2 / 6
第1章 異界の乙女と蒼の騎士
02.一難去ってまた一難
しおりを挟む
たーすーけーてー!
心の中で大絶叫。
一難去ってまた一難。さっきは怪物、今はイケメンに命狙われてます。
お空には大きなお月様。見渡す限りの草原の、真ん中突っ切る小さな街道。
ただひたすらに、闇雲に、前へ前へと爆走中。
「メイコ様。最後まで話を聞いて下さい」
でーーーたーーー!
なんでどうして? あんだけ走ったのに、なぜ前に現れるのよ、ユリエル。
色からして涼しげな蒼い騎士は、柔らかな微笑みを浮かべた。
うん、怖い。かなり怖い。
本当に優しげな表情で、見ていると信じられそうな気がしてくるから。
でもね。
この顔で、この笑みで、『命をいただきます』ってさらっと言ったんだよ、この人。
「私も核心から申し上げてしまったので、混乱するのも当然ですけれど、ひとまず落ち着いていただけますか」
「命を狙ってる人の前で落ち着ける程、人生捨ててないんです」
「いえいえ。なかなか冷静でいらっしゃる」
このわたしのどこが落ち着いていると言うのか。
もしそう見えるなら、あまりに非現実的な状況で、感覚が麻痺してしまったに違いない。
密かに周りに目を配る。
逃げられそうな場所、隠れる事ができそうな場所はないか、必死に探す。
「申し訳ありません。少々酷い申し上げ方ですが、どこに逃げても無駄ですよ」
「……理由を聞いてもいいですか?」
「はい、メイコ様。貴女が指輪をはめている限り、私は貴女がどちらにいらっしゃるか分かります。また先ほど貴女を助けたように、瞬時にお側へ移動する事もできます」
なにそれ、どんだけ便利機能。
いや、この場合、わたしは鎖に繋がれた哀れな生け贄ってことじゃない。
そうだ! 指輪を外してしまえば!
って、うん、外れない。何となく予想してたけど。
「はい。ご想像の通り、一度契約すれば指輪は外せません」
ですよねー。
腰が抜けそう。ついでに怪物に追われた時から走りっぱなしで、膝が小刻みに震えてる。
どうしたらいい。この状況。
救いは、ユリエルが問答無用で命を取りにきてないってことだけ。
落ち着け。落ち着け、わたし。
ここまで来たら、考えるしかできない。
「さて、落ち着かれたようなので、話を始めますね」
そう見えるなら、上々です。
「私達、精霊騎士は指輪の持ち主に呼ばれ、名を交わす事で契約をします。先ほど申し上げた通り、マスターの願いを叶える代わりに命をいただく契約です」
やっぱり変わらないじゃない。
彼はわたしの命を狙ってる。
警戒心が表情に出たのか。ユリエルは一呼吸置いて、また優しげな笑みを浮かべた。
大丈夫。懐柔なんてしなくたって、最後まで聞くわ。
「ただし、2つ条件があるのです」
条件?
「1つは、精霊騎士は願い事を3つ叶えなければならない、という事。願い事1つ叶えて、ハイ命いただきますでは、さすがにどこの詐欺師か悪徳商人かと言うレベルですからね」
ちょっとほっとする。とりあえず今すぐ殺される訳ではなさそう。
願い事3つかぁ。なんかこの数字っておとぎ話の定番ね。なんで3つなんだろ。
いやいや、考える所そこじゃない。
3つだってかなりリスキーだよね?
願い事の質にもよるじゃない。質問してもいいですか? の一言で願い事認定されたらどうするの?
……まずい。わたしもう3つ突破してない?
「えっと、どの程度の願い事がカウント対象なんですか?」
「私達精霊騎士でなくては叶えられない願い事、が基準ですね。ですから安心して下さい。先ほどの戦いは願い事には入りませんよ。申し上げたでしょう。精霊騎士がマスターを守るのは当然です」
ましてあの時は呼び出されただけですから。とユリエルはすごく柔らかに目を細めた。
本当に優しそう。名前もそれっぽいし、まるで天使か精霊か。
……精霊騎士だっけ。
うう、ダメったらダメ。まだまだ信用してはいけない。
命取られます。取ろうとしてるんです。この人は死神なんです。
そう考えたら、ユリエルには悪いけど、悪魔の微笑みにも見えてきた。
よし、精神攻撃抵抗強化終了。オッケー、冷静になりました。
どんどん話を聞きましょう。
「もう一つはある対価を渡した場合。それは私達、精霊騎士にとってマスターの命に匹敵するモノなので契約が成立します」
なんかいい感じの言葉が来ました!
