうか。
確か、今はロレンス殿下の宮でお茶会が催されている。
招待客だとすれば、どうして少し離れたこんな所で猫など救出していたのだろうか?
それに、従者か侍女が近くに居ないのは何故だ?
辺りを見渡すが、人の気配はない。
そっと見下ろす。
恐らく落下の際に気絶したのだろう、腕にすっぽりおさまってしまう華奢な身体つきをしている。
栗色の柔らかなウェーブヘア、陶磁器のような透明感のある白い肌、長いまつ毛、ツンととがった鼻筋、可愛らしい顔が苦しげに眉を顰めるのが痛々しい。
「可憐だ…」
思わず漏れ出した声に、ドキンと高鳴った胸の鼓動に、自分が一番驚いた。
俺は何を考えているのだろう?
明らかに彼女は10代だ。
彼女にときめくなど、犯罪では??
「お嬢様ぁー!」
遠くから、おそらく侍女らしき声が聞こえる。
「アンリお嬢様、いらっしゃいませんかー?!」
良かった、迎えがきたらしい。
ホッとしたのも束の間、レニングラードは新たな可能性にぶち当たった。
あれ?苦悶の表情で気絶した令嬢、人気のない場所、強面の俺…って、俺が襲ったように見えるか?コレ。
サーッと血の気が引くのがわかる。
容赦なく侍女らしき声が近づいてくる。
「あのっ!騎士様、アンリお嬢様を…小柄な栗色の髪の女性を見かけませんでしたか?」
おずおずと尋ねてくる声に、観念して振り向き、腕の中の乙女をずいっと差し出した。
「お嬢様!」
気絶した主人の姿に衝撃を受けた様子の侍女は、ようやく誰が令嬢を抱えているのかに気づいたようだ。
「貴方様は、レニングラード様?!」
驚きの声を上げて、侍女はお辞儀をする。
「私はロックス子爵家の使用人です、こちらは次女のアンリ様。ところで、事情をお聞かせ願えますか?」
言葉は丁寧だが、要約すると"ウチのお嬢様になにをした"だ。
「うむ…」
状況を順序立てて話そうと焦れば焦るほど声が喉にかかって出てこない。
いつもそうなのだ。
険しい顔で見下ろされた侍女は、アンリ嬢が抱えられていなければ、居た堪れずに逃げ出していたことだろう。
重い空気が流れる中、レニングラードはようやく一言だけを口にした。
「ーー猫なんだ」
「はぁ?」
理解できない様子の侍女には、目を覚ました令嬢が説明をしてくれるだろうことを期待した。
ただ一つ、自身の名誉のために大事なことだけは言わねばならなかった。
「襲ってはいない」
「え?襲っ…はい?」
レニングラードは満足した。
もう侍女に語ることは何もない。
ひとまず彼女を楽な格好で休ませてやらねば。
「…中へ」
そう言って先に城内へと足を向けた。
それは、突如として彼の目の前に舞い降りた。
ーーバキバキバキッ!
激しく生木を折りながら落下してきたのは栗色の髪をした乙女だった。
「おっ?!」
驚きはしたが、身体が素早く反応をする。
優しく彼女を抱きとめて、ズシリとくる落下の衝撃を膝を使って緩和した。
王宮の、庭園の、庭木から何故落ちてきたのかとレニングラードはその原因を見上げて探した、がーー。
「ミィッ、ミャーン」
原因は彼女の腕の中に居た。
なるほど、仔猫である。
庭木に登った仔猫が下に降りられず、鳴いているのをこの乙女が助けた、そんなところだろうか。
スルリと彼女の腕から抜け出して、生垣の奥へと仔猫が消えるのを見送った。
ところで、この乙女は何者だろう?
見た目からすると、貴族令嬢だろうか。
確か、今はロレンス殿下の宮でお茶会が催されている。
招待客だとすれば、どうして少し離れたこんな所で猫など救出していたのだろうか?
それに、従者か侍女が近くに居ないのは何故だ?
辺りを見渡すが、人の気配はない。
そっと見下ろす。
恐らく落下の際に気絶したのだろう、腕にすっぽりおさまってしまう華奢な身体つきをしている。
栗色の柔らかなウェーブヘア、陶磁器のような透明感のある白い肌、長いまつ毛、ツンととがった鼻筋、可愛らしい顔が苦しげに眉を顰めるのが痛々しい。
「可憐だ…」
思わず漏れ出した声に、ドキンと高鳴った胸の鼓動に、自分が一番驚いた。
俺は何を考えているのだろう?
明らかに彼女は10代だ。
彼女にときめくなど、犯罪では??
「お嬢様ぁー!」
遠くから、おそらく侍女らしき声が聞こえる。
「アンリお嬢様、いらっしゃいませんかー?!」
良かった、迎えがきたらしい。
ホッとしたのも束の間、レニングラードは新たな可能性にぶち当たった。
あれ?苦悶の表情で気絶した令嬢、人気のない場所、強面の俺…って、俺が襲ったように見えるか?コレ。
サーッと血の気が引くのがわかる。
容赦なく侍女らしき声が近づいてくる。
「あのっ!騎士様、アンリお嬢様を…小柄な栗色の髪の女性を見かけませんでしたか?」
おずおずと尋ねてくる声に、観念して振り向き、腕の中の乙女をずいっと差し出した。
「お嬢様!」
気絶した主人の姿に衝撃を受けた様子の侍女は、ようやく誰が令嬢を抱えているのかに気づいたようだ。
「貴方様は、レニングラード様?!」
驚きの声を上げて、侍女はお辞儀をする。
「私はロックス子爵家の使用人です、こちらは次女のアンリ様。ところで、事情をお聞かせ願えますか?」
言葉は丁寧だが、要約すると"ウチのお嬢様になにをした"だ。
「うむ…」
状況を順序立てて話そうと焦れば焦るほど声が喉にかかって出てこない。
いつもそうなのだ。
険しい顔で見下ろされた侍女は、アンリ嬢が抱えられていなければ、居た堪れずに逃げ出していたことだろう。
重い空気が流れる中、レニングラードはようやく一言だけを口にした。
「ーー猫なんだ」
「はぁ?」
理解できない様子の侍女には、目を覚ました令嬢が説明をしてくれるだろうことを期待した。
ただ一つ、自身の名誉のために大事なことだけは言わねばならなかった。
「襲ってはいない」
「え?襲っ…はい?」
レニングラードは満足した。
もう侍女に語ることは何もない。
ひとまず彼女を楽な格好で休ませてやらねば。
「…中へ」
そう言って先に城内へと足を向けた。
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