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Karte3:薬師って残酷な生き物なんです
第18話 薬師だから
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「ソフィーちゃん! エドたちが来たよっ」
「遅いっ!」
「すまん! 遅くなった!」
「アリサさんはこっちに! 急いでっ」
切迫した状況に遅いと捲し立てるがトリアージも完了した良いタイミングです。村長に先導されたエドとアリサさんが両手いっぱいの薬を持って来てくれました。
「薬は⁉ ちゃんと持ってきましたか!」
「ああ。ちゃんと――腕がないぞ」
「車輪に挟まって千切れたんです。この人を最優先で処置します。エド! あなたはそこ男の人の処置をして!」
「俺が⁉」
「足が折れてるから添え木をして固定して! あとは痛み止め飲ませて」
「けど俺は……」
「良いからやれ!」
「わ、わかった」
私に指示に躊躇するエドに檄を飛ばし、腕を亡くし血まみれになった女性に立ち竦むアリサさんにも言葉がさらに荒くなります。
「なに突っ立っているの! 早く手伝って!」
「す、すまない。なにをすれば良いのだ」
「まずは傷口の洗浄をします。私が腕を持っていますからアリサさんは傷口を洗ってください」
「アタシが⁉ い、いやそれはソフィー殿が」
「腕持って傷口見るのとどっちが良いのっ」
「わ、わかった。どうすればいい」
「少しずつ、ゆっくりと掛けてください」
「――こ、こうか?」
「そうです。それを繰り返して傷口に着いた汚れを可能な限り洗い落とします」
良かった。水を掛けた瞬間、痛みで意識が戻るかと思ったけど今のところ気絶したままです。意識が戻ると痛みで暴れることもあり、そうなれば麻酔薬を使う必要があるけど極力それは避けたいのが本音です。
(……汚れを洗い流したら、あとは傷口の保護――で良いんだよね)
創傷の処置など薬師の私にとっては完全に専門外。切り傷の縫合程度なら師匠から教わっているけど、これほどの傷となれば完全に医師の仕事です。それでもこの村で知識があるのは私しかいません。服が血で汚れるし額から流れる汗が目に入って痛いけど、そんなの気にしている暇はありません。少しでもこの人が助かる可能性を上げて医師がいるセント・ジョーズ・ワートに運ぶのが私の使命なんです。
「そろそろ大丈夫です。エド! そっちは⁉」
「出来たぞ。薬も飲ませた」
「わかった。その人の処置は完了だから馬車が来たら乗せてあげて。あ、腕は縛っておいてね」
「は?」
「その人、私にナイフ突きつけたから念のためね」
「ナイフ⁉ てめぇ!」
「エド駄目っ! アリサさんも! こっちに集中して!」
「しかし! あの男はソフィー殿に!」
「私は大丈夫ですから。いまはこの人の処置に集中して下さいっ。エドも、私は何ともないから」
しまった。なにも知らない二人には言うべきじゃなかった。エドは殴り掛かろうとしていたし、アリサさんの目にも殺意に近いなにかを感じます。
「痛みで精神的に不安定になっただけです」
「し、しかし!」
「私は気にしてませんから。この人の処置に集中して下さい。傷口の洗浄が終わったら包帯を巻いていきます。アリサさん、薬箱からにガーゼを出してください」
「……わかった」
「それに傷薬を厚めに塗り広げてください。一瓶の半量が目安です」
「止血薬は?」
「幸い出血は止まりつつあります。傷薬にも止血薬に使う薬草が入っているので使いません」
「わかった」
「塗ったら傷口に当てて包帯を巻いてください。巻き方は知ってますよね」
「大丈夫だが、ソフィー殿は?」
「隣の人を診てきます」
この人の処置はアリサさんに任せ、私はもう一人――最後に処置をすると決めた男性のもとに向かう。
初診の段階で意識がなく脈もなかった。当然呼吸もなかったので助かる見込みは極めて低いと判断した。だから処置を後回しにしたけど――
――馬車が来たぞ!
頼んでおいた馬車の到着を告げる声に私は振り返る。そこには幌付き馬車と馬を操るバートさんの姿があった。
「嬢ちゃん! 待たせたな。一番早いやつだ!」
「ありがとうございますっ。みなさん! けが人を馬車に乗せる手伝いをお願いします!」
「ソフィーちゃん、そこの男はどうするんだい」
「この人は、運べません。死亡を確認しました。外傷はありませんが首の骨が折れてます。頭から落ちたようですね」
「そうか。残りは助かるのか?」
「出来る処置はしました。女性の方は体力次第ですが。とにかくセント・ジョーズ・ワートで医師の診察を受けなければわかりません。私も同行します」
「わかった。みんな! 急いでけが人を乗せろ!」
「お願いします。エド、私はこのままセント・ジョーズ・ワートに行くからお店をお願いね」
「その前に、あの野郎に一発蹴りを入れて良いか」
「それはダメ。気持ちだけ受け取るよ。ありがと」
馬車に乗せられる男性を睨みつけるエドを優しく宥める私。こんな状況だけど、エドの優しさに笑顔になる。それだけ気を張っていたってことなのだろう。バートさんをはじめとする村の人たちにけが人のことは任せてアリサさんにも声を掛ける。
「さっきは声を荒げてすみませんでした」
「この状況なら仕方ないさ。ソフィー殿はよく冷静でいられるな」
「薬師ですから。人の命を預かっている以上、どんな時でも冷静に対処しないと」
「さすがだな。留守中のことは心配せず、二人を医師のもとへ送ってくれ」
「はい」
アリサさんの言葉に力強く頷き返す私は二人のけが人と共に馬車に乗り込みます。御者は馬車を出してくれた村の人にお願いし、私が乗り込むとすぐに馬車は動き出します。
「――もう少しです。あとちょっと頑張りましょうね」
私は隣で横たわる女性の右手をギュッと握ります。
医師のいるセント・ジョーズ・ワートまでは普通に行けば3日は掛かります。村で一番早い馬をお願いしたけど、どのくらい時間を縮められるかわかりません。それでもいまは一秒でも早く二人を医師のもとへ運ぶ、それだけを考えて私は女性の手を握り続けました。
「遅いっ!」
「すまん! 遅くなった!」
「アリサさんはこっちに! 急いでっ」
切迫した状況に遅いと捲し立てるがトリアージも完了した良いタイミングです。村長に先導されたエドとアリサさんが両手いっぱいの薬を持って来てくれました。
「薬は⁉ ちゃんと持ってきましたか!」
「ああ。ちゃんと――腕がないぞ」
「車輪に挟まって千切れたんです。この人を最優先で処置します。エド! あなたはそこ男の人の処置をして!」
「俺が⁉」
「足が折れてるから添え木をして固定して! あとは痛み止め飲ませて」
「けど俺は……」
「良いからやれ!」
「わ、わかった」
私に指示に躊躇するエドに檄を飛ばし、腕を亡くし血まみれになった女性に立ち竦むアリサさんにも言葉がさらに荒くなります。
「なに突っ立っているの! 早く手伝って!」
「す、すまない。なにをすれば良いのだ」
「まずは傷口の洗浄をします。私が腕を持っていますからアリサさんは傷口を洗ってください」
「アタシが⁉ い、いやそれはソフィー殿が」
「腕持って傷口見るのとどっちが良いのっ」
「わ、わかった。どうすればいい」
「少しずつ、ゆっくりと掛けてください」
「――こ、こうか?」
「そうです。それを繰り返して傷口に着いた汚れを可能な限り洗い落とします」
良かった。水を掛けた瞬間、痛みで意識が戻るかと思ったけど今のところ気絶したままです。意識が戻ると痛みで暴れることもあり、そうなれば麻酔薬を使う必要があるけど極力それは避けたいのが本音です。
(……汚れを洗い流したら、あとは傷口の保護――で良いんだよね)
創傷の処置など薬師の私にとっては完全に専門外。切り傷の縫合程度なら師匠から教わっているけど、これほどの傷となれば完全に医師の仕事です。それでもこの村で知識があるのは私しかいません。服が血で汚れるし額から流れる汗が目に入って痛いけど、そんなの気にしている暇はありません。少しでもこの人が助かる可能性を上げて医師がいるセント・ジョーズ・ワートに運ぶのが私の使命なんです。
「そろそろ大丈夫です。エド! そっちは⁉」
「出来たぞ。薬も飲ませた」
「わかった。その人の処置は完了だから馬車が来たら乗せてあげて。あ、腕は縛っておいてね」
「は?」
「その人、私にナイフ突きつけたから念のためね」
「ナイフ⁉ てめぇ!」
「エド駄目っ! アリサさんも! こっちに集中して!」
「しかし! あの男はソフィー殿に!」
「私は大丈夫ですから。いまはこの人の処置に集中して下さいっ。エドも、私は何ともないから」
しまった。なにも知らない二人には言うべきじゃなかった。エドは殴り掛かろうとしていたし、アリサさんの目にも殺意に近いなにかを感じます。
「痛みで精神的に不安定になっただけです」
「し、しかし!」
「私は気にしてませんから。この人の処置に集中して下さい。傷口の洗浄が終わったら包帯を巻いていきます。アリサさん、薬箱からにガーゼを出してください」
「……わかった」
「それに傷薬を厚めに塗り広げてください。一瓶の半量が目安です」
「止血薬は?」
「幸い出血は止まりつつあります。傷薬にも止血薬に使う薬草が入っているので使いません」
「わかった」
「塗ったら傷口に当てて包帯を巻いてください。巻き方は知ってますよね」
「大丈夫だが、ソフィー殿は?」
「隣の人を診てきます」
この人の処置はアリサさんに任せ、私はもう一人――最後に処置をすると決めた男性のもとに向かう。
初診の段階で意識がなく脈もなかった。当然呼吸もなかったので助かる見込みは極めて低いと判断した。だから処置を後回しにしたけど――
――馬車が来たぞ!
頼んでおいた馬車の到着を告げる声に私は振り返る。そこには幌付き馬車と馬を操るバートさんの姿があった。
「嬢ちゃん! 待たせたな。一番早いやつだ!」
「ありがとうございますっ。みなさん! けが人を馬車に乗せる手伝いをお願いします!」
「ソフィーちゃん、そこの男はどうするんだい」
「この人は、運べません。死亡を確認しました。外傷はありませんが首の骨が折れてます。頭から落ちたようですね」
「そうか。残りは助かるのか?」
「出来る処置はしました。女性の方は体力次第ですが。とにかくセント・ジョーズ・ワートで医師の診察を受けなければわかりません。私も同行します」
「わかった。みんな! 急いでけが人を乗せろ!」
「お願いします。エド、私はこのままセント・ジョーズ・ワートに行くからお店をお願いね」
「その前に、あの野郎に一発蹴りを入れて良いか」
「それはダメ。気持ちだけ受け取るよ。ありがと」
馬車に乗せられる男性を睨みつけるエドを優しく宥める私。こんな状況だけど、エドの優しさに笑顔になる。それだけ気を張っていたってことなのだろう。バートさんをはじめとする村の人たちにけが人のことは任せてアリサさんにも声を掛ける。
「さっきは声を荒げてすみませんでした」
「この状況なら仕方ないさ。ソフィー殿はよく冷静でいられるな」
「薬師ですから。人の命を預かっている以上、どんな時でも冷静に対処しないと」
「さすがだな。留守中のことは心配せず、二人を医師のもとへ送ってくれ」
「はい」
アリサさんの言葉に力強く頷き返す私は二人のけが人と共に馬車に乗り込みます。御者は馬車を出してくれた村の人にお願いし、私が乗り込むとすぐに馬車は動き出します。
「――もう少しです。あとちょっと頑張りましょうね」
私は隣で横たわる女性の右手をギュッと握ります。
医師のいるセント・ジョーズ・ワートまでは普通に行けば3日は掛かります。村で一番早い馬をお願いしたけど、どのくらい時間を縮められるかわかりません。それでもいまは一秒でも早く二人を医師のもとへ運ぶ、それだけを考えて私は女性の手を握り続けました。
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