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一番近くに
一緒にいたい
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「…オ、テオ!」
アシュリーの声がして目が覚めた。いや、まだ夢か。薬品の匂いがして目を開けると白衣を着たアシュリーがいて、彼は心配そうに僕を覗き込んでいる。…というか、目に涙をためているように見える。
「…アシュリー……?」
喉が焼けるように熱く、出てきた言葉は自分でもびっくりするほどかすれていた。そして、それを僕が何も言わなくても理解したのだろうか、少し待っててというと、水を持ってきてくれた。
鉛のように重い体を無理やり起こし、その水を一口含むと、喉全体の焼けるような痛みが和らいで、その代わりに激しい咳が止まらなくなる。
「落ち着いて、ゆっくり深呼吸して。」
アシュリーにそう言われながら背中を優しく揺すられ、しばらくすると咳は止まった。そして残りの水を一気に飲み干す。
落ち着いて考えて、妙にリアルなのできっと夢ではないのだろう。とすると、倒れたあとわざわざノアがアシュリーの元へ連れて行ってくれたのか。
さらにしばらく経つと呼吸も落ち着き、だいぶ体を起こしているのも苦痛ではなくなってきた。
「テオに聞きたいこともたくさんあるけれど、話したいこともたくさんあるんだ。
だから、長くて勝手な話だけれど聞いて欲しい。…いい?」
よく見てみると、かなり痩せた気がする。アシュリーの目の下には深く刻まれたクマがあり、顔色はいつも白いがなんというか青白い。
だからこんな僕に構っていないで早く休んでと言いたいけれど、その真剣な瞳にそう返すのは失礼だと思ったからうん、と首を縦に振った。
「まず、1つ俺のわがままを聞いて欲しい。これだけは絶対に受け入れて欲しい。」
うん、と首を縦に振る。
きっとこれからずっとアメリアさんの家にいてほしいとか、僕に人生を邪魔しないで欲しいとか、そういう類のものだろう。当たり前だ。
「テオに大切な人が見つかるまででいい、今から言うことにどんなに嫌気がさしても、ずっと一緒にいて欲しい。
この家に戻ってきて、また俺と暮らして欲しい。約束してくれる?」
アシュリーが返事を待つようにじっとこちらを見つめてきた。
なんだかとても嬉しいことを言われている気がする。
それでも彼のその優しさにぼくは首を縦にはふれなかった。
本当は嬉しくても、いやだと首を横に振ると、アシュリーはとても傷ついた顔をして理由を執拗に尋ねてきた。
「僕じゃ、アシュリーを幸せにできないから。」
そう答えると、傷ついた表情はすぐに和らぎ、優しい表情へと変わる。
「どうしてそう思うの?」
「僕はアシュリーがいつか綺麗な人と結婚して子供ができるのを、邪魔しちゃう。僕がいるとそんな暇なくアシュリーはっっ…いつも忙しそうだから。」
言葉の途中でいきなり強く抱きしめられる。心臓がうるさい。
久しぶりに感じたアシュリーのぬくもりは、温かく安心するのに、どうしてか鼓動がどんどん早くなり落ち着かない。
「俺の幸せは、テオと居られることだよ。」
抱きしめながら長いため息をついたあと、僕の方に向き直り、アシュリーが告げた。
そんなわけないじゃないか、と思う。だって僕の本当の価値は殴られて痛がって殴った人のストレスを発散させることだったし、アシュリーといても家事くらいしかできない。
結婚だって僕に構っていてはできないし、何より他人で何もできない僕をこの家で養っているなんて、相手に知られたら嫌がられるだろう。
それに、別にそのことでアシュリーを恨んでいるわけでも、根に持っているわけでもないが、事実僕をアメリアさんの家に預けたじゃないか。
