108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!

阿都

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第3章「英雄を探して」

19,大法術士のメッセージ

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 シアは疲れ果てたように首を傾げたまま、深く息をついた。
 法術大好きっ娘にしては、珍しい反応だ。
 デズモンドの反則なまでの法術と、変人といえるほどの性格を考えると、いかにシアであってもあまり会いたくないらしい。

 うん。まぁ、分かる。そういうやつだもんな、デズモンドって。
 それに、シアでなくても会う前から頭を抱える理由はある。

「たしかに師匠なら、ティナ姉様の行方についても何か知っていそうだけど」
「シアのことだから、当然探したんだろ? でも……」
「当たり。見つからないのよ、あの風来坊は!」

 またもや突っ伏すシア。その背中から、疲労感が陽炎のように立ち昇る。

 やっぱりなぁ……。
 まさに風の吹くまま気の向くまま。名前を変えて、姿を変えて、一処に留まらず、常に流れ続ける大法術士。それがデズモンドだ。
 前世界でも本当に偶然出会えただけ。人目につくのを極端に嫌い、目立たないように動くからよけいに見つからない。

 しかもシアやコリーヌすら及ばない、俺が知る限り108世界を通して最高の法術使い。
 その気になれば、瞬間移動だってできそうだし。誰が探し出せるんだ、そんな人外魔境。

「ふむ。手がないわけでもない」

 ここで、これまた鬼才の軍師が驚きの発言をした。
 うん。天災は天災を知るってことなのだろうか。凡才には到達できない世界だな。
 ちなみに誤字じゃないぞ。俺は、天才という存在は一種の天災だと本気で思っている。
 それだけの経験をしてきたからなぁ……。

「カズマ殿。訳の分からぬことを考えている場合ではなかろう」

 うわぁ! 一応ポーカーフェイスしていたはずなのに。なんで分かる、この腹黒親父!
 これだから天災人は怖いんだよ。普通ではできないことを、息を吸うように簡単にこなすんだ!

「お主の考えなど儂じゃなくても読める」
「嘘だ! そんなのできるわけがない!」
「……カズは自覚ないのよね」
「そうですね。まだ2回しかお会いしていない、私でもなんとなく分かりますから」
「え? マジで?」
「はい。マジ? です」

 ウソだろ。この世界のコリーヌにすら断言されちゃったぞ。俺ってそんなにダダ漏れなのか?
 っていうか、あまりの衝撃で素で返してしまった。コリーヌが面白そうにクスクス笑っている。
 せっかく今まで正式な礼を保ってきたのに。以前ラドルに指摘された通り、ボロが出ちまった!

 ラドルがやれやれと大げさに肩をすくめた。

「お主はのう。他人に対しては完璧に自分を抑えられるが、一度仲間だと認識するとほとんど隠し事ができないのじゃよ」
「ウソだろ……」
「まぁ、そこまで明け透けってわけでもないがの。隠し事をしているとはすぐに分かるぞ」
「ということは、私も仲間だと思ってくださっているのですね?」
「その通りじゃ。現に今、ボロを出したじゃろ? この男はこれで意外と頑ななところがあって、親しくなるまでは礼儀から外れたことはしないからの」
「ふふ。不思議ですね。なんだか少し嬉しいです」

 うわぁ……。何だそれ、恥ずかしすぎる。
 これでも106回も死に戻ったんだぞ? かなり戦闘面に偏っているとはいえ、一応人生経験は豊富なはずだぞ?
 なのに、何だこの体たらく。脳筋以前の問題でした。

 コリーヌだけじゃなく、シアまで嬉しそうに笑って俺を見ている。なんでだ!

 落ち込む俺に発破をかけるように大きく手をうち、ラドルが仕切り直した。

「さて、話を戻すぞ。デズモンドは見つけようとして探せる相手ではない。なら、誘導するほかないじゃろう」
「誘導? でも相手はあのデズモンドだぞ?」
「その通り。普通の方法や餌で出てくるような男ではない。あれは例えるなら、臆病なサフットじゃ。感知力と警戒心が高く、少しでも怪しければ巣穴からでてこない」

 サフットというのは、地球でいうところのウサギのような小動物で、性質も能力もよく似ている。
 音とにおいに敏感で、敏捷性に優れ、なにかあるとすぐに巣穴に逃げ込み出てこない。

 的を射ているとはいえ、あの大法術士をサフットに例えられるのはラドルぐらいだろうなぁ。
 あ、シアが我慢しきれずに吹き出した。

「そういう獲物を捕らえるにはどうするか。カズマ殿、どう思う?」

 でた、教官モード。久々にラドルの戦術講義だよ。
 脳筋の俺には辛いが、この講義は必ず役に立つ。ここは全力で考えるべき場面だろう。
 警戒心の高い相手を誘導するにはどうするか。

「……理性や知恵を超える本能的な衝動を利用する、かな?」
「具体的にいわねば策にならんぞ」
「デズモンドは名が知られることを極端に嫌う。そんな師匠が『あの研究』では名前を出していた。ラドルほどの情報収集能力がなければ引っかからない程度の露出とは言え、あのデズモンドが」
「ふむ。それで」
「ということは、おそらく現在のデズモンドは『あの研究』に並々ならない関心を抱いている。そもそも法術研究のためなら命をかける男だし。だから『研究』に関連した噂を作り流せば、まず興味を引ける」

 ラドルが目で先を促した。
 俺は、懸命に無い知恵を絞って話を続ける。

「興味が引けたから、といってもそれだけで出て来るとは限らない。しかし、噂の信憑性が高ければ探りぐらいは入れてくるはず。そこで……」
「そこで?」
「……どうしようか?」

 隣のシアが盛大に肩を落とした。
 教官が片眉上げて、呆れたようにあごをさする。

 しょうがないだろ! 基本的に策略は苦手なんだよ!

「まぁ、目の付け所は間違っておらん。しかし、儂にいわせるとその『研究』で名前を出していること自体、デズモンドのメッセージのように思える」
「メッセージ?」
「うむ。あのデズモンドなら、どんなに興味があっても名を出すなんてありえん。もし仮に出すなら偽名じゃろう。にもかかわらず名を知らしめた。必死に探せば分かる範囲で」

 あ、そういうことか。
 俺が理解し始めたことを察したのか、ラドルが頷く。

「つまり、これはヤツからの伝言なのじゃよ。『研究について興味があるなら、力を貸してやってもいい』という意味の、な」
「それって、もしかすると」
「うむ。デズモンドのことじゃ。何らかの確信を抱いている可能性もあるのぅ」

 そうだよな。シアとコリーヌがいるから濁しているけれど、「研究」の内容は「異世界探査」だ。
 しかし、この世界において「異世界」なんて、おとぎ話や伝説に出てくる言葉。そんなキーワードをもとにして必死に情報を探す人はまずいない。
 逆にいえば、真剣に調べようとする人族は「異世界」の存在を信じていることになる。
 俺やラドルのように。

 そういう者に対して、名を出すのを嫌うデスモンドが、わざわざ本名をさらした。
 つまり「異世界について調べる人族が必ず出てくる」と分かっていて、しかも「その人物は必ず『デズモンド』を探す」と確信しているということになる。
 ただ力を貸すだけなら偽名でもいいからだ。本名を出す必要などない。

 これは、本気で当たりかもしれない。
 デズモンドは、ピンポイントに「俺たち」へ、メッセージを出しているんだ!

「ということは、単純に助言を求める噂を流せば……」
「ヤツの方から会いに来るか、会合の日時と場所を指定してくるじゃろうな」

 俺は心のなかでガッツポーズを取りつつも、どこかもやもやした疑念を覚えていた。
 デズモンドを探すという厄介な問題が解決したと同時に、新たな疑問が湧いてきている。

 なぜ、デズモンドは「異世界とデズモンドを探す人物が必ずいる」と考えたのだろう。
 しかも、なぜ絶対に嫌なはずの名を晒してまで、メッセージを流したのだろう。

 俺が考えに沈みそうになったとき、隣りにいたシアが、それはもう素晴らしくもヤバイ笑みを浮かべて問いかけてきた。

「で、カズ。デズモンドが『師匠』ってどういうことかしら?」

 え? あれ?
 そんなこと言ったっけ?

 血の気が引くのを感じる。ラドルが頭をかいて苦笑していた。

「本当に仲間に対しては隠し事ができん男じゃのう」

 そんな言葉、なんの解決にもならないぞ!
 っていうか、肯定になっちゃってる?
 わざとか! わざとだな、ラドル!

 心中の叫びは、シアの霊圧に塗りつぶされていった。
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