ドルススタッドの鐘を鳴らして

ぜじあお

文字の大きさ
50 / 75
4章 港町ミガルへ

陰謀とエンバーの暴走

しおりを挟む
 扉にたどり着くまで、そう時間はかからなかった。石畳の並びが変わり、蝶番の冷たい感触に触れ、節の目立つ木の扉を押し開ける。エイラスはその先の部屋がどういうものかは予想がついていた。古い排泄物と焦げた臭い。近づけば近づくほど、吐き気を催す匂いと地下の独特の湿気が、エイラスの髪を湿らせてく。
「エンバー、いますか」
 エイラスはライトを手に持ち替え、制服の袖で鼻を押さえながら言った。相変わらすの暗闇で細い光を発するライトでは部屋の中を照らすことはできない。
「ここにいる」
 その声は耳元で聞こえた。エイラスは肩をびくつかせ、その反動でライトが落ちた。かしゃんという音とともに光が失われ、本当の闇がエイラスを包んだ。
「エンバー、どこですか。俺は、俺には見えません」
「見せてやる」
 その声とともに目の前が突然、明るくなり、目を射した光にエイラスが目を瞑る。腕で庇を作りながらかすかに目を開けると、そこにあったのは、おびただしいほどの血の跡と拘束具、排泄物のたまったバケツだった。その光景にエイラスが思わず足を引くと、ふしゃりと何かを踏んだ感触がした。
 白く濁った球体ーーそれは眼球だった。持ち主を失った腐った眼球には黄金の瞳があり、それはじっとこちらを見つめている。
 エイラスは強く唇を噛む。そうでもしないと声を上げてしまいそうだった。
「俺も、修道院の地下に幽閉されていた」
 エンバーの声にエイラスは振り返った。
 その声は、物語を語るような冷めた声だった。俯き、目を瞑ったまま拳を作る様は、出会った頃の不気味な雰囲気のエンバーそのものだった。エイラスは唇の震えが止まらず、声を出すことが出来なかった。
「正確には、コーソム修道院の地下だが……。俺はそこで……」
「そこで、なんですか」
 震える唇を無理やり手で押さえ、エイラスは問うた。
「神秘を、神秘の力を持てと……低く、唸る声を何度も聞いた……今でも、声が……」
 エンバーの次第に小さくなる声を聞き取ろうと、エイラスは俯くエンバーにゆっくりと近づいていくが、彼は動かない。
 エイラスのヒールが大きな砂利を踏み抜き、乾いた音が響いた。刹那、黄金の瞳は開かれ、エイラスを捉えた。その瞳には自我を感じられない。 ーー獣の目だった。
 エンバーとエイラスが動いたのはほぼ同時だった。エイラスは腰に携えた護身用の小さなナイフを引き抜いた。エンバーはそれを見て片手を伸ばしたが、その手を避けてエイラスはエンバーの肩にナイフを突き立てた。筋肉を引き裂く感触が手に響く。ナイフは根元まで刺さったが、エンバーの黄金の瞳は瞬きもせず、エンバーの新緑色の瞳を見るだけだった。そしてエイラスの胸倉を掴むと、片手で高々と吊り上げる。
「……、ぐ、エンバー、やめて、くだ……」
エイラスがもがくのも構わず、彼の腹に蹴りを入れ、浮いていたエイラスの体が廊下の壁にぶち当たった。
 壁沿いにずるずるとへたり込んだエイラスは強い衝撃で呼吸ができなかった。痛みに背を丸めるエイラスを置いて、エンバーが階段を駆け上がる音が地下牢に響く。激痛に耐えながらエイラスは蹴られた腹を触った。
 骨は折れていない。早く追いかけなければ。
「くそ……」
 エイラスは悪態をその場に残し、体に鞭打って階段を駆け上がった。