そこのところ詳しくお願いします。
「その対価ってなんですか?」
「精霊騎士が望むもの、です。精霊騎士は10人いますが、それぞれ強烈に欲しているものがあります。それをいただけるのなら、願い事をいくつ叶えたって超過労働なんて思わないでしょうね」
「そんなに!?」
「はい。望みを得た精霊騎士はそれほどいないのですが、例えばマスターが生きている間まるで夫のように添い遂げ、尽くし続けた者もいますよ」
……うわぁ、どんだけすごい望みなんだろ。
人の命と引き換えの願いを叶えることができる精霊騎士が、望んでも得られないものかぁ。
うん、無理っぽい。そんなもの、どうやって手に入れるの?
「ちなみに、ユリエルさんの望むものは何ですか?」
「私ですか? あー、えーっと。その、申し上げにくいのですけど……」
おお? 初めての反応だよ。ちょっと赤くなっちゃったり。
慈愛を通り越して、慇懃無礼の境界線に届きそうだった優しい微笑みと全然違いますよ。
なんか興味でてきた。ユリエルの望みって何だろう。
「実は無いんですよね」
「はい?」
「恥ずかしながら、精霊騎士のくせに強烈な望みが無いんです」
ない? ゼロ? ナッシング?
なにそれ、嘘でしょ。
結局、私にチャンスはないの?
願い事3つ叶えたら、即死神にジョブチェンジするのね、ユリエル。
そんなお先真っ暗なわたしに、蒼い騎士はさらりと言った。
「ですから私の望みを探すこと。それが私の望みです」
これは闇夜を照らす、微かなロウソクの火?
それとも最後の希望もかき消す、冷たいすきま風?
簡単なのか難しいのか分からない彼の望みに、わたしはますますパニクった。
心の中で大絶叫。
一難去ってまた一難。さっきは怪物、今はイケメンに命狙われてます。
お空には大きなお月様。見渡す限りの草原の、真ん中突っ切る小さな街道。
ただひたすらに、闇雲に、前へ前へと爆走中。
「メイコ様。最後まで話を聞いて下さい」
でーーーたーーー!
なんでどうして? あんだけ走ったのに、なぜ前に現れるのよ、ユリエル。
色からして涼しげな蒼い騎士は、柔らかな微笑みを浮かべた。
うん、怖い。かなり怖い。
本当に優しげな表情で、見ていると信じられそうな気がしてくるから。
でもね。
この顔で、この笑みで、『命をいただきます』ってさらっと言ったんだよ、この人。
「私も核心から申し上げてしまったので、混乱するのも当然ですけれど、ひとまず落ち着いていただけますか」
「命を狙ってる人の前で落ち着ける程、人生捨ててないんです」
「いえいえ。なかなか冷静でいらっしゃる」
このわたしのどこが落ち着いていると言うのか。
もしそう見えるなら、あまりに非現実的な状況で、感覚が麻痺してしまったに違いない。
密かに周りに目を配る。
逃げられそうな場所、隠れる事ができそうな場所はないか、必死に探す。
「申し訳ありません。少々酷い申し上げ方ですが、どこに逃げても無駄ですよ」
「……理由を聞いてもいいですか?」
「はい、メイコ様。貴女が指輪をはめている限り、私は貴女がどちらにいらっしゃるか分かります。また先ほど貴女を助けたように、瞬時にお側へ移動する事もできます」
なにそれ、どんだけ便利機能。
いや、この場合、わたしは鎖に繋がれた哀れな生け贄ってことじゃない。
そうだ! 指輪を外してしまえば!
