上 下
22 / 42
一章〜ギルド設立を目指して〜

二十一話 バトルロワイヤルの無双

しおりを挟む
 休息時間に入った私は、観客席でジュースを飲みながらガリレオの横に座った。
 ネネが私に着いてきたが、シュートとアリアータは何処かへ出掛けていった。
 行き場所は聞いていない。二人のプライベートに、首を挟むほど私は心配性ではない。

 二人のプライベートは、二人の自由そのもの。
 仲間を信じることは、即ち何処で何をしていようが心配しないことである。
 
「ーーさて、始まるわね」

「誰か応援?」

「影縫って、友達。まあ、あの子なら多分ーー無双しそうだけど」

 そう、休息時間には丁度影縫の出場する個人戦がある。
 休息時間はお腹を満たし、魔力回復をする時間。だけど、私からしてみれば、そもそも魔力を回復のために腹を満たす意味が全く分からない。
 腹を満して魔力を回復できる? そんな馬鹿な話があるわけない。
 あったとしても、それは私にとっては全く意味をなさない。ただ腹が満たされたにすぎないのだ。

 ネネも同じか、もしくはニャンドレインで、魔力が溢れるようにあるはず。
 つまり、私達は空腹でもなければ魔力枯渇が起きているわけでもない。
 健康体過ぎて、動き足りていない。
 とはいえ、個人戦に乱入すれば強制退場だ。
 だからこうして、影縫の試合を見物しながら飲み物で気を紛らわせている。

「それであの影縫って人? 滅茶苦茶ね」

「ああ……うん。あの子はーー」


「忍法ーー鎌鼬!!」


 影縫は始まってすぐ、もう術を使って圧倒していた。
 スキルアップとか言いながら、実は優勝賞金狙いなのではないか厚成である。
 鎌鼬ーー鎌の持ち手の端に付いた鎖を手首に絡ませ、それを投げてグルグル自分自身が回転する忍法とか言う魔力と無関係な術。

 それを目にして、ガリレオは顎に手を当てて何やら考え出した。
 いや、ネネも同じだった。
 二人して、私を挟んで考え出すので、私も同じように考えてみることにする。

「ーーやっぱりそうよ。ある一国は、全国民が魔力を持っていないって言われていて、だからか、剣術と不思議な武器を用いた戦闘に長けているらしいの。名前も変だし、やっぱりそうじゃない」

「私もそう思うですよ。あれはーー亜国と呼ぼれる小さな島国の人ではないかですよ。名前も、ピッタリ一致しますですよ」

「亜国? 聞いたことしかないけど……」

 亜国とは、確かーー。
 武士と呼ばれる騎士に似た部隊がいて、王様ではなく国を治める者を殿と呼ぶ変わった国。
 そこで、影となって働く者達がーー忍。忍者。

「ーーええ!?」

「気づかないで今までいたんだ。凄いね、リリー」

「え、だって……ええ!? ええ!?」

「だから、その亜国の忍者と呼ばれるのがあの『忍』とか言うギルドじゃないの?」

「言われてみれば……てか考えてみたら……そうかも」

 影縫が周囲の敵を吹き飛ばしていく中、私はガリレオに言われて気づいた。気づくのが遅すぎるくらい、出会ってからだいぶと年月が経って。
 忍ーー忍者ーー亜国。全てが繋がり、ギルド『忍』のメンバーは全員異国の者という噂も本当となった。

 影縫は次々に、術を披露し無双状態だ。
 私の頭は混乱状態だ。
 バルテン王国は、異国者の無断入国を違法としている。
 無断入国は、違法入国とも呼ばれ、騎士団の取り締まりが一番厳しい。
 それなのに、平然と溶け込んで生活していたなんて。
 もしかして、ジーゼルやグレモリーは知っている? の、かもしれない。

「ーー狐火!」

「ーー天下無双の舞!」

「ーー龍の滝登りいいいい!!」

 影縫の声が闘技場に響く度、敵は吹き飛ぶ。
 そして私の脳内は、グルグルと嫌な音を立てながら混ざる混ざる。
 友達が違法入国者であることは、別に気にしない。が、早くにバルテンから出したほうが良いのは確かだ。

「ーー風車!」

 影縫は逆立ちすると、足を開いて器用に片手でバランスを取り回転し手を吹き飛ばしていく。
 魔法じゃないーー。それはまるで、芸術と言える。

「あの馬鹿……! 目立ち過ぎ!」

「違法入国よね、でもリリー。追い出すのは違うんじゃない?」

「……そうだけど。でもね、最近騎士団も国の治安が悪くなってるって、冒険者が増えたから強化を始めたのよ。見つかるのは時間の問題よ」

「……」

「その時は、友達の為に戦えば良いんだよ国と」

 ガリレオは私の背中に手を当てて、ニコッと微笑む。
 その笑顔が恐ろしい。国を相手にすることを躊躇わない少女の笑顔なのだろうか。
 グレモリー並の破壊力を有していた。

「ーーああ! リリーちゃん! 影縫さん、影縫さんとあれランディーさん!」

「ええ? ……もう言わね、頭が……ーーランディー!?」

「……おお。なんや見てたんかあ! おーい、朝ぶりやんかあ!」

 気が付けば、いや、頭を悩ませている間にだった。
 いつの間にか、個人戦は影縫とランディーとの一対一にまで進みきっていた。
 これまで早く、個人戦が終盤にいくはずはない。
 しかし現実はーーもう終盤である。

 つまり、今年のバトルロイヤルは異常なのだ。
 多分、何百年に一度といったほどの進行速度。
 今回のバトルロイヤルは、チーム戦と個人戦共に歴史に残ることになる。
 それと、ランディーだ。何故、ランディーが個人戦に出ているのか。
 不思議でしかない。

「ランディー! あんた何してるのよ!」

「ん? うちは個人戦のみに出場やで? 別にここで何してようが不思議やないやろ?」

「そうじゃないわよ! 何で参加できているのかよ聞きたいのは!」

「ああ、そんなことかいな。そりゃ、うちは『クイーン』のメンバーやでやないかあ。そやさかい、こうして個人戦に普通に出れるんやで? 招待券なんて有り余ってるわあ」

 ランディーは腰に手を当てながら、高らかに笑う。

「……『クイーン』のメンバーなのね。そうなのね……なら、両方応援する意味は無くなったわねーー影縫っ!! ぶちのめしてやりなさい、敵には敗北を味合わせてやりなさいっ!!」

 ランディーは「へえ、そうくるんかあ」と口元を歪める。
 それと同時に、影縫がクナイを手にして左半身をゆらゆらと空気に溶け込ませ始める。
 魔法ではない、魔力が感じられない。あれは何かの術だ。

「……まあ、良いわあ。始めよか、最終決戦」

「……もちろんですぞ、ランディー殿」

「なら先手は貰うでっ! ブリザード!」

 先に飛び出したランディーは、右手から氷の飛礫を出して影縫に向けて目に追うこもが不可能な速さで繰り出す。

「甘いですぞーー背中はいただいたっ!」

「へえ、やっぱりあんた忍者かあ。そりゃ、困ったわあ」

 氷の飛礫が当たる前に、左半身を超えて全身を消した影縫はランディーの背後を取った。
 ランディーは後ろを振り向くと、汗を一つ垂らしながら笑みを浮かべた。
 その笑みは苦し紛れとも見える。犬歯が唇を噛んでいる。

「忍法ーー千ノ華吹雪!」

「……囲まれたわあ。こりゃどうしたもんかなあ」

 ランディーを、千の華が包み込んだ。
 吹雪のように吹き荒れる華の中に溶け込んだ影縫は、もう私達観客には見えない。
 それならランディーもだ。両者共に華吹雪の中にいるので見えない。

「ーー拙者が見えないと思うのですぞ!」

「見えないわあ。こりゃ本当に困ったわあ」

 花吹雪の中から、影縫とランディーの声が聞こえてくる。
 私とガリレオとネネは、前に座るおじさんおばさんの頭に手を置いて体を前に突き出し、どうなるのかーーその目に焼きつけようと身構える。

「ーーこれで終わりですぞっ!!」

「ーーそれは、こっちのセリフやわあ!!」

 ガキンッーー!!

 大きな金属音が鳴り響いた。
 すると、華吹雪がおさまりーー中から、倒れる影縫の姿が現れる。
 
「嘘……」

「流石クイーンのメンバー……認めたくないけど……」

「負けてしまったですよ……」

 私達は腰を席に下ろし、信じられないとばかりに目を見開いてしまう。


「終わりや、あんた言うほど強ないわあ」

「ーー何処を見ているのか教えて欲しいですぞランディー殿。私はそこにいないですぞ?」

「ーーああっ!?」

「終わりですぞ! 半月斬りっ!!」

 と、何処から現れたのか影縫がランディーの背後に居た。
 これにまた、私達の目は見開く。
 影縫は腰に備えていた刀の峰で、半月を描くように振り下ろした。
 それにより、ランディーは頭を打たれ気を失って倒れた。

「変わり身の術ですぞランディー殿。忍者を舐めてはなりませんぞ」

 影縫は刀を鞘に納めると、私に手を振り無事優勝したことを報告してくる。
 見ているから分かっていると言うのに、律儀な子だ。

「……はあ。そんなの、見れば分かるわよ」

 私は手を振り返す。
 良く見ると、倒れていたはずの影縫は影縫本人ではなくただの木材だった。
 違うーー木材に変わっていた。
しおりを挟む

処理中です...