 
 世界がらんらんと輝いて見えた。暗闇から光にある場所に出た時の目の眩み、それさえもエンバーにとっては喜びだった。見える。すべて見える。自らの手も、足も、歩む道も。
 すべてが煌めき、エンバーを祝福していた。
 だからこそ、この世の影は消し去ってしまわないと。そう思った。そのためには、神秘を求める者たちの妄執を破壊し尽くさなければならない。
 エンバーの体は羽のように軽かった。息も切れない。ナイフが刺さった肩も全く痛くなかった。
自らに起こっていた苦難は人為的に神秘を授けるため、修道院が行っていた実験だった。意味も分からず苦しみ続けた時間が、ここでも誰かに与えられていた。その怒りがエンバーの体を満たした。沸き立つ感情は血液を沸騰させ、心臓から指に一本にまで行き渡る。

 エンバーは視界が赤くなるような強い衝撃を覚えながら、司祭のいる部屋の扉を開けた。
 扉はほんの少し押しただけで蝶番からはずれてしまった。床に叩きつけられた扉は、空気を押し出し、ふわりとエンバーの髪を揺らす。髪が顔をくすぐったがエンバーはそれにも気付かず、視線だけをきょろきょろと動かした。
「見つけた」
 司祭は床に這いつくばっていた。こいつだ。こいつを殺せばいい。エンバーは足に力を入れた。
 一歩分でいい。足を出せば届く。
 司祭の上に載っていた白い制服の男を弾き飛ばし、エンバーは司祭を仰向けにさせた。壁に叩きつけ垂れた男のうめき声と、それに走り寄る赤い髪が見えたが、悪を断罪するエンバーはそれを気に掛けることはなかった。
「神よ、ご慈悲を」
 しわがれた声はざらついて、額からはうっすら血が滲んでいた。哀願する声を聞き流し、エンバーは拳を振り上げた。集中が加速し、全てゆっくりと動いているように見える。拳が司祭の顔にのめり込み、顎が外れ、砕けながら壊れていく。口から声にもならない叫びが漏れている。
 ーーまだ生きてる。殺さないと。
 エンバーは夢中になって拳を振り上げた。
 その後ろでは体を引き剥がそうとガヨとカタファがしがみついていたが、二人がかりでもエンバーを止めることはできなかった。
 壁に吹き飛ばされたトニーはジブの介助を受けてうっすらと目を開ける。
 骨がぶつかり、血が飛び散る凄惨な光景の広がる部屋に、エイラスが遅れて入ってきた。

 エイラスはもみくちゃになっているガヨたちを避けて進み、トニーの顔を心配そうに覗き込んだジブの肩を掴む。
「ジブ、一緒にエンバーを止めてください。このまま暴れたら誰も止められません!」
 ジブは倒れ込むトニーを横目で見たが、トニーは苦痛に顔を歪めながら小さく頷いた。それを見てエイラスとジブもエンバーの元へ向かう。

 ジブは掴む力が弱まっているカタファと入れ替わりでエンバーの腕を押さえた。
「カタファ、武器を探してきてくれ!」
「ごめん。わかった!」
「なるべく早くしてくださいよ!」
 ジブもエイラスも、それぞれカタファに声をかけた。ガヨは歯を食いしばってエンバーを背中から羽交い絞めにしていた。その押さえがなければ、エンバーは既に司祭を殺していただろう。
「やめろ、エンバー! お前も無事じゃいられない!」
 ガヨの叫びもエンバーには聞こえていない。顔に血が散ろうとも、司祭の歯が拳を傷つけようとも、外れた拳が石畳を叩いて骨が露出しようとも、エンバーの腕は止まらなかった。

「もういいだろう」
 白い制服の袖が血まみれのエンバーの拳に触れた。トニーの手は拳の勢いを止められず、石畳に叩きつけられたが、それでも両手でエンバーの拳を包んだままだった。
 そこでようやくエンバーの動きが止まった。
 部屋で聞こえるのはガヨ、ジブ、エイラスの荒い息と司祭のか細い呼吸だけになった。やっと終わったという徒労感で押さえつけに回っていた三人は動けずにいた。

「こいつを殺しても、何も変わらない」
 声を掛けながら、トニーは包んだエンバーの拳から手を離す。そこには、折れて露出した骨や肉が見える程の裂傷がなかったかのような、傷一つないエンバーの腕が現れた。エンバーはその拳をじっと見つめている。
「エンバー、落ち着け……」
 話を始めたトニーの鼻から血が流れてくる。
 神秘の反動だ。
 力が抜けたが、トニーは膝と手を突っ張らせて何とか耐えた。俯いた床に血が滴る。視界が歪み、目の前が暗くなっていく。
 ぐらりと頭から崩れそうになるトニーの体をエンバーが抱き寄せた。
「エンバー。神秘に、振り回されるな」
 喉の奥に血が流れていく不快な感覚を覚えながら、トニーはエンバーに声をかける。
 エンバーは元来、理性的な男だ。衝動に負け、暴れまわったことを悔やんでいるだろう。
 トニーは慰めるようにエンバーの頬を撫でた。エンバーはその手に自らの手を重ね、口を開く。
「お前がいれば、悪をもっと殺せる」
 意識を失いつつあるトニーの目に映ったのは、薄く微笑むエンバーだった。

「トニー! 目ぇ瞑れ!」
 突然カタファの声が聞こえ、トニーは目を閉じた。どがっという大きな音と揺れともに、自分を支えていたエンバーの腕から力が抜ける。気を失って拠り所を失ったトニーの体は、今度はジブが支えた。エンバーの司祭の横に倒れ込み動かなくなったが、出血はしていないようだ。
「重てぇ!」
 カタファは両手に持っていた胸像を床に放り投げると、ごどんと大きな音を立てて転がる。それは床に倒れている司祭の胸像だった。カタファは手をぶらぶらとさせながら5人に近づく。
「ったく、地獄絵図だな。修道院と騎士団にどう報告すりゃいいんだよ」
 昏倒したエンバーを跨いで司教の側にしゃがんだカタファは、大きくため息をつきながら手をかざした。司祭の顔面の傷が仄明るく光ったが、すぐにその手を下ろし首を左右に振る。
「どうした?」
 息を整えたガヨが歩み寄り、カタファにしゃがみこむ。
「……司祭は死にかけだ。もう治療魔法で治せる範囲を超えてる」
 静んだカタファの声がすると同時に、ガヨはトニーに視線を送る。ジブは抱えているトニーを両手いっぱいに抱きしめ、隠すように体を捻らせた。
「なんでこんなクソじじいのために!」
 ガヨはジブに向き直り、背筋を伸ばしてまっすぐに目を見据えた。
「こいつはクソだが、生かしておかないとエンバーの身が危ない。司祭を殺したとなればいくら神秘を持っていても排除されかねない」
 エイラスもガヨの隣に膝を立てて座り、ジブの説得に加わった。
「ジブの気持ちも分かりますが、ここで司祭を生かすメリットは他にもあります」
 ジブの薄桃色の瞳は鋭くエイラスを睨みつける。しかしエイラスも引かない。
「修道院の隠れ地下牢に、人体実験を思わせる拷問のような痕跡がありました。このクソを生きた証人にすれば、神秘信仰に一石を投じることができるかもしれません。それはジブにとっても良い事なのでは?」
 ジブはトニーを抱きしめたまま、歯を食いしばって向き合ったガヨとエイラスに目を向ける。どちらかが動けば、今すぐにでも噛みつきそうな勢いだった。
「おいおい、ちょっと待てよ」
 カタファは慌てて両者の間に入った。
「ガヨ、エイラス、ジブ。まずは落ち着けって」
 三人の顔を順番に見ながら、カタファは声をかける。それぞれがピリついた雰囲気を出す中、カタファは冷静だった。
「ジブ。トニーの神秘はもう大陸のお偉方には伝わってる。神秘は各勢力に共有する法律があるからな。ここで癒しの力を持つトニーが司祭を見捨てたとなれば、トニーの立場も危うくなるぞ。それは困るよな?」
 カタファの問いかけに、ジブは少し狼狽えながらもゆっくりと頷いた。
「今は選択肢がない。司祭が死ねば、エンバーもトニーも激しく罰せられる。神秘の体液の売買とか、地下牢に合った拷問部屋とか、追及しなきゃいけないこともうやむやになる」
 部屋にいる皆が黙り込む中、カタファはなるべく優しく落ち着いた声色を出して話を続けた。
「俺もトニーに神秘を使ってほしいとは思わない。それは皆も同じだ。ジブ、俺らがトニーに神秘を使わせることを喜んでると思うか?」
 ジブはぐるりと見まわしたが、誰もが苦々しい面持ちで口を固く閉ざしている。カタファだけが強い視線で、覚悟を決めたような、それでも優しい声でジブに声をかけ続けている。
「トニーの意見をもちろん聞く。それが一番大事だ。でも俺はトニーに神秘を使ってほしいと頼むし、俺だったら反動も癒やせる。ジブ、まずトニーに意見を聞くことを許してくれないか?」
 ジブはカタファの説得に反論できなかった。皆、仲間を守りたいという気持ちは一緒なのだ。
 赤い髪を垂らしつつ、ジブは抱きかかえたトニーを床にそっと寝かせた。
 トニーはいつ意識を取り戻したのか、目はうっすらと開いていて、鼻血も止まっている。カタファは静かにトニーの肩を叩いた。
「聞こえてたか? トニー、神秘を使って司祭を癒やしてやってほしい」
「……わかった」
 カタファが手を掲げて治療魔法をかけると、トニーの顔色が次第に良くなっていく。神秘を使えば、彼はまた反動で傷つくのは百も承知だが、カタファは出来るだけ癒やしてやりたかった。
「……ガヨ、酒だ」
 しっかりとした声でトニーが言った。
「報酬としてエンバーが倒れるくらいの酒を飲みたい」
「馬鹿言うな。予算がいくらあっても足りない」
 ガヨが笑って手を差し出した。トニーはその手を取って起き上がる。
「じゃあ、やるか。勇気ある申し出をしてくれたカタファのためにも」
 トニーは横たわる司祭の前に跪く。そして静かに深呼吸をしたあと、彼の顔面に手を添えた。

 その手が微かに震えていたのをエイラスは見ていた。彼自身も怖いのだ。神秘の力を使うことが。神秘を与えることが、神の意思なのだとしたら。ならばきっと、神は人間を愛してなどいない。そんな思いがエイラスの胸を覆った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】観察者、愛されて壊される。

Y(ワイ)
BL
一途な同室者【針崎澪】×スキャンダル大好き性悪新聞部員【垣根孝】 利害一致で始めた″擬装カップル″。友人以上恋人未満の2人の関係は、垣根孝が澪以外の人間に関心を持ったことで破綻していく。 ※この作品は単体でも読めますが、 本編「腹黒王子と俺が″擬装カップル″を演じることになりました」(腹黒完璧風紀委員長【天瀬晴人】×不憫な隠れ腐男子【根津美咲】)のスピンオフになります。 **** 【あらすじ】 「やあやあ、どうもどうも。針崎澪くん、で合ってるよね?」 「君って、面白いね。この学園に染まってない感じ」 「告白とか面倒だろ? 恋人がいれば、そういうの減るよ。俺と“擬装カップル”やらない?」 軽い声音に、無遠慮な笑顔。 癖のあるパーマがかかった茶色の前髪を適当に撫でつけて、猫背気味に荷物を下ろすその仕草は、どこか“舞台役者”めいていた。 ″胡散臭い男″それが垣根孝に対する、第一印象だった。 「大丈夫、俺も君に本気になんかならないから。逆に好都合じゃない? 恋愛沙汰を避けるための盾ってことでさ」 「恋人ってことにしとけば、告白とかー、絡まれるのとかー、無くなりはしなくても多少は減るでしょ? 俺もああいうの、面倒だからさ。で、君は、目立ってるし、噂もすぐ立つと思う。だから、ね」 「安心して。俺は君に本気になんかならないよ。むしろ都合がいいでしょ、お互いに」 軽薄で胡散臭い男、垣根孝は人の行動や感情を観察するのが大好きだった。 学園の恋愛事情を避けるため、″擬装カップル″として利害が一致していたはずの2人。 しかし垣根が根津美咲に固執したことをきっかけに、2人の関係は破綻していく。 執着と所有欲が表面化した針崎 澪。 逃げ出した孝を、徹底的に追い詰め、捕まえ、管理する。 拒絶、抵抗、絶望、諦め——そして、麻痺。 壊されて、従って、愛してしまった。 これは、「支配」と「観察」から始まった、因果応報な男の末路。 【青春BLカップ投稿作品】

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

処理中です...