43 / 59
5 12月25日
クリスマスの疑問
しおりを挟む
勢いをつけたまま、ドアを開けて中に入ると、「いらっしゃいませー」とまりあさんの元気な声が響いてきた。
「あら、ニコちゃん! こんにちは」
「こ、こんにちは! あの、理人先輩って……」
「理人なら部屋にいると思うけど。呼んでこようか?」
「あ……すみません。お願いします」
平日の夕方。お店は珍しくお客さんは誰もいない。すぐにまりあさんは「理人ー」と先輩の名前を呼びながら奥の部屋へ消えていく。
今更になって、突然きてしまって迷惑ではないかと、反省してしまう。
「あれー、ニコちゃん? どしたー」
やっぱり驚いた顔でお店に顔を出してくれた理人先輩は、もうすっかりオフモードなのかあまり見たことのないゆるいスウェット姿で髪も下ろしている。
「すみません、突然来てしまって」
「いいよいいよー、いつでも来て。そこ座る?」
入り口付近に立ったままだったあたしに、待合いのソファーに座るように言ってくれるからそっと座った。
「あ、あの」
「うん」
理人先輩は、なんの話だろうと悩むみたいな顔をしている。だから、もしかしたら椿くんがあたしに言った言葉が、理人先輩のせいじゃないかもしれないと、頭の片隅で考え始めてしまう。
もしも、また理人先輩の計らいで椿くんがあんなことを言っているなら、理人先輩にお願いしてまた可愛くなって、クリスマスの日に椿くんと会えばいいだけだと思った。
いや、でもその前になんであたしとクリスマスに会うのかが最大の疑問として残ってはいるのだけれど。まぁ、それはとりあえず今は考えないことにして。
「クリスマスって、なにか考えていたりします、か?」
「え?」
いや、何この質問。これじゃあ疑っていると言うか、怪しんでいると言うか、何が聞きたいのかよくわからないよね?
「あ、えっと」
自分でも何を聞けばいいのか分からなくて、俯いたまま膝の上で両手をキュッと握りしめた。
「クリスマス?」
理人先輩が確かめるように聞いてくるから、あたしは小さく頷くだけ。
「もしかして! ニコちゃんようやく自分から動き出そうとしてる?」
ワクワクと高揚しているような声で理人先輩が聞いてくるから、あたしは顔を上げた。
「……え?」
「クリスマスの日までにかわいくなって、椿のことを誘おうって話でしょ?」
キラキラと楽しそうに話す理人先輩。あたしは頷くことも首を振ることも出来ない。
そして、こんな反応をするってことは、やっぱり椿くんは理人先輩となにかを企てているわけではないとわかった。
そりゃそうだ。理人先輩はこの冬は卒業だし色々と忙しい。あたしのモデルの件は勉強の一部としても、人の世話を焼いている暇なんてないはず。
だとしたら、もしかして一条さんが?
「……い、いえ。あの、一条さんって」
「え? ユリカ?」
でも、なんと聞けばいいんだろう。
一条さんが企んでいるなにかを知っていますか? なんて失礼な聞き方だし。それに、一条さんがなんで椿くんにあたしをクリスマスに誘えと誘導するのか、そこがまず疑問だ。しかもそんなことになったら、椿くんがその誘いを断ればいいだけの話だ。
推しの理人先輩に頼まれたのなら、引き受けない理由は無いけれど、一条さんに頼まれたことなら断ったってなんのダメージもないはずだから。
それなのに、椿くんがあたしに12月25日の予定を聞いてくるって、やっぱりなにかあるとしたら理人先輩以外に考えられない。
「え、なにかあった?」
悩み過ぎて顔に出てしまったのかもしれない。理人先輩が心配そうにあたしの顔を覗き込んでくるから、ハッとして笑顔を無理矢理作る。でも、言葉が出てこない。
しばらく無言のままでいると、お店の入り口が開いてお客様が入ってきた。
「あ、いらっしゃいませ。今母のこと呼んできますね」
すぐに理人先輩は立ち上がって、お客様に挨拶するとまりあさんに声をかけている。
あたしは立ち上がってお客様と入れ替わるように入り口に立つと、頭を下げた。
「あの、突然すみませんでした。ありがとうございます。お邪魔しました」
ドアを開けて外に出ると、歩き出す。
すると、後ろから理人先輩が追いかけて来てくれたのか、名前を呼ばれて振り返った。
「あら、ニコちゃん! こんにちは」
「こ、こんにちは! あの、理人先輩って……」
「理人なら部屋にいると思うけど。呼んでこようか?」
「あ……すみません。お願いします」
平日の夕方。お店は珍しくお客さんは誰もいない。すぐにまりあさんは「理人ー」と先輩の名前を呼びながら奥の部屋へ消えていく。
今更になって、突然きてしまって迷惑ではないかと、反省してしまう。
「あれー、ニコちゃん? どしたー」
やっぱり驚いた顔でお店に顔を出してくれた理人先輩は、もうすっかりオフモードなのかあまり見たことのないゆるいスウェット姿で髪も下ろしている。
「すみません、突然来てしまって」
「いいよいいよー、いつでも来て。そこ座る?」
入り口付近に立ったままだったあたしに、待合いのソファーに座るように言ってくれるからそっと座った。
「あ、あの」
「うん」
理人先輩は、なんの話だろうと悩むみたいな顔をしている。だから、もしかしたら椿くんがあたしに言った言葉が、理人先輩のせいじゃないかもしれないと、頭の片隅で考え始めてしまう。
もしも、また理人先輩の計らいで椿くんがあんなことを言っているなら、理人先輩にお願いしてまた可愛くなって、クリスマスの日に椿くんと会えばいいだけだと思った。
いや、でもその前になんであたしとクリスマスに会うのかが最大の疑問として残ってはいるのだけれど。まぁ、それはとりあえず今は考えないことにして。
「クリスマスって、なにか考えていたりします、か?」
「え?」
いや、何この質問。これじゃあ疑っていると言うか、怪しんでいると言うか、何が聞きたいのかよくわからないよね?
「あ、えっと」
自分でも何を聞けばいいのか分からなくて、俯いたまま膝の上で両手をキュッと握りしめた。
「クリスマス?」
理人先輩が確かめるように聞いてくるから、あたしは小さく頷くだけ。
「もしかして! ニコちゃんようやく自分から動き出そうとしてる?」
ワクワクと高揚しているような声で理人先輩が聞いてくるから、あたしは顔を上げた。
「……え?」
「クリスマスの日までにかわいくなって、椿のことを誘おうって話でしょ?」
キラキラと楽しそうに話す理人先輩。あたしは頷くことも首を振ることも出来ない。
そして、こんな反応をするってことは、やっぱり椿くんは理人先輩となにかを企てているわけではないとわかった。
そりゃそうだ。理人先輩はこの冬は卒業だし色々と忙しい。あたしのモデルの件は勉強の一部としても、人の世話を焼いている暇なんてないはず。
だとしたら、もしかして一条さんが?
「……い、いえ。あの、一条さんって」
「え? ユリカ?」
でも、なんと聞けばいいんだろう。
一条さんが企んでいるなにかを知っていますか? なんて失礼な聞き方だし。それに、一条さんがなんで椿くんにあたしをクリスマスに誘えと誘導するのか、そこがまず疑問だ。しかもそんなことになったら、椿くんがその誘いを断ればいいだけの話だ。
推しの理人先輩に頼まれたのなら、引き受けない理由は無いけれど、一条さんに頼まれたことなら断ったってなんのダメージもないはずだから。
それなのに、椿くんがあたしに12月25日の予定を聞いてくるって、やっぱりなにかあるとしたら理人先輩以外に考えられない。
「え、なにかあった?」
悩み過ぎて顔に出てしまったのかもしれない。理人先輩が心配そうにあたしの顔を覗き込んでくるから、ハッとして笑顔を無理矢理作る。でも、言葉が出てこない。
しばらく無言のままでいると、お店の入り口が開いてお客様が入ってきた。
「あ、いらっしゃいませ。今母のこと呼んできますね」
すぐに理人先輩は立ち上がって、お客様に挨拶するとまりあさんに声をかけている。
あたしは立ち上がってお客様と入れ替わるように入り口に立つと、頭を下げた。
「あの、突然すみませんでした。ありがとうございます。お邪魔しました」
ドアを開けて外に出ると、歩き出す。
すると、後ろから理人先輩が追いかけて来てくれたのか、名前を呼ばれて振り返った。
1
あなたにおすすめの小説
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶
菱沼あゆ
キャラ文芸
冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。
琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。
それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる