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エピローグ
この幸せが。
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後ろから大きな泣き声が響いてきて、アルは脱力しホッと胸をなでおろした。
「もう入って大丈夫。」
中から出てきたアランに誘われ中へと足を踏み入れる。入った途端に響いたのは、赤ん坊の泣き声ではなくエレンの怒声で。
「ばかっ!!何度もお前は子宮の状態がよくないって言ったのにっ…!!心配させてっ…!!
…いや、今言うことはそうじゃないな。ヨル、ありがとう。元気な女の子だ。」
昨夜ヨルの陣痛が始まって、ぴったり24時間が経過していた。新たに誕生した小さな命を、エレンとヨルが愛おしそうに眺めている。
「おめでとうございます。」
「ありがとう。」
アルはヨルにそう告げ、一礼をした。
「じゃあ、俺たちはこれで。」
一言告げてアランの手を取って部屋を出たのは、2人の甘い時間を邪魔したくないからだけではない。
「えっと… 」
戸惑う彼をよそに、ぐいぐいと屋上まで引っ張っていく。どうしても彼をあの空間から連れ出したくて。
「また、そんな顔して。
俺がどんなに幸せか、まだわかってない?」
おめでとう、と彼が言った時、爽やかに笑いながらも強く右手を握りしめていたことに気がづいた。
彼とアルには子供ができない。アルにとっては大した問題ではないのだが、アランはそれを相当気にしているようで。
「…なんでもお見通しだな、参ったよ。」
「番って何年経ったと思ってるの。」
ばか、と彼の肩を軽く小突く。番ってからもう3年目。自分でも驚くほどに、アルの性格は丸くなった。
「…ありがとう。」
ずるい、と思う。こういう時、すまない、じゃなくてありがとうと礼を述べるところが、たまらなく好きだ。
「あ、綺麗。」
照れ隠しに上を見上げると、新月の空には満天の星が広がっていて。
「本当だ。
…そうか。丁度、アルビレオが見える時期だ。」
アルビレオ、というのはアルの名前の由来だという二重星で、肉眼で見ると一つの星だが、望遠鏡で観ると綺麗に金色と水色に分かれて見えるらしい。
「え、どこに?」
空を見上げるが、星空についての知識などほとんどないから全て同じ光景に見えてしまう。
「ほら、あれがデネブで、あの十字の形の先に… 」
アランの指を懸命に追って、やっと、十字の形を見つけ出した。その先、白鳥の頭に模されている場所に、その星は存在する。
「うーん……あ、見つけた。あれ?」
「そう。」
温暖な時期でも晴天の夜は少なからず冷える。身震いしたアルに、アランはそっと白衣を被せてくれた。そのまま背中から抱きしめられる。
「ねえ、初めて話したときのこと、覚えてる?」
「ああ、鮮明に。自分の首を締めようとするから、本当に焦った。」
低く美しい声が耳元で響いて、ぞくりとする。こんなに美しい人が自分と番ってくれたなど、本当は今でも信じられない。
「あの時アランのこと、絶対に神か何かだと思った。俺死んだんだなって。」
「…勘違いが過ぎるな。」
「いや、今もだけど、アランの容姿は人並みはずれてるから、もっとこう… 」
話題がそれて無意識に惚気てしまったアルを、アランは微笑ましげに見つめた。
かえってからかわれた方がマシだと思う。こんな反応は恥ずかしい。
「…じゃなくてっ!!あの日名前をもらった時、実はすごく嬉しかった。
ずっと、この瞳を、気持ち悪いって言われてきたから。」
「…宝石よりも美しいのに、心外だ。」
さらりと彼の蜂蜜色の髪がアルの首筋を掠めた。気づけば聡明な青い瞳がアルの瞳を覗いていて。
「そ、…そんなこと、ない、けど…。」
この甘過ぎる言葉にだけはいつまでも慣れなくて、嬉しいのにぶっきらぼうに返してしまう。恥ずかしくてアルは、下を向いた。
「あ、流れ星。」
頑なに下を向き続けていると、不意にアランがそう呟いた。
「え、どこ??」
反射的に上を向き、空の中に流れ星を探す。一瞬で流れるそれは、見つかるはずもないのだが。
「ここ。」
「んんっ///」
アランの言葉とともに、形の良い唇が降ってきた。
この時期に雪など降るわけないとわかっていながら、こういうときの彼のキスは、淡雪のようだといつも思う。
ふわりと優しく降り注いで、一瞬でなくなってしまう。
離れていった唇の向こう、見つけた流れ星にアルはそっと願った。
この幸せが溶けてなくなることは、ありませんようにと。
「もう入って大丈夫。」
中から出てきたアランに誘われ中へと足を踏み入れる。入った途端に響いたのは、赤ん坊の泣き声ではなくエレンの怒声で。
「ばかっ!!何度もお前は子宮の状態がよくないって言ったのにっ…!!心配させてっ…!!
