たすけて! 指輪の騎士様!

阿都

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第1章 異界の乙女と蒼の騎士

02.一難去ってまた一難

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 たーすーけーてー!
 心の中で大絶叫。
 一難去ってまた一難。さっきは怪物、今はイケメンに命狙われてます。
 
 お空には大きなお月様。見渡す限りの草原の、真ん中突っ切る小さな街道。
 ただひたすらに、闇雲に、前へ前へと爆走中。
 
「メイコ様。最後まで話を聞いて下さい」

 でーーーたーーー!
 なんでどうして? あんだけ走ったのに、なぜ前に現れるのよ、ユリエル。
 色からして涼しげな蒼い騎士は、柔らかな微笑みを浮かべた。
 
 うん、怖い。かなり怖い。
 本当に優しげな表情で、見ていると信じられそうな気がしてくるから。
 でもね。
 この顔で、この笑みで、『命をいただきます』ってさらっと言ったんだよ、この人。
 
「私も核心から申し上げてしまったので、混乱するのも当然ですけれど、ひとまず落ち着いていただけますか」
「命を狙ってる人の前で落ち着ける程、人生捨ててないんです」
「いえいえ。なかなか冷静でいらっしゃる」

 このわたしのどこが落ち着いていると言うのか。
 もしそう見えるなら、あまりに非現実的な状況で、感覚が麻痺してしまったに違いない。
 
 密かに周りに目を配る。
 逃げられそうな場所、隠れる事ができそうな場所はないか、必死に探す。
 
「申し訳ありません。少々酷い申し上げ方ですが、どこに逃げても無駄ですよ」
「……理由を聞いてもいいですか?」
「はい、メイコ様。貴女が指輪をはめている限り、私は貴女がどちらにいらっしゃるか分かります。また先ほど貴女を助けたように、瞬時にお側へ移動する事もできます」

 なにそれ、どんだけ便利機能。
 いや、この場合、わたしは鎖に繋がれた哀れな生け贄ってことじゃない。
 
 そうだ! 指輪を外してしまえば!
 って、うん、外れない。何となく予想してたけど。
 
「はい。ご想像の通り、一度契約すれば指輪は外せません」

 ですよねー。
 
 腰が抜けそう。ついでに怪物に追われた時から走りっぱなしで、膝が小刻みに震えてる。
 どうしたらいい。この状況。
 救いは、ユリエルが問答無用で命を取りにきてないってことだけ。
 
 落ち着け。落ち着け、わたし。
 ここまで来たら、考えるしかできない。
 
「さて、落ち着かれたようなので、話を始めますね」

 そう見えるなら、上々です。
 
「私達、精霊騎士は指輪の持ち主に呼ばれ、名を交わす事で契約をします。先ほど申し上げた通り、マスターの願いを叶える代わりに命をいただく契約です」

 やっぱり変わらないじゃない。
 彼はわたしの命を狙ってる。
 
 警戒心が表情に出たのか。ユリエルは一呼吸置いて、また優しげな笑みを浮かべた。
 大丈夫。懐柔なんてしなくたって、最後まで聞くわ。

「ただし、2つ条件があるのです」

  条件?

「1つは、精霊騎士は願い事を3つ叶えなければならない、という事。願い事1つ叶えて、ハイ命いただきますでは、さすがにどこの詐欺師か悪徳商人かと言うレベルですからね」

 ちょっとほっとする。とりあえず今すぐ殺される訳ではなさそう。
 
 願い事3つかぁ。なんかこの数字っておとぎ話の定番ね。なんで3つなんだろ。
 いやいや、考える所そこじゃない。
 3つだってかなりリスキーだよね?
 願い事の質にもよるじゃない。質問してもいいですか? の一言で願い事認定されたらどうするの?
 ……まずい。わたしもう3つ突破してない?

「えっと、どの程度の願い事がカウント対象なんですか?」
「私達精霊騎士でなくては叶えられない願い事、が基準ですね。ですから安心して下さい。先ほどの戦いは願い事には入りませんよ。申し上げたでしょう。精霊騎士がマスターを守るのは当然です」

 ましてあの時は呼び出されただけですから。とユリエルはすごく柔らかに目を細めた。
 
 本当に優しそう。名前もそれっぽいし、まるで天使か精霊か。
 ……精霊騎士だっけ。
 うう、ダメったらダメ。まだまだ信用してはいけない。
 
 命取られます。取ろうとしてるんです。この人は死神なんです。
 
 そう考えたら、ユリエルには悪いけど、悪魔の微笑みにも見えてきた。
 よし、精神攻撃抵抗強化終了。オッケー、冷静になりました。
 どんどん話を聞きましょう。

「もう一つはある対価を渡した場合。それは私達、精霊騎士にとってマスターの命に匹敵するモノなので契約が成立します」

 なんかいい感じの言葉が来ました!
 そこのところ詳しくお願いします。

「その対価ってなんですか?」
「精霊騎士が望むもの、です。精霊騎士は10人いますが、それぞれ強烈に欲しているものがあります。それをいただけるのなら、願い事をいくつ叶えたって超過労働なんて思わないでしょうね」
「そんなに!?」
「はい。望みを得た精霊騎士はそれほどいないのですが、例えばマスターが生きている間まるで夫のように添い遂げ、尽くし続けた者もいますよ」

 ……うわぁ、どんだけすごい望みなんだろ。
 人の命と引き換えの願いを叶えることができる精霊騎士が、望んでも得られないものかぁ。
 うん、無理っぽい。そんなもの、どうやって手に入れるの?

「ちなみに、ユリエルさんの望むものは何ですか?」
「私ですか? あー、えーっと。その、申し上げにくいのですけど……」

 おお? 初めての反応だよ。ちょっと赤くなっちゃったり。
 慈愛を通り越して、慇懃無礼の境界線に届きそうだった優しい微笑みと全然違いますよ。
 なんか興味でてきた。ユリエルの望みって何だろう。
 
「実は無いんですよね」
「はい?」
「恥ずかしながら、精霊騎士のくせに強烈な望みが無いんです」

 ない? ゼロ? ナッシング?
 なにそれ、嘘でしょ。
 結局、私にチャンスはないの?
 願い事3つ叶えたら、即死神にジョブチェンジするのね、ユリエル。
 
 そんなお先真っ暗なわたしに、蒼い騎士はさらりと言った。
 
「ですから私の望みを探すこと。それが私の望みです」

 これは闇夜を照らす、微かなロウソクの火?
 それとも最後の希望もかき消す、冷たいすきま風?
 
 簡単なのか難しいのか分からない彼の望みに、わたしはますますパニクった。
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