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始まりのものがたり
0.夜宴の鳥籠
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八角形をしたサンルーム
不思議なことに出入り口が見当たらないそれは
何処にあるのか…深い、深い森の中にポツリと存在する。
周囲を様々な植物と蔦に囲まれて、それがケージの格子に見えることから
”夜宴の鳥籠”と名付けられた。
天上からは冴え冴えとした青白い月が照らし、
照明もないのに室内は明るく、視界は良好だ。
調度品は少なく、シンプルな生成色の帆布が張られたソファーと、セットのスツールが数脚だけ。
(ああ…眠い)
ソファーに寝転んで、右に向かって長くなるアシンメトリーの前髪を掻き上げた。
その腕をそのまま額に乗せ、月光浴をしばらく楽しんでから、”咲夜”は瞼をゆっくり閉じて、軽い微睡みの中に堕ちていく。
気付けばもう15年の時が過ぎている。
”夜烏”と出会ってから、もうそんなに経つのか――
少し掠れたような、小さな声がこぼれた。
「声…聴きたい――」
いつも会話の絶えない15年だから、
今もちゃんと存在はここに感じているのに、声が聞こえないだけでなんだか寂しい。
もぞ、と身動きして、体勢を変える。
灰青のマオカラーのセットアップ、
そのズボンのポケットにいつも入れている、真鍮の懐中時計を取り出して開く。
細かな傷が付いて、くすんで見える金色の時計、でも、祖父ちゃんから譲り受けた大事な宝物だ。
時刻を確認すると、指の腹で撫でるように優しく蓋を閉じ、元の場所へと戻すと、気だるげに身を起こした。
「そろそろ時間か…迎えに行かなくちゃなぁ」
フルフルと頭を振ってから立ち上がり、ゆっくりとした足取りで八方ある壁の一つに近づくとそこに片手を突く。
――ちゃぷん
ガラス張りの壁が、その一面だけ水の膜に置き換わってしまったかのように揺らいで、そこが空間を繋げる”扉”となる。
躊躇うことなくその扉を潜って、咲夜は目当ての人物の元へと向かった。
ここは”夜宴の鳥籠”
魔法という稀有な力を宿してしまった者たちが集う、夜の会合が開かれる領域にして、”夜烏”の魔法で展開された空間である。
今宵、新生を迎えるため、この鳥籠で夜宴は再び開かれる。
* * * * *
人間ってさ、まさかの出来事が起きるとさ・・・
一回確認する
んでもって、もっかい確認する
そんで、それが確実に事実って分かったとき、
それが嬉しいことだったら感情大爆発だ。
「えーーーー!!まじか!うわっ、すげっ!??わーーーぁ!」
とか言いながら、一人暮らしの壁のうっすい部屋だってことも忘れてジタバタしながら喜ぶんだ。
で、隣の部屋からドンっ!と壁を叩かれて現実に戻る。
今、これがボクに起きたこと。
何が起きたかって?
それがさ、なんと、なんと!!
「ボク、魔法が使えるんだ・・・」
何の変哲もない見慣れた自分の手。
なのに信じられる?
手にしたものが”消えないかな”って思うときれいに崩れて消えていくんだ。
ありえる?ありえないよね?!
「こんなこと、ある?」
現代日本において”魔法”の存在が認められたのが15年前。
四礎って言われた4人と__
それから5年前に現れた次世代の4人
今、世間が知っている魔法使いはたったの8人。
そろそろ次の魔法使いが出現するんじゃ?なんて言われてたけど・・・
ボクが、ちょいオタの、よく居るその辺の変哲もないこんなボクが
「魔法使いになっちゃった!」
こうしちゃいられない!この経験を自分の作品にしない手はないよね。
「ネームの前に構想を練らなきゃ、主人公はボク!だけど自分で言うのもアレだけど華がないからちょっと盛ってぇ……うわ!どうしよう、これでマンガ大賞とっちゃったりして?え、ない、ないって!あははは~」
止まらない!こんなにネタがポンポン出たことない。
嬉しくて何時間くらい机に向かっていただろう?
肩が痛くなってきたから、首を回してストレッチしようとして、目の端に違和感を感じる。
味気ない、白い封筒が机の端に置かれている?
「え?こんなん有ったっけ?」
開いてみて驚いた。
封筒の中には二つ折りの厚紙の少しクリーム色がかったカードが入っていて、
そこにはPCで打ったんじゃないか?ってくらいキレイな文字がつづられていた。
******
狭山 様へ
ようこそ魔法使いの仲間へ。
新たに魔法を獲得された今、喜びも戸惑いもあることでしょう。
そんな心中を同胞と分かち合いませんか?
今度の満月の晩に魔法使いの集いを行います。
――それっぽくていいでしょう?
参加は強制しません、でも、来たらきっと楽しいよ。
当日は道案内を送ります。
来てくれることを願って――それではまたね。
夜烏の魔法使いより
******
「いや、ゲームのクエストみたいな・・・」
とかツッコミを入れて、封筒にカードを丁寧に仕舞うけど、
口の端が笑みを封じ込められない。
「やっべぇ、超アヤシイのにめっちゃワクワクする!」
誰が置いたんだろう?とか、
どうやって置いたんだろう?とか、
なんでボクの名前知ってるんだ?とか、
疑問はいろいろあるけど、全部”魔法使い”だから”魔法”で知った、で、片づけた。
「どうする~!?行くー?行かないー??」
そんなの、答えは一つだけど!
行くに決まってるけど!!
浮かれあがったボクはまだ気づいてない。
この力が何なのか、なにに巻き込まれていくのかも――
不思議なことに出入り口が見当たらないそれは
何処にあるのか…深い、深い森の中にポツリと存在する。
周囲を様々な植物と蔦に囲まれて、それがケージの格子に見えることから
”夜宴の鳥籠”と名付けられた。
天上からは冴え冴えとした青白い月が照らし、
照明もないのに室内は明るく、視界は良好だ。
調度品は少なく、シンプルな生成色の帆布が張られたソファーと、セットのスツールが数脚だけ。
(ああ…眠い)
ソファーに寝転んで、右に向かって長くなるアシンメトリーの前髪を掻き上げた。
その腕をそのまま額に乗せ、月光浴をしばらく楽しんでから、”咲夜”は瞼をゆっくり閉じて、軽い微睡みの中に堕ちていく。
気付けばもう15年の時が過ぎている。
”夜烏”と出会ってから、もうそんなに経つのか――
少し掠れたような、小さな声がこぼれた。
「声…聴きたい――」
いつも会話の絶えない15年だから、
今もちゃんと存在はここに感じているのに、声が聞こえないだけでなんだか寂しい。
もぞ、と身動きして、体勢を変える。
灰青のマオカラーのセットアップ、
そのズボンのポケットにいつも入れている、真鍮の懐中時計を取り出して開く。
細かな傷が付いて、くすんで見える金色の時計、でも、祖父ちゃんから譲り受けた大事な宝物だ。
時刻を確認すると、指の腹で撫でるように優しく蓋を閉じ、元の場所へと戻すと、気だるげに身を起こした。
「そろそろ時間か…迎えに行かなくちゃなぁ」
フルフルと頭を振ってから立ち上がり、ゆっくりとした足取りで八方ある壁の一つに近づくとそこに片手を突く。
――ちゃぷん
ガラス張りの壁が、その一面だけ水の膜に置き換わってしまったかのように揺らいで、そこが空間を繋げる”扉”となる。
躊躇うことなくその扉を潜って、咲夜は目当ての人物の元へと向かった。
ここは”夜宴の鳥籠”
魔法という稀有な力を宿してしまった者たちが集う、夜の会合が開かれる領域にして、”夜烏”の魔法で展開された空間である。
今宵、新生を迎えるため、この鳥籠で夜宴は再び開かれる。
* * * * *
人間ってさ、まさかの出来事が起きるとさ・・・
一回確認する
んでもって、もっかい確認する
そんで、それが確実に事実って分かったとき、
それが嬉しいことだったら感情大爆発だ。
「えーーーー!!まじか!うわっ、すげっ!??わーーーぁ!」
とか言いながら、一人暮らしの壁のうっすい部屋だってことも忘れてジタバタしながら喜ぶんだ。
で、隣の部屋からドンっ!と壁を叩かれて現実に戻る。
今、これがボクに起きたこと。
何が起きたかって?
それがさ、なんと、なんと!!
「ボク、魔法が使えるんだ・・・」
何の変哲もない見慣れた自分の手。
なのに信じられる?
手にしたものが”消えないかな”って思うときれいに崩れて消えていくんだ。
ありえる?ありえないよね?!
「こんなこと、ある?」
現代日本において”魔法”の存在が認められたのが15年前。
四礎って言われた4人と__
それから5年前に現れた次世代の4人
今、世間が知っている魔法使いはたったの8人。
そろそろ次の魔法使いが出現するんじゃ?なんて言われてたけど・・・
ボクが、ちょいオタの、よく居るその辺の変哲もないこんなボクが
「魔法使いになっちゃった!」
こうしちゃいられない!この経験を自分の作品にしない手はないよね。
「ネームの前に構想を練らなきゃ、主人公はボク!だけど自分で言うのもアレだけど華がないからちょっと盛ってぇ……うわ!どうしよう、これでマンガ大賞とっちゃったりして?え、ない、ないって!あははは~」
止まらない!こんなにネタがポンポン出たことない。
嬉しくて何時間くらい机に向かっていただろう?
肩が痛くなってきたから、首を回してストレッチしようとして、目の端に違和感を感じる。
味気ない、白い封筒が机の端に置かれている?
「え?こんなん有ったっけ?」
開いてみて驚いた。
封筒の中には二つ折りの厚紙の少しクリーム色がかったカードが入っていて、
そこにはPCで打ったんじゃないか?ってくらいキレイな文字がつづられていた。
******
狭山 様へ
ようこそ魔法使いの仲間へ。
新たに魔法を獲得された今、喜びも戸惑いもあることでしょう。
そんな心中を同胞と分かち合いませんか?
今度の満月の晩に魔法使いの集いを行います。
――それっぽくていいでしょう?
参加は強制しません、でも、来たらきっと楽しいよ。
当日は道案内を送ります。
来てくれることを願って――それではまたね。
夜烏の魔法使いより
******
「いや、ゲームのクエストみたいな・・・」
とかツッコミを入れて、封筒にカードを丁寧に仕舞うけど、
口の端が笑みを封じ込められない。
「やっべぇ、超アヤシイのにめっちゃワクワクする!」
誰が置いたんだろう?とか、
どうやって置いたんだろう?とか、
なんでボクの名前知ってるんだ?とか、
疑問はいろいろあるけど、全部”魔法使い”だから”魔法”で知った、で、片づけた。
「どうする~!?行くー?行かないー??」
そんなの、答えは一つだけど!
行くに決まってるけど!!
浮かれあがったボクはまだ気づいてない。
この力が何なのか、なにに巻き込まれていくのかも――
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