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Track 15: Untitled
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懐かしい顔、懐かしい顔、ちょっと、かなり嬉しい。
「もう六年か、早いもんだね」
翔が白い煙草に火をつける。その親指は昔と一緒。
「そうだね」
翔は全然変わらない、昔と同じ、頭の良さそうな瞼をしてる。でも、昔と同じ、何か辛そうな爪をしている。
「コウジやナオとは連絡取ってるのか?」
灰が灰皿に落ちる、落とされる、灰皿に、肺皿に。
「全然。翔は?」
「僕も全然」
六年! スゴい、スゴク長い時間!
「翔はあれから元気?」
「まあね、仕事が思ったよりうまく行ってるから」
翔は、オレが二十歳になる前に地元を出て就職したんだ。大人の翔だから。
「礼治の十九歳の誕生日、覚えてる? 礼治があの川に飛び込んでさ」
翔が笑った、唇のはしっこが遠慮がちに吊り上がって目が少し細くなる、完璧な笑顔!
昔と一緒、オレの大好きな翔の笑い方。
「礼治はあの時の僕の年になったね」
「そういえばそうだね」
じゃあオレは大人なのかな。うん、あれから色んな人に恋をして、オレ多分もう大人。
「ねえ礼治」
突然、翔の吐き出した煙がパトカーのサイレンの色になった。オレはちょっと身構えて、どうしよう。
「礼治はね、すごく正しくてきれいだよ。昔からずっと」
真面目な顔で翔の目が、あの川の色をした目が、オレをまっすぐ見た。オレはなんかちょっとくすぐったくなる。
「でも、この世の中は礼治が生きていくには汚れすぎてるし間違いだらけだ」
その顔、小さな八重歯、翔は、また、傷が、いや、オレが?
「翔もきれいだよ、正しいよ、オレより」
悲しく笑う翔、その笑顔も完璧。
あれ?
「俺が言いたいのはね、礼治」
パトカーのサイレンはオレの耳には入らない。だって何だか例のあの感じが? 待って、でもこれ翔だよ、小さい頃からずっと一緒だった、あの幼なじみの?
「 」
オレは困る、翔の言葉が聞こえない、薄い唇が動くのに音は出てこない、あの川の臭いがするんだ。
「 」
翔がスゴク深刻な顔をする。でも聞こえない聞こえるのはあの川の色だけ。おかしいな、例のあの感じがオレの幼稚園と川の間から。
「 」
翔は喋り続ける指先で煙草を叩く灰が落ちる、ミドリ色の肺皿に!
「僕は礼治が何をしてるか知ってるよ」
頭のいい翔、知的、その目、何でも見える目、あの頃傷ついてた翔、スゴク辛そうだった、自分のこと傷つけないといけないくらい辛かった翔、オレはずっと助けたかったんだ、あの川がね、翔を流さないように。
「 」
何だか例のあの感じがオレの幼稚園と川の間から音も立てずに膿み出てきて翔を流さないようにオレだけきれいさっぱり洗い流した。
「 」
それで、オレは自覚する(ミドリ色の肺皿の味)。自分が恋をしていることを自覚する。
「 」
「もう六年か、早いもんだね」
翔が白い煙草に火をつける。その親指は昔と一緒。
「そうだね」
翔は全然変わらない、昔と同じ、頭の良さそうな瞼をしてる。でも、昔と同じ、何か辛そうな爪をしている。
「コウジやナオとは連絡取ってるのか?」
灰が灰皿に落ちる、落とされる、灰皿に、肺皿に。
「全然。翔は?」
「僕も全然」
六年! スゴい、スゴク長い時間!
「翔はあれから元気?」
「まあね、仕事が思ったよりうまく行ってるから」
翔は、オレが二十歳になる前に地元を出て就職したんだ。大人の翔だから。
「礼治の十九歳の誕生日、覚えてる? 礼治があの川に飛び込んでさ」
翔が笑った、唇のはしっこが遠慮がちに吊り上がって目が少し細くなる、完璧な笑顔!
昔と一緒、オレの大好きな翔の笑い方。
「礼治はあの時の僕の年になったね」
「そういえばそうだね」
じゃあオレは大人なのかな。うん、あれから色んな人に恋をして、オレ多分もう大人。
「ねえ礼治」
突然、翔の吐き出した煙がパトカーのサイレンの色になった。オレはちょっと身構えて、どうしよう。
「礼治はね、すごく正しくてきれいだよ。昔からずっと」
真面目な顔で翔の目が、あの川の色をした目が、オレをまっすぐ見た。オレはなんかちょっとくすぐったくなる。
「でも、この世の中は礼治が生きていくには汚れすぎてるし間違いだらけだ」
その顔、小さな八重歯、翔は、また、傷が、いや、オレが?
「翔もきれいだよ、正しいよ、オレより」
悲しく笑う翔、その笑顔も完璧。
あれ?
「俺が言いたいのはね、礼治」
パトカーのサイレンはオレの耳には入らない。だって何だか例のあの感じが? 待って、でもこれ翔だよ、小さい頃からずっと一緒だった、あの幼なじみの?
「 」
オレは困る、翔の言葉が聞こえない、薄い唇が動くのに音は出てこない、あの川の臭いがするんだ。
「 」
翔がスゴク深刻な顔をする。でも聞こえない聞こえるのはあの川の色だけ。おかしいな、例のあの感じがオレの幼稚園と川の間から。
「 」
翔は喋り続ける指先で煙草を叩く灰が落ちる、ミドリ色の肺皿に!
「僕は礼治が何をしてるか知ってるよ」
頭のいい翔、知的、その目、何でも見える目、あの頃傷ついてた翔、スゴク辛そうだった、自分のこと傷つけないといけないくらい辛かった翔、オレはずっと助けたかったんだ、あの川がね、翔を流さないように。
「 」
何だか例のあの感じがオレの幼稚園と川の間から音も立てずに膿み出てきて翔を流さないようにオレだけきれいさっぱり洗い流した。
「 」
それで、オレは自覚する(ミドリ色の肺皿の味)。自分が恋をしていることを自覚する。
「 」
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