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クロヴィス視点
これほどまでの怒りを覚えたのは初めてだった。
フェルナンド・セギュール。この世で一番憎く、消し去りたい男。
ただでさえ気が乗らない夜会だったというに、あいつがアナベル嬢に婚約破棄を言い捨てる場面に立ち会ってしまい、そのまま追い出された彼女を追おうとしたが途中で迷惑な連中に話かけられ邪魔されてしまった。
飛び出してきた私を見つけた従者に、馬車が出ていかなかったかと聞くとアナベル嬢の家紋の入った馬車が数刻前に正門を出て行ったという。そのまま従者に命じ、全速力でアナベル嬢の家へ向かう。速度を上げすぎて馬車が大きく揺れていたが、そんなことを気にしている暇はなかった。
セギュール邸からどれほど馬車を走らせただろうか、様子のおかしい御者が操る馬車を見つけ、強引に止めさせる。
やはりアナベル嬢の御者と馬車だったが、中に彼女の姿はなく、泣きじゃくる御者を脅すように、無理やりに事情を聞き出すと、なんと彼女が自殺するつもりだと言い出した。
湖で彼女は馬車を降り、御者へ家に帰るように命じた、と。
嘘であってくれ、どうか間に合ってくれ。
祈りながら大声で彼女の名前を叫びながら必死に走ると、すでに胸元まで湖に入った彼女がいた。
走る勢いのまま湖に飛び込み、アナベルの名前を叫ぶ。
すぐに彼女に追いついたが、意識がもうろうとしているようで、引き寄せた体は抵抗らしい抵抗を見せることもなくこの腕の中に倒れこんでくる。
冷え切った体を横抱きにして少し引き返すと、先ほどの御者がさらに号泣しながらアナベルに駆けよってきた。
「気を失っているが呼吸はある。だが体は冷え切っているからすぐに温めないと」
「おっ、お嬢っ、お嬢様は、ご両親に、合わす、顔っ、顔が、なっ、ないとっ、」
馬車の中にあった布をあるだけ彼女の体に巻き付けながら事情を聞くと、アナベル嬢の性格上、婚約破棄に責任を感じて両親に合わせる顔がなくて死を選ぼうとしたのではということだった。
ただでさえ政略結婚のために自分を犠牲にしようとしていたのに。セギュールへの怒りがよみがえり、報復を誓いながら彼女をさらに強く抱きしめる。
「…彼女は私が保護してもいいだろうか」
「ほっ、保護っ、で、すか…っ?」
「聞いた限りではこのまま彼女をご両親の元に帰しても、また気に病んでしまうのではないだろうか。また命を投げ出してしまうとも限らない。それに婚約破棄で傷ついた心をいやす時間も必要では?その間、私の屋敷で保護させてもらいたい」
「さ、さすがにっ、わたっ、私に、その、判断っ、は…」
「それもそうだな。ひとまず私の屋敷に連れていく。主人にこのことを伝えてくれ。追って私からも手紙を出そう」
身分の証明のため、私の家紋が入ったハンカチを渡すといまだに号泣している御者は目玉を落としそうなほどに目を見開いた。
改めて恐縮する彼に言伝を頼んでアナベル嬢を馬車に横たえる。
少し顔色の戻ってきた頬に触れるが、まだかなり冷たい。
不安になり、また彼女を膝にのせて体温を分け与えるようにぎゅっと抱きしめる。
指示せずとも意をくんで加速するこの馬車にかかれば、屋敷まではそう時間はかからない。
「アナベル嬢…早く貴女と言葉を交わしたい」
これほどまでの怒りを覚えたのは初めてだった。
フェルナンド・セギュール。この世で一番憎く、消し去りたい男。
ただでさえ気が乗らない夜会だったというに、あいつがアナベル嬢に婚約破棄を言い捨てる場面に立ち会ってしまい、そのまま追い出された彼女を追おうとしたが途中で迷惑な連中に話かけられ邪魔されてしまった。
飛び出してきた私を見つけた従者に、馬車が出ていかなかったかと聞くとアナベル嬢の家紋の入った馬車が数刻前に正門を出て行ったという。そのまま従者に命じ、全速力でアナベル嬢の家へ向かう。速度を上げすぎて馬車が大きく揺れていたが、そんなことを気にしている暇はなかった。
セギュール邸からどれほど馬車を走らせただろうか、様子のおかしい御者が操る馬車を見つけ、強引に止めさせる。
やはりアナベル嬢の御者と馬車だったが、中に彼女の姿はなく、泣きじゃくる御者を脅すように、無理やりに事情を聞き出すと、なんと彼女が自殺するつもりだと言い出した。
湖で彼女は馬車を降り、御者へ家に帰るように命じた、と。
嘘であってくれ、どうか間に合ってくれ。
祈りながら大声で彼女の名前を叫びながら必死に走ると、すでに胸元まで湖に入った彼女がいた。
走る勢いのまま湖に飛び込み、アナベルの名前を叫ぶ。
すぐに彼女に追いついたが、意識がもうろうとしているようで、引き寄せた体は抵抗らしい抵抗を見せることもなくこの腕の中に倒れこんでくる。
冷え切った体を横抱きにして少し引き返すと、先ほどの御者がさらに号泣しながらアナベルに駆けよってきた。
「気を失っているが呼吸はある。だが体は冷え切っているからすぐに温めないと」
「おっ、お嬢っ、お嬢様は、ご両親に、合わす、顔っ、顔が、なっ、ないとっ、」
馬車の中にあった布をあるだけ彼女の体に巻き付けながら事情を聞くと、アナベル嬢の性格上、婚約破棄に責任を感じて両親に合わせる顔がなくて死を選ぼうとしたのではということだった。
ただでさえ政略結婚のために自分を犠牲にしようとしていたのに。セギュールへの怒りがよみがえり、報復を誓いながら彼女をさらに強く抱きしめる。
「…彼女は私が保護してもいいだろうか」
「ほっ、保護っ、で、すか…っ?」
「聞いた限りではこのまま彼女をご両親の元に帰しても、また気に病んでしまうのではないだろうか。また命を投げ出してしまうとも限らない。それに婚約破棄で傷ついた心をいやす時間も必要では?その間、私の屋敷で保護させてもらいたい」
「さ、さすがにっ、わたっ、私に、その、判断っ、は…」
「それもそうだな。ひとまず私の屋敷に連れていく。主人にこのことを伝えてくれ。追って私からも手紙を出そう」
身分の証明のため、私の家紋が入ったハンカチを渡すといまだに号泣している御者は目玉を落としそうなほどに目を見開いた。
改めて恐縮する彼に言伝を頼んでアナベル嬢を馬車に横たえる。
少し顔色の戻ってきた頬に触れるが、まだかなり冷たい。
不安になり、また彼女を膝にのせて体温を分け与えるようにぎゅっと抱きしめる。
指示せずとも意をくんで加速するこの馬車にかかれば、屋敷まではそう時間はかからない。
「アナベル嬢…早く貴女と言葉を交わしたい」
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