(アルファ版)新米薬師の診療録

織姫みかん

文字の大きさ
11 / 52
Karte2:水着回って必要だよね

第11話 コウノトリ

しおりを挟む
 「――なるほど。ソフィー殿。その、大変言い難いのだが」
 「なんですか?」
 「おそらく、バート殿が求めている“元気になる薬”はそういう意味じゃないと思うぞ」
 「え?」
 「アリサさんの言う通りだな。ったく、バートさんもなに言ってるんだ。つかそんな歳じゃないだろ」
 「人によって違うらしいからな。年齢は関係ないのではないか?」
 「ま、俺には関係ない話だな。だいたい、モカちゃんまだ小さいのにまだ作る気かよ」
 「エド、それ以上はいろいろマズい気がする」
 「作る? なにを?」
 「昼間から話す内容じゃないな」
 「そうですね。昼間からする話じゃないですね」
 ちょっと、なんか私だけ置いてきぼりなんですけど。勝手に話が盛り上がってる二人をジーっと見つめる私はどういうことのなのかと尋ねる。
 「ねぇ、エド。さっきからなんの話してるの」
 「なんで俺に聞くんだよ。そういうのはアリサさんに――」
 「アタシなのか⁉ まぁ、良い。ソフィー殿。子供はどうやってできると思う?」
 「え? コウノトリが運んできてくれるんですよね?」

 「「…………は?」」

 「……マジで言ってるのか」
 「ソフィー殿……」
 「あ、あの。二人とも、なんでそんな顔してるんですか」
 「――ソフィー」
 「な、なに」
 「おまえはそのままでいてくれ」
 「え、なに? なんかバカにされた気がするんだけど」
 「ソフィー殿にはまだ早い」
 「アリサさんまでっ⁉ もう! 二人して意地悪はひどいですよ!」
 「そう言われても、なぁ?」
 「ソフィーがこれじゃ……」
 「だからなによっ」
 二人とも絶対なにか隠している。隠してるけど、どこか恥ずかしそうにしているのはなぜだろう。
 「ソフィー殿。ちょっと耳を貸せ」
 「え、こうですか?」
 「実はな――」
 「――――っ⁉」
 「――って、ことだ」
 「そ、そうだったんだ……」
 アリサさんから耳打ちで聞かされた事実に顔が熱くなる。二つの意味で恥ずかしくなった。で、でも師匠はコウノトリが連れてくるって。
 「師匠殿はその、あれだな。小さかったソフィー殿に本当のことを言えなかったんだな」
 「うぅー。恥ずかしい」
 「ソフィー。おまえって意外とポンコツなんだな」
 「ポ、ポンコツって言わないでよ。エドだって顔赤いじゃない」
 「それはアレだ。うん。アレだ」
 「アレってなによ。どうせ調薬しか能のないおバカですよ」
 「まぁまぁ、ソフィー殿は純真無垢なだけだ。気にするな。それで、バート殿が所望した薬は作れるのか」
 「は、はい。薬と言うより滋養強壮ドリンクならレシピがあります」
 さすがにバートさんが求めるアレな薬は作れないけど、同じような効果が期待できるポーションなら比較的簡単に作れる。けれど調達に一苦労する材料が必要なんだよね。
 「ほとんどの材料は在庫があります。ただ主成分となる材料は普段使わないうえに管理も難しいので在庫を抱えてないんです」
 「管理が難しい? ソフィー殿、それはどういう意味なのだ?」
 「実は“オイスターモドキ”が必要なんです」
 「ああ。なるほど。確かに難しいな」
 「さすがアリサさん。そういうことなんですよ。ま、エドには分からないみたいだけど」
 「おまえ、ポンコツって言ったのを根に持ってんな」
 エドが横からなにか言ってるけどそれは無視して、オイスターモドキについて説明を始めます。
 「オイスターモドキはその名の通り“牡蠣”に似た食用の貝です。湖など淡水域なら何処でも生息していて、牡蠣と違い一年を通して食用として流通しています」
 「食用でしかも一年中あるんだろ。なのになんで管理が難しんだよ」
 「生のまま運べないんだ」
 「アリサさんの言う通りです。オイスターモドキは“足”が速くて水揚げ直後から腐敗が始まるの」
 「マジ⁉」
 「ああ。だから食用にするものは水揚げ後、半日以内に加熱処理されたやつのオイル漬が主流なんだ。まず生じゃ食べない」
 「しかも薬の材料になるのオイスターモドキの茹で汁。だから薬師でも自分で調達する人は少なくて、大半が専門業者から仕入れるの」
 この辺りなら一番近いセント・ジョーズ・ワートの市場に行けば入手できるはずだけど、業者から仕入れる材料は割高だから当然薬の価格の上がってしまいます。
 「薬の値段を上げるのは簡単だけど、村の人のことを考えると難しいよね。だから、今回は採りに行きたいと思います」
 「採りにって、どこへ?」
 「裏の林を抜けたところに湖があるの、エドなら知ってるでしょ?」
 「え? ああ。行ったとこはないけど場所ならなんとなくわかる」
 「あそこならいると思うんだよね。だから私たちで採りに行って仕入れコストを削りたいと思います」
 「ソフィー殿。一つ良いか?」
 「なんですか」
 「採りに行くのは別に反対しない。だが、いまの話だとソフィー殿も行くということになると思うのだが」
 「そのつもりですよ。今回は材料の採集がメインですが休暇も兼ねていますので」
 「休暇? 休みならちゃんと取れているぞ?」
 「当然です。二人はウチの従業員ですから。労務管理は私の仕事です。けどたまにはお出掛けして気分転換も良いかなって」
 「待て。さっき採集がメインとか言ってたよな」
 もう。なんでそこに引っ掛かるかなぁ。ここは素直に喜ぶべきところだよ。私のやさしさを素直に受け取ってくれない誰かさんとは違ってこの提案に肯定的なのはアリサさん。
 「アタシはソフィー殿の提案には賛成だ。オイスターモドキの採集が付いてくるとは言え、湖でリフレッシュするのは良いことだ」
 「その通りだよ。たまには息抜きも必要だよ。それに夏なら水着回も必要だよね」
 「水着回? ナニ言ってるんだ」
 あ、あれぇー? 湖=水着姿の女の子。普通なら男の子が喜ぶところじゃないの⁉
 「ソフィー、俺がおまえの水着姿に喜ぶとでも思ったか」
 「喜ばないのっ⁉」
 「だってなぁ?」
 「え? ああ。ソフィー殿は、その……」
 「アリサさん、それ以上は可哀そうですよ」
 「ど、どうせぺったんこですよ! すこーし成長が遅いだけなんですっ」
 そう。少しゆっくりなだけ。そう言い聞かせて数年。まだ実感はないけど、いつか二人が驚くくらい成長してやるんだから。うん。きっと……成長するよね?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。 「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...