朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

文字の大きさ
53 / 92
第二部

突然の別れ⑥(東弥side)

しおりを挟む
幹斗と連絡をとって1時間ほどが経ってから、とんとんとドアがノックされた。

続いて“東弥”、と幹斗の声が聞こえてくる。

「どうぞ。」

「東弥さんっ…!!」

ドアが開くと同時にたたっと静留が駆け込んできて、東弥はやっと地に足がついた心地がした。

__よかった、やっと会えた…。

彼はいつものように東弥に抱きつくために両手を伸ばしかけたが、東弥が怪我していることに気づいたからか、途中でその手を宙に泳がせる。

「心配かけてごめんね。静留。もう大丈夫だよ。」

彼の手をつかんでこちらに引き寄せ長い髪を撫でてやると、静留は涙を堪えるように唇を噛んで。

「…あのね、東弥さん。」

何かを決心したように拳を握りながらじっと東弥の目を見て言った。

「どうしたの?」

「…おはなし、あるの…。きいてくれる…?」

真剣な瞳を見て、少し恐怖を覚える。

もしもこの先一緒にいられないと静留が東弥を拒んでしまったらどうしようかと。

「もちろん。…そこに座って。ずっと立っていたら疲れるでしょう?」

けれど不安を表に出さないように優しく笑ってそう言うと、静留はこくりとうなずいて、東弥の隣に腰掛けた。

いつのまにか幹斗の姿はない。

「…あの、ね…。

ぼく、男で、…赤ちゃんうめないの。それでね、くれいむ?もしらないの…。

だから、…いっしょいたら、めいわくかけちゃうから… 」

そこまで言って、彼はぎゅっと目を瞑り、小さく息継ぎをした。

息を吸う音が震えている。

「…もう、東弥さんといたいって、わがままいわない。…ぼくのこと、もし、きをつかっていっしょにいるなら、…だいじょうぶ、だから…。」

言い終えたあと、彼は唇に笑みを浮かべて見せた。

しかし唇は震えているし、柔らかく細められた瞳は潤んでいて、声はかすれていて、明らかに無理に笑っているのだとわかる。

彼の健気な様子へのどうしようもない愛しさと、彼をこんなふうに悩ませてしまった苦しさで、どうにかなってしまいそうだった。

頭がぐちゃぐちゃで、なんと返せばいいのかわからない。

伝えたいことと伝えなければならないことが、きっと少し違う。

どちらが大切か考えたとき、今の場合に限って言えば伝えたいことの方だと思った。

彼の後頭部に手を回しこちらの方へと引き寄せてから、彼の瞳をじっとみて東弥は唇を開く。

「ねえ静留、愛してる。絶対に離したりしないよ。」

優しい声で伝えれば、無理に浮かべられていた笑みが解け、驚いたように大きくひらかれた瞳から大粒の雫がぼろぼろと溢れ出した。

「もちろん静留に気を遣って一緒にいるわけじゃない。俺が一緒にいたいんだ。たくさん話さなくちゃいけないことがあるけど、まずはそれをわかってくれる…?」

こくこくと彼が大きく頷く。

「いい子。」

拭っても意味がないことを知っていながら、東弥は彼の瞳に浮かぶ雫をそっと掬った。

そのまま甘いglareを放ち、固まっている彼の唇を奪う。

桜色の淡い唇は東弥の乾燥した唇を乳を吸う赤子のように何度かみ、東弥がその隙間を舌でとんとんとノックすると、通り道を開くように合わせが緩んだ。

互いの存在を確認するように、そっと舌を擦り合わせていく。

たくさん話すべきことがある。そのことはわかっている。

でも愛おしさが先立ってしまったから、もう少しこのままでいることを許してほしい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。 Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。 抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。 しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。 ※Dom/Subユニバース独自設定有り ※やんわりモブレ有り ※Usual✕Sub ※ダイナミクスの変異あり

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...