108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!

阿都

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第3章「英雄を探して」

25,デズモンドの助言

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「結論から言うと『名なしの英雄』ティナは、この世界にはいない」
「し、師匠、なにを言い出すんですか? ティナ姉が死んだと言うんですか?」

 シアの悲鳴のような抗議が、皆の耳を直撃する。
 クレーフェ伯邸の応接間であらためてぶちまけたデズモンドの一言に、驚愕の表情を浮かべたのはシアだけだった。

 そうだよなぁ。あの発言じゃ勘違いするよな。
 今いるメンバーで、唯一異世界に直接関わりがないのはシアだけだ。
 この世界にいない、なんて言われれば生命を失ったと思うのも当然だろう。

「いやいや、そうじゃなくてね。思い出してごらんよ、シンシア。僕はなにを研究していたっけ?」
「え、っと、確か『平行異世界に対する法術的なアプローチについて』でしたよね」
「うんうん、その通り。ま、実際にはそれもカモフラージュだったんだけど、つまりそういうことなんだよねぇ」
「……シア姉は、この世界ではない別の世界にいる、とおっしゃるんですか?」
「そういうこと」
「師匠、本気で並行異世界なんて信じていたんですか? 私は冗談だと思ってました」
「……うんうん、シンシアがどういう目で僕を見ていたかよく分かったよ」

 驚いたというよりも呆れた風で師匠を見るシアの態度に、珍しくデズモンドが肩を落としている。
 師弟漫才を見ているようで面白いけれど、俺個人はかなり緊張して見守っていた。

 この流れは、必然的に俺とラドルの秘密に繋がるからだ。

「師匠に対する尊敬については後にするとして、ティナの話を続けようか。彼女は今、この世界ととても近しい異世界にいる」

 気を取り直したデズモンドが、解説をはじめた。
 悪魔を除いた全員が真剣な表情になる。

「言ってみれば双子のような世界でね、あちらにも魔王がいたし、英雄が討伐した出来事も同じだ。どうやらその戦いのタイミングがぴったりだった結果、余剰エネルギーで世界をつなぐ『道』ができてしまったようなんだよねぇ」

 嘘だ、と俺は思った。
 この話は異世界移動について都合よく説明するために用意した、でっち上げに違いない。

 なぜならいかに魔王が強大で、それを倒した俺やティナの霊力が凄まじくても、肉体をもった存在が作るエネルギーでは、異世界を結ぶような力になりえないからだ。
 最低限でも亜神や神霊、または悪魔のようなレベルでなくては必要なエネルギー量を作り出せないし、そもそもそんな存在だって自分のみの移動がせいぜいのはず。
 他者を安全に異世界移動させる事ができるのは、ヴァクーナのような『自身が世界に匹敵する』存在規模をもつ、まさしく神と称される存在のみなんだ。
 第一、俺の移動はヴァクーナの『召喚転生』だった。いきなり開いた次元の扉を通ったわけじゃない。

 俺がデズモンドを見ると、彼はかすかに頷いてみせた。
 やっぱりそうか。

 しかし、自分で言っておいてなんだけれど、そうなるとティナの異世界移動にはヴァクーナと同じレベルの存在が介入したことになる。
 しかもヴァクーナですら「難しい」と言った、肉体を伴った移動だ。
 一体何者なんだろう。

 答えが出ない疑問はとりあえず置いておいて、俺はデズモンドの話に意識を戻した。

「彼女を帰還させるには、渡ったときと同じようにあちらとこちらをつなぐ道を作らなくてはならないんだけど、そのために揃えなくてはならない条件があるんだよね」
「その条件とはなんじゃ?」

 ラドルの質問に、大法術師はこともなげに言った。

「あちらの世界の因子を持つ者。英雄と縁の深い者。そして一度『道』が通った時に居合わせた者」
「それって……」

 条件を聞いた時、思い浮かんだのはかつての仲間達。107世界では俺と、この108世界ではティナと一緒に戦った戦友。

「そう。ラドル、コリーヌ、マーニャ。そして『あちらの世界で魔王を倒した英雄』であるカズマ、君だよ」
「……え? あの、師匠? カズがなんだっておっしゃいました?」

 シアがフリーズしている。
 あまりにあっさりと秘密を暴露したデズモンドの言葉に、俺も硬直した。

「カズマは、あちらの世界で魔王ラシュギを討ち取ったと言ったんだよ。つまり、あちらの世界における『名なしの英雄』さ」
「そ、そんなことって」
「信じられないかもしれないけれど事実だよ。彼もまた世界を渡ったんだ。ティナと同じようにね」

 シアがこっちを凝視している。
 俺は悟られないように、ゆっくり深呼吸してから頭を下げた。

「今まで説明できなくてゴメンな。でも、言っても信じてもらえないだろうし、俺もこの世界について何も知らなかったからどう言っていいのか分からないのもあってさ」
「……」
「え、えーっと。シアさん?」
「……」

 沈黙が、視線が、そして立ち上る霊力が怖い!
 でも、仕方がないよなぁ。普通に考えて信じられるような内容じゃないし、ずっと隠し事をしていたんだから。

 今までの世界でも『異世界からきた』なんて告白できた回数は両手の指で足りる程度だったし、その半分はたちの悪いジョークだと思われて終わった。
 今回だって、絶対受け入れてもらえないと思っていたし。
 そう考えると、ヴァクーナの夢通信があったにしても、すんなり信じてくれた前世界のコリーヌは、器が大きいのか、素直すぎるとでも言えばいいのか、迷うところではある。

 シアは無表情のまま、一音一音確かめるように問いかけてきた。

「1つだけ確認したいんだけれど」
「なんでも聞いてくれ。話せる範囲で話すから」
「何よそれ。ここは『なんでも話すから』って言うところでしょう?」
「それがなかなか難しい問題があってだな」
「ふぅ。まあ、いいわ」

 いつものような軽いやり取りのおかげで、少しだけ肩の力が抜けたのか。シアは視線をやや柔らかくしながら、彼女にとって無視できない質問を投げてよこした。

「これだけは聞かせて。ティナ姉の失踪について、あなたは関わっていないの?」

 それは異世界というキーワードがバレれば必ず聞かれる、と予想していた問いだった。
 俺とティナの状況は、他人から見れば関連性が深すぎる。疑られて当然だろう。

 でも、だからこそ俺は自信を持って答える。

「直接的な関わりはない。俺だってまさか自分が異世界へ行くなんて思わなかったし、ティナのことは教団から依頼が来るまで知らなかった。だけど……」
「だけど?」
「何者かの意図は感じている。魔王を倒した俺と同じ役割を果たした人物が、入れ替わるように異世界移動したと聞けば、なにか目的があるんじゃないか、とは考えるよ」
「ティナ姉もあなたも、その何者かに利用されているというの?」
「利用されているかどうかはわからない。どんな目的があるのかも、今のところ考えつかない。でも偶然にしてはできすぎているし、異世界移動なんて偶然に起きるもんじゃないだろ?」

 嘘はついていないけど、ヴァクーナの言う『*****』についてはまだ言えない。
 いまだに隠し事があるのは、やっぱりちょっと心が痛むな。

 それに、明らかにヴァクーナ以外の意図を感じるのは事実だ。
 以前、夢通信を邪魔した存在や、ティナを異世界移動させた何者かがいるのは間違いない。
 ヴァクーナからは何も聞いていないけれど、これも「自ずと分かる」ってやつなのだろうか。

 シアは小さくため息をつき、天井を仰いだ。

「なるほど。王都でラドル翁や英雄のことを調べていたのは、ティナ姉を追っていたのではなく、この世界での魔王討伐や自分の立ち位置を把握しようとしていた、ってことなのね」
「まあ、そんな感じだな。その後にヴァクーナ神のお告げによって、教団から英雄探しを依頼されたってわけだ」

 本当はこんな説明で納得できるわけもないだろう。
 しかし、シアは俺をまっすぐ見た。

「正直、分からないことだらけなのだけど、ティナ姉の手がかりは本当みたいだし、カズには何度も助けてもらってきたわ。いまさら疑いようがないわよね」
「シア。その、ありがとな」
「それ、なんに対するお礼なの?」

 もちろん、俺を信じてくれたことに対してだよ。たとえ暫定だったとしても。

 伝わったのかどうか。シアは少しだけ頬を膨らませてそっぽを向いた。

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