たすけて! 指輪の騎士様!

阿都

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第1章 異界の乙女と蒼の騎士

03.小さな希望と失望と

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 さてさて。
 とんでもない状況ですが、なにもしないで現実逃避もできません。
 とにかくともかく、ひとまず落ち着きたいのです。
 
「ここからすぐ近くに小さな町があります。そこなら宿もあるでしょう」

 ユリエルはもはや脳裏に焼き付くほど何度も見た優しい笑顔を浮かべて言った。
 いやもうホントにこの笑顔だけはマズいです。
 だって,問答無用に信じたくなるんだもの。
 ……!?
 もしかしてチャーム? ゲームだったら必ずでてくる魅了の魔法なの?
 
「……失礼ですが,何か面白おかしいことをお考えではありませんか?」
「いえ、なんでもないんです」

 わたしはあわてて誤摩化した。
 
 でもそっか、チャームかぁ。
 うん、ありうる。
 そう。そうだったの!
 この騎士は魅了の魔法でわたしをいいくるめて、あわよくば命を取ろうとしてるのよ!
 
 ……って、ちょっと無茶があるかなぁ。
 それだったらとっくに三途の川を眺めていてもおかしくないよね。
 
「メイコ様。やはり何かお考えでしょう」
「……なんでそう思うんですか?」
「さっきから百面相されてます」
「ええ?」

 ウソ! ホントに?
 わたしそんなに顔に出てるの?

「メイコ様は策略ですとか誘導ですとか、とにかく人を操るような術はあまりお考えにならない方が良さそうですね」

 ユリエルは笑うでもなく蔑むでもなく、なんともいえない優しい目をして語りかけてくる。
 ううーん。言葉と表情が一致してないよ。
 わたしのことをおバカといってるも同然だと思うのだけど。

「……貴女のような方がマスターで、私は嬉しいです」

 それは、あれなの!?
 騙しやすそうとか。扱いやすそうとか、そういう意味なの!?
 
 なんだか納得いかなくて、頬が膨らむ。
 あ、ホントに顔に出やすいや。
 今まで気がつかなかった。真希ちゃんも優ちゃんもひどいよね。教えてくれなかったよ、そんなこ……。
 ……言われてました。そうでした。
 
『芽衣子は分かりやすいよねー!』

 が口癖でした。そういえば。
 
「とにかく夜もふけて参りました。私は平気ですが、メイコ様には休息が必要です。急ぎ町を目指しましょう」
「そ、そうですね。でも」
「でも?」
「……わたし、お金なんて持ってないんですけど」

 ここがどこかは分からないけど、わたしが知ってる日本じゃないのは絶対。
 だとすると、当然今持ってるお金も使えないはず。

「……メイコ様。こう申し上げるのも失礼ですが、貴女は私を何だと思っていらっしゃるのですか?」
「え、えっと指輪の騎士……様?」
「様はいりません。貴女は私のマスターなのですから。精霊は人間とは友好関係をもっていて、世界の行き来もできます。自ずと貨幣も流通します」
「!」
「貴女がどう思っているにせよ、私は精霊騎士。人間界の貨幣も持っていますよ。それも人間の基準でいえばかなりの富豪になるでしょうね」

 わたしはこくこく頷いた。
 ユリエルは分かっていただけましたか? と困ったように笑っていたけど。
 違います。お金のことじゃありません。
 確かに安心はしたけど、注目するところはそこじゃない!
 
 言ったよね、今。『世界の行き来』って!
 
 詳しいことはまだ分からないけど、もし『世界の行き来』がただの移動じゃなくって、『異世界の移動』なら。
 もしそうなら。
 日本に帰るヒントがそこにあるのかもしれない!
 
 よし、まずはともかく、ユリエルのいう通り休息をとって。
 その後、お互いのことをもっと話し合うべきよね。
 そうよそうよ!

「じゃ、まずはその町を目指しましょう」
「はい。では参りましょうか」

 ユリエルは颯爽と歩きはじめた。しっかりわたしをかばいつつ、歩調も合わせて。
 ちょっと唖然。ホント、思いもしなかったよ。
 颯爽って言葉が似合う振る舞いができる人って現実にいるのね。
 ……あ、人じゃないか。精霊か。
 
 満月がちょうど天の真ん中で、静かで優しい光を注ぐ。
 怪物に襲われていたときは、この光がどれだけ冷たく見えたことだろう。
 わたしは隣を歩く精霊騎士を時々見上げながら、ほんのちょっとだけ安心していることに気がついていた。
 
 ホントはダメだと分かっている。
 この騎士はいつ死神に転職するかわからないのだから。
 簡単に心許してはいけないって、理性は語りかけてくるけれど。

 でも、やっぱり誰かが側にしてくれることが嬉しかった。

 蒼い鎧の精霊騎士、ユリエル。
 彼が信じられるのかどうか、まだ分からないけど。
 今の私が頼れるのは、彼だけなんだ。
 
 小さな安心と不安が伝わったのか。
 ユリエルはふと心を解きほぐすような優しい笑みを見せた。
 
 ……この笑顔、本気でヤバいです。ホントもうどうしたら。
 
 
 そんなこんなで、休み休み30分ほど歩いただろうか。
 土壁とかがり火と、そして衛兵が二人佇む門の前に到着したわたしは。

「今日はもう閉門した。明日の朝、出直すがいい」

 無情の言葉にあいた口が塞がらなかった。
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