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しおりを挟むアナベル視点
ふとあたたかな柔らかいものに包まれている感覚がして目を開けた。感覚の正体はふかふかとしてつるりとした手触りの布団。一目で高級と分かる代物だった。
ぼんやりとしたまま体を起こし、自分が高級寝具に寝かされていたことに気がつく。
しかも豪華な天蓋がついた大きなベッド。
「…ここは……?」
「気がつきましたか」
「っ!?」
見覚えのない場所に戸惑っていると横から男性に声をかけられた。驚きのあまり身をすくめ、声のした方に目を向けると、見覚えのない男性がそこに立っていた。
「ここは私の屋敷です。驚かせてしまってすみません」
「あ、いえ……、どうして私はここにいるのでしょう?」
「…覚えて、いませんか?」
悲しそう、というか気づかわし気な表情に記憶を巡らせ、冷静になった頭で婚約破棄のことを思い出した。
「私、湖で…」
「…偶然通りがかりまして、体が冷え切っていたので屋敷にお連れしました。着替えなどはメイドにさせましたので安心してください」
「ご迷惑をおかけしてしまってすみません。それにお着替えまで…。どうお礼を申し上げればよいか…」
「お礼など不要です。私が勝手にしたことですから」
「でも…」
ひとまずベッドから出ようと動こうとすると、彼にそっと肩を抑えて制された。
どうも私は足を怪我しているらしい。治るまでは安静するようにというのがお医者様の所見とのことだった。
命を救ってもらった上に怪我の治療まで。申し訳なさと感謝でまた頭を下げると慌ててあげるように言われてしまう。
クロヴィス・ルクヴルール様というお名前を教えてもらい、今私が置かれている状況を説明される。
婚約破棄され湖に身を投げた夜から2日経っており、その間に御者を通じて両親とも話がついていることを聞かされた。
「怪我をしたご令嬢をそのまま放り出すなんて紳士の恥ですから、窮屈だとは思いますが治るまではこの屋敷に滞在していただけませんか?」
「そんな、ルクヴルール様には感謝してもしきれません、これ以上ご迷惑をおかけするわけには…!」
「では、私のお願いをひとつ聞いていただけませんか?それでこの件は貸し借りなしにするというのは?」
「ひとつだなんて、私にできることがあればいくつでも仰ってくださいませ。なんでも致します」
「…男に何でもするだなんて言ってはいけませんよ。私があくどい人間だったらどうするんです」
「あくどい人間は通りすがりに令嬢の命を助けたりしませんわ」
私のへ理屈のような返答にルクヴルール様は楽しそうに笑って確かに、と微笑んでくださった。
「では、最初のお願いを聞いていただいても?」
「もちろんです」
「私のことはクロヴィスと呼んでもらえませんか」
「え…でも、それは…よろしいのですか?」
「私のお願いですから。貴女に呼んでほしいのです」
「クロ、ヴィス…様…?」
「ありがとう。調子に乗ってふたつめのお願いをしたくなってしまうな」
「あ、はい。いつでも仰ってください」
「では、貴女のことをアナベルと呼ぶ許可をください」
「そんなことでよろしいのですか…?」
「私にとっては大きな価値のあることですよ」
「ど、どうぞお好きに呼んでくださいまし…!」
まるで口説かれているような雰囲気に当てられてしまい、顔に熱が集まる。嬉しそうにアナベル、と呼ばれ、さらに顔が熱くなった私は、せめて真っ赤になっていませんようにと祈るしかできなかった。
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