って、うん、外れない。何となく予想してたけど。
「はい。ご想像の通り、一度契約すれば指輪は外せません」
ですよねー。
腰が抜けそう。ついでに怪物に追われた時から走りっぱなしで、膝が小刻みに震えてる。
どうしたらいい。この状況。
救いは、ユリエルが問答無用で命を取りにきてないってことだけ。
落ち着け。落ち着け、わたし。
ここまで来たら、考えるしかできない。
「さて、落ち着かれたようなので、話を始めますね」
そう見えるなら、上々です。
「私達、精霊騎士は指輪の持ち主に呼ばれ、名を交わす事で契約をします。先ほど申し上げた通り、マスターの願いを叶える代わりに命をいただく契約です」
やっぱり変わらないじゃない。
彼はわたしの命を狙ってる。
警戒心が表情に出たのか。ユリエルは一呼吸置いて、また優しげな笑みを浮かべた。
大丈夫。懐柔なんてしなくたって、最後まで聞くわ。
「ただし、2つ条件があるのです」
条件?
「1つは、精霊騎士は願い事を3つ叶えなければならない、という事。願い事1つ叶えて、ハイ命いただきますでは、さすがにどこの詐欺師か悪徳商人かと言うレベルですからね」
ちょっとほっとする。とりあえず今すぐ殺される訳ではなさそう。
願い事3つかぁ。なんかこの数字っておとぎ話の定番ね。なんで3つなんだろ。
いやいや、考える所そこじゃない。
3つだってかなりリスキーだよね?
願い事の質にもよるじゃない。質問してもいいですか? の一言で願い事認定されたらどうするの?
……まずい。わたしもう3つ突破してない?
「えっと、どの程度の願い事がカウント対象なんですか?」
「私達精霊騎士でなくては叶えられない願い事、が基準ですね。ですから安心して下さい。先ほどの戦いは願い事には入りませんよ。申し上げたでしょう。精霊騎士がマスターを守るのは当然です」
ましてあの時は呼び出されただけですから。とユリエルはすごく柔らかに目を細めた。
本当に優しそう。名前もそれっぽいし、まるで天使か精霊か。
……精霊騎士だっけ。
うう、ダメったらダメ。まだまだ信用してはいけない。
命取られます。取ろうとしてるんです。この人は死神なんです。
そう考えたら、ユリエルには悪いけど、悪魔の微笑みにも見えてきた。
よし、精神攻撃抵抗強化終了。オッケー、冷静になりました。
どんどん話を聞きましょう。
「もう一つはある対価を渡した場合。それは私達、精霊騎士にとってマスターの命に匹敵するモノなので契約が成立します」
なんかいい感じの言葉が来ました!
そこのところ詳しくお願いします。
「その対価ってなんですか?」
「精霊騎士が望むもの、です。精霊騎士は10人いますが、それぞれ強烈に欲しているものがあります。それをいただけるのなら、願い事をいくつ叶えたって超過労働なんて思わないでしょうね」
「そんなに!?」
「はい。望みを得た精霊騎士はそれほどいないのですが、例えばマスターが生きている間まるで夫のように添い遂げ、尽くし続けた者もいますよ」
……うわぁ、どんだけすごい望みなんだろ。
人の命と引き換えの願いを叶えることができる精霊騎士が、望んでも得られないものかぁ。
うん、無理っぽい。そんなもの、どうやって手に入れるの?
「ちなみに、ユリエルさんの望むものは何ですか?」
「私ですか? あー、えーっと。その、申し上げにくいのですけど……」
おお? 初めての反応だよ。ちょっと赤くなっちゃったり。
慈愛を通り越して、慇懃無礼の境界線に届きそうだった優しい微笑みと全然違いますよ。
なんか興味でてきた。ユリエルの望みって何だろう。
「実は無いんですよね」
「はい?」
「恥ずかしながら、精霊騎士のくせに強烈な望みが無いんです」
ない? ゼロ? ナッシング?
なにそれ、嘘でしょ。
結局、私にチャンスはないの?
願い事3つ叶えたら、即死神にジョブチェンジするのね、ユリエル。
そんなお先真っ暗なわたしに、蒼い騎士はさらりと言った。
「ですから私の望みを探すこと。それが私の望みです」
これは闇夜を照らす、微かなロウソクの火?
それとも最後の希望もかき消す、冷たいすきま風?
簡単なのか難しいのか分からない彼の望みに、わたしはますますパニクった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる