4 / 5
雨色の惑い(青春)
2夜―2
しおりを挟む
通学路に人はなく、空もどんよりとしている。美雨は地面に目を落とし、一人きりで下校していた。杉林家に行った日から数日経つ。あの日以来、日常に大きな変化はない。明るく騒がしい家族とのひと時が、随分昔のように感じる。
母の提案にも、まだ返答はしていなかった。思い詰めても答えなど出ない。考えようとしても、何を考えていいのかすら分からなかった。
「雨?」
その時、地面に大きな雨粒が一つ。顔を上げると黒い雲の塊が見え、すぐに雨が降り出した。
シャッターが閉じられた民家の軒先に逃げこみ、鞄の中を探る。あの日以来、美雨は折り畳み傘を持ち歩いていた。傘を広げながら、空を見上げる。いつの間にか本降りとなり、小さな折り畳み傘では心もとない状態である。
「……柿崎?」
聞き覚えのある声に、美雨は我に返る。目の前に、あの黒い傘を差した麻矢がいたのだ。
「こないだは悪かったな。妹も母さんもあんな感じだから、迷惑だっただろ?」
「い、いえ。私一人っ子なので、仲良くしてもらってすごく、嬉しかったです」
慌てて弁解すると、麻矢は左手で照れ臭そうに頭を掻いた。
彼は傘を閉じて隣に並ぶ。雨の音だけがうるさく響き、何故か緊張感が漂う。美雨は勇気を出して質問することにした。
「麻矢さんは、これからバイトですか?」
彼の服装は、初めて会った日とほぼ同じだった。白いワイシャツにくたびれたジーンズ、肩にかけた巨大なボストンバッグ。予想通り、麻矢は頷いた。きっと彼は高校で着替え、そのまま出勤しているのだろう。
「お前も島ダスに行くのか?」
「あ、今日はこのまま帰るつもりでした」
「そっか」
『島ダス』とは、ショッピングモールの愛称である。午後忙しい母の代わりに買い物に行くことが多いが、今日は生憎、出かける予定はない。麻矢は恥ずかしげに口を尖らせると、ぽつりと呟いた。
「元気なさそうに見えるけど、なんかあったのか?」
美雨は驚いて彼の顔を見た。一瞬目が合い、すぐにそらされる。彼は照れ隠しに、大声でつけ加えた。
「つ、辛いことがあるなら、吐き出した方がいいぞ。俺も、バイトまでまだ時間あるし」
ぶっきらぼうだが、優しい言動。それは、傘を渡された時と全く同じだった。
美雨は抱えていた悩みを打ち明ける。夢がないこと、志望校が決まらないこと、そして将来への不安。麻矢は黙って最後まで聞き、しばらく考えた後に口を開いた。
「無理して夢を探す必要は、ないんじゃないか?」
真面目な顔が向けられる。彼は言葉を探しながら、ゆっくりと答え始めた。
「うちは貧乏でさ、近いところしか選べなかったから参考にはならねぇけど……俺だってまだ夢はない。でも、周りを見たら案外、そんな奴ばっかだよ」
美雨はその言葉に驚愕する。『面接試験では、自分の夢に関連させて話しましょう』というアドバイスを聞いたばかりだったからだ。麻矢は一呼吸置き、言葉を続ける。
「それに、勉強も中学校の時より難しくなるんだ。範囲だって広がる。その中で自分の好きなことは何なのか考えていけば、たぶん、大丈夫だろ」
「自分の好きなこと、ですか……」
思わず復唱する。『自分の好きなこと』に目を向けるとは、思いもしなかった。遥か先の方角に目を凝らしすぎて、手元が全く見えていなかったのだ。
「そうだ、志望校が決まらないんだったらとりあえず、うちの高校にしとけよ。ここからは近いし、進学も就職もこの辺じゃ有利らしいからな」
麻矢はにやりと笑う。数日前の麻緒の説明を思い返しながら、聞き返した。
「えっと……麻矢さんの高校って確か、西島棚高校でしたよね?」
「あぁ。なんなら、俺ん家で勉強見てやってもいいぞ」
美雨は「え」と面食らう。彼は顔を赤らめ、流し目をこちらに向けた。
「麻緒もうちの高校を受けるんだが、ほら、塾に行ける余裕なんてねぇから……俺の時もこの時期から、コツコツ勉強してたんだよ。あいつ成績は微妙だからさ、お前みたいなまともな人がいれば、ちょっとはマシになるかと思って……」
麻穂の宿題を手伝った時も、遠回しに褒められたことを思い出す。語尾が小さくなる麻矢を見て、美雨は笑いがこみ上げてきた。彼の家族がこの会話を知ったら、再び囃し立てるに違いない。
「ありがとうございます、麻矢さん」
麻矢は自分から目をそらし、黙って頷いた。いつの間にか雨は止み、僅かに青空が見えている。
「じゃあ、これからよろしくな」
「はい。バイト、頑張ってください」
傘の水滴を払い、彼は屋根の外に出た。声をかけると、自然な笑顔が返される。麻矢は片手を上げ、道路を歩き始めた。
美雨も折り畳み傘を鞄にしまい、一歩踏み出す。心の中に降り続いていた雨も消えている。水溜まりに映る青空は、心なしか、いつもより綺麗だった。
――
麻矢と約束した翌日から、彼のアルバイトが休みの日限定で、自宅勉強会が始まった。
母には既に説明済みである。本当は塾に行ってほしかったようだが、美雨の熱意が伝わったのか、笑顔で了承してくれた。
放課後は麻緒と共に杉林家に向かい、たまに麻穂の宿題も見ながら、元受験生による指導を受ける。次第に家族ぐるみの付き合いになり、母親同士も仲良くなったようだ。
しばしば起こる兄妹喧嘩に翻弄されつつ勉強に励む。美雨はこの充実した毎日が好きだった。それでも時間は止まることなく、季節はあっという間に過ぎてゆく。
そして季節は春。試験日も無事に終わり、遂に合格発表の日を迎えた。
「えーっと、うわ文字細かっ」
貼り出された合格者番号に目を凝らし、麻緒は文句を口にする。既に多くの受験生とその親が看板の前に陣取っており、この距離では数字の三と八の見分けがつかない。
同行していた麻子は美雨と麻緒、更に晴の腕を掴み、人混みの中に飛び出した。ようやく看板の前に辿り着き、改めて番号を確認する。最初に声を上げたのは麻子だった。
「あった! 二人共合格だよ!」
「ほんとだ! 美雨、やったよぉ!」
麻緒に抱きつかれ、美雨も自分の番号を見つける。自然と涙が溢れ、今まで味わったことのない達成感に襲われた。
興奮した母親達に背中を叩かれ、二人は笑い合う。合格の立役者である麻矢がいないのは残念だったが、四人はこの一年間の努力を称え合い、喜びを噛みしめるのだった。
――
時折降っていた小雨は、しとしとと降り続く雨に変わっていた。
四人は傘を差し、余韻に浸りながら帰り道を行く。杉林家のアパートの前に辿り着くと、その軒先で麻矢が待っていた。
「麻矢! どっちも受かったよ!」
「聞く前から答えるなよ!」
開口一番結果を言う妹にツッコミを入れながらも、彼はとても嬉しそうだ。
「麻矢さん、ご指導ありがとうございました!」
頭を下げて礼を言うと、麻矢は美雨の腕を掴んで軒先の端に移動する。途端に母と妹が騒ぎ立てるが、彼はその二人を無視するように咳払いした。
「合格おめでとう。面接、緊張しなかったか?」
「少し怖かったですけど、ちゃんと伝えられました。あっ、それと……この一年で自分の夢、なんとなく分かった気がします」
美雨は面接でも語った内容を、彼に伝えた。
「私、昔から読書が好きで、今までは月一で新しい本を買いに行ってたんですけど、将来は本屋さんとか図書館とか、本に関係のある仕事がしたいって思いました」
「なるほど、それでか……」
意味深な言葉に疑問を浮かべていると、麻矢は恥ずかしげに白状した。
「実はな、俺……お前に傘を貸す前から、バイト帰りに何度か見かけてるんだよ。制服姿の子が一人で何やってんだろうって、気になってたんだ」
美雨は言葉を失う。つまり彼は、あの日よりも前に自分を認識していたのだ。黒い傘の柄をぎゅっと握り、麻矢は初めて、真っ直ぐに美雨を見た。
「だから、お前の力になれて嬉しかった。これからもよろしくな……美雨」
名前を呼ばれ、心の中に温かいものが広がる。美雨は涙混じりの笑顔で、差し出された手を握り返した。
雨は嫌いだ。でも、少しだけ好きになれそうな気がする。
美雨はしみじみと思う。雨と共に現れ、背中を押してくれた麻矢。彼との出会いは、きっと天からの贈り物だったのだ。
母の提案にも、まだ返答はしていなかった。思い詰めても答えなど出ない。考えようとしても、何を考えていいのかすら分からなかった。
「雨?」
その時、地面に大きな雨粒が一つ。顔を上げると黒い雲の塊が見え、すぐに雨が降り出した。
シャッターが閉じられた民家の軒先に逃げこみ、鞄の中を探る。あの日以来、美雨は折り畳み傘を持ち歩いていた。傘を広げながら、空を見上げる。いつの間にか本降りとなり、小さな折り畳み傘では心もとない状態である。
「……柿崎?」
聞き覚えのある声に、美雨は我に返る。目の前に、あの黒い傘を差した麻矢がいたのだ。
「こないだは悪かったな。妹も母さんもあんな感じだから、迷惑だっただろ?」
「い、いえ。私一人っ子なので、仲良くしてもらってすごく、嬉しかったです」
慌てて弁解すると、麻矢は左手で照れ臭そうに頭を掻いた。
彼は傘を閉じて隣に並ぶ。雨の音だけがうるさく響き、何故か緊張感が漂う。美雨は勇気を出して質問することにした。
「麻矢さんは、これからバイトですか?」
彼の服装は、初めて会った日とほぼ同じだった。白いワイシャツにくたびれたジーンズ、肩にかけた巨大なボストンバッグ。予想通り、麻矢は頷いた。きっと彼は高校で着替え、そのまま出勤しているのだろう。
「お前も島ダスに行くのか?」
「あ、今日はこのまま帰るつもりでした」
「そっか」
『島ダス』とは、ショッピングモールの愛称である。午後忙しい母の代わりに買い物に行くことが多いが、今日は生憎、出かける予定はない。麻矢は恥ずかしげに口を尖らせると、ぽつりと呟いた。
「元気なさそうに見えるけど、なんかあったのか?」
美雨は驚いて彼の顔を見た。一瞬目が合い、すぐにそらされる。彼は照れ隠しに、大声でつけ加えた。
「つ、辛いことがあるなら、吐き出した方がいいぞ。俺も、バイトまでまだ時間あるし」
ぶっきらぼうだが、優しい言動。それは、傘を渡された時と全く同じだった。
美雨は抱えていた悩みを打ち明ける。夢がないこと、志望校が決まらないこと、そして将来への不安。麻矢は黙って最後まで聞き、しばらく考えた後に口を開いた。
「無理して夢を探す必要は、ないんじゃないか?」
真面目な顔が向けられる。彼は言葉を探しながら、ゆっくりと答え始めた。
「うちは貧乏でさ、近いところしか選べなかったから参考にはならねぇけど……俺だってまだ夢はない。でも、周りを見たら案外、そんな奴ばっかだよ」
美雨はその言葉に驚愕する。『面接試験では、自分の夢に関連させて話しましょう』というアドバイスを聞いたばかりだったからだ。麻矢は一呼吸置き、言葉を続ける。
「それに、勉強も中学校の時より難しくなるんだ。範囲だって広がる。その中で自分の好きなことは何なのか考えていけば、たぶん、大丈夫だろ」
「自分の好きなこと、ですか……」
思わず復唱する。『自分の好きなこと』に目を向けるとは、思いもしなかった。遥か先の方角に目を凝らしすぎて、手元が全く見えていなかったのだ。
「そうだ、志望校が決まらないんだったらとりあえず、うちの高校にしとけよ。ここからは近いし、進学も就職もこの辺じゃ有利らしいからな」
麻矢はにやりと笑う。数日前の麻緒の説明を思い返しながら、聞き返した。
「えっと……麻矢さんの高校って確か、西島棚高校でしたよね?」
「あぁ。なんなら、俺ん家で勉強見てやってもいいぞ」
美雨は「え」と面食らう。彼は顔を赤らめ、流し目をこちらに向けた。
「麻緒もうちの高校を受けるんだが、ほら、塾に行ける余裕なんてねぇから……俺の時もこの時期から、コツコツ勉強してたんだよ。あいつ成績は微妙だからさ、お前みたいなまともな人がいれば、ちょっとはマシになるかと思って……」
麻穂の宿題を手伝った時も、遠回しに褒められたことを思い出す。語尾が小さくなる麻矢を見て、美雨は笑いがこみ上げてきた。彼の家族がこの会話を知ったら、再び囃し立てるに違いない。
「ありがとうございます、麻矢さん」
麻矢は自分から目をそらし、黙って頷いた。いつの間にか雨は止み、僅かに青空が見えている。
「じゃあ、これからよろしくな」
「はい。バイト、頑張ってください」
傘の水滴を払い、彼は屋根の外に出た。声をかけると、自然な笑顔が返される。麻矢は片手を上げ、道路を歩き始めた。
美雨も折り畳み傘を鞄にしまい、一歩踏み出す。心の中に降り続いていた雨も消えている。水溜まりに映る青空は、心なしか、いつもより綺麗だった。
――
麻矢と約束した翌日から、彼のアルバイトが休みの日限定で、自宅勉強会が始まった。
母には既に説明済みである。本当は塾に行ってほしかったようだが、美雨の熱意が伝わったのか、笑顔で了承してくれた。
放課後は麻緒と共に杉林家に向かい、たまに麻穂の宿題も見ながら、元受験生による指導を受ける。次第に家族ぐるみの付き合いになり、母親同士も仲良くなったようだ。
しばしば起こる兄妹喧嘩に翻弄されつつ勉強に励む。美雨はこの充実した毎日が好きだった。それでも時間は止まることなく、季節はあっという間に過ぎてゆく。
そして季節は春。試験日も無事に終わり、遂に合格発表の日を迎えた。
「えーっと、うわ文字細かっ」
貼り出された合格者番号に目を凝らし、麻緒は文句を口にする。既に多くの受験生とその親が看板の前に陣取っており、この距離では数字の三と八の見分けがつかない。
同行していた麻子は美雨と麻緒、更に晴の腕を掴み、人混みの中に飛び出した。ようやく看板の前に辿り着き、改めて番号を確認する。最初に声を上げたのは麻子だった。
「あった! 二人共合格だよ!」
「ほんとだ! 美雨、やったよぉ!」
麻緒に抱きつかれ、美雨も自分の番号を見つける。自然と涙が溢れ、今まで味わったことのない達成感に襲われた。
興奮した母親達に背中を叩かれ、二人は笑い合う。合格の立役者である麻矢がいないのは残念だったが、四人はこの一年間の努力を称え合い、喜びを噛みしめるのだった。
――
時折降っていた小雨は、しとしとと降り続く雨に変わっていた。
四人は傘を差し、余韻に浸りながら帰り道を行く。杉林家のアパートの前に辿り着くと、その軒先で麻矢が待っていた。
「麻矢! どっちも受かったよ!」
「聞く前から答えるなよ!」
開口一番結果を言う妹にツッコミを入れながらも、彼はとても嬉しそうだ。
「麻矢さん、ご指導ありがとうございました!」
頭を下げて礼を言うと、麻矢は美雨の腕を掴んで軒先の端に移動する。途端に母と妹が騒ぎ立てるが、彼はその二人を無視するように咳払いした。
「合格おめでとう。面接、緊張しなかったか?」
「少し怖かったですけど、ちゃんと伝えられました。あっ、それと……この一年で自分の夢、なんとなく分かった気がします」
美雨は面接でも語った内容を、彼に伝えた。
「私、昔から読書が好きで、今までは月一で新しい本を買いに行ってたんですけど、将来は本屋さんとか図書館とか、本に関係のある仕事がしたいって思いました」
「なるほど、それでか……」
意味深な言葉に疑問を浮かべていると、麻矢は恥ずかしげに白状した。
「実はな、俺……お前に傘を貸す前から、バイト帰りに何度か見かけてるんだよ。制服姿の子が一人で何やってんだろうって、気になってたんだ」
美雨は言葉を失う。つまり彼は、あの日よりも前に自分を認識していたのだ。黒い傘の柄をぎゅっと握り、麻矢は初めて、真っ直ぐに美雨を見た。
「だから、お前の力になれて嬉しかった。これからもよろしくな……美雨」
名前を呼ばれ、心の中に温かいものが広がる。美雨は涙混じりの笑顔で、差し出された手を握り返した。
雨は嫌いだ。でも、少しだけ好きになれそうな気がする。
美雨はしみじみと思う。雨と共に現れ、背中を押してくれた麻矢。彼との出会いは、きっと天からの贈り物だったのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
婚約を正式に決める日に、大好きなあなたは姿を現しませんでした──。
Nao*
恋愛
私にはただ一人、昔からずっと好きな人が居た。
そして親同士の約束とは言え、そんな彼との間に婚約と言う話が出て私はとても嬉しかった。
だが彼は王都への留学を望み、正式に婚約するのは彼が戻ってからと言う事に…。
ところが私達の婚約を正式に決める日、彼は何故か一向に姿を現さず─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる