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第1章 異界の乙女と蒼の騎士
06.迷子のわたしと乙女の恥じらい
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さてさて。
わたしは一体どこにいるのでしょうか。
ユリエルはこの町のことを小さいと言っていたような気がするけれど、そんなことないと思う。
だって、大通りの角を4、5回ぐらいしか曲がってないはずなのに、ここがどこだかさっぱり分からないんだもの。
そこそこ広くて複雑でないと、こうはならないよね。
建物の外見もみんなレンガ造りで似通ってるから、目印が少なくってさらに混乱するというか。
迷子なんて何年ぶりかなー。
しかも、異世界っぽいところで迷子かー。
……うん、わたしのバカ。
なんで宿から出ちゃったかなー。20分ほど前のわたし。
といっても、そうせざるを得なかった、といいますか。
いきなり怪しい男たちが来ている、って宿の人に言われれば、逃げるしかないと思うのです。
どこか宿の近くでほとぼりが冷めるまで隠れていようかな、とも考えたんだけど、こう、なんていうか、宿の裏とか大通り以外の暗がりの雰囲気が悪いんだよね。
足を踏み込んだ途端に、ナイフつきつけられそうな感じというか。
根拠はないんだけど……。
結局、わたしは怖いんだと思う。
だって、わたしが知っている常識って、この世界でどこまで通用するか分からないもの。
犬頭の怪物だとか、指輪の精霊騎士だとか、魔法だとか。
昨晩の門前払いだってそう。
あの状況でなにも事情を聞かれることもなく、簡単に追い返されるとは思ってもみなかった。
ユリエルの言葉を思い出す。
『貴女を護るためにも、貴女のことをきちんと知らなければならない、と思うのです』
それは、そのままわたしにも言えることだ。
わたしはわたしを守るためにも、この世界のことをきちんと知らなくてはならない。
でも、今はなによりもまず、逃げなくちゃ!
宿の人に誘導されて玄関とは別の入口から抜けだしたんだけど、外に見張りがいてすぐに見つかっちゃった。
なんだか相手も地理に詳しくないようで右往左往しているから、今のところなんとか逃げのびてる。
でも、あたしはそんなに運動神経が良くない。今まで受けた運動力テストや持久走はちょうどぴったり平均ぐらいだ。今に絶対追いつかれる。
ユリエルを召喚できるようになるまで、あと1時間ぐらい。わたしの腕時計がこの世界の時間単位と一緒なら、だけど。
あ、そっか。だからユリエルは「夕暮れ」って言い直したんだ!
今、太陽はだいぶ傾いてきているから、うん。時間についてはそんなに違いはなさそう。
あとは、ひたすら逃げるしかないけれど……。
「あら、貴女。こんなところにいたのね。まったくあの人達、使えないったらないわ……」
うん、もう自分の運の悪さにめまいがしそうだよ。
そもそもこんな世界に飛び込んでいる時点で、悪いなんてもんじゃないけどね。
目の前には、ウェーブがかかった金髪とエメラルドグリーンの瞳がとても印象的な女性がいる。
ヴィクトリア朝時代の貴族が着るようなドレスは、瞳の色に合わせた深い緑色。白いフリルで飾られていて、豪華だけど品がいい感じ。さしている日傘もすごく綺麗な刺繍が施されてる。
はっきり言って美少女だよ。フランス人形のような、って表現が似合う人が現実にいるなんて思わなかった。
日本の常識でもこんなに凝視するのって失礼だと思う。
でもね、無理無理。視線が吸い寄せられちゃうんだよ。
もしこの世界の身分制度が、わたしの世界の中世のように厳しいなら、わたしは即お縄になってしまうんじゃないかな。そう思うぐらいには不躾に見続けていた。
でも金髪碧眼の美少女は気にしていないらしい。
……いや、気にしている方向が違うみたい。
だって、彼女。さっきからわたしの右手の薬指ばかりみている。
「なるほど。精霊騎士のマスターというのは本当なのね」
数度頷き、彼女はやっとわたしの方を見た。
うわぁ。色だけじゃなくて輝きまで宝石のような瞳。
エメラルド姫、って直球なニックネームが頭のなかでこだましてる。
取り乱すわたしをよそに、美少女は軽く会釈をして名乗ってきた。
「はじめまして、蒼の精霊騎士のマスター。私はカティア。モンフォール伯ダニエルが次女よ。お見知り置きを。そして……」
ゆっくりと左手の白い手袋をとって、中指にはめている指輪を見せる。添えた右の指先が、真紅の宝石をゆっくりと撫で上げた。
燃え上がる炎のような赤い光がわたしと彼女の間に立ち昇り、瞬く間に人の形をとる。
そこには、鈍い銅色の鎧と大きな盾を身に着け、豊かな赤毛をなびかせた男性が、おおらかな笑顔を浮かべて立っていた。
身体の厚みがすごい。まさに筋骨隆々といった感じ。
「彼はオーギュスト。紅の精霊騎士よ」
「ふむ。お嬢さんがあのユリエルのマスターか。よろしくな」
わたしは二人を交互にみやり、とりあえずニッコリ笑って会釈をして。
「はじめまして。わたしはヤチバナメイコと申します。それでは後日改めてご挨拶に伺いますね、ごきげんようー」
きびすを返して逃げようとして、あっという間に捕まりました。
「おいおい。いきなりトンズラとか、思い切りがいいんだか考え無しなのか。精霊騎士のマスターが、精霊騎士の実力を理解していないのか?」
「なんだか事情がありそうよね。まぁいいわ。オーギュスト、貴方の話だと蒼の騎士を召喚できるようになるまでもう少しかかるのでしょう? 今のうちに場所を変えましょうか」
もうさ。どうしようもないのは分かったし、すぐに生命をとられるって感じでもないから覚悟を決めるしかないんだけどさ。
オーギュストさん、だっけ。
一応、花も恥じらう乙女のわたしを小脇に抱えるってどうなのよ?
わたしは一体どこにいるのでしょうか。
ユリエルはこの町のことを小さいと言っていたような気がするけれど、そんなことないと思う。
だって、大通りの角を4、5回ぐらいしか曲がってないはずなのに、ここがどこだかさっぱり分からないんだもの。
そこそこ広くて複雑でないと、こうはならないよね。
建物の外見もみんなレンガ造りで似通ってるから、目印が少なくってさらに混乱するというか。
迷子なんて何年ぶりかなー。
しかも、異世界っぽいところで迷子かー。
……うん、わたしのバカ。
なんで宿から出ちゃったかなー。20分ほど前のわたし。
といっても、そうせざるを得なかった、といいますか。
いきなり怪しい男たちが来ている、って宿の人に言われれば、逃げるしかないと思うのです。
どこか宿の近くでほとぼりが冷めるまで隠れていようかな、とも考えたんだけど、こう、なんていうか、宿の裏とか大通り以外の暗がりの雰囲気が悪いんだよね。
足を踏み込んだ途端に、ナイフつきつけられそうな感じというか。
根拠はないんだけど……。
結局、わたしは怖いんだと思う。
だって、わたしが知っている常識って、この世界でどこまで通用するか分からないもの。
犬頭の怪物だとか、指輪の精霊騎士だとか、魔法だとか。
昨晩の門前払いだってそう。
あの状況でなにも事情を聞かれることもなく、簡単に追い返されるとは思ってもみなかった。
ユリエルの言葉を思い出す。
『貴女を護るためにも、貴女のことをきちんと知らなければならない、と思うのです』
それは、そのままわたしにも言えることだ。
わたしはわたしを守るためにも、この世界のことをきちんと知らなくてはならない。
でも、今はなによりもまず、逃げなくちゃ!
宿の人に誘導されて玄関とは別の入口から抜けだしたんだけど、外に見張りがいてすぐに見つかっちゃった。
なんだか相手も地理に詳しくないようで右往左往しているから、今のところなんとか逃げのびてる。
でも、あたしはそんなに運動神経が良くない。今まで受けた運動力テストや持久走はちょうどぴったり平均ぐらいだ。今に絶対追いつかれる。
ユリエルを召喚できるようになるまで、あと1時間ぐらい。わたしの腕時計がこの世界の時間単位と一緒なら、だけど。
あ、そっか。だからユリエルは「夕暮れ」って言い直したんだ!
今、太陽はだいぶ傾いてきているから、うん。時間についてはそんなに違いはなさそう。
あとは、ひたすら逃げるしかないけれど……。
「あら、貴女。こんなところにいたのね。まったくあの人達、使えないったらないわ……」
うん、もう自分の運の悪さにめまいがしそうだよ。
そもそもこんな世界に飛び込んでいる時点で、悪いなんてもんじゃないけどね。
目の前には、ウェーブがかかった金髪とエメラルドグリーンの瞳がとても印象的な女性がいる。
ヴィクトリア朝時代の貴族が着るようなドレスは、瞳の色に合わせた深い緑色。白いフリルで飾られていて、豪華だけど品がいい感じ。さしている日傘もすごく綺麗な刺繍が施されてる。
はっきり言って美少女だよ。フランス人形のような、って表現が似合う人が現実にいるなんて思わなかった。
日本の常識でもこんなに凝視するのって失礼だと思う。
でもね、無理無理。視線が吸い寄せられちゃうんだよ。
もしこの世界の身分制度が、わたしの世界の中世のように厳しいなら、わたしは即お縄になってしまうんじゃないかな。そう思うぐらいには不躾に見続けていた。
でも金髪碧眼の美少女は気にしていないらしい。
……いや、気にしている方向が違うみたい。
だって、彼女。さっきからわたしの右手の薬指ばかりみている。
「なるほど。精霊騎士のマスターというのは本当なのね」
数度頷き、彼女はやっとわたしの方を見た。
うわぁ。色だけじゃなくて輝きまで宝石のような瞳。
エメラルド姫、って直球なニックネームが頭のなかでこだましてる。
取り乱すわたしをよそに、美少女は軽く会釈をして名乗ってきた。
「はじめまして、蒼の精霊騎士のマスター。私はカティア。モンフォール伯ダニエルが次女よ。お見知り置きを。そして……」
ゆっくりと左手の白い手袋をとって、中指にはめている指輪を見せる。添えた右の指先が、真紅の宝石をゆっくりと撫で上げた。
燃え上がる炎のような赤い光がわたしと彼女の間に立ち昇り、瞬く間に人の形をとる。
そこには、鈍い銅色の鎧と大きな盾を身に着け、豊かな赤毛をなびかせた男性が、おおらかな笑顔を浮かべて立っていた。
身体の厚みがすごい。まさに筋骨隆々といった感じ。
「彼はオーギュスト。紅の精霊騎士よ」
「ふむ。お嬢さんがあのユリエルのマスターか。よろしくな」
わたしは二人を交互にみやり、とりあえずニッコリ笑って会釈をして。
「はじめまして。わたしはヤチバナメイコと申します。それでは後日改めてご挨拶に伺いますね、ごきげんようー」
きびすを返して逃げようとして、あっという間に捕まりました。
「おいおい。いきなりトンズラとか、思い切りがいいんだか考え無しなのか。精霊騎士のマスターが、精霊騎士の実力を理解していないのか?」
「なんだか事情がありそうよね。まぁいいわ。オーギュスト、貴方の話だと蒼の騎士を召喚できるようになるまでもう少しかかるのでしょう? 今のうちに場所を変えましょうか」
もうさ。どうしようもないのは分かったし、すぐに生命をとられるって感じでもないから覚悟を決めるしかないんだけどさ。
オーギュストさん、だっけ。
一応、花も恥じらう乙女のわたしを小脇に抱えるってどうなのよ?
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