ドルススタッドの鐘を鳴らして

ぜじあお

文字の大きさ
5 / 75
1章 ヒューラの騎士団

茶髪と赤髪の修道士4

しおりを挟む
団長室でガヨはルガーの言葉を待った。
 赤髪ーージブはトニーの顔に血が付いていたのを見て、一緒に入室してきたカタファに殴りかかろうとしたので、ガヨによって制圧され、膝立ちの状態で腕を押さえ込まれていた。エイラスは扉の前、カタファはそれに対になるように壁際に立っていた。
 ルガーは細かい彫刻のあしらわれた椅子に腰掛け、執務机に両肘を付け顔の前で手を組んでいる。じっと修道服の二人を睨んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「お前らは合格だ。……特に赤髪。ジブと言ったな。無作法だが気概のある槍だ。だがその矛先を見誤ることはもう許さん」
 そこまで言うとルガーはゆっくりと立ち上がり部屋の中を歩き出した。
「神秘持ち」
 そしてルガーはトニーの目の前に立った。が、しばし何もせず、大の男が6人いる部屋は静寂に包まれた。
「お前の治療魔法は入団に値する高度なものだとカタファから聞いている。だが何より価値があるのは神秘の力だ。神秘持ちの体液、とくに血は高く売れる」
 ルガーはトニーの肩を掴んで強く揺さぶった。
「触るんじゃねぇ!」
 ジブが膝立ちの状態から立ち上がろうとするのを、ガヨは上から強く押さえつけた。ルガーはジブを見降ろして鼻で笑うと、突然、空いた手を振り上げ、思い切りトニーの顔面を横から殴りつけた。鈍い音が部屋に響く。倒れこそしないものの、口の端は大きく切れ血が出ていた。
「うるせぇぞ、赤髪。口答えは許さねぇ」
「……」
 俯いているトニーの髪をルガーは力任せに掴み、無理やりに顔を上げさせた。その姿を見たジブは体を捩らせて拘束から抜け出そうとしたが、ガヨが体重をかけて押さえ込み、ついに床に組み伏せられた。ルガーが再び拳を振り上げると、ジブがやめろと大声で叫んだ。ルガーはその様子を横目でちらりと見ると、満足げに笑って拳を静かに下した。
「赤髪は神秘持ちの犬だ。だが飼い主はその自覚がない。ともどもうまく使え。カタファ、今後、神秘持ちが怪我をしたら血を集めとけ」
「承知いたしました。しかし今回は少量過ぎて血は取れませんので、次回以降に」
 カタファはトニーの殴られた頬に手を向けた。
「くそ、離せ!」
 ガヨに押さえつけられているジブがまた暴れ始めた。部屋の隅に立っていたエイラスが近寄ってきて、落とそうと言った。ガヨはジブの上体を反らして起き上がらせると、エイラスがつま先でジブの顎を蹴り上げた。脳が揺れたジブはそのまま失神した。静かになったジブを見下ろして、ルガーが言った。
「エイラス、ジブを運べ。ガヨは神秘持ちを部屋に案内しろ。いろいろ面倒を見てやれ。カタファ、怪我人の報告を」
 エイラスは微かに眉をひそめたが、すぐに笑みを湛えて、承服の返事をした。身長差は無いものの骨格が大きく筋肉質なジブと比べると、エイラスは細身のため運搬が大変だとも言いたげだった。
「ジブを運ぶのを手伝った方がいいでしょうか」
 ガヨに小さな声で聞いたトニーの唇の傷は、先ほどより小さくなっていて血も止まっている。カタファがルガーを背にした時、治療魔法をかけたようだった。
「いや、いい。ルガー団長の命令にだけ従え」
 ガヨは団長室の扉を開けた。振り返りトニーに部屋から出るよう指示した時に、エイラスの微笑みは修道服のセーラー襟を追っていることにガヨは気付いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...