でも、アシュリーのすがるような声に、何を言っても傷つけてしまう気がして、だから口を噤む。
彼は僕をさらにきつく抱きしめ、行かないでと叫んだ声は掠れていて。そして、その手をやっと話し、徐に口を開いた。
「テオ、少し痩せたね。」
「…アシュリーこそ。」
そう、アシュリーも少しやつれた。前に抱きしめられていた時はもう少し温かかったように思う。
「テオ、お願い。約束して。」
もう一度真剣に尋ねられた。ピアスを空けたときと同じ顔…。
ずるい、そんな顔されたら逆らえない。もともと自分は一緒にいたいのだから。
大切な人が僕にできるまで、と言っていたから、アシュリーに恋人ができたら僕もそれをでっちあげればいいだろう、と言う気持ちで首を縦に振った。
するとアシュリーは安心したようなため息を漏らしてから、もう一度真剣な顔で僕に向き直った。
「今から言うことは、聞き流してもらっていいんだ。でも、この話をしたせいで一緒にいたくない、というのはやめて欲しい。」
僕の方が一緒にいたいから、それは大丈夫だろう。うん、と頷くと首の後ろに手を回され、ほおに手のひらを添えられ、そして愛おしそうに撫でられた。
どきどきする。今日のアシュリーはなんだか距離が近い気がする、
「ノアから聞いた。仕事の話はもう聞いたんだよね?」
「ああ。」
「テオをアメリアさんに預けようと思ったのは、俺といたらそのことでテオまで不幸にしてしまうと思ったから。
それにやっぱり俺と2人きりで暮らすよりも、もっと普通の家族の形の中で生活した方が幸せだと思ったからだ。
でも、もう1つ理由があるんだ。
これを説明するには、なぜテオを引き取ったか、ということから説明しなきゃいけない。長くなるかもしれないけど聞いてくれる?」
「うん」
「…家族が、欲しかったんだ。」
そう言うと、彼は喋るのをやめ、一旦空を仰いだ。
アクアマリン色の瞳が一瞬、ぐらりと揺らぐ。その瞳を、何よりも美しいと思う。
そしておもたげに口を開き、彼は淡々と話し始めた。
アシュリーの声がして目が覚めた。いや、まだ夢か。薬品の匂いがして目を開けると白衣を着たアシュリーがいて、彼は心配そうに僕を覗き込んでいる。…というか、目に涙をためているように見える。
「…アシュリー……?」
喉が焼けるように熱く、出てきた言葉は自分でもびっくりするほどかすれていた。そして、それを僕が何も言わなくても理解したのだろうか、少し待っててというと、水を持ってきてくれた。
鉛のように重い体を無理やり起こし、その水を一口含むと、喉全体の焼けるような痛みが和らいで、その代わりに激しい咳が止まらなくなる。
「落ち着いて、ゆっくり深呼吸して。」
アシュリーにそう言われながら背中を優しく揺すられ、しばらくすると咳は止まった。そして残りの水を一気に飲み干す。
落ち着いて考えて、妙にリアルなのできっと夢ではないのだろう。とすると、倒れたあとわざわざノアがアシュリーの元へ連れて行ってくれたのか。
さらにしばらく経つと呼吸も落ち着き、だいぶ体を起こしているのも苦痛ではなくなってきた。
「テオに聞きたいこともたくさんあるけれど、話したいこともたくさんあるんだ。
だから、長くて勝手な話だけれど聞いて欲しい。…いい?」
よく見てみると、かなり痩せた気がする。アシュリーの目の下には深く刻まれたクマがあり、顔色はいつも白いがなんというか青白い。
だからこんな僕に構っていないで早く休んでと言いたいけれど、その真剣な瞳にそう返すのは失礼だと思ったからうん、と首を縦に振った。
「まず、1つ俺のわがままを聞いて欲しい。これだけは絶対に受け入れて欲しい。」
うん、と首を縦に振る。
きっとこれからずっとアメリアさんの家にいてほしいとか、僕に人生を邪魔しないで欲しいとか、そういう類のものだろう。当たり前だ。
「テオに大切な人が見つかるまででいい、今から言うことにどんなに嫌気がさしても、ずっと一緒にいて欲しい。
この家に戻ってきて、また俺と暮らして欲しい。約束してくれる?」
アシュリーが返事を待つようにじっとこちらを見つめてきた。
なんだかとても嬉しいことを言われている気がする。
それでも彼のその優しさにぼくは首を縦にはふれなかった。
本当は嬉しくても、いやだと首を横に振ると、アシュリーはとても傷ついた顔をして理由を執拗に尋ねてきた。
「僕じゃ、アシュリーを幸せにできないから。」
そう答えると、傷ついた表情はすぐに和らぎ、優しい表情へと変わる。
「どうしてそう思うの?」
「僕はアシュリーがいつか綺麗な人と結婚して子供ができるのを、邪魔しちゃう。僕がいるとそんな暇なくアシュリーはっっ…いつも忙しそうだから。」
言葉の途中でいきなり強く抱きしめられる。心臓がうるさい。
久しぶりに感じたアシュリーのぬくもりは、温かく安心するのに、どうしてか鼓動がどんどん早くなり落ち着かない。
「俺の幸せは、テオと居られることだよ。」
抱きしめながら長いため息をついたあと、僕の方に向き直り、アシュリーが告げた。
そんなわけないじゃないか、と思う。だって僕の本当の価値は殴られて痛がって殴った人のストレスを発散させることだったし、アシュリーといても家事くらいしかできない。
結婚だって僕に構っていてはできないし、何より他人で何もできない僕をこの家で養っているなんて、相手に知られたら嫌がられるだろう。
それに、別にそのことでアシュリーを恨んでいるわけでも、根に持っているわけでもないが、事実僕をアメリアさんの家に預けたじゃないか。
でも、アシュリーのすがるような声に、何を言っても傷つけてしまう気がして、だから口を噤む。
彼は僕をさらにきつく抱きしめ、行かないでと叫んだ声は掠れていて。そして、その手をやっと話し、徐に口を開いた。
「テオ、少し痩せたね。」
「…アシュリーこそ。」
そう、アシュリーも少しやつれた。前に抱きしめられていた時はもう少し温かかったように思う。
「テオ、お願い。約束して。」
もう一度真剣に尋ねられた。ピアスを空けたときと同じ顔…。
ずるい、そんな顔されたら逆らえない。もともと自分は一緒にいたいのだから。
大切な人が僕にできるまで、と言っていたから、アシュリーに恋人ができたら僕もそれをでっちあげればいいだろう、と言う気持ちで首を縦に振った。
するとアシュリーは安心したようなため息を漏らしてから、もう一度真剣な顔で僕に向き直った。
「今から言うことは、聞き流してもらっていいんだ。でも、この話をしたせいで一緒にいたくない、というのはやめて欲しい。」
僕の方が一緒にいたいから、それは大丈夫だろう。うん、と頷くと首の後ろに手を回され、ほおに手のひらを添えられ、そして愛おしそうに撫でられた。
どきどきする。今日のアシュリーはなんだか距離が近い気がする、
「ノアから聞いた。仕事の話はもう聞いたんだよね?」
「ああ。」
「テオをアメリアさんに預けようと思ったのは、俺といたらそのことでテオまで不幸にしてしまうと思ったから。
それにやっぱり俺と2人きりで暮らすよりも、もっと普通の家族の形の中で生活した方が幸せだと思ったからだ。
でも、もう1つ理由があるんだ。
これを説明するには、なぜテオを引き取ったか、ということから説明しなきゃいけない。長くなるかもしれないけど聞いてくれる?」
「うん」
「…家族が、欲しかったんだ。」
そう言うと、彼は喋るのをやめ、一旦空を仰いだ。
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そしておもたげに口を開き、彼は淡々と話し始めた。
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