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4.朔夜の出来事
4-2.本屋にて
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今日は珍しく翼と会う約束もしてなくて、アニメも深夜枠まで無いし…
新しいラノベでも探そうって思って、夕食も込みで少し大きめの本屋まで足を延ばした。
(おおー、こっちの店舗はやっぱりちょっと品揃えがコアよね、こんなニッチなジャンルに需要なんか…あるよね~!ボクこういうの好き)
馬の血統を重視して、いかに高貴な系譜を編み上げていくかにこだわって破産した男の話とか
転生したら、豊臣秀吉の胸元で温められていた織田信長の草履の右足の方でしたとか
なにそれー!面白ーいって思わず欲しくなってしまう。
「漫画、マンガッ!楽しみ、楽しみーぃ」
一通り目星をつけて、誰にも聞かれないくらいの小さい声で気持ちを口ずさむ。
足取り軽くコーナーを曲がったとき人影が目前にあった。
――ドンッ!
(え!?俺の運命の出会い来ちゃった!?)
バッと顔をあげて「ごめんなさいっ!」と言いながら相手の顔を見る。
(あ、違ったわ)
「こっちこそ失礼、怪我はなかった?」
「ぜんぜんっ、侑李さんは?」
「無事でよかったよ、俺も大丈夫」
そう言いながら、長い足を折り曲げて、床に落ちた本を拾う。
「わ、わっ!本が…本当にごめんなさい」
「気にしないで、読めればいいヤツだから」
(ひっ!一冊で16000円っ!?)
分厚い医学の専門書の裏表紙の金額に驚く。
それを5冊、ひょいっと片腕に抱えて優しく微笑んでくれる。
(侑李さんの笑顔って、なんか、なんて言うんだろう…後ろにバラ背負ってるみたい)
センターパートの黒髪、クールな目元が微笑むと柔らかく緩む。
すっと通った鼻筋の大人っぽい顔立ち。
下唇の方が厚い人は愛されるより愛したい派の人に多いって聞いたことある。
「侑李さん、本当にお医者さんなんだ…」
「まだまだ若手、勉強中だよ」
「偉いなぁー、ボクなんか本屋さん来たらマンガと小説ばっかりだよ。資格の勉強とかしないと!なのかもだけどー」
「なんの?」
「ほえ?」
思わぬ切り返しに、ピタッと固まってしまう。
「なんの資格の勉強する必要があるの?」
「えー…なんのだろう、ダメダメだねボク」
もう一度、聞き返されて何も答えられない自分が情けない。
そんなボクに、侑李さんは優しい笑顔のまま緩く首を横に振る。
「ダメとかじゃなくてさ、なりたい目標があって、それに必要だったり、あったら便利な資格を取っていくわけでしょ?――大樹は何になりたいの?」
「マンガ家になりたいんだ、ボク。無理かもだけど目指してる」
「じゃあ、マンガ家になるための資格って何があるの?」
なんだろう?雑誌とかデジタルコンテンツに描いたものを応募するのが一般的だよね…
(文章力と、描画力、あとは色彩の知識とか?基礎はネットでも拾えるよね)
「えっと…文章検定とか、色彩検定とか?」
「おいで」
先に立って、迷わずツカツカと進んでいく侑李さんの後を追う。
「まずは、この辺りじゃない?」
多分、この中で一番薄い色彩検定の参考書。
パラっと開くと、基礎的な解説と色見本みたいなのが入っている。
「これ見てどう思う?」
「キレイかも…話も入って来やすいよ」
「マンガに活かせそう?」
「うん!」
「じゃあ、良かったね、もし勉強しないとって本当に思ってるなら、そこから始めたらいい」
「ありがとう」
「どういたしまして」
マンガ家になりたいって言いながら、思いつくままに作品を何個も仕上げてみたけど…それで?って感じだ。
雑誌で入選することも、投稿サイトで閲覧数が伸びることもなくて、何とかしなくちゃって思いながら、なにもできてなくてただ時間だけ過ぎてく。
自分に自信が欲しかった。
本当は、マンガの専門学校とかも行ってみたかったけど、結局親の言いなりで全然関係ない経済学部へ通ってる。
だから、侑李さんからのアドバイスがとても嬉しかった。
普通は自分でたどり着ける結論だったんだとしても、ボクは思いつかなかったんだから…
「俺はそろそろ帰るけど、キミはどうする?」
「もうちょっとだけ、この辺りの本を見てみる」
「そっか、それじゃ…」
「ん?」
目の前を、栄養100%採るための『栄養学の基本』を持った、高身長が横切った。
「彗さーん!」
「彗!お前、気づいてただろ?」
そのまま抜けていこうとするのを二人で引き留める。
「いや、なんか…お取込み中だったみたいなんで、つい」
ライトグレーの薄手のパーカーに、ダメージ加工のブラックジーンズ、そこにパイピングジャケットを羽織るというなかなか高度な着こなしだ。
「つい――別の通りに回り込むのも面倒くさいから、そのまま気づかれないで通過できないかなーって思ったんだね?」
「はい」
侑李さんの質問に、素直に頷く彗さん。
「まったく…その目立つ見た目でどうやって気づかれないと思えるんだか」
「そうだよー!マンガで言うところの、学園のイケメン四天王の一人みたいな見た目しておいて、無理があるよっ!オーラで気づいちゃうよ」
「オーラ?」
ん?と首をかしげる姿も絵になるんだ、チクショウ!高身長のイケメンめ!けしからんっ!!
