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初めての朝(東弥side)
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そよ風のように優しく爽やかな音に鼓膜を撫でられて、東弥はゆっくりと目を開けた。
__あれ、ここどこだっけ。
目の前に広がる見慣れない景色に疑問を巡らせ、昨夜兄の使っていたベッドで夜を明かしたことを思い出す。
__じゃあ、この音を奏でているのは…。
階段を降りた先には広いリビングがあり、大きな窓を背景にピアノが2台置いてある。そこで東弥は、目の前の情景に息を呑んだ。
窓から差し込む陽光に照らされながら、静留の指が滑らかに鍵盤の上を滑っている。
大人っぽく笑んだ横顔、まるでピアノと戯れているように軽快な指。
繊細で粒の揃った小さな音たちが幾重にも重なって出来上がった旋律のせいだろうか。彼の足下にはあるはずもない草原が広がっていて、すぐそばに清流が煌めいているように見えた。
まるで映画のワンシーンみたいだ、と心の中で思う。
「すごいでしょう?彼。
あれで師事したのは真鍋先生だけなんですよ。」
突然後ろから声が聞こえてきて、振り向くと小柄な女性が立っていた。そういえば、兄からの手紙を渡してくれたのも彼女だった。
彼女も合鍵を渡されているのだろうか。
「あなたは…?」
「挨拶が遅れました。私、真鍋先生と和泉君のマネージャーをしています、桜井梨花です。
コンサート関連の手続きやこの家の家事をさせていただいているので、何かあればいつでも相談してくださいね。あと、平日の朝と夜に家事と静留君の進捗の確認にきますので、よろしくお願いします。」
和泉君、と言われ一瞬誰だかわからなかったが、おそらく静留のことだろう。そして真鍋先生とは東弥の兄、西弥のことだ。
梨花と名乗った彼女は、可愛らしく笑みながら東弥に名刺を渡した。裏には手書きで携帯の番号とメールアドレスが書いてある。
「こちらこそよろしくお願いします。昨夜きたばかりで勝手がわかっていないので、何かあったら連絡させてください。
あと、俺になにか手伝えることがあったら言ってくださいね。今日から春休みですしバイトも新学期まで休むと言ってあるので。」
「はっ、はいっ…!!」
東弥が握手をしようとしたら、梨花は先程の事務的な様子からは考えられないほど動揺した様子を見せ、握手をする前に手を引っ込めてしまった。
「すみません、何か失礼がありましたか?」
彼女があまりにも突然様子を変えたので尋ねる。
「な、なにもっ…!なにもありませんっ!!
朝食はそこに置いてあるので!!和泉君に声をかけて一緒に食べてあげてくださいっ!私は失礼します…!!」
__嫌われてしまっただろうか。
顔を真っ赤にして去っていく彼女の背中を見て東弥は首を傾げた。
彼女の言った通り、ダイニングテーブルに2人分の食事が並んでいる。
静留は東弥たちの方に目もくれず、気づけば次の曲を奏でていた。
先ほどとは全く違う甘い旋律。話しかけたら止めてしまうのかと少し残念に思いながら、東弥は昨夜と同じように、彼の肩に手を当ててその身体を揺さぶる。
弾いていた甘い旋律の名残か、振り向いた瞬間の彼の表情が色っぽくて、一瞬どきりとした。
しかし、すぐにその艶は失われ、代わりにあどけない笑みが浮かべられる。
「西くん、おはよ。」
西くん、という言葉にすこし胸が痛むのを隠して、東弥は彼に優しく声かける。
「おはよう、静留。ご飯食べようか。」
「うん!」
子犬のように嬉しそうに立ち上がり、食卓に向かう静留を見て、無性に守りたいという衝動に駆られた。
__自分に兄を重ねる彼にそんな感情を抱いたって苦しいだけだとわかっているのに…。
抑えきれないその感情に小さくため息を漏らしながら、東弥も静留の後を追うように食卓についたのだった。
__あれ、ここどこだっけ。
目の前に広がる見慣れない景色に疑問を巡らせ、昨夜兄の使っていたベッドで夜を明かしたことを思い出す。
__じゃあ、この音を奏でているのは…。
階段を降りた先には広いリビングがあり、大きな窓を背景にピアノが2台置いてある。そこで東弥は、目の前の情景に息を呑んだ。
窓から差し込む陽光に照らされながら、静留の指が滑らかに鍵盤の上を滑っている。
大人っぽく笑んだ横顔、まるでピアノと戯れているように軽快な指。
繊細で粒の揃った小さな音たちが幾重にも重なって出来上がった旋律のせいだろうか。彼の足下にはあるはずもない草原が広がっていて、すぐそばに清流が煌めいているように見えた。
まるで映画のワンシーンみたいだ、と心の中で思う。
「すごいでしょう?彼。
あれで師事したのは真鍋先生だけなんですよ。」
突然後ろから声が聞こえてきて、振り向くと小柄な女性が立っていた。そういえば、兄からの手紙を渡してくれたのも彼女だった。
彼女も合鍵を渡されているのだろうか。
「あなたは…?」
「挨拶が遅れました。私、真鍋先生と和泉君のマネージャーをしています、桜井梨花です。
コンサート関連の手続きやこの家の家事をさせていただいているので、何かあればいつでも相談してくださいね。あと、平日の朝と夜に家事と静留君の進捗の確認にきますので、よろしくお願いします。」
和泉君、と言われ一瞬誰だかわからなかったが、おそらく静留のことだろう。そして真鍋先生とは東弥の兄、西弥のことだ。
梨花と名乗った彼女は、可愛らしく笑みながら東弥に名刺を渡した。裏には手書きで携帯の番号とメールアドレスが書いてある。
「こちらこそよろしくお願いします。昨夜きたばかりで勝手がわかっていないので、何かあったら連絡させてください。
あと、俺になにか手伝えることがあったら言ってくださいね。今日から春休みですしバイトも新学期まで休むと言ってあるので。」
「はっ、はいっ…!!」
東弥が握手をしようとしたら、梨花は先程の事務的な様子からは考えられないほど動揺した様子を見せ、握手をする前に手を引っ込めてしまった。
「すみません、何か失礼がありましたか?」
彼女があまりにも突然様子を変えたので尋ねる。
「な、なにもっ…!なにもありませんっ!!
朝食はそこに置いてあるので!!和泉君に声をかけて一緒に食べてあげてくださいっ!私は失礼します…!!」
__嫌われてしまっただろうか。
顔を真っ赤にして去っていく彼女の背中を見て東弥は首を傾げた。
彼女の言った通り、ダイニングテーブルに2人分の食事が並んでいる。
静留は東弥たちの方に目もくれず、気づけば次の曲を奏でていた。
先ほどとは全く違う甘い旋律。話しかけたら止めてしまうのかと少し残念に思いながら、東弥は昨夜と同じように、彼の肩に手を当ててその身体を揺さぶる。
弾いていた甘い旋律の名残か、振り向いた瞬間の彼の表情が色っぽくて、一瞬どきりとした。
しかし、すぐにその艶は失われ、代わりにあどけない笑みが浮かべられる。
「西くん、おはよ。」
西くん、という言葉にすこし胸が痛むのを隠して、東弥は彼に優しく声かける。
「おはよう、静留。ご飯食べようか。」
「うん!」
子犬のように嬉しそうに立ち上がり、食卓に向かう静留を見て、無性に守りたいという衝動に駆られた。
__自分に兄を重ねる彼にそんな感情を抱いたって苦しいだけだとわかっているのに…。
抑えきれないその感情に小さくため息を漏らしながら、東弥も静留の後を追うように食卓についたのだった。
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