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民間警護組織「デネボラ」
新しい仲間たち②
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開いたドアの先、そこには可愛らしい茶髪の男性がいて、口元を押さえ顔を真っ赤にしていた。声は非常にとげとげしていて、かなり怒っているのがわかる。
「エレン、お前浮気か?」
「…ヨル、お前っ…、Ωだからわからないかもしれないが、こいつの匂いはかなり強烈だぞっ…
お前と番ってなかったら、俺も理性が飛んでるっ…!とっとと抑制剤を飲ませろっ!!」
そういえば抑制剤の効果が切れていたと、アルは部屋に入らず彼から一定の距離を取った。
先ほどアルと知り合った男は怪訝そうな顔をしながらも一旦ドアを閉める。
「お前、本当にヒート中か?」
「…そうですが。」
驚くのも無理はない。娼館のα以外の人間は、アルの発情期に気づかないことも多かった。
抑制剤がないときには盛大に匂いを放っているらしいが、自分ではすこし熱いな、というくらいなのだ。つまりアルは、極端に匂い以外のヒートの症状が軽い。
「これ、飲んどけ。」
どこから取り出したのか、ピルとペットボトルの水を放られた。アルは遠慮なくそれを口に含む。ヒートのΩが家以外で抑制剤の効果を切らしているなど、αにとっては拷問もいいところだ。
「しかし、こんなに軽い奴がいるもんだな、その分匂いは酷いってか?くくっ…エレンのあの顔っ!傑作だっ…!
…と、悪い。俺はヨル。民間警護組織、デネボラの長をしている。」
アルが抑制剤を口に含み水を飲んでいる間、ヨルと名乗った男は盛大に笑い転げていた。
全く陽気な人だ、とアルは苦笑いする。
「ヨルさん、あの方は?」
ヒートに当てられているのだから、おそらくαなのだろう。気になって聞いてみる。もしかしたら、彼のうなじに跡を刻んだ人だろうか。
「ああ、あいつはエレン。俺の番で、多分噂になってるここの医者。
…可愛い顔して容赦ねーの。気をつけろっいたたたたた 」
ヨルが話している途中から、後ろからエレンが近寄ってきていたのだが、アルは伝えるタイミングを逃してしまった。
結果大きく可愛い目を怒りにつり上がらせたエレンは、背伸びをしてヨルの両ほほをつねると、思いっきり左右に伸ばしていく。
痛そうではあるが、ヨルは同時に幸せそうだ。
「誰の顔が可愛いだ?今夜は覚えとけよ。
それより君、新入り?ヒートなのによく動けるな。」
エレンはそう言うと、アルの方を見た。もう怒ってはいない様子だ。おそらくエレンの一連の一言で瞬間的に怒っていたのだろう。
「自覚症状が軽いんです。」
軽い、と言ってもすこし熱い、くらいはあるのだが。アルの言葉に、なるほどなとエレンは頷く。
「まあ、それであんな匂いを放ってるなら意味ないけどな。とりあえず抑制剤の働きの大部分はフェロモン放出の抑制だ。
しっかり1日に2回飲め。切らせることはないように。それと。」
まだ何か足りないことがあっただろうか。エレンは近すぎるくらいに近寄ってアルの顔を覗き込んでから、ビシッとアルの瞳を指差した。
「そのコンタクト、度は入ってるのか?」
「…?
あ、いえ。」
一瞬何を聞かれているのかよくわからなかったが、じっと瞳を見られたから今自分の目の中に入っているものだと気づくことができた。
近くから見ればわかるものなのか、と素直に感心する。
「視力の低下に繋がったら大変だ。仕事で外に出るとき以外は外しておけ。そして外したものはよこせ。型を調べておく。」
それだけ行ってくるりと踵を返した彼を、ヨルが待て待てと制止した。
「こいつはアル。今日から組織の一員だ。」
「…ふーん。よろしく。」
自分も大概だが、エレンもかなり愛想がない、とアルは思った。
トイレでコンタクトを外し、それからは施設のことや今後の訓練について丁寧にヨルが案内してくれた。そして。
「今日からお前らと同室のアルだ。色々相談に乗ってやってくれ。」
ここがお前の部屋だと案内された部屋には、2人の住人の姿があった。
見渡すと、比較的広い中には、カプセルホテルのような造りのベッドが4つと、キッチン、リビングが1つになった空間がある。
寝起きの様子の2人は、ドアが開いてからしばらく目をこすって眠たげにしていたが、アルの姿を捉えると、だっと高速で駆け寄ってきた。
「え、嘘、後輩!?」
「本当か!?」
「お前らもまだきて3ヶ月だろう。」
ヨルが苦笑いをしながら興奮する2人をなだめていく。
1人はくりっとした黒い目にふわふわの茶色い栗毛の可愛らしい人で、もう1人は短髪の、健康的な人。
どちらの男もアルに興味津々で覗き込んできて、おそらく歳は同年代。同年代と関わる機会がほとんどなかったアルは、そんなに見られるとどうしていいかわからずに固まってしまう。
「おいおい、困ってるだろ。お前ら初対面で近すぎだ。」
ヨルの言葉も彼らの心にはあまり響いていないらしく、2人はキョトンと顔を見合わせた。そしてにこっと笑うと再びアルを覗き込む。
「え?そう?」
「そんなことはないと思うんだが…。そうだ。俺はカイという。」
「あー、僕はロルフ!ねえねえ名前は?年齢は??それより目の色なんか違う!」
「おーまーえーらーはーっ!!」
ごつん、といい音が響いた。ヨルがカイとロルフにげんこつを落とした音だと理解できたのは、2人が揃って頭を抱えたからである。
「「いてっ!!」」
「自業自得だ。」
大きなため息をつきながら、あとを頼むと言い残してヨルはどこかへ行ってしまった。そのあとアルが質問攻めにされたことは言うまでもない。
「エレン、お前浮気か?」
「…ヨル、お前っ…、Ωだからわからないかもしれないが、こいつの匂いはかなり強烈だぞっ…
お前と番ってなかったら、俺も理性が飛んでるっ…!とっとと抑制剤を飲ませろっ!!」
そういえば抑制剤の効果が切れていたと、アルは部屋に入らず彼から一定の距離を取った。
先ほどアルと知り合った男は怪訝そうな顔をしながらも一旦ドアを閉める。
「お前、本当にヒート中か?」
「…そうですが。」
驚くのも無理はない。娼館のα以外の人間は、アルの発情期に気づかないことも多かった。
抑制剤がないときには盛大に匂いを放っているらしいが、自分ではすこし熱いな、というくらいなのだ。つまりアルは、極端に匂い以外のヒートの症状が軽い。
「これ、飲んどけ。」
どこから取り出したのか、ピルとペットボトルの水を放られた。アルは遠慮なくそれを口に含む。ヒートのΩが家以外で抑制剤の効果を切らしているなど、αにとっては拷問もいいところだ。
「しかし、こんなに軽い奴がいるもんだな、その分匂いは酷いってか?くくっ…エレンのあの顔っ!傑作だっ…!
…と、悪い。俺はヨル。民間警護組織、デネボラの長をしている。」
アルが抑制剤を口に含み水を飲んでいる間、ヨルと名乗った男は盛大に笑い転げていた。
全く陽気な人だ、とアルは苦笑いする。
「ヨルさん、あの方は?」
ヒートに当てられているのだから、おそらくαなのだろう。気になって聞いてみる。もしかしたら、彼のうなじに跡を刻んだ人だろうか。
「ああ、あいつはエレン。俺の番で、多分噂になってるここの医者。
…可愛い顔して容赦ねーの。気をつけろっいたたたたた 」
ヨルが話している途中から、後ろからエレンが近寄ってきていたのだが、アルは伝えるタイミングを逃してしまった。
結果大きく可愛い目を怒りにつり上がらせたエレンは、背伸びをしてヨルの両ほほをつねると、思いっきり左右に伸ばしていく。
痛そうではあるが、ヨルは同時に幸せそうだ。
「誰の顔が可愛いだ?今夜は覚えとけよ。
それより君、新入り?ヒートなのによく動けるな。」
エレンはそう言うと、アルの方を見た。もう怒ってはいない様子だ。おそらくエレンの一連の一言で瞬間的に怒っていたのだろう。
「自覚症状が軽いんです。」
軽い、と言ってもすこし熱い、くらいはあるのだが。アルの言葉に、なるほどなとエレンは頷く。
「まあ、それであんな匂いを放ってるなら意味ないけどな。とりあえず抑制剤の働きの大部分はフェロモン放出の抑制だ。
しっかり1日に2回飲め。切らせることはないように。それと。」
まだ何か足りないことがあっただろうか。エレンは近すぎるくらいに近寄ってアルの顔を覗き込んでから、ビシッとアルの瞳を指差した。
「そのコンタクト、度は入ってるのか?」
「…?
あ、いえ。」
一瞬何を聞かれているのかよくわからなかったが、じっと瞳を見られたから今自分の目の中に入っているものだと気づくことができた。
近くから見ればわかるものなのか、と素直に感心する。
「視力の低下に繋がったら大変だ。仕事で外に出るとき以外は外しておけ。そして外したものはよこせ。型を調べておく。」
それだけ行ってくるりと踵を返した彼を、ヨルが待て待てと制止した。
「こいつはアル。今日から組織の一員だ。」
「…ふーん。よろしく。」
自分も大概だが、エレンもかなり愛想がない、とアルは思った。
トイレでコンタクトを外し、それからは施設のことや今後の訓練について丁寧にヨルが案内してくれた。そして。
「今日からお前らと同室のアルだ。色々相談に乗ってやってくれ。」
ここがお前の部屋だと案内された部屋には、2人の住人の姿があった。
見渡すと、比較的広い中には、カプセルホテルのような造りのベッドが4つと、キッチン、リビングが1つになった空間がある。
寝起きの様子の2人は、ドアが開いてからしばらく目をこすって眠たげにしていたが、アルの姿を捉えると、だっと高速で駆け寄ってきた。
「え、嘘、後輩!?」
「本当か!?」
「お前らもまだきて3ヶ月だろう。」
ヨルが苦笑いをしながら興奮する2人をなだめていく。
1人はくりっとした黒い目にふわふわの茶色い栗毛の可愛らしい人で、もう1人は短髪の、健康的な人。
どちらの男もアルに興味津々で覗き込んできて、おそらく歳は同年代。同年代と関わる機会がほとんどなかったアルは、そんなに見られるとどうしていいかわからずに固まってしまう。
「おいおい、困ってるだろ。お前ら初対面で近すぎだ。」
ヨルの言葉も彼らの心にはあまり響いていないらしく、2人はキョトンと顔を見合わせた。そしてにこっと笑うと再びアルを覗き込む。
「え?そう?」
「そんなことはないと思うんだが…。そうだ。俺はカイという。」
「あー、僕はロルフ!ねえねえ名前は?年齢は??それより目の色なんか違う!」
「おーまーえーらーはーっ!!」
ごつん、といい音が響いた。ヨルがカイとロルフにげんこつを落とした音だと理解できたのは、2人が揃って頭を抱えたからである。
「「いてっ!!」」
「自業自得だ。」
大きなため息をつきながら、あとを頼むと言い残してヨルはどこかへ行ってしまった。そのあとアルが質問攻めにされたことは言うまでもない。
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