108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!

阿都

文字の大きさ
25 / 57
第2章「ほのぼの冒険者ライフ」

11,芽生えた疑問

しおりを挟む
「なぁ、カズマ。気がついてるか?」

 庭にある畑の草むしりをしている俺に、イネスが話しかけてきた。
 いつものようにニヒルに笑いながらも、目は本気だ。

「ああ。やっぱり勘違いじゃないか」
「分かってるならいい」

 俺の返事にひらひらと手を振って、イネスはチャド宅に入っていく。
 まぁ、確かに今のところは特に何もないし、原因も想像がつく。

「さて、と。こんなものかな」

 むしった草の山をカゴに移して、庭の隅へ持っていく。
 堆肥作り用に掘った穴の中に捨て、土を適度にかぶせてフタをした。
 これで今日のお手伝いは完了だ。
 後は自由時間なので、さっそくギルドに行くことにしよう。

 レティさんに聞きたいこともあるし、もしかしたらマーニャに会えるかもしれない。
 いないなら、伝言を残しておけばいいだろう。

「カズ! どこ行くの?」
「……恐ろしいタイミングだなぁ。ギルドに行った後、ちょっと買い物の予定」

 待ち構えていたかのように、顔を出すシア。
 いや、本当に待っていたんじゃないだろうな。
 暇なのか? それとも法術ストーカーと化したのか?

「……なんだか変なこと考えていない?」
「イイエ、トンデモゴザイマセン」
「もう! まぁいいわ。一緒に行ってもいいかしら?」
「ダメって言えば、こないのか?」
「ついていくに決まっているでしょ?」
「なら、聞く意味ないだろ!」

 シアの言動にもだいぶ慣れてきたなぁ。
 いや、慣れるしかなかった訳だけど。

 俺達の会話が聞こえていたのか、イネスが裏口から顔を覗かせた。

「おーおー。仲睦まじくって羨ましいね」
「いつでも変わるぞー。イネス」
「ジョーダン。馬に蹴られる趣味はねぇぜ」
「俺もハリエットの泣き顔は見たくないなぁ」
「チッ。言ってろ!」

 最近分かったことだけど、万事斜に構えたような態度のイネスも、ハリエットの名が出ると少しだけペースを乱す。
 口と機転では敵いそうにないイネスへの唯一の対抗策だ。
 コツは追い打ちはかけないこと。突きすぎると報復が恐ろしい。あくまでも追求やからかいを受け流すためだけに使うべし。

「ふーん。カズはいつでも変わっちゃっていいわけね。私の隣なんて」

 ……やばい。シアが変なところに食いついてきた。

「あー。シアさん? 言葉の綾ですよ」
「ふふふ。いいのよ、カズ。無理しなくても」
「そ、その霊力は洒落にならないと思うぞ?」
「カズマー。頑張れよー。骨は拾ってやるぞー」

 イネスが調子を取り戻して、からかってくる。
 俺は慌てて、シアの背中を押しながらその場を後にした。



 ギルドの扉を開けると、ちょうどマーニャとレティさんが事務所の奥から出てきたところだった。

「あら。あの人でしょう? マーニャさんだったかしら」

 シアが名を口にしたことで、こちらに気がついたようだ。
 ニコニコ笑顔で駆け寄ってくる。
 相変わらず小動物系だなぁ。やたらと瞬きの回数が多いところがまた可愛らしい。
 ……こんなところも変わっていないな。
 といっても、俺が本当に知っているマーニャは、別世界にいるわけだけど。

「こんにちは! カズマさん、シンシアさん」
「こんにちは。今日はどうした? 帰り道用の依頼でも探しに来た?」
「えへへ。そんなとこです。じゃあ、あたしは仲間が待ってますから」
「そうなの? 残念ね。また機会があったらゆっくりお話しましょう」
「はい! ではでは、失礼します!」

 無難な会話をして、そそくさとギルドをでていくマーニャ。
 シアは、首を傾げて俺を見上げた。

「いいの? 聞きたいことがあったのでしょう?」
「うーん。それはそうだけど、彼女には彼女の用があるだろうからなぁ。引き止めてまで聞くようなことじゃないし」

 そうなの? となおさら不思議そうな顔をしているシアを横目に、俺は近づいてきたギルドスタッフに頭を下げた。

「こんにちは、レティさん」
「いらっしゃい。しかし、振られちゃいましたね、カズマさん。追いかけなくてもいいんですか?」
「シアにも聞かれましたけど、引き止めてまで聞かなきゃいけないことでもないので」
「……そう。なら、いいのだけど。そういえばクレーフェ伯領の資料、揃いましたよ。見ていきます?」
「ありがとうございます。ぜひ」

 どこかホッとしたように微笑み、資料室に案内するレティさん。
 俺はその様子を密かに伺いながら、ある確信を得ていた。


 やっぱりマーニャは。おそらくラドルも、王国とギルドから保護されている。

 イネスも気がついていたようだけど、ここ数日、チャド宅のまわりで探るような気配を何度も感じた。
 正確には法術を使って俺を見張っているようだ。

 106回も死に戻った経験は伊達ではないぞ。危機察知には結構自信があるんだ。
 100回ぐらい死んだあたりから、自然と周囲のかすかな危険の兆候や違和感、人や魔族の害意、異常な霊力や精霊力、魔力の流れなどを肌で感じるようになった。今なら眠っていても分かる。
 おかげで101回目の召喚転生からは、死ぬ確率がめちゃくちゃ下がった。
 ……まぁ、逆にいうと100回も死なないと身につかなかった俺ってどんだけ鈍いのか、って話だけど。

 それはさておき。
 確証はないけれど、あの独特の霊力には覚えがある。
 前世界で魔族領に潜入するときに手を貸してくれた、王国直属の諜報員と同じ霊力探査法だ。

 先程のマーニャの仕草。俺と会話をしていたときだけ、しきりに瞬きしていた。
 あれは、隠し事がある時の彼女の癖。
 嘘がつけない娘だと、ラドルがよくからかっていたっけ。
 多分だけど、レティさんに言われたんだろう。
 「カズマには気をつけるように」と。

 このギルドで俺が「ラドル」と「マーニャ」に対する興味を示した翌日から、監視されるようになった。
 しかも王室とギルドの双方から。
 おそらくラドルとマーニャどちらか一方だけに注目したのなら、こうはならなかっただろう。
 同時に2人に接近しようとしているからこそ、俺を警戒し始めた。

 これって、答えが出たも同然だよな。

 やはりラドルもマーニャも、そして多分コリーヌも、魔王討伐のメンバーだ。
 魔族の報復から守るために非公開となった救国の英雄たち。
 だから、そのうちの2人に近づこうとする俺を調べているのだ。
 魔族と接点があるのではないか、と。

 とすると、疑問が湧いてくる。

 前世界でラドルたちと一緒に魔王を討ったのは俺。
 なら、この世界で「俺」に該当する人物はいったい誰だ?

 この世界に起きる「*****」に対処するべく召喚転生した俺と同じ、「魔王討伐の役割」を背負っていた名なしの英雄。

 これはまだ直感にすぎないが、その英雄に会う必要がありそうだな。
 王室とギルドの反応を見る限り、かなり骨が折れそうだけれど。

 俺はレティさんが集めてくれた「意図的としか言い様がないほど当たり障りのない一般的なクレーフェ伯領の資料」を前に、小さくため息をついた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...