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本章
令嬢と侍女は、事情を把握する
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「アンリお嬢様?」
目覚めると、見知らぬ天井が目に入る。
側に見知った侍女のゾフィーが居て、手を握ってくれていた。
どうやらソファに寝かされていたらしい。
「ここは?」
「王城の客間です、お嬢様大丈夫ですか?」
徐々に鮮明になる意識、体に痛みはないらしい。
ゆっくりと起き上がると、ゾフィーはそれを支えてくれた。
「…ゾフィー?私どうしたのかしら?」
「ワタシも良く分からないんです、お嬢様が見当たらなくて、庭園を探したら、レニングラード様が気絶なさったお嬢様を抱えていらしたんです」
瞳に涙を溜めて、何があったんですか?大丈夫ですかと捲し立てるゾフィーをなだめながら、状況を思い出す。
今日は第一王子であるロレンス殿下が、自身の住まいである翠玉宮でお茶会を催した。
やがて王太子となる殿下の婚約者を見繕う目的もあると噂されており、年頃の令嬢達が多く集められた。
しかし、家格の低い子爵令嬢であるアンリは、早々に戦線を離脱し、純粋にお茶やお菓子を楽しんでいた。
特に話しかけられるでもなく、退屈していると足元を仔猫が通り過ぎる。
目で追っていくと、少し離れた庭木で爪を研ぎ始めた。
(少しくらいなら、抜け出しても構わないかしら)
そっとその場を離れ、奔放な仔猫の後をついていった。
しばらく経って、自分が迷子になった事に気付く。
「あらあら、どうしましょう?」
来た道を戻ろうと、方向を転じようとした時、バランスを崩して生垣に手をついてしまう。
ーーバサバサ!!
大きな音が立って、ビックリしたのはアンリだけではなかった。
「フミャッ!?シャーッ!!」
警戒の鳴き声をあげ、仔猫は木に駆け上がっていった。
「まあ!驚かせてしまって御免なさい」
木の上の仔猫を見上げ、アンリは謝った。
「フシャァーッ!」
毛を逆立てて威嚇する仔猫の様子に肩を落として、アンリは帰路を探り始めた。
その背に、なんともか細い鳴き声が届いたのだ。
「ンミィ…ミイィ…」
先程の仔猫が前足を出しては躊躇い、もう一度出しては戻すを繰り返している。
「大変!降りられなくなったのだわ」
自分のせいで高い木に登らせてしまった罪悪感から、アンリは仔猫の救出を決意する。
幸い、幼い頃からお転婆だったアンリは、難なく木に登ることができたのだが…問題はそこからだった。
「もう少しで、助けますからね?じっとしているのよ」
安心させるように声をかけ、ゆっくりと伸ばした手だが、人に慣れない仔猫は、細い枝先へと後退していく。
そしてーー
ズルッと後脚を滑らせて仔猫は体勢を崩した。
「あっ!ダメ!!」
反射的にその体を掴み胸に抱き抱えたのと、細い枝が重みに耐えかねて折れる音がしたのが同時だった。
(すごく痛いヤツね、これ)
バキバキと枝を折りながら落下する途中、アンリはそのまま意識を失った。
「それで、気がついたらここに寝かされていたわ、きっとレニングラード様が助けて下さったのね」
「ああ、それで"猫"だったのですね」
アンリの説明を聞き、ようやくゾフィーはあの時レニングラードが発した言葉の意味を理解した。
「え?」
「ワタシがお嬢様を見つけた時、レニングラード様がお嬢様を抱き抱えていらっしゃったのです」
ゾフィーは話しながら、果実の詰まった水差しから、グラスに水を移してアンリに手渡してくれた。
爽やかな柑橘の風味のある水が、優しく喉を潤してくれる。
「お嬢様は気絶なさっていたので、事情をお伺いしたら、"猫なんだ"とだけ仰ったんですよ。言葉足りなくないですか?思わず、はぁ?って聞き返しちゃいましたよ!しかも、その後に付け足したみたいに"襲ってはいない"って…いや、疑ってませんけど!!って思いました」
唇を尖らせるゾフィーに、クスクスと笑ってアンリはその光景が見られなかった事を残念に思った。
「原因は猫で、自分が襲った訳じゃないって言いたかったのね、きっと。レニングラード様は少し口下手なのね」
「少しなんてモンじゃないですよ、超口下手ですって!」
まあまあと取りなす。
「帰ったらお礼のお手紙を書かなければね、何かお礼の品も添えようかしら」
「良いお考えだと思います」
アンリは少しだけ心が弾んでくるのを感じた。
目覚めると、見知らぬ天井が目に入る。
側に見知った侍女のゾフィーが居て、手を握ってくれていた。
どうやらソファに寝かされていたらしい。
「ここは?」
「王城の客間です、お嬢様大丈夫ですか?」
徐々に鮮明になる意識、体に痛みはないらしい。
ゆっくりと起き上がると、ゾフィーはそれを支えてくれた。
「…ゾフィー?私どうしたのかしら?」
「ワタシも良く分からないんです、お嬢様が見当たらなくて、庭園を探したら、レニングラード様が気絶なさったお嬢様を抱えていらしたんです」
瞳に涙を溜めて、何があったんですか?大丈夫ですかと捲し立てるゾフィーをなだめながら、状況を思い出す。
今日は第一王子であるロレンス殿下が、自身の住まいである翠玉宮でお茶会を催した。
やがて王太子となる殿下の婚約者を見繕う目的もあると噂されており、年頃の令嬢達が多く集められた。
しかし、家格の低い子爵令嬢であるアンリは、早々に戦線を離脱し、純粋にお茶やお菓子を楽しんでいた。
特に話しかけられるでもなく、退屈していると足元を仔猫が通り過ぎる。
目で追っていくと、少し離れた庭木で爪を研ぎ始めた。
(少しくらいなら、抜け出しても構わないかしら)
そっとその場を離れ、奔放な仔猫の後をついていった。
しばらく経って、自分が迷子になった事に気付く。
「あらあら、どうしましょう?」
来た道を戻ろうと、方向を転じようとした時、バランスを崩して生垣に手をついてしまう。
ーーバサバサ!!
大きな音が立って、ビックリしたのはアンリだけではなかった。
「フミャッ!?シャーッ!!」
警戒の鳴き声をあげ、仔猫は木に駆け上がっていった。
「まあ!驚かせてしまって御免なさい」
木の上の仔猫を見上げ、アンリは謝った。
「フシャァーッ!」
毛を逆立てて威嚇する仔猫の様子に肩を落として、アンリは帰路を探り始めた。
その背に、なんともか細い鳴き声が届いたのだ。
「ンミィ…ミイィ…」
先程の仔猫が前足を出しては躊躇い、もう一度出しては戻すを繰り返している。
「大変!降りられなくなったのだわ」
自分のせいで高い木に登らせてしまった罪悪感から、アンリは仔猫の救出を決意する。
幸い、幼い頃からお転婆だったアンリは、難なく木に登ることができたのだが…問題はそこからだった。
「もう少しで、助けますからね?じっとしているのよ」
安心させるように声をかけ、ゆっくりと伸ばした手だが、人に慣れない仔猫は、細い枝先へと後退していく。
そしてーー
ズルッと後脚を滑らせて仔猫は体勢を崩した。
「あっ!ダメ!!」
反射的にその体を掴み胸に抱き抱えたのと、細い枝が重みに耐えかねて折れる音がしたのが同時だった。
(すごく痛いヤツね、これ)
バキバキと枝を折りながら落下する途中、アンリはそのまま意識を失った。
「それで、気がついたらここに寝かされていたわ、きっとレニングラード様が助けて下さったのね」
「ああ、それで"猫"だったのですね」
アンリの説明を聞き、ようやくゾフィーはあの時レニングラードが発した言葉の意味を理解した。
「え?」
「ワタシがお嬢様を見つけた時、レニングラード様がお嬢様を抱き抱えていらっしゃったのです」
ゾフィーは話しながら、果実の詰まった水差しから、グラスに水を移してアンリに手渡してくれた。
爽やかな柑橘の風味のある水が、優しく喉を潤してくれる。
「お嬢様は気絶なさっていたので、事情をお伺いしたら、"猫なんだ"とだけ仰ったんですよ。言葉足りなくないですか?思わず、はぁ?って聞き返しちゃいましたよ!しかも、その後に付け足したみたいに"襲ってはいない"って…いや、疑ってませんけど!!って思いました」
唇を尖らせるゾフィーに、クスクスと笑ってアンリはその光景が見られなかった事を残念に思った。
「原因は猫で、自分が襲った訳じゃないって言いたかったのね、きっと。レニングラード様は少し口下手なのね」
「少しなんてモンじゃないですよ、超口下手ですって!」
まあまあと取りなす。
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