「ところで、栄養学ということは新商品のヒントにでもしようと?」
「いや、幸人さんのご飯に、役に立つかなって思って」
「な…まえ呼び?」
なんだか衝撃を受けた様子の侑李さん。
「そういえば、なんか皆、吾川さんのこと苗字で呼んでたね?なんで?」
「ああ、それは…あんまり名前を呼ばれたくないって言われてね、吾川はちょっと家庭環境複雑だからなぁ。本人が話す気になったら、大樹にも話してくれると思う」
そんな風に言いながら、ちらっと侑李さんは彗さんを見る。
その視線に気づいて、彗さんは、本を持ってるのと逆の手のひらで、自分の胸にポンッと手を当てて誇らしげに言う。
「だって、オレは幸人さんの内側だから」
侑李さんの「は?」と、ボクの「へ?」が同時だった。
内側…とは??と、頭に?を並べたボクたちを置き去りに、
彗さんはボクに目線を落として尋ねてくる。
「そういえば、パン食べた?」
「え?パン??」
何のことか分からず、更に?が頭に浮かぶ。
「あれ?おかしいな、幸人さんが花屋に持って行ったと思ったけど」
「花屋…翼のところ?あーっ、今日は翼に会ってないんだ」
「あ、そうなんだ…」
ちょっとガッカリしたみたいな彗さんは、確かパン職人さんだ。
「もしかして、そのパンって彗さんの手作り?」
「そう」
「待ってて!」
ボクはスマホを取り出して、翼に電話を掛ける。
数コールで電話を翼が受けてくれた。
「あ!翼~?パン、まだある??」
ボクは驚かせたくて、そうやって第一声を放つ。
「なんで知ってるの?」って返ってくると思ったら、「ごめん!」から始まった翼の言葉。
「え?なんで?――うん、うん…え?吾川さん?うん、で?薫さんが?――ええっ!?咲夜さんが?うんうん――…」
通話が終わったボクに二人の視線が集まった。
「えーっと、なんかね、吾川さんが花屋にパンを届けてくれたときに、たまたま薫さんが来てて、なんか良くわかんないけど流れで神社に行くことになって、今、咲夜さんとカラオケに居るって」
要領を得ないボクの説明に、侑李さんが助け舟を出してくれる。
「まず、吾川が花屋に行ったのはパンを届けるためなのは分かった、薫はなんで花屋に行ったんだ?」
「分かんない。たまたま来たってだけ聞いた」
「まあ、じゃあ、たまたま3人が揃って?なんで神社に行くことに?」
「なんか、筑波 舞耶ちゃんと河合 美姫ちゃん…邪の女?が、友達だったって話になって、美姫ちゃんの方がまだ行方不明だから、何か知らないか咲夜さんに聞きに行ったって」
「なるほどねぇ…で、なぜ今カラオケに?」
「部屋の防音が皆無だから、落ち着いて話せる場所を確保するためだって」
「なんとなく、流れは分かったよ、ありがとう」
侑李さんは、ポンっと肩に手を置いてお礼を言ってくれた。
「でね、もしよかったらボクも来ないかって誘ってくれたんだけど…二人もせっかくだし、一緒に行かない?」
「さっき、それ伝えた?」
彗さんが的確な所を突っ込んでくる。
「あ…忘れてた」と、ポンコツぶりを発揮するボクに、肩に置いたままだった手をポンポンとして、侑李さんがニイッと口の端を上げて笑う。
「まあ、いいんじゃない?驚かせちゃおう」
その時の表情が、なんだかとっても黒王子で、ボクはちょっとときめきを隠せなかった。
「どこのカラオケ屋?」なんて聞いてくる彗さんは、意外としっかり者なのかも?
「ここの東口の方にあるとこ」
「え、ここの?花屋から3駅あるじゃん、幸人さんどうやって移動したんだろう」
「薫が車だろうから、それで移動したんじゃない?」
「ああ、なるほど」
最初に、侑李さんに渡された資格の本を胸の前に抱える。
「じゃあ、本を買ったら3人で行こう!」
「だね、そろそろ腕が痛くなってきた」
流石に長時間、あの重たい本たちを抱えていた侑李さんが持ち手を変えて腕を振った。
「そういえば、大樹もなんでわざわざこんな遠くの本屋にきたの?」
彗さんが、不思議そうに尋ねてくる。
「大学が1駅前にあって…ここの品揃えの傾向、ちょっと他と違うから時々来てるんだ」
「へえー、本屋によって品揃えの傾向とかあるんだ?」
「あるよ!大学近くの本屋にない本が入荷してあったりするの、嬉しいよねー」
「オレは比較したことないからなぁ…でも、そうなんだ」
「俺の欲しい本も、他では取り扱いがない時があって、そういうときはここに来ているよ」
侑李さんも同意してくれているのか、そう言って援護射撃を送ってくれた。
「まあ、逆に…どこにでもある本が、ここにはなかったりする場合もある」
「あ!わかるー」
そんなことを言いながらレジに並んで、ボクは一番に会計を終わらせた。
自動ドアを潜って、外の通りで二人を待っていると、ゾクッと気配を感じる。
(なに!?ヤな感じ!)
猫が毛を逆立てるみたいに、ふうぅって息を吐く。
注意深く通りをキョロキョロと眺めると…
――居たっ!
カフェで、チラッと1回見かけただけ。
長い黒髪の少女ってことしか記憶にないけど…
トラック事故の時に感じた、この独特のイヤな感じ!
たぶん彼女が邪の女――河合 美姫ちゃん。
「お待たせしたね」と侑李さんが言って
「行こうか」と、その後から彗さんの声
だけど、ボクは目線は向けず、声だけで応える。
「ボクは行き先変更かも!河合 美姫ちゃん発見」
「――なんだって?じゃあ俺もお供するよ」と、侑李さんが隣に立つ。
「もちろん、一緒に行くよ」反対側には彗さんが並んだ
目の前の信号が青に変わる。
ボクを先頭に3人で駆け出した。
-----------
かわいみきはっけん、
三人でおってる
-----------
翼に短くメッセージを送って、見失わないように注意しながら彼女を追う。
二つ目の曲がり角をゆっくりと歩いて曲がっていく。
絶対に、逃さない!
新しいラノベでも探そうって思って、夕食も込みで少し大きめの本屋まで足を延ばした。
(おおー、こっちの店舗はやっぱりちょっと品揃えがコアよね、こんなニッチなジャンルに需要なんか…あるよね~!ボクこういうの好き)
馬の血統を重視して、いかに高貴な系譜を編み上げていくかにこだわって破産した男の話とか
転生したら、豊臣秀吉の胸元で温められていた織田信長の草履の右足の方でしたとか
なにそれー!面白ーいって思わず欲しくなってしまう。
「漫画、マンガッ!楽しみ、楽しみーぃ」
一通り目星をつけて、誰にも聞かれないくらいの小さい声で気持ちを口ずさむ。
足取り軽くコーナーを曲がったとき人影が目前にあった。
――ドンッ!
(え!?俺の運命の出会い来ちゃった!?)
バッと顔をあげて「ごめんなさいっ!」と言いながら相手の顔を見る。
(あ、違ったわ)
「こっちこそ失礼、怪我はなかった?」
「ぜんぜんっ、侑李さんは?」
「無事でよかったよ、俺も大丈夫」
そう言いながら、長い足を折り曲げて、床に落ちた本を拾う。
「わ、わっ!本が…本当にごめんなさい」
「気にしないで、読めればいいヤツだから」
(ひっ!一冊で16000円っ!?)
分厚い医学の専門書の裏表紙の金額に驚く。
それを5冊、ひょいっと片腕に抱えて優しく微笑んでくれる。
(侑李さんの笑顔って、なんか、なんて言うんだろう…後ろにバラ背負ってるみたい)
センターパートの黒髪、クールな目元が微笑むと柔らかく緩む。
すっと通った鼻筋の大人っぽい顔立ち。
下唇の方が厚い人は愛されるより愛したい派の人に多いって聞いたことある。
「侑李さん、本当にお医者さんなんだ…」
「まだまだ若手、勉強中だよ」
「偉いなぁー、ボクなんか本屋さん来たらマンガと小説ばっかりだよ。資格の勉強とかしないと!なのかもだけどー」
「なんの?」
「ほえ?」
思わぬ切り返しに、ピタッと固まってしまう。
「なんの資格の勉強する必要があるの?」
「えー…なんのだろう、ダメダメだねボク」
もう一度、聞き返されて何も答えられない自分が情けない。
そんなボクに、侑李さんは優しい笑顔のまま緩く首を横に振る。
「ダメとかじゃなくてさ、なりたい目標があって、それに必要だったり、あったら便利な資格を取っていくわけでしょ?――大樹は何になりたいの?」
「マンガ家になりたいんだ、ボク。無理かもだけど目指してる」
「じゃあ、マンガ家になるための資格って何があるの?」
なんだろう?雑誌とかデジタルコンテンツに描いたものを応募するのが一般的だよね…
(文章力と、描画力、あとは色彩の知識とか?基礎はネットでも拾えるよね)
「えっと…文章検定とか、色彩検定とか?」
「おいで」
先に立って、迷わずツカツカと進んでいく侑李さんの後を追う。
「まずは、この辺りじゃない?」
多分、この中で一番薄い色彩検定の参考書。
パラっと開くと、基礎的な解説と色見本みたいなのが入っている。
「これ見てどう思う?」
「キレイかも…話も入って来やすいよ」
「マンガに活かせそう?」
「うん!」
「じゃあ、良かったね、もし勉強しないとって本当に思ってるなら、そこから始めたらいい」
「ありがとう」
「どういたしまして」
マンガ家になりたいって言いながら、思いつくままに作品を何個も仕上げてみたけど…それで?って感じだ。
雑誌で入選することも、投稿サイトで閲覧数が伸びることもなくて、何とかしなくちゃって思いながら、なにもできてなくてただ時間だけ過ぎてく。
自分に自信が欲しかった。
本当は、マンガの専門学校とかも行ってみたかったけど、結局親の言いなりで全然関係ない経済学部へ通ってる。
だから、侑李さんからのアドバイスがとても嬉しかった。
普通は自分でたどり着ける結論だったんだとしても、ボクは思いつかなかったんだから…
「俺はそろそろ帰るけど、キミはどうする?」
「もうちょっとだけ、この辺りの本を見てみる」
「そっか、それじゃ…」
「ん?」
目の前を、栄養100%採るための『栄養学の基本』を持った、高身長が横切った。
「彗さーん!」
「彗!お前、気づいてただろ?」
そのまま抜けていこうとするのを二人で引き留める。
「いや、なんか…お取込み中だったみたいなんで、つい」
ライトグレーの薄手のパーカーに、ダメージ加工のブラックジーンズ、そこにパイピングジャケットを羽織るというなかなか高度な着こなしだ。
「つい――別の通りに回り込むのも面倒くさいから、そのまま気づかれないで通過できないかなーって思ったんだね?」
「はい」
侑李さんの質問に、素直に頷く彗さん。
「まったく…その目立つ見た目でどうやって気づかれないと思えるんだか」
「そうだよー!マンガで言うところの、学園のイケメン四天王の一人みたいな見た目しておいて、無理があるよっ!オーラで気づいちゃうよ」
「オーラ?」
ん?と首をかしげる姿も絵になるんだ、チクショウ!高身長のイケメンめ!けしからんっ!!
「ところで、栄養学ということは新商品のヒントにでもしようと?」
「いや、幸人さんのご飯に、役に立つかなって思って」
「な…まえ呼び?」
なんだか衝撃を受けた様子の侑李さん。
「そういえば、なんか皆、吾川さんのこと苗字で呼んでたね?なんで?」
「ああ、それは…あんまり名前を呼ばれたくないって言われてね、吾川はちょっと家庭環境複雑だからなぁ。本人が話す気になったら、大樹にも話してくれると思う」
そんな風に言いながら、ちらっと侑李さんは彗さんを見る。
その視線に気づいて、彗さんは、本を持ってるのと逆の手のひらで、自分の胸にポンッと手を当てて誇らしげに言う。
「だって、オレは幸人さんの内側だから」
侑李さんの「は?」と、ボクの「へ?」が同時だった。
内側…とは??と、頭に?を並べたボクたちを置き去りに、
彗さんはボクに目線を落として尋ねてくる。
「そういえば、パン食べた?」
「え?パン??」
何のことか分からず、更に?が頭に浮かぶ。
