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Karte11:誰かを助ける為に
第46話 ライバル登場?
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前略
師匠、お元気ですか。
エルダーに来て一年が過ぎました。エドたちはもちろん、村の人たちにも支えられてなんとか薬師一年目を乗り越えることが出来ました。
村では相変わらずのんびりやっています。慌ただしい時もありますが王都では経験できないスローライフを楽しんでいます。
最近は薬の処方や薬用品の販売だけでなく、畑仕事の手伝いや放牧している家畜の世話の依頼も来るようになりました。これじゃ薬師と言うより便利屋って感じですけど、小さな村なので仕方ありませんね。それに、畑で野菜を獲ったり家畜の世話をするのも意外と楽しいんですよ。
しばらくは王都へ帰ることは難しいと思いますが、エドから帰れって言われる前には一度里帰りしますね。それではまた。
ソフィア・ローレン
それは5月も後半に差し掛かった。ある晴れた日のことです。
「新しい薬局ですか?」
全てはセント・ジョーズ・ワートからの帰りに立ち寄ってくれたバートさんとの雑談から始まりました。
「街道沿いに薬局が出来てたんですか?」
「ああ。村から少し外れた、ちょうど北へ抜ける獣道と交わる辺りだ。空き家があっただろ」
「確かにありますね。そこで店を?」
「そうだ。しかも嬢ちゃんのとこより2割ほど安いそうだ」
「2割ですか⁉」
思わず出た大声に待合室で店番をしてくれているエドが私たちのいる調薬室を覗き込んだ。
「2割って、正直利益出ませんよ。というか確実に赤字です」
「やっぱりそうか。ここも街に比べるとかなり安いもんな」
「うちはちゃんと利益が出てますけどね。でも、それが本当ならいずれ村の人たちも向こうへ流れる可能性がありますね」
バートさんがいう薬局の場所までは歩いて1時間くらい。村の外と言ってもそこまで遠いわけでもなく、診療費だけを考えるならいずれウチが負けてしまいます。
「もちろん嬢ちゃんの腕は確かだけどさ、その分だけ金が掛かると考えればな」
「それは仕方ないですよ。でも、その安さには裏がありそうですね」
「実を言うとな、もう一つ気になることがあるんだ」
「なんですか?」
「その店の近くで変な奴らを見かけたんだ。なんと言うか、酔っ払いとは違うがそれに似てると言うか――」
「もしかして目が血走ってたり、全身が小刻みに震えてるとか?」
「そう! その通りだ。よくわかったな」
「なんとなく心当たりがあるので。でも、それが本当ならかなり厄介ですね」
「そうなのか?」
「はい。これは調査する必要があるかもしれませんね」
単に企業努力で薬価を抑えているなら問題なし。価格で争えないなら技術で勝負すれば良いだけ。けどもし、私の予感が正しいなら同業者として野放しにしては置けません。
「なぁ、嬢ちゃんよ。もしかしてかなりヤバい話なんじゃないのか」
「まだ分かりませんがこのまま放置するのは危ないと思います。ただ問題はどうやって調べるかですね」
「そりゃ薬を買いに行けばいいだろ」
「そうだけど……エド⁉ 店番は」
「別に向こうにいなくても良いだろ。で、なにを買ってくれば良いんだ」
「行ってくれるの?」
「薬師自ら買いに行くのは変だろ」
「ありがとね。風邪薬、できればエキス剤が良いかな。たぶん『可愛い妹が風邪をひいた』って言えば基本的なやつを調薬してくれるから」
「俺に妹なんかいないぞ」
「ここにいるよ?」
「誕生日。おまえが先だよな?」
「じゃ、じゃあ『美人な姉』!」
「日が暮れる前に行くかな」
「ちょっと! せめてなにか言ってよ!」
「嬢ちゃんは姉って感じじゃないだろ」
「バートさん、無視して良いですよ。いつものことなんで。場所覚えてます?」
ちょっと本当にひどくないですか? まさか無視されるとは思ってなかったんだけど⁉ っていうか、バートさんも何気に言ってくれるね!
「まぁ、すぐ頬を膨らますし、少なくとも『姉』には見えないな」
「エ、エド!」
「それじゃ行ってくる」
苦い笑いするバートさんを連れて調薬室を出て行くエド。勝ち誇ったような表情にちょっとだけムッとする私はつい頬を膨らましてしまいます。
「ソフィー」
「なによ」
「そういうとこだぞ?」
「う、うるさい!」
売り言葉に買い言葉とはこの事を言うんでしょうか。はやし立ててくるエドについ乗ってしまう私は二人が出て行った調薬室で途中だったカルテの整理を再開します。途中でエドが出てきたからあんな調子になったけど、村の外に出来た薬局のことが頭から離れません。
薬局の営業は基本的に経営者である薬師に委ねられています。何処で営み、なにを扱うのか、処方薬も扱うのか薬用品専門で営業するのか、決めるのは自由。薬価とも言われる価格も薬師のさじ加減で決めれます。近所に競合する薬局ができ、ウチより値段が安くても文句は言えません。
(そもそも、なんでここなんだろう?)
エルダーの人口は100を少し超えるくらい。私みたいに薬局を開こうとする方が珍しいと言えるレベルです。薬師の仕事だけじゃハッキリ言って利益なんて出ません。ここだけの話、ハンスさんのところへ薬を卸しているからどうにか潰れずに店を続けられているんです。
(ウチを潰すのが目的なら村の中に構えるだろうし、それとも旅人狙いでわざと街道沿いに?)
何処に店を構えようがそれは店主の自由だから深堀はしないし、どちらも薬価をウチより安く設定している理由として納得できます。そもそも場所の制約受けずに薬局を開ける以上、文句を言う権利はありません。気になるのはあまりにも安すぎる薬が本物かどうか。安さにはそれなりの理由があるのが世の常だと師匠に教わりました。
エドに頼んでいる薬が本物ならウチも頑張るだけ。ただ、バートさんの話が本当なら――
「その時は徹底的に潰さなきゃだよね」
珍しく物騒なことを口にする私。同業者というだけならお互い切磋琢磨すれば良いだけの話。でも、アレをばら撒いているなら被害が広がる前に止めなきゃいけないよね。
師匠、お元気ですか。
エルダーに来て一年が過ぎました。エドたちはもちろん、村の人たちにも支えられてなんとか薬師一年目を乗り越えることが出来ました。
村では相変わらずのんびりやっています。慌ただしい時もありますが王都では経験できないスローライフを楽しんでいます。
最近は薬の処方や薬用品の販売だけでなく、畑仕事の手伝いや放牧している家畜の世話の依頼も来るようになりました。これじゃ薬師と言うより便利屋って感じですけど、小さな村なので仕方ありませんね。それに、畑で野菜を獲ったり家畜の世話をするのも意外と楽しいんですよ。
しばらくは王都へ帰ることは難しいと思いますが、エドから帰れって言われる前には一度里帰りしますね。それではまた。
ソフィア・ローレン
それは5月も後半に差し掛かった。ある晴れた日のことです。
「新しい薬局ですか?」
全てはセント・ジョーズ・ワートからの帰りに立ち寄ってくれたバートさんとの雑談から始まりました。
「街道沿いに薬局が出来てたんですか?」
「ああ。村から少し外れた、ちょうど北へ抜ける獣道と交わる辺りだ。空き家があっただろ」
「確かにありますね。そこで店を?」
「そうだ。しかも嬢ちゃんのとこより2割ほど安いそうだ」
「2割ですか⁉」
思わず出た大声に待合室で店番をしてくれているエドが私たちのいる調薬室を覗き込んだ。
「2割って、正直利益出ませんよ。というか確実に赤字です」
「やっぱりそうか。ここも街に比べるとかなり安いもんな」
「うちはちゃんと利益が出てますけどね。でも、それが本当ならいずれ村の人たちも向こうへ流れる可能性がありますね」
バートさんがいう薬局の場所までは歩いて1時間くらい。村の外と言ってもそこまで遠いわけでもなく、診療費だけを考えるならいずれウチが負けてしまいます。
「もちろん嬢ちゃんの腕は確かだけどさ、その分だけ金が掛かると考えればな」
「それは仕方ないですよ。でも、その安さには裏がありそうですね」
「実を言うとな、もう一つ気になることがあるんだ」
「なんですか?」
「その店の近くで変な奴らを見かけたんだ。なんと言うか、酔っ払いとは違うがそれに似てると言うか――」
「もしかして目が血走ってたり、全身が小刻みに震えてるとか?」
「そう! その通りだ。よくわかったな」
「なんとなく心当たりがあるので。でも、それが本当ならかなり厄介ですね」
「そうなのか?」
「はい。これは調査する必要があるかもしれませんね」
単に企業努力で薬価を抑えているなら問題なし。価格で争えないなら技術で勝負すれば良いだけ。けどもし、私の予感が正しいなら同業者として野放しにしては置けません。
「なぁ、嬢ちゃんよ。もしかしてかなりヤバい話なんじゃないのか」
「まだ分かりませんがこのまま放置するのは危ないと思います。ただ問題はどうやって調べるかですね」
「そりゃ薬を買いに行けばいいだろ」
「そうだけど……エド⁉ 店番は」
「別に向こうにいなくても良いだろ。で、なにを買ってくれば良いんだ」
「行ってくれるの?」
「薬師自ら買いに行くのは変だろ」
「ありがとね。風邪薬、できればエキス剤が良いかな。たぶん『可愛い妹が風邪をひいた』って言えば基本的なやつを調薬してくれるから」
「俺に妹なんかいないぞ」
「ここにいるよ?」
「誕生日。おまえが先だよな?」
「じゃ、じゃあ『美人な姉』!」
「日が暮れる前に行くかな」
「ちょっと! せめてなにか言ってよ!」
「嬢ちゃんは姉って感じじゃないだろ」
「バートさん、無視して良いですよ。いつものことなんで。場所覚えてます?」
ちょっと本当にひどくないですか? まさか無視されるとは思ってなかったんだけど⁉ っていうか、バートさんも何気に言ってくれるね!
「まぁ、すぐ頬を膨らますし、少なくとも『姉』には見えないな」
「エ、エド!」
「それじゃ行ってくる」
苦い笑いするバートさんを連れて調薬室を出て行くエド。勝ち誇ったような表情にちょっとだけムッとする私はつい頬を膨らましてしまいます。
「ソフィー」
「なによ」
「そういうとこだぞ?」
「う、うるさい!」
売り言葉に買い言葉とはこの事を言うんでしょうか。はやし立ててくるエドについ乗ってしまう私は二人が出て行った調薬室で途中だったカルテの整理を再開します。途中でエドが出てきたからあんな調子になったけど、村の外に出来た薬局のことが頭から離れません。
薬局の営業は基本的に経営者である薬師に委ねられています。何処で営み、なにを扱うのか、処方薬も扱うのか薬用品専門で営業するのか、決めるのは自由。薬価とも言われる価格も薬師のさじ加減で決めれます。近所に競合する薬局ができ、ウチより値段が安くても文句は言えません。
(そもそも、なんでここなんだろう?)
エルダーの人口は100を少し超えるくらい。私みたいに薬局を開こうとする方が珍しいと言えるレベルです。薬師の仕事だけじゃハッキリ言って利益なんて出ません。ここだけの話、ハンスさんのところへ薬を卸しているからどうにか潰れずに店を続けられているんです。
(ウチを潰すのが目的なら村の中に構えるだろうし、それとも旅人狙いでわざと街道沿いに?)
何処に店を構えようがそれは店主の自由だから深堀はしないし、どちらも薬価をウチより安く設定している理由として納得できます。そもそも場所の制約受けずに薬局を開ける以上、文句を言う権利はありません。気になるのはあまりにも安すぎる薬が本物かどうか。安さにはそれなりの理由があるのが世の常だと師匠に教わりました。
エドに頼んでいる薬が本物ならウチも頑張るだけ。ただ、バートさんの話が本当なら――
「その時は徹底的に潰さなきゃだよね」
珍しく物騒なことを口にする私。同業者というだけならお互い切磋琢磨すれば良いだけの話。でも、アレをばら撒いているなら被害が広がる前に止めなきゃいけないよね。
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