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第2章「ほのぼの冒険者ライフ」

08,飲み会と決心

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 図書館で調べた結果。
 ラドル・エル・クレーフェは確かにこの世界にいる。

 貴族年鑑にしっかり名が記されていて、その経歴も俺が知っている通りだった。
 魔族戦争の資料にも、引退の身ながら戦術顧問として参加していたことが記されている。戦後は息子である現クレーフェ伯を手伝いつつも、領地で隠遁生活に入っているらしい。

 これで、とりあえずの目的はできた。

 彼らに会うことが、フラグになるのかは分からない。
 しかし、現在のところなんの手がかりもなく、ヴァクーナからのお告げもない以上、できることをやるしかないんだ。

 ヴァクーナは、俺の召喚転生が第一のフラグだと言った。
 『*****』に対応できる最低限の資格を持っている証だ、と。

 俺の存在が何かの鍵になるというなら、俺と関連性が深いものに当たってみるのも1つの手だと思う。

 この世界で俺と関係する何かがあるとしたら、それは前世界で俺と関わった人たちと異界同体である存在。
 107回目の世界と双界の関係にあるこの世界で、同じ運命を背負っているだろう人たちだ。

 共に魔王を倒したコリーヌ、ラドル、マーニャ。
 俺の剣を鍛えてくれた剣匠アダマス。
 そして、秘法術を指導してくれた大法術師デズモンド。
 とりあえず、この5人が挙がってくる。

 とは言っても、アダマスは少し存在が変わっているみたいだから、手がかりがない。

 デズモンドも探すのが難しい。
 というのも、前世界のデズモンドはもともと有名ではなかった。この世界でもまったく名前を聞かない。
 実力はそれこそシアやコリーヌすら手玉にとれるほどの法術使いだけれど、名が広がるのを極端に嫌っていたんだ。
 いくつもの偽名を持っていて、世界中を旅していた。俺が出会えたのはただの偶然。
 もし同じ性格だとすると、はっきり言ってどこにいるのか見当がつかない。

 結局、ラドルやコリーヌを探すほうが確実だ。


「ラドル殿について、か」

 チャドの家にブラムを招いて、酒でも酌み交わしながら話を聞いてみることにした。
 チャドはもちろん、イネスもいる。どうせなら皆で話したほうがいろいろ情報が集まりそうだし、たまには男同士で酒盛りもいいだろう。

「ふーん。カズマは貴族に興味があるんだ」

 ……なのに、なぜトリーシャがいるんだろうか。
 っていうか、女性陣も全員いる。完全にトリーシャパーティーの飲み会になっていた。

「いいじゃない。ザルバ種討伐の打ち上げもしていなかったし」

 ダメなの? と首を傾げつつ、鳥肉のフライを手に取るトリーシャ。

 まぁ、確かに問題があるわけじゃないんだけどさ。
 チャド宅の居間は広くて、7、8人ぐらいなら余裕でくつろげるし、ハリエットの料理はとてもうまいから、歓迎といえば大歓迎なんだけれど。
 男同士で気楽に飲むのもいいと思っただけだよ、うん。

 ちなみに、シアも料理が上手だ。
 意外だと言ったら、即座に法術ワイヤーでぐるぐる巻きにされました。ごめんなさい。

「貴族というより、知将っていわれたクレーフェ伯に興味があるんだよ」
「確かにあの方は素晴らしい知略の持ち主だが、知将という感じではなかったな」

 ブラムはいつものように、ジョッキを傾けつつ静かに話す。

「直接会ったことがあるのか?」
「ああ。一度だけ傭兵として、彼のもとで戦ったことがある」

 気さくな方だ。
 私たちが『クレーフェ様』などと呼ぼうものなら、豪快に笑って「戦場を離れたらラドルと呼べ。お主らは戦友じゃ」とおっしゃってくださった。
 戦場や訓練では鬼のように厳しかったが、一度その場を離れると、まるでただの先輩冒険者のようだったよ。貴族とはとても思えなかった。

 ブラムの思い出話に、トリーシャが感心したように頷く。

「へぇ。貴族にもそんな人がいるんだね」
「チャドさんみたいな方ですね」
「おいおい、ハリエット。男爵家から放り出された俺と、もとクレーフェ伯を比べるというのは、流石に無理があるぞ」

 チャドが苦笑いしている。
 でもなぁ。前世界のことではあるけれど、実際に一緒にいた俺から見ても、結構チャドはラドルに似てると思う。
 もちろん能力的にはタイプが違う戦士だけれど、豪快な割に気配り上手だったり、貴族出身なのに庶民的だったり。

「戦争途中で戦線から姿を消されたと聞いた。重傷を負われて後方に下がっただとか、戦死されたとか、密命を帯びて独自に動かれているのだ、とか。いろいろと噂話が広がったものだ」
「結局生きていて、今度こそ引退されたんだろ?」
「ああ。ラドル殿の領地は一時魔族に蹂躙されて、ひどい有様だったようだ。あの方のことだ。おそらく今も、朝から晩まで働かれているだろうな」

 ブラムの話からすると、この世界のラドルも、俺が知っている性格そのままに思える。
 しかも、戦争中にいなくなった、というのも気になるな。
 やはり魔王討伐に参加したのだろうか。

「……それでも貴族は貴族だろうが。オレは気に食わねぇな」
「イネスの貴族嫌いも半端ないわね」
「シアさんの法術好きとどっちが上だろう、って感じですもんね」
「ちょっと、ハリエット! そこ比べるとこじゃないから!」

 イネスを酒の肴にして、女性陣が盛り上がってるな。
 でも、そうか。なんとなく感じていたが、イネスは貴族が嫌いなのか。
 チャドのことは認めているようだけれど、他の人に比べるとちょっと距離を取っているイメージがあったもんな。

「……で、カズマ。お前はどうしたいんだ?」
「ん? いや、特になにもないよ。興味があっただけ」
「ふむ。そうか」

 ブラムは、ほんの少しだけ探るように俺を見た後、黙って酒を飲み続けた。
 本当に察しが良すぎて、恐ろしいよ。

「カズったらー。ちゃんと飲んでるー?」
「飲んでるよ。っていうか、シアは飲み過ぎじゃないか?」
「いーじゃない。ザルバ種討伐の打ち上げだしー。今度、カズと法術談義する前祝いだしー。ティーチが美味しいしー」
「なんだよ、その微妙な前祝いは! それより酒に弱いくせに飲み過ぎだって。帰れなくなるぞ!」
「ふふふー。カズとほうじゅつについてかたりあうの、すっごくたのしみー」
「ダメだ。これは完全に潰れる……」
「カズマ、もう諦めろ。トリーシャ、悪いが後で送ってやってくれ」
「はいはい。いつものことだから大丈夫よ」
「なんだよ、カズマ。泊めてヤればいいじゃねぇか」
「家主を前に変なこと言うな、イネス! しかもなんか妙な発音だったぞ!」
「か、かかカズマさん! まさかシアさんにそんなこと!」
「ん? なんなら一晩、家を空けようか?」
「あら。なに、カズマ。結局シアに捕まっちゃったの?」
「ハリエットも、チャドも、トリーシャも! 変なところでノリが良すぎる!」

 無茶苦茶を言いつつ、笑うトリーシャたち。
 俺は、飲み食いする皆と話を楽しみつつ、クレーフェ伯領へ行くことを決めていた。
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