「あれ?おかしいな、幸人さんが花屋に持って行ったと思ったけど」
「花屋…翼のところ?あーっ、今日は翼に会ってないんだ」
「あ、そうなんだ…」
ちょっとガッカリしたみたいな彗さんは、確かパン職人さんだ。
「もしかして、そのパンって彗さんの手作り?」
「そう」
「待ってて!」
ボクはスマホを取り出して、翼に電話を掛ける。
数コールで電話を翼が受けてくれた。
「あ!翼~?パン、まだある??」
ボクは驚かせたくて、そうやって第一声を放つ。
「なんで知ってるの?」って返ってくると思ったら、「ごめん!」から始まった翼の言葉。
「え?なんで?――うん、うん…え?吾川さん?うん、で?薫さんが?――ええっ!?咲夜さんが?うんうん――…」
通話が終わったボクに二人の視線が集まった。
「えーっと、なんかね、吾川さんが花屋にパンを届けてくれたときに、たまたま薫さんが来てて、なんか良くわかんないけど流れで神社に行くことになって、今、咲夜さんとカラオケに居るって」
要領を得ないボクの説明に、侑李さんが助け舟を出してくれる。
「まず、吾川が花屋に行ったのはパンを届けるためなのは分かった、薫はなんで花屋に行ったんだ?」
「分かんない。たまたま来たってだけ聞いた」
「まあ、じゃあ、たまたま3人が揃って?なんで神社に行くことに?」
「なんか、筑波 舞耶ちゃんと河合 美姫ちゃん…邪の女?が、友達だったって話になって、美姫ちゃんの方がまだ行方不明だから、何か知らないか咲夜さんに聞きに行ったって」
「なるほどねぇ…で、なぜ今カラオケに?」
「部屋の防音が皆無だから、落ち着いて話せる場所を確保するためだって」
「なんとなく、流れは分かったよ、ありがとう」
侑李さんは、ポンっと肩に手を置いてお礼を言ってくれた。
「でね、もしよかったらボクも来ないかって誘ってくれたんだけど…二人もせっかくだし、一緒に行かない?」
「さっき、それ伝えた?」
彗さんが的確な所を突っ込んでくる。
「あ…忘れてた」と、ポンコツぶりを発揮するボクに、肩に置いたままだった手をポンポンとして、侑李さんがニイッと口の端を上げて笑う。
「まあ、いいんじゃない?驚かせちゃおう」
その時の表情が、なんだかとっても黒王子で、ボクはちょっとときめきを隠せなかった。
「どこのカラオケ屋?」なんて聞いてくる彗さんは、意外としっかり者なのかも?
「ここの東口の方にあるとこ」
「え、ここの?花屋から3駅あるじゃん、幸人さんどうやって移動したんだろう」
「薫が車だろうから、それで移動したんじゃない?」
「ああ、なるほど」
最初に、侑李さんに渡された資格の本を胸の前に抱える。
「じゃあ、本を買ったら3人で行こう!」
「だね、そろそろ腕が痛くなってきた」
流石に長時間、あの重たい本たちを抱えていた侑李さんが持ち手を変えて腕を振った。
「そういえば、大樹もなんでわざわざこんな遠くの本屋にきたの?」
彗さんが、不思議そうに尋ねてくる。
「大学が1駅前にあって…ここの品揃えの傾向、ちょっと他と違うから時々来てるんだ」
「へえー、本屋によって品揃えの傾向とかあるんだ?」
「あるよ!大学近くの本屋にない本が入荷してあったりするの、嬉しいよねー」
「オレは比較したことないからなぁ…でも、そうなんだ」
「俺の欲しい本も、他では取り扱いがない時があって、そういうときはここに来ているよ」
侑李さんも同意してくれているのか、そう言って援護射撃を送ってくれた。
「まあ、逆に…どこにでもある本が、ここにはなかったりする場合もある」
「あ!わかるー」
そんなことを言いながらレジに並んで、ボクは一番に会計を終わらせた。
自動ドアを潜って、外の通りで二人を待っていると、ゾクッと気配を感じる。
(なに!?ヤな感じ!)
猫が毛を逆立てるみたいに、ふうぅって息を吐く。
注意深く通りをキョロキョロと眺めると…
――居たっ!
カフェで、チラッと1回見かけただけ。
長い黒髪の少女ってことしか記憶にないけど…
トラック事故の時に感じた、この独特のイヤな感じ!
たぶん彼女が邪の女――河合 美姫ちゃん。
「お待たせしたね」と侑李さんが言って
「行こうか」と、その後から彗さんの声
だけど、ボクは目線は向けず、声だけで応える。
「ボクは行き先変更かも!河合 美姫ちゃん発見」
「――なんだって?じゃあ俺もお供するよ」と、侑李さんが隣に立つ。
「もちろん、一緒に行くよ」反対側には彗さんが並んだ
目の前の信号が青に変わる。
ボクを先頭に3人で駆け出した。
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かわいみきはっけん、
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