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第一章 再会
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夕方、同窓会の集合時間前に、もう一度政光の店に顔を出した。
すっかり準備を整えて、にんにくの匂いが一切しない政光が車を出してくれた。
昨日乗った配達用の軽ワゴンではなく、自家用車だ。普段家族で使っているものだろう。後ろの席にはチャイルドシートが装着されている。
「そういや、昼川璃って覚えてる?」
車を走らせてすぐに、政光が昼川の名前を口にするから驚いた。
「……覚えてる、けど」
冷静に、何でもないように返すつもりが、明らかに動揺してしまった。
「やっぱり、昼川と中学の時なんかあった?」
「……え?」
「今回さ、昼川も同窓会の幹事たちと動いてくれてたんだけど、佑衣斗のこと呼びたいって俺のとこに直々にお前の住所聞きにきたんだよ」
「え、なんで?」
「さぁ? じゃなきゃ、もしかしたらお前住所不明で今回の同窓会呼ばれてなかったかも知んないんだし、昼川に礼言っとけよ」
「……ああ、分かった」
昼川が、わざわざ政光に住所を聞きにきたって、どうして。
ハガキには一言添えてあったし。もしかして、役員になっているから連絡の取れない同級生もなるべく集めるために、動いていたのか。
「まぁ、役員でもないのにお前に会いたいからって動いてるの、なんかすごいよな。八重もだけどさ、モテる男はどこまでもモテるんだなー!」
「は? そんなことないだろ。モテてなんかないし」
はいはいと、聞く耳を持たずに車は順調に会場近くまで辿り着いていた。
僕に会いたい? 昼川が? どうして。
胸の奥が苦しくなってくる。
会いたいのは、僕の方だ。
ずっと忘れていたけど、昼川への想いを忘れるために、僕は無気力になったんだ。
あの頃は、想いを伝える術がわからなくて。自分の気持ちにも気が付いていなかった。
今だって、ここまで来たはいいけれど、どうしたら良いのかなんて何も分からない。
もし、今日昼川に会って、お互いに想い合えているとしたら、すごい事だ。
今までの人生が無駄じゃなかったって、思えるのかもしれない。
無気力だった日々に、光がさすかもしれない。昼川と一緒にいられるのなら、僕はもう、孤独なんかじゃない。
そう思うと、会場に近づく足取りが、徐々に軽快になっていった。
隣町のグランドホテルが同窓会場だった。久しぶりに見る顔は、懐かしさと驚きと嬉しさで溢れていた。
政光と一緒に受付を済ませて中へ進むと、誰よりも先に、昼川の姿を見つけた。
あの頃よりもずっと大人になった昼川の姿に、足が進まなくなってしまう。
後ろから、政光の声が響いてハッとした。
「昼川ぁ! ほら、約束通り連れてきたぞ」
大きく手を振り、僕の肩をドンっと押すから驚いてしまう。
前方で話をしていた昼川がすぐに気が付いて、こちらに振り返った。驚いた表情をしつつ、ゆっくりこちらに向かってきた。
「ちょっと、政光くん! そんな大きな声で呼ばないでよ。恥ずかしい……」
「ははっ、わりぃ」
すぐ目の前まで来た昼川は、政光の肩を叩きながら怒っている。
なんだか、中学の時の教室でも見たことがあったような気がするやり取りだ。
「……久しぶり、夜野くん」
「あ、うん。久しぶり」
頬を赤くしてこちらに視線を向けた昼川は、やっぱりかわいいと思った。
あの頃と、全然変わらない。
「来てくれて、ありがとう」
「いや、うん」
「俺、向こうの奴らに声かけてくるな」
気を利かせてくれたのか、政光が奥の男子グループのテーブルを指差して離れていった。
「中学卒業以来だから、もうだいぶ経つよね。大人になっちゃったね」
「……そうだな」
昼川の色白な素肌を引き立てる程よい自然なメイクに、栗色の髪が緩く巻かれて胸元に落ちる。
ふんわりとしたワンピースを着ていて、大人だけど可愛らしさを残したままの立ち姿に、僕の胸はゆっくりと心音を鳴らし始めた。
「あたしね、実は……中学の頃、夜野くんのこと好きだったんだ」
「……え」
「ほら、夜野くんって女子から人気あったし、あたしのことなんて眼中になかったと思うけど。それでも、あの頃よく話してくれたりして、嬉しかったなぁって。同窓会するって聞いた時に、思い出しちゃって。はっきり気持ち伝えたことなかったし、結婚する前に伝えときたいなぁって思って、今日呼んだんだよ。だから、来てくれて本当に嬉しい。ありがとう」
軽く頭を下げたあとに、楽しそうに笑う彼女の姿が、ただ嬉しくて、僕まで微笑ましくなっていた。
けれど、僕の動きは止まったままだ。
『結婚する前に伝えときたいなぁって思って』
ちょっと、待ってくれ。
「……結婚……?」
「うん。来月籍入れるの。実はね、まだ全然大きくないんだけど、お腹に赤ちゃんもいるの。だから、今日はソフトドリンクでしか乾杯出来ないけど、許してね」
ふふ、と幸せそうに自分のお腹をそっと撫でる昼川の姿は、僕の知らないオーラで包まれている。
昼川があの頃の想いを伝えてくれたのなら、僕だって、あの頃君が好きだったと、伝えても良いはずだ。
頭の中でそうは思っても、なかなか口が開かない。
「じゃあ、久しぶりのみんなとの再会、お互いに楽しもうね!」
またね、と小さく手を振って、昼川はさっきまで話していた女子グループの輪の中にゆっくり戻っていった。
すっかり準備を整えて、にんにくの匂いが一切しない政光が車を出してくれた。
昨日乗った配達用の軽ワゴンではなく、自家用車だ。普段家族で使っているものだろう。後ろの席にはチャイルドシートが装着されている。
「そういや、昼川璃って覚えてる?」
車を走らせてすぐに、政光が昼川の名前を口にするから驚いた。
「……覚えてる、けど」
冷静に、何でもないように返すつもりが、明らかに動揺してしまった。
「やっぱり、昼川と中学の時なんかあった?」
「……え?」
「今回さ、昼川も同窓会の幹事たちと動いてくれてたんだけど、佑衣斗のこと呼びたいって俺のとこに直々にお前の住所聞きにきたんだよ」
「え、なんで?」
「さぁ? じゃなきゃ、もしかしたらお前住所不明で今回の同窓会呼ばれてなかったかも知んないんだし、昼川に礼言っとけよ」
「……ああ、分かった」
昼川が、わざわざ政光に住所を聞きにきたって、どうして。
ハガキには一言添えてあったし。もしかして、役員になっているから連絡の取れない同級生もなるべく集めるために、動いていたのか。
「まぁ、役員でもないのにお前に会いたいからって動いてるの、なんかすごいよな。八重もだけどさ、モテる男はどこまでもモテるんだなー!」
「は? そんなことないだろ。モテてなんかないし」
はいはいと、聞く耳を持たずに車は順調に会場近くまで辿り着いていた。
僕に会いたい? 昼川が? どうして。
胸の奥が苦しくなってくる。
会いたいのは、僕の方だ。
ずっと忘れていたけど、昼川への想いを忘れるために、僕は無気力になったんだ。
あの頃は、想いを伝える術がわからなくて。自分の気持ちにも気が付いていなかった。
今だって、ここまで来たはいいけれど、どうしたら良いのかなんて何も分からない。
もし、今日昼川に会って、お互いに想い合えているとしたら、すごい事だ。
今までの人生が無駄じゃなかったって、思えるのかもしれない。
無気力だった日々に、光がさすかもしれない。昼川と一緒にいられるのなら、僕はもう、孤独なんかじゃない。
そう思うと、会場に近づく足取りが、徐々に軽快になっていった。
隣町のグランドホテルが同窓会場だった。久しぶりに見る顔は、懐かしさと驚きと嬉しさで溢れていた。
政光と一緒に受付を済ませて中へ進むと、誰よりも先に、昼川の姿を見つけた。
あの頃よりもずっと大人になった昼川の姿に、足が進まなくなってしまう。
後ろから、政光の声が響いてハッとした。
「昼川ぁ! ほら、約束通り連れてきたぞ」
大きく手を振り、僕の肩をドンっと押すから驚いてしまう。
前方で話をしていた昼川がすぐに気が付いて、こちらに振り返った。驚いた表情をしつつ、ゆっくりこちらに向かってきた。
「ちょっと、政光くん! そんな大きな声で呼ばないでよ。恥ずかしい……」
「ははっ、わりぃ」
すぐ目の前まで来た昼川は、政光の肩を叩きながら怒っている。
なんだか、中学の時の教室でも見たことがあったような気がするやり取りだ。
「……久しぶり、夜野くん」
「あ、うん。久しぶり」
頬を赤くしてこちらに視線を向けた昼川は、やっぱりかわいいと思った。
あの頃と、全然変わらない。
「来てくれて、ありがとう」
「いや、うん」
「俺、向こうの奴らに声かけてくるな」
気を利かせてくれたのか、政光が奥の男子グループのテーブルを指差して離れていった。
「中学卒業以来だから、もうだいぶ経つよね。大人になっちゃったね」
「……そうだな」
昼川の色白な素肌を引き立てる程よい自然なメイクに、栗色の髪が緩く巻かれて胸元に落ちる。
ふんわりとしたワンピースを着ていて、大人だけど可愛らしさを残したままの立ち姿に、僕の胸はゆっくりと心音を鳴らし始めた。
「あたしね、実は……中学の頃、夜野くんのこと好きだったんだ」
「……え」
「ほら、夜野くんって女子から人気あったし、あたしのことなんて眼中になかったと思うけど。それでも、あの頃よく話してくれたりして、嬉しかったなぁって。同窓会するって聞いた時に、思い出しちゃって。はっきり気持ち伝えたことなかったし、結婚する前に伝えときたいなぁって思って、今日呼んだんだよ。だから、来てくれて本当に嬉しい。ありがとう」
軽く頭を下げたあとに、楽しそうに笑う彼女の姿が、ただ嬉しくて、僕まで微笑ましくなっていた。
けれど、僕の動きは止まったままだ。
『結婚する前に伝えときたいなぁって思って』
ちょっと、待ってくれ。
「……結婚……?」
「うん。来月籍入れるの。実はね、まだ全然大きくないんだけど、お腹に赤ちゃんもいるの。だから、今日はソフトドリンクでしか乾杯出来ないけど、許してね」
ふふ、と幸せそうに自分のお腹をそっと撫でる昼川の姿は、僕の知らないオーラで包まれている。
昼川があの頃の想いを伝えてくれたのなら、僕だって、あの頃君が好きだったと、伝えても良いはずだ。
頭の中でそうは思っても、なかなか口が開かない。
「じゃあ、久しぶりのみんなとの再会、お互いに楽しもうね!」
またね、と小さく手を振って、昼川はさっきまで話していた女子グループの輪の中にゆっくり戻っていった。
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