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しおりを挟むアナベル視点
「アナベル、君との婚約は破棄させてもらう」
フェルナンド様主催の夜会にて、婚約者でありながらエスコートされないどころか、こんな大勢の前で婚約破棄されるだなんて、驚きすぎて言葉も出ない。
彼が隣に知らないご令嬢を侍らせながら、婚約破棄を悪びれもなく言い放つのには理由があった。
圧倒的にフェルナンド様が優位な立場にあるからだ。
私は没落寸前の中級貴族。フェルナンド様は新しい商会を立ち上げ輸入貿易の先頭に立つ新興貴族。
そもそも私たちは政略結婚のための婚約。
財政難にある我が領が支援を受ける代わりに娘を差し出せとの条件をつけられた。両親は謝ってくれたが、貴族の端くれであればこの程度の覚悟はあった。
それなのに。
新しい恋人ができたから婚約はなしだと告げられ、言葉を失っていた私は何も言い返すこともできず、フェルナンド様のお屋敷の警備の人に追い出されて、我が家の馬車に揺られていた。
御者がひどく心配そうな顔をして、時々小窓から様子をうかがってくれるがそれに気丈に返せる状態ではない。
婚約破棄されたことで財政支援はもう望めない。
そもそもこれまでもまだ結婚していないからとの理由で一切の支援はなく、そのくせもう婚約者なのだからだと同衾を求めてきた。端から目的はそちらで支援なんてする気もなかったのかもしれない。結局領はひっ迫したまま。
何の解決にもなっていない。
それでも、あんな人でも、私たちにはすがるしかなかった。
悔しさと絶望でじわりと視界がゆがんでくる。
今日の夜会にはたくさんの貴族が招かれていた。あんな場で一方的な婚約破棄なんて、きっと私に問題があるのだといううわさが広まっていくだろう。そうでなくても没落寸前の私に次の政略結婚ができるような価値はない。
馬車の窓から大きな湖が見え、そのことで屋敷までの道を半分ほど戻ってきたことに気づいた私は、はっとして御者に馬を止めさせた。
暗闇の中で馬車を降り、戸惑いながら声をかけてくる御者に対し、罪悪感を感じながらも、ここに私を置いて屋敷に帰るよう命令する。
顔を真っ青にして、そんなことはできないと涙を浮かべる彼に、さらに強い口調で帰るように繰り返す。彼が持ち歩いている手帳とペンを借り、両親への言葉を書いて今すぐに両親へ届けるよう命じた。
「おっ、お嬢様…!」
「早く行きなさい。これは命令です」
ボロボロと涙を流す彼に背を向ける。しばらくすると嗚咽をもらしながら御者は去っていった。
私は静かに湖へと歩きだす。
昼間に見ると透明度もあいまっておとぎ話に出てくるような幻想的な場所が、夜になると深い闇に変わってしまう。だが、今日は満月。明るい月と星がきらきらと水面に反射してきれいだった。
お父様、お母様、ごめんなさい。
いつも世話をしてくれた使用人のみんなも悲しませてしまうかしら。
刃物で切られているような冷たさを感じながら湖の中に体を沈めていく中、男性の叫び声が聞こえた気がした。
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