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第一章
第十四話
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アスラン家という名前は聞いたことがあります。
海運で財を成した一族で、この薔薇王朝の版図でも、じつに屈指の商家だと云います。
多数の貴族に金を貸しつけていて、高位貴族のなかにもこの家には頭が上がらない人物も少なくないとか。
なるほど、そのような家柄の子息なら、ひとつの派閥を統べるにふさわしいかもしれません。
「もちろん、ミルトニーは単に家が金持ちってだけの男じゃない。生徒会に対抗する団体である学生自治会の会長でもあるし、そう、さっき、ルナファン殿下の成績は学内で一、二を争うほどだと云ったよね。その首位を争っているのがミルトニーなのさ。最近はたいていの試験では殿下かミルトニーが首位を取っている。まさに実力伯仲、両者相譲らずというわけだね」
ルナファンさまにミルトニーさん。
ふたりとも素晴らしい実力のもち主であることはわかりました。
それだけ才能に秀でているからには、わたしのような凡人にはわからない苦労もあるのでしょう。
この学院で目立たずに暮らしていくためにはなるべく関わり合いになりたくない人たちですが、ちょっと同情してしまいます。
あるいは、それは傲慢きわまりない発想なのかもしれませんが。
「まあ、そういうわけで、なまじルナファン殿下とミルトニーに統率力があるもので、このところ、貴族派と平民派の争いはどんどん過激化していてね。そのうち、大変なことになるんじゃないかと云われているのさ」
「へえ、そうなんですね」
間の抜けた感想だけれど、そうとしか云いようがありません。
アストリカは、ちょっと呆れたような視線でわたしの顔を眺めました。
「他人ごとみたいに云うね。でも、リラマリア、きみにも関係していることなんだよ。きみやわたしは生まれが貴族である以上、自動的に貴族派に属することになる。そうすると、平民派の生徒たちに絡まれたりすることも出て来る。うんざりする話だけれどね」
「それはたしかに、望ましくないお話ですね」
しかもわたしは伯爵令嬢とは仮の姿、真実は平民中の平民、下々の者も良いところなのです。それが貴族派に割り振られたからといって平民派から攻撃を受ける。
云っても詮ないことですが、これほど理不尽なことがあるでしょうか。
「まあ、しかたない。そのときは、なるべく穏便に受け流すことだね。騒動になったりしたら、どこから正体がばれるかわかったものじゃない。少なくともこの学院のなかでは、いくらか絡まれても怒らないことをお奨めするよ」
「そうさせていただきます」
それにしても、気が重くなる話です。
貴族と云い、平民と云いはします。しかし、ただ生まれだけのことで互いに嫌い合っているわけでもない者同士が争わなくてはならないとは、何と不毛なことなのでしょう。
できれば、わたしはそのようなことに関わり合いになりたくはありませんが、そういうわけにもいかないかもしれません。いまから覚悟を決めておいたほうが良いのかも。
あらかじめ教えてくれたアストリカには感謝しなければならないでしょう。
わたしが礼を云うと、アストリカはニヤリと男の子のような笑顔を浮かべました。
「そう思うなら、この本を読んでよ。『いつまでもつづく恋の唄』。これは男の子どうしものの傑作なんだ。主人公の少年が溺愛される話でね、それはもう描写が濃密でさあ」
うーん、この人に迂闊に心をひらいてはいけないかもしれない。
怒涛のようにしゃべり倒すアストリカの言葉を聞きながら、わたしはちょっとそう思いました。
何か危険な気がしてなりません!
海運で財を成した一族で、この薔薇王朝の版図でも、じつに屈指の商家だと云います。
多数の貴族に金を貸しつけていて、高位貴族のなかにもこの家には頭が上がらない人物も少なくないとか。
なるほど、そのような家柄の子息なら、ひとつの派閥を統べるにふさわしいかもしれません。
「もちろん、ミルトニーは単に家が金持ちってだけの男じゃない。生徒会に対抗する団体である学生自治会の会長でもあるし、そう、さっき、ルナファン殿下の成績は学内で一、二を争うほどだと云ったよね。その首位を争っているのがミルトニーなのさ。最近はたいていの試験では殿下かミルトニーが首位を取っている。まさに実力伯仲、両者相譲らずというわけだね」
ルナファンさまにミルトニーさん。
ふたりとも素晴らしい実力のもち主であることはわかりました。
それだけ才能に秀でているからには、わたしのような凡人にはわからない苦労もあるのでしょう。
この学院で目立たずに暮らしていくためにはなるべく関わり合いになりたくない人たちですが、ちょっと同情してしまいます。
あるいは、それは傲慢きわまりない発想なのかもしれませんが。
「まあ、そういうわけで、なまじルナファン殿下とミルトニーに統率力があるもので、このところ、貴族派と平民派の争いはどんどん過激化していてね。そのうち、大変なことになるんじゃないかと云われているのさ」
「へえ、そうなんですね」
間の抜けた感想だけれど、そうとしか云いようがありません。
アストリカは、ちょっと呆れたような視線でわたしの顔を眺めました。
「他人ごとみたいに云うね。でも、リラマリア、きみにも関係していることなんだよ。きみやわたしは生まれが貴族である以上、自動的に貴族派に属することになる。そうすると、平民派の生徒たちに絡まれたりすることも出て来る。うんざりする話だけれどね」
「それはたしかに、望ましくないお話ですね」
しかもわたしは伯爵令嬢とは仮の姿、真実は平民中の平民、下々の者も良いところなのです。それが貴族派に割り振られたからといって平民派から攻撃を受ける。
云っても詮ないことですが、これほど理不尽なことがあるでしょうか。
「まあ、しかたない。そのときは、なるべく穏便に受け流すことだね。騒動になったりしたら、どこから正体がばれるかわかったものじゃない。少なくともこの学院のなかでは、いくらか絡まれても怒らないことをお奨めするよ」
「そうさせていただきます」
それにしても、気が重くなる話です。
貴族と云い、平民と云いはします。しかし、ただ生まれだけのことで互いに嫌い合っているわけでもない者同士が争わなくてはならないとは、何と不毛なことなのでしょう。
できれば、わたしはそのようなことに関わり合いになりたくはありませんが、そういうわけにもいかないかもしれません。いまから覚悟を決めておいたほうが良いのかも。
あらかじめ教えてくれたアストリカには感謝しなければならないでしょう。
わたしが礼を云うと、アストリカはニヤリと男の子のような笑顔を浮かべました。
「そう思うなら、この本を読んでよ。『いつまでもつづく恋の唄』。これは男の子どうしものの傑作なんだ。主人公の少年が溺愛される話でね、それはもう描写が濃密でさあ」
うーん、この人に迂闊に心をひらいてはいけないかもしれない。
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何か危険な気がしてなりません!
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