…いや、今言うことはそうじゃないな。ヨル、ありがとう。元気な女の子だ。」
昨夜ヨルの陣痛が始まって、ぴったり24時間が経過していた。新たに誕生した小さな命を、エレンとヨルが愛おしそうに眺めている。
「おめでとうございます。」
「ありがとう。」
アルはヨルにそう告げ、一礼をした。
「じゃあ、俺たちはこれで。」
一言告げてアランの手を取って部屋を出たのは、2人の甘い時間を邪魔したくないからだけではない。
「えっと… 」
戸惑う彼をよそに、ぐいぐいと屋上まで引っ張っていく。どうしても彼をあの空間から連れ出したくて。
「また、そんな顔して。
俺がどんなに幸せか、まだわかってない?」
おめでとう、と彼が言った時、爽やかに笑いながらも強く右手を握りしめていたことに気がづいた。
彼とアルには子供ができない。アルにとっては大した問題ではないのだが、アランはそれを相当気にしているようで。
「…なんでもお見通しだな、参ったよ。」
「番って何年経ったと思ってるの。」
ばか、と彼の肩を軽く小突く。番ってからもう3年目。自分でも驚くほどに、アルの性格は丸くなった。
「…ありがとう。」
ずるい、と思う。こういう時、すまない、じゃなくてありがとうと礼を述べるところが、たまらなく好きだ。
「あ、綺麗。」
照れ隠しに上を見上げると、新月の空には満天の星が広がっていて。
「本当だ。
…そうか。丁度、アルビレオが見える時期だ。」
アルビレオ、というのはアルの名前の由来だという二重星で、肉眼で見ると一つの星だが、望遠鏡で観ると綺麗に金色と水色に分かれて見えるらしい。
「え、どこに?」
空を見上げるが、星空についての知識などほとんどないから全て同じ光景に見えてしまう。
「ほら、あれがデネブで、あの十字の形の先に… 」
アランの指を懸命に追って、やっと、十字の形を見つけ出した。その先、白鳥の頭に模されている場所に、その星は存在する。
「うーん……あ、見つけた。あれ?」
「そう。」
温暖な時期でも晴天の夜は少なからず冷える。身震いしたアルに、アランはそっと白衣を被せてくれた。そのまま背中から抱きしめられる。
「ねえ、初めて話したときのこと、覚えてる?」
「ああ、鮮明に。自分の首を締めようとするから、本当に焦った。」
低く美しい声が耳元で響いて、ぞくりとする。こんなに美しい人が自分と番ってくれたなど、本当は今でも信じられない。
「あの時アランのこと、絶対に神か何かだと思った。俺死んだんだなって。」
「…勘違いが過ぎるな。」
「いや、今もだけど、アランの容姿は人並みはずれてるから、もっとこう… 」
話題がそれて無意識に惚気てしまったアルを、アランは微笑ましげに見つめた。
かえってからかわれた方がマシだと思う。こんな反応は恥ずかしい。
「…じゃなくてっ!!あの日名前をもらった時、実はすごく嬉しかった。
ずっと、この瞳を、気持ち悪いって言われてきたから。」
「…宝石よりも美しいのに、心外だ。」
さらりと彼の蜂蜜色の髪がアルの首筋を掠めた。気づけば聡明な青い瞳がアルの瞳を覗いていて。
「そ、…そんなこと、ない、けど…。」
この甘過ぎる言葉にだけはいつまでも慣れなくて、嬉しいのにぶっきらぼうに返してしまう。恥ずかしくてアルは、下を向いた。
「あ、流れ星。」
頑なに下を向き続けていると、不意にアランがそう呟いた。
「え、どこ??」
反射的に上を向き、空の中に流れ星を探す。一瞬で流れるそれは、見つかるはずもないのだが。
「ここ。」
「んんっ///」
アランの言葉とともに、形の良い唇が降ってきた。
この時期に雪など降るわけないとわかっていながら、こういうときの彼のキスは、淡雪のようだといつも思う。
ふわりと優しく降り注いで、一瞬でなくなってしまう。
離れていった唇の向こう、見つけた流れ星にアルはそっと願った。
この幸せが溶けてなくなることは、ありませんようにと。
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