一番近くに。

沈丁花

文字の大きさ
35 / 68
趣味と仕事

訪問者と彼の仕事

しおりを挟む
今日はノアに家に来いと言われたため、朝から外出の用意をしてノアの家に向かった。ちなみにアシュリーは一緒に家を出て仕事に向かった。

最近ノアは忙しいようで、昨日呼び出されるまで久しく会っていない。

ノアの部屋のベルを鳴らすと、すぐにドアが開いて玄関に通された。

「悪かったな、急に昨日呼び出して。お前に会いたいっていう奴がいてな。」

僕にお客さん?アシュリーの近辺以外に関わった覚えはないし、第一なぜノアの家に…?色々疑問に思いながら、今朝焼いてきたクッキーを差し出す。

「これ、一応差し入れのクッキー。」

「これ、アメリアさんが作った奴?」

「を、僕が真似して作った奴。まだやっぱりアメリアさんのよりは美味しくない。」

アメリアさんの家で過ごした1ヶ月と、その後時々お邪魔しに行くときによくお菓子づくりを手伝っていたが、彼女の作るお菓子にはやはりかなわない。それでもクッキーは割と近い味になった。

部屋に入ると、かすかにノアのものではない男物の香水の香りがした。

「カルロ、連れてきた。」

自分の家なのになぜかトントン、と部屋のドアをノックしてから開け、そして中に僕を通す。中にはスーツ姿の男性がいた。

明るいブラウンの髪に、紫色の瞳。彼は読んでいた本を置き、ソファーから立ち上がるとこちらにやってくる。

顔を上げ、本を置く、立ち上がる、こちらへ歩く、そして僕を見て手を差し出す、その仕草の一つ一つが非常に滑らかで美しい。まるで踊り子が舞う姿のような繊細さが全ての動きにある人だと思った。

また、きているスーツのラインがとても美しく出ている。というか、僕の好みと一致している。

顔は整っているがアシュリーやノアには劣る。それでもその仕草一つ一つはまるで女性よりも女性らしいしなやかさで、アシュリーとはまた違った美しさを放っていた。

「初めまして、カルロ・シェイクスピアといいます。」

男性にしては少し高めの声は、ただ話しているだけなのにまるで歌を歌っているかのような魅力を放っている。優しく微笑む姿はどこか儚げだった。

差し出された手を握り返すと、滑らかで柔らかい。

「初めまして、テオドール・シャーロックです。」

この人が自分に何の用だろう。今までこの人とは会ったことがない。それにアシュリーの知り合いだったらうちに来るだろうし。

「いきなりごめんなさい。今日はあなたをスカウトしにきたんです。」

スカウト?意味がわからない。なんのだろう、、、?まず、僕には並外れた容姿も愛嬌も特技もない。じっとその人の目を見て次の言葉を待つ。

すると彼は先ほど座っていたソファーの近くに行き自分のバッグから何かを取り出した。

「…これは君が作ったのですよね?」

彼が見せてきたのは、ノアに相談事に乗ってもらったお礼として渡した黒シャツだった。着てもらったところ予想以上に似合っていてびっくりしたやつ。

アシュリーの気なくなったシャツを真似して、ノアにはもう少し細身のものが合うからと勝手にアレンジして、ついでにノアのイメージに合わせて黒にして胸ポケットを付けてNの刺繍が入っている。

最近はアシュリーに甘やかされっぱなしで、よく生地などをお気に入りの手芸店に行って買っていた。

「はい。」

でもそれがなんだろう?スカウトへの繋がりがわからない。

「僕の店で働きませんか?」

一言、しっかりと言われた。え、とびっくりしていると、構わず彼は続ける。

「デザインもいいし、彼に合わせてアレンジされている。縫い目もとても丁寧だ。

こんなに良い仕事が出来るなら、たまにでいいから僕の店を手伝って欲しいと思ってきました。お給料ははずみますよ。結構人気なんです。うち。」

そこまで言われて、僕はびっくりしたのと、アシュリー以外の人からあまり褒められたことがなかったから慣れずに固まってしまった。それを、何固まってるんだとノアが笑う。

「あそこの商店街のスーツの仕立て屋があるだろ。この人はそこのオーナー。」

知っているも何も、実はそのお店には行ってみたいと思っていた。

もちろん僕なんかが入るには敷居が高いので入ったことはないけれど、そのお店から出てくる人はいつも自信に溢れて見えた。おそらくその人の体型をより美しく魅せるスーツを纏っているからだ。

だから、最近買い出しに行くようになってからは、そこから客が嬉しそうに出てくる姿をみたときはなぜか幸福を感じている。

「ずっと1人で作ってきたのですが、最近常連様が増えてきましてね。手伝っていただける方を探していたんです。

ノアさんの着ているシャツを見て、美的感覚がこのシャツを作った方とはとても合う気がしたので、無理を言って押しかけてしまいました。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

処理中です...