ここに魔法が生まれたら

羽野 奏

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2.次世代の魔術師たち

4-1.新生の魔法使いたちと…

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「え?」
「え?」

お互いに声を発したのが同時だった。

次世代ネクストの2人が深見さんに連れられて、鳥籠に渡ってきた。
その姿が視認できたと思ったら、次世代の一人と、隣の翼が声を上げる。

「「どうしたの?」」

「翼?」
「幸人さん?」

と、今度は相手の反応を伺う、ボクともう一人の次世代の人の声もハモるように重なった。

「おや?これは…不思議なえにしが結ばれているようですね」

面白いものを見た、という顔で深見さんが両者を交互に見ていた。
「え?なになに?」と、その横に歩み寄ってライト君が興味深そうに覗き込んでくる。
深見さんの腕に巻き付いて、子どもみたいに様子を伺う感じが面白い。

「確か、花屋の?」
「ああ、やっぱり!確か、マヤちゃんの叔父さんでしたよね?」

その節はどうも、と、”ユキト”さんと呼ばれた人は礼儀正しくお辞儀をする。

吾川 幸人あがわ ゆきとと申します。次世代の一人で”真価”の魔法使いと呼ばれています。弁護士をしていますので、もしお困りが有ったら相談してくださいね」

ふんわりとした笑顔が癒し系の、爽やかなお兄さんという見た目で、とっても優しそう。
(弁護士さんかぁ~、めっちゃ頭良いんだろうなー)

「それにしても、翼ってば…どこまで”花屋の”で知れ渡ってんの?笑えるんだけど」
「いや、今回は本当に偶然。駅のホームで出会ったんだって、ね?」
「ええ、そうなんです。あの時は、舞耶のためにお花を供えて下さって、ありがとうございました」

少し、しんみりとした空気が漂った。
そこに、ポツリと声を発したのはライト君。

「舞耶ちゃんってさ、筑波 舞耶ちゃんの事だよね…オレ、クラスメイトなんです」
きみは?」
「あ、オレは上田・アーサー・来音って言います。”新生サード”の一人で”爆風”って力が使えるみたいです」
「そっか、上田くんだね?舞耶がお世話になりました」
「ううん、お世話なんて…でも、元気で目立つ子だったから、寂しいです。ええっと、ご冥福をお祈りします」
「うん、ありがとう」

精一杯の高校生らしい言葉に、ちゃんと気持ちを受け止めて応える吾川さんは、紳士だと思う。
その上で、できるだけ明るい声で切り替えて

「ええっとね、この大きいの――っていってもライト君も大きいんだけど、こっちの子はね…白井 彗っていうんだ」

吾川さんの斜め後ろにぴったりくっついて控えている、背の高い男の人。
おいでーって横に来るように吾川さんが手招くと、コクンと無言で頷いて、吾川さんの横に並んだ。吾川さんも背が高い方だと思ったけど、横に並ぶと身長差は歴然。
(ライト君も背が高いけど、確かに、この人も背が高いなぁ…)
頭半分、ライト君のが背が高いかな?と、目測をしていると、
低く穏やかな声で、その人は、吾川さんにライト君が何者か説明し始めた。

「えっと、幸人さん…たぶん彼は有名なモデルだと思う、だから背が高いんだよ」
「へぇ!知らなかった、ゴメンね、あんまりテレビとか見ないもんだからさ」
「いえいえ、まだ新人なんで。これからもっと頑張ります。えっと、で、シライさん?」
「彗、自己紹介ー」

はい、頑張ってーって言う吾川さんの仕草が、なんだか可愛らしい。

「自分は、白井 彗しらい すいって言います、パン屋でパン職人の修行中で――…」

と、そこで言葉に詰まって、隣の吾川さんに顔を向けると、
吾川さんが「自分の魔法は?」と横から小さく合いの手を入れたのが聞こえた。

「あ、えっと、自分の魔法は”創成”で、幸人さんと一緒の”次世代”です、よろしく…」

人前で喋るのが苦手なんだろうな、分かる分かる。
なんだか親近感が持てて、ボクは「よろしくお願いします!」って、白井さんに返事した。
返事が返ってきたのが意外だったみたいで、「おお?…うん」と、やっぱり素っ気ない返事が返ってくる。

「えっと、ボクは狭山 大樹、大学生です。ライト君と同じ”新生”で、”破壊”の魔法を使えます。それで、こっちの花屋の人が――」
「おい!花屋の人呼びやめろ。俺は渡瀬 翼って言います。同じく”新生”で、”結実”って魔法を使います」

各々、よろしくって言うと、次世代の二人も口々に、よろしくって返してくれた。
(すごく、いい人たちそう)

「吾川さんはね、32歳で私の1つ上だし、何といっても弁護士さんだからね、とっても頼りになりますよ。彗くんは、27歳で来音くんとはちょうど10コ違いですね、出会ったのが今の大樹くんや翼君の頃でした。そう思うと、なんだか感慨深いですねえ」
「えーっと、吾川さんが32で、深見さんが31、白井さんが27で、翼くんと大樹くんが21で、オレが17ね」
「そうだね、よく覚えました」

そういって、深見さんは柔らかく笑うと、まだ絡みついていたライト君の腕を自然な動きで外して、――さて、と言って動き出す。

「人が増えて来たから、迎えに行くのが大変になって来ました。これからはある程度、お迎えのポイントを決めて数人ずつ集まって貰いましょうかね」

ふいーっと息を吐く姿に、そういえば力を使うと疲れるんだよねって思い至った。
この調子で、今日はあと何回、深見さんは”渡る”んだろう?

ちょうど横を通りすがる深見さんに「お疲れ様です」と、心の底からの声が出て、
それに反応した深見さんは、大丈夫だと伝えるように背中をポンポンと叩いてきた。
それが「気にするな、ありがとう」と言っているようで、この人も気づかいに優しさを返せる人なんだなって、なんだか心がじんわり温まる。

「じゃあ、次世代をもう一人、連れてきますかね」

また、違う方角のガラス壁に手を当てて、開いたゲートに消えていく深見さんを見送った。
そのタイミングで、吾川さんが興味深げに翼に近寄った。

「まさか、あの時のあなたが同じ魔法使いだったなんてね。ところで、”結実”ってどんな力なんですか?」
「えっと…あ!そうだ――カンパニュラ」

そう言って、両手を吾川さんの前に差し出す翼。
その手のひらから、モロモロと、色とりどりの可愛い釣鐘型の花がこぼれて来た。

「え、可愛いー!”結実”ってそういう能力なんだ?」

手品を見てはしゃぐみたいに、ライト君が手を打って喜んだ。

「カンパニュラ?」

意外にも、白井さんも反応を示していて、
その姿に、吾川さんが「そう、そうなの!」とちょっと高めのテンションで頷いた。

「カンパーニュと似てる名前だなって俺も思った」
「カンパーニュ?」

なにそれ、と、ライト君は首を傾げて、「彗が作っているパンの名前だよ」と吾川さんは優しく教えていた。

「ねえ、彗?メッセージカードに”夜烏”がこの花を添えたのって、今日のこの出会いの事を言ってたのかな」
「うーん、よく分からないんだけど、そういう事だったのかもなぁ」

意味は分からないけど、推理をし始めた次世代の二人を眺めながら、
なんだか、賑やかになってきたなって思ったけど、この空間は嫌いじゃない。

ボクは翼のわき腹を突っついて、「なんだよ?」って振り向く翼に、「あのね」って思ったことを言う。

「吾川さんと、白井さん、名前とか魔法の内容は公表されてるから知ってたけどさ、姿形まではおおやけにされてなかったじゃない?だから、こうして話してるのなんか不思議だね」
「まあ、そうな。俺なんか、事前に吾川さんに会ったときは、この人が吾川さんなんだって気づかなかったしなー」
「だよね。だから、これからさ…ボクらが魔法使いって、もし公開されたとしても、なんとかなるのかなーって思えたんだよね」
「お、そういう事に前向きなお前って珍しいな、じゃあ、そう思えたんなら…次世代の二人に会えてよかったんじゃない?」

そうだよねって、ボクは二人に会えてよかったって素直に頷く。
そして、ふと気づく。

「ところでさ、あのー…翼?いつまで、その、カンパニュラ?ってお花出し続けてるつもり?」
「いやぁ…完全にミスったわ、カンパニュラ、色とりどりでいっぱい出すってイメージしちゃったもんだから、たぶん全力で湧き続けると思う」

床面いっぱいになるくらいの絵柄でイメージしちゃった~って、翼はかわい子ぶって言うけど…魔法は使い続けると疲れるんだよね…?

「翼の魔力が尽きるまで、湧き続けるとか?」
「その可能性は、大いにある」

ええっ!?って、慌てるボクに、「大丈夫だよー」って吾川さんが声をかけてくれた。

「魔力は切れても、死にはしないから、ね?回復するまで、ちょっと頭痛と筋肉痛に襲われるだけだよ」
「いや、吾川さんフォローになってないですよっ」
「あ、ヤベ…クラクラしてきた」
「おっと、翼―!?」

ふらっと体幹が揺らいだ翼を支えながら、ソファーに座らせる。

「まあ、初歩のあるあるだから、頑張れ」

ドンマイ、と吾川さんの後ろから、無表情ながらも白井さんがグッドサインを作っている。
(わー、全然グッドじゃないですってー!)
魔法を使うときは、いかにイメージを明確にするかが大事なんだろうなってことは分かったけど、それより、発動しちゃった魔法の止め方を教えてほしい!

「ところでさ、吾川さんの”真価”ってどんな魔法なの?」

こちらの騒動をまったく無視して、ライト君が吾川さんに突撃していった。

「あ、うん、”真価”はね、精度100%のウソ発見器だと思ってくれればいいよ」
「人間ウソ発見器なのか!でも、なんでその能力が”真価”なのかな?真価って本当の値打ちとかって意味だよね?」

うーん?と、顎に手を当てて首をひねるライト君を見て、
吾川さんも同意して言葉を重ねた。

「そうだよね、俺もそれはそう思うんだけどね…くんの”結実”も、実を結ぶって意味で、花を咲かせるって能力と魔法の名前が、ちょっとズレてるんだよね」
「あの、俺のことは”翼”でお願い…します。ライトもそれでいいから、な」

ぜぇぜぇ言って苦しそうなのに、そこは譲らない翼のこだわりにボクは吹き出しそうになる。

「翼、なんか苗字呼びされるの苦手みたいで、できれば”翼”って読んであげてください。で、翼は無理しないの、寝てなよ~」

「OK!」と気軽に返すライト君と、黙って頷く白井さん。
意外にも、吾川さんが、え?どうしよう…みたいな表情で白井さんを見ている。
小さく、「問題ないです」って言う白井さんの声が聞こえてきて、「ああ、じゃあ了解」って吾川さんが返事をくれた。
(おやおや?)
案外、白井さんが吾川さんに依存しているように見えて、実は吾川さんの方こそベッタリなパターン?二人の関係がちょっと気になって、翼の背中を擦りつつ二人の空気感を観察する。

「もう!なんかさ、オレだけ仲間外れ感あるんだけどっ!」

突如、ライト君が、むーって頬を膨らませて、拗ねたみたいな声を発する。

「翼くんと、大樹くんが同級生で、仲良しなのはしょうがないって思ってたんだけど!なんで、仕事も年齢も違う次世代の二人も、なんか、めっちゃ仲良しなの!?オレもそんな相棒的な人が欲しいよー!」

さっきまで、深見さんにべったりくっ付いてたのはそれか!と、妙に納得してしまった。
確かに、ボクたちには同級生として過ごした時間の長さがあって、次世代の二人には、少なくともこの5年を共に過ごした時間があるんだから、どことも深い接点のない、一番年下のライト君が仲間外れ的になってしまう。寂しく感じるのは仕方ないかもしれないけど、何とかしてあげたいなって思った。

(深見さん、早く帰ってきてあげてー)
そう、思ったとき、タイミングよくゲートが揺れて、深見さんは次世代の残り一人を連れて現れた。
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