私が愛と呼んだもの

ぜじあお

文字の大きさ
1 / 1

私が愛と呼んだもの

しおりを挟む
電車の窓に付いた雨粒が流されていく。
走る電車の速さに置いてかれるように、剥がされるように。
まあ、当たり前か。同じ速さで走らなければ、置いてかれるのは。
スマホも鞄から取り出せないような混み合った電車の中で、私はぼんやり窓を見つめていた。

昨日、私は彼と喧嘩した。きっかけは味噌汁だった。いやはや、たいそれたことはない。そう、他人に話すほどでもない、日常の戯れに近い些細な喧嘩だ。
本当にいつも通り。誰にでもあるような小さな衝突。
でも、その日、私はいつもと違った。冷たい水が体を巡るような感覚があった後に気持ちがおさまり、そのままスッキリと朝を迎えられた。

電車が揺れる。
意識が逸れていたようだ。窓に手を付き、後ろからのし掛かる人々の重みに耐えた。
窓には流れた雨だれの跡が残っている。

同じ速さで走らないと一緒にはいられない。
私は頷いて、彼に今夜、これを告げないとと思った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

セラフィーネの選択

棗らみ
恋愛
「彼女を壊してくれてありがとう」 王太子は願った、彼女との安寧を。男は願った己の半身である彼女を。そして彼女は選択したー

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

エレナは分かっていた

喜楽直人
恋愛
王太子の婚約者候補に選ばれた伯爵令嬢エレナ・ワトーは、届いた夜会の招待状を見てついに幼い恋に終わりを告げる日がきたのだと理解した。 本当は分かっていた。選ばれるのは自分ではないことくらい。エレナだって知っていた。それでも努力することをやめられなかったのだ。

愛のバランス

凛子
恋愛
愛情は注ぎっぱなしだと無くなっちゃうんだよ。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

処理中です...