12 / 52
Karte2:水着回って必要だよね
第12話 テント
しおりを挟む
そして一週間後。薬局を空けるのは些か不安だけど、私たちは夏休みも兼ねたオイスターモドキ採集に出かけました。
目的の湖は薬局の裏の林を抜けたところ。距離的には歩いても行ける範囲だけど、今回は村長さんの厚意で馬を借りることができました。
「近くとは言え、馬を使うとやはり早く着くな。それにしてもソフィー殿が馬に乗れなかったとはびっくりだな」
「王都では乗る必要がなかったので。練習したことないんですよ」
「それは良いとして。ソフィー、どうやって獲るんだ」
「潜って獲るに決まってるでしょ。そのために水着持ってきたんだよ」
「どこで着替えるんだよ」
「ふふーん。ちゃんと着てきたから大丈夫」
「子供かよ」
「スマン。アタシも着てきたんだ。着替える場所がないだろうと思って」
「帰りは?」
「……あっ」
しまった。着替えのこと考えてなかった。アリサさんの表情をみるとどうやら私と同じらしいく、そんな私たちにエドは呆れ顔だけど乗ってきた馬からなにやら荷物を下ろしています。
「バートさんとこから借りてきたテントがあるからそこで着替えてください。二人が潜ってる間に組み立てるんで」
「じゃあ、私はエドの手伝いをしています。アリサさんは先に潜って採集をお願いします」
「ソフィー殿は潜らないのか」
「あとから潜りますから先にどうぞ」
「わかった。それじゃ先に潜るとしよう」
「え、ここで着替えるんですか⁉」
「下に着ているのだから問題ないだろ?」
「そうかもしれませんが……」
アリサさんは恥ずかしがることなく服を脱ぎ始め、その堂々っぷりには少し驚きました。下は水着だしウチに拠点を置くまでは旅をしていたのだから慣れと言うのもあるだろけど、エドは目のやり場に困った様子でキョロキョロしています。
「よしっ。それじゃ――エド、なに下向いてるのだ」
「目のやり場に困った苦肉の策みたいですよ」
「ジロジロ見られるのは困るが、見向きもされないのは女として少し複雑だな」
「きっとスレンダーな方が好きなんですよ」
「ソフィー殿、それは嫌味か?」
「傷薬は持って来ていますが、素手で獲らないでくださいね。手を切る可能性がありますから」
「話を逸らすな。心配ない。ちゃんと用意している」
手袋をはめながら応えるアリサさんを見ているとさすが採集者さんと感心せざるを得ません。ちゃんとケガ対策の心得があるのだから。水着に手袋は組み合わせ的には変だけど。
「それじゃ、ひと潜りしてくる」
「はい。くれぐれも気を付けてくださいね」
「その辺はちゃんと心得ている」
気合十分と言ったところのアリサさんは勢いよく湖に飛び込み、少し泳いで岸から離れると大きく息を吸って湖の中へ潜っていきます。
「それじゃ、私たちもテント組み立てよっか?」
「おまえ、アリサさんに全部任せるつもりだろ」
「そ、そんなことないよ?」
「目を逸らすな。つーか、アリサさんをあんまりこき使うなよ」
「じゃあ、エドはこき使って良いんだ」
「なんでそうなるんだよっ」
「冗談だって。さ、テント組み立てよ。どうやるの?」
「知らないのに手伝う気だったのかよ」
「アハハ……」
だって組み立てたことないし、実はテント自体をほとんど見たことないんだよね。
「とりあえず、ソフィーはそこにある幕体を敷いてくれ」
「おっけー。これがテントになるの?」
「なるの。まず、いまソフィーがいるところからペグを打つぞ」
「ペグ? この大きな釘みたいなやつのこと?」
「そうそう。テントから出てる紐を引っ掛けてから地面に打ち込む」
エドに手解きを受けながらハンマーでペグとかいうやつを地面に打ち込む私。初めての経験に少し緊張しているのがわかります。
「その調子で今度は反対側にペグを打つ」
「反対側……ねぇ、エド?」
「なんだ」
「さっきから私しかしてない気がするんだけど」
「はいはい。代われば良いんだろ」
素直にハンマーを受け取るエドに少し驚いた。薬局だと一悶着あるのが普通なのに今日はなにも言わずに代わってくれます。
「テント借りに行った時にバートさんから『嬢ちゃんたちにさせるな』って言われたからな」
「そっかぁ」
「なんだよ。その残念そうな反応は」
「黙って代わってくれてたら少しは株が上がったのになって。残念だね」
「うるせぇ。ソフィーこそもう少し可愛げがあればな」
「惚れた?」
「なんでそうなる」
「流れ的にそうかなって。もう出来るの?」
「中からポールを立てれば――こんな感じか?」
「すごーい。ほんとにテントになった」
「あとは張り縄で固定して完成だ」
どうだと言わんばかりにドヤ顔を見せるエドに思わず感心してしまった。いや、感心と言うより正直に言って尊敬してしまう自分がいます。
「な、なんだよ」
「あ、えっと。エドのこと、見直しました」
「そ、そうか。ハッキリ言われると照れるな」
「とりあえず、使い心地確かめてみる?」
「そうだな――は?」
「中に入ってみようよ。私、テントって始めてなんだよ」
「いや待て。二人で入るのはマズいだろ⁉」
「えー。良いでしょ。ほら中広いよ。真ん中のポールが邪魔だけど十分いけるよ」
嫌がるエドを無理やりテントへ引き込み、並んで座ってみるが広さ的に問題はなかった。これならアリサさんが入ってきても窮屈にはならなそうだ。これは貸してくれたバートさんの為にも頑張らないといけないね。
「ねぇ、エド。なんでそんな端っこにいるのよ」
「なんでって俺の自制心を保つため? つか、ずっとそんな感じだったのか」
「ずっとって?」
「薬師なんだから学校とか行ってたんだろ。だから――」
そっか。孤児だったことだけじゃなくて私のこと、なにも話していなかったんだ。この間は言いそびれたけど、今日こそ全部打ち明けようかな。
「学校とか行ってないよ。それどころか、孤児だったんだよね」
「え?」
「驚いた?」
「驚いた」
「少し、昔の話しても良いかな」
私が過去に驚きを隠せないエドに私は師匠と出会う前、あまり思い出しくはないけど生まれ故郷の話を始めました。
目的の湖は薬局の裏の林を抜けたところ。距離的には歩いても行ける範囲だけど、今回は村長さんの厚意で馬を借りることができました。
「近くとは言え、馬を使うとやはり早く着くな。それにしてもソフィー殿が馬に乗れなかったとはびっくりだな」
「王都では乗る必要がなかったので。練習したことないんですよ」
「それは良いとして。ソフィー、どうやって獲るんだ」
「潜って獲るに決まってるでしょ。そのために水着持ってきたんだよ」
「どこで着替えるんだよ」
「ふふーん。ちゃんと着てきたから大丈夫」
「子供かよ」
「スマン。アタシも着てきたんだ。着替える場所がないだろうと思って」
「帰りは?」
「……あっ」
しまった。着替えのこと考えてなかった。アリサさんの表情をみるとどうやら私と同じらしいく、そんな私たちにエドは呆れ顔だけど乗ってきた馬からなにやら荷物を下ろしています。
「バートさんとこから借りてきたテントがあるからそこで着替えてください。二人が潜ってる間に組み立てるんで」
「じゃあ、私はエドの手伝いをしています。アリサさんは先に潜って採集をお願いします」
「ソフィー殿は潜らないのか」
「あとから潜りますから先にどうぞ」
「わかった。それじゃ先に潜るとしよう」
「え、ここで着替えるんですか⁉」
「下に着ているのだから問題ないだろ?」
「そうかもしれませんが……」
アリサさんは恥ずかしがることなく服を脱ぎ始め、その堂々っぷりには少し驚きました。下は水着だしウチに拠点を置くまでは旅をしていたのだから慣れと言うのもあるだろけど、エドは目のやり場に困った様子でキョロキョロしています。
「よしっ。それじゃ――エド、なに下向いてるのだ」
「目のやり場に困った苦肉の策みたいですよ」
「ジロジロ見られるのは困るが、見向きもされないのは女として少し複雑だな」
「きっとスレンダーな方が好きなんですよ」
「ソフィー殿、それは嫌味か?」
「傷薬は持って来ていますが、素手で獲らないでくださいね。手を切る可能性がありますから」
「話を逸らすな。心配ない。ちゃんと用意している」
手袋をはめながら応えるアリサさんを見ているとさすが採集者さんと感心せざるを得ません。ちゃんとケガ対策の心得があるのだから。水着に手袋は組み合わせ的には変だけど。
「それじゃ、ひと潜りしてくる」
「はい。くれぐれも気を付けてくださいね」
「その辺はちゃんと心得ている」
気合十分と言ったところのアリサさんは勢いよく湖に飛び込み、少し泳いで岸から離れると大きく息を吸って湖の中へ潜っていきます。
「それじゃ、私たちもテント組み立てよっか?」
「おまえ、アリサさんに全部任せるつもりだろ」
「そ、そんなことないよ?」
「目を逸らすな。つーか、アリサさんをあんまりこき使うなよ」
「じゃあ、エドはこき使って良いんだ」
「なんでそうなるんだよっ」
「冗談だって。さ、テント組み立てよ。どうやるの?」
「知らないのに手伝う気だったのかよ」
「アハハ……」
だって組み立てたことないし、実はテント自体をほとんど見たことないんだよね。
「とりあえず、ソフィーはそこにある幕体を敷いてくれ」
「おっけー。これがテントになるの?」
「なるの。まず、いまソフィーがいるところからペグを打つぞ」
「ペグ? この大きな釘みたいなやつのこと?」
「そうそう。テントから出てる紐を引っ掛けてから地面に打ち込む」
エドに手解きを受けながらハンマーでペグとかいうやつを地面に打ち込む私。初めての経験に少し緊張しているのがわかります。
「その調子で今度は反対側にペグを打つ」
「反対側……ねぇ、エド?」
「なんだ」
「さっきから私しかしてない気がするんだけど」
「はいはい。代われば良いんだろ」
素直にハンマーを受け取るエドに少し驚いた。薬局だと一悶着あるのが普通なのに今日はなにも言わずに代わってくれます。
「テント借りに行った時にバートさんから『嬢ちゃんたちにさせるな』って言われたからな」
「そっかぁ」
「なんだよ。その残念そうな反応は」
「黙って代わってくれてたら少しは株が上がったのになって。残念だね」
「うるせぇ。ソフィーこそもう少し可愛げがあればな」
「惚れた?」
「なんでそうなる」
「流れ的にそうかなって。もう出来るの?」
「中からポールを立てれば――こんな感じか?」
「すごーい。ほんとにテントになった」
「あとは張り縄で固定して完成だ」
どうだと言わんばかりにドヤ顔を見せるエドに思わず感心してしまった。いや、感心と言うより正直に言って尊敬してしまう自分がいます。
「な、なんだよ」
「あ、えっと。エドのこと、見直しました」
「そ、そうか。ハッキリ言われると照れるな」
「とりあえず、使い心地確かめてみる?」
「そうだな――は?」
「中に入ってみようよ。私、テントって始めてなんだよ」
「いや待て。二人で入るのはマズいだろ⁉」
「えー。良いでしょ。ほら中広いよ。真ん中のポールが邪魔だけど十分いけるよ」
嫌がるエドを無理やりテントへ引き込み、並んで座ってみるが広さ的に問題はなかった。これならアリサさんが入ってきても窮屈にはならなそうだ。これは貸してくれたバートさんの為にも頑張らないといけないね。
「ねぇ、エド。なんでそんな端っこにいるのよ」
「なんでって俺の自制心を保つため? つか、ずっとそんな感じだったのか」
「ずっとって?」
「薬師なんだから学校とか行ってたんだろ。だから――」
そっか。孤児だったことだけじゃなくて私のこと、なにも話していなかったんだ。この間は言いそびれたけど、今日こそ全部打ち明けようかな。
「学校とか行ってないよ。それどころか、孤児だったんだよね」
「え?」
「驚いた?」
「驚いた」
「少し、昔の話しても良いかな」
私が過去に驚きを隠せないエドに私は師匠と出会う前、あまり思い出しくはないけど生まれ故郷の話を始めました